【悲報】起きたらウマ娘になってたんだが【助けて】   作:らっきー(16代目)

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お待たせ。急いで書いたのしかないけど、いいかな?


おまけ6

 ジャパンカップ。

 国際G1であり、外国のウマ娘も参加するこのレースで、しかし観客達の注目は二人の日本のウマ娘に集中していた。

 

 即ち、ミスターシービーとフォルティシーム。

 

 御伽噺の中の存在であった三冠を再現してみせた史上に残るウマ娘と、ジュニア級、クラシック級と圧倒的な勝利を収め、世代最強の名に相応しいウマ娘。

 ミスターシービーと、フォルティシームと、今回は出走しないがシンボリルドルフ。生ける伝説と言ってもいい三冠バ達の中で一番強いのは誰か、というのはファン達の議論の種である。少なくとも、ミスターシービーとシンボリルドルフは良く比較されていたし──直接対決の結果、シンボリルドルフの方が優勢だが──フォルティシームが三冠を取ってからはその議論に名前が一つ増やされた。

 

 そんな中で、今回実現したミスターシービーとフォルティシームの直接対決。ファンの注目が集まるのは当然であろう。当人達がどう思っているのかはともかくとして。

 一つ気がかりがあるとすれば、二人の脚の状態であろうか。

 

 フォルティシームは、つい一ヶ月前までクラシック路線に全力を出していた。そこから経った僅かな時間で、果たして状態を完璧に戻せるものか。余力を残せるほど余裕のある道中ではなかっただろうから。

 

 ミスターシービーは、シンボリルドルフとの最後の直接対決である天皇賞・春を最後にレースに出走していない。故障しただとか脚の病に罹っているだとか様々な憶測が流れている。公式発表が無い以上あくまで憶測ではあるものの、走れる状態なのかという不安の空気はここ一年程続いている。

 

 それでも。

 それでも尚、観客達の興奮は消えはしない。

 

 なまじフォルティシームが菊花賞でミスターシービーの再現をしてしまったから。ミスターシービーがフォルティシームを上回る所を、或いはフォルティシームがミスターシービーを上回る瞬間を見たいと望んでいる。

 

 ミスターシービーの追込ならフォルティシームの逃げを捉えきれる。若しくは、フォルティシームならミスターシービーを突き放して逃げられる。

 

 それぞれのファンが、それぞれの推しているウマ娘の勝利を信じている。

 

 

 

「やあ。フォルティシーム。話すのは初めてだね」

 

 いつもフォルティシームがトレーナーとイチャイチャしている地下バ道で、フォルティシームとは対照的とも言える白を基調とした勝負服に、焦げ茶色の髪のウマ娘が銀色の彼女に話しかけていた。

 

 トレーナーちゃんと話すのを邪魔しやがって……とキレつつもトレーナーがいる手前殺気をなんとか堪えて、ギリギリのところで微笑みを浮かべながら言葉を返す。

 

「初めまして……どちら様ですか? 生憎、私にウマ娘の友達はいないんですけど……」

 

 かなり寂しいカミングアウトに若干可哀想な物を見る目を向けつつも、そこに触れることなく会話を続ける。大人の対応である。

 

「アタシはミスターシービー。君と同じ三冠ウマ娘。……それなりに有名な方だと思うんだけど、うん。君みたいな反応は久しぶりだね!」

 

 ミスターシービー。言うまでもない有名人であり、今回のレースでフォルティシームとの対決を望まれている例の彼女である。期待されている当の本人であるフォルティシームは他のウマ娘への無関心故に知らなかったが。

 

「それで? その有名人が私みたいな寒門のつまらないウマ娘になんの用ですか?」

 

「君も三冠バなのにつまらない、は無理があるんじゃない? まあそれはどうでもいいんだけど、聞きたいことがあってね。……なんで、そんなつまらなそうに走ってるのかなってさ」

 

 笑顔の仮面が剥がれ落ちた。今まで誰にも触れられ無かった──触れてくる程親しい間柄の相手がいなかったというのもある──内心を言い当てられた動揺のせいだ。

 トレーナーにはいつも余裕のある姿だけを見せていたいから、フォルティシームにしては珍しくトレーナーを先に観客席へと帰らせて、ミスターシービーと向き合う。

 

「やっとこっちを見てくれたね。……それとも、まだ見てくれてないのかな」

 

「……何を言っているのか、分かりません。見ているじゃないですか、今も」

 

「そういう事じゃないって分かってるんでしょ? 目を背けてばっかじゃ、そのうち何も分からなくなっちゃうよ?」

 

「……だから、何が言いたいんです?」

 

 いつものフォルティシームが浮かべているような、内心を隠す微笑みとは違い、本心から楽しそうに。しかし真剣さを感じさせる調子で、ミスターシービーは続ける。

 

「一人で走ってるレースなんてつまらないでしょ? せっかくのアタシ達の世界なんだから、もっと楽しまないと!」

 

 あんまり喋るのも野暮だから、アタシはもう行くね。そんな言葉を残して二人は別れた。後に残されたのはいつもの微笑みが崩れて不機嫌そうにしているフォルティシーム一人。

 

「分からないんだって……」

 

 フォルティシームは、常に圧倒的に勝ち続けて来た。駆け引きをした事も無ければ、誰かと競り合った事も無い。

 逃げウマ娘は孤独なものだと言うが、彼女程孤独なウマ娘もいないだろう。

 競い合うライバルもいない。高め合える同期もいない。彼女にとってレースとは蹂躙であり、作業でしかない。

 

 フォルティシームは、レースに興味が無い。それも当然であろう。

 勝利の快感も、敗北の屈辱も。彼女はレースから何も得たことが無いのだから。

 

 

 

 パドックにて。やはり注目を集めたのはこの二人のウマ娘。ミスターシービーとフォルティシーム。

 海外から来たウマ娘達が新鮮さもあり歓声を浴びた事も間違いではないが、それをそう表すとしたら二人を包んだのは喝采だ。

 

 ミスターシービーは、いつもしていたように笑顔を浮かべて楽しげにブンブンと手を……というより腕を振る。三冠バの愛嬌のある仕草に、不調説の流れていたウマ娘の元気な仕草に観客達は大いに盛り上がった。

 

 フォルティシームは、いつも浮かべている微笑みを浮かべず、ファンへのアピールも皆無だった。普通だったら盛り下がりそうなものだが、観客達の多くは旧三冠バ──天皇賞・秋を含めれば四冠バ──へと挑む為の集中と覚悟の現れと受け取り……まあ、結局盛り上がった。

 

 

 

 ゲートに入り、少しの間があって。勢いよく開いてスタート。

 

 まず飛び出したのはフォルティシーム。それから彼女の事をよく知らない外国の逃げウマ娘、さらに続いて差しや先行策を取ったウマ娘達。殿にミスターシービー。

 

 概ねファンの予想通りであり──フォルティシームがどう出るかというのは誰もが恐れ半分期待半分で見守っていたが──最早観客の興味はフォルティシームが逃げ切れるのか、ミスターシービーが追込で捲りきれるのかというところに焦点が当たっている。

 

 外国のウマ娘達は自分達が蚊帳の外に置かれていることに歯噛みを……しない。

 走ってみて、噂になっているだけの事はあるとフォルティシームの強さはすぐに分かったし、最後方に控えたミスターシービーが、そのまま沈んで終わるだなんて期待はしない。

 

 それは、フォルティシームも同じ。自分の強さには実は一応それなりに自信を持っている彼女ではあるが、それでも最後方のミスターシービーだけは気になった。レース展開がどうこうでは無く、話をしたせいかもしれないが。……初めて、レース中に誰かを意識した。

 

 暫くは、フォルティシームがレースのペースを作り、他のウマ娘達が追いかけ、悠々と後方からミスターシービーが着いてくるという長い縦列が構成されていた。

 縦列の真ん中の辺りでは駆け引きや競り合いも行われているが、先頭をぶっちぎっているフォルティシームと、最後方を進むミスターシービーの二人だけは、そんな煩わしいものから解放されている。

 

 最終直線まで影すら踏ませないフォルティシームと、最後方から一気に追込をかけるミスターシービー。

 後400。羽の生えたように走るミスターシービーが止まった時の中を進むかのようにフォルティシームとの距離を詰める。

 

 後300。他のウマ娘達を置き去りにして、三冠バ同士の一騎打ち。

 

 後200。フォルティシームが、悍ましいとすら言える目でミスターシービーを見る。

 

 菊花賞の時の逃げウマ娘のように、ミスターシービーもまた闇を見る。フォルティシームの世界を見る。

 

 太陽の輝きも、月の優しい明かりも、星々の輝きも何一つ無い。情熱も、闘争心も、反骨心も、勝ちたいという執念も。何一つ感じられない、初めて見る世界。

 

 そんな世界の中でも、ミスターシービーは怯まない。

 何も見えなくても、何も聞こえなくても、そんな事はどうでもいい。アタシには脚がある。

 

 どこに行くかだとか、どう行くかだとかは関係ない。暗闇の恐ろしさも知ったことでは無い。

 走る理由も、暗闇が怖くないのも理由はたった一つ。

 だってアタシはミスターシービーだから。

 

 強く脚を踏み込んで、フォルティシームの世界を壊す。驚愕の面持ちの銀の彼女に笑いかける。

 

 後100。グラりとよろけるフォルティシーム。そんな隙を逃す手はない。強く地面を踏み締めて、誰も触れられなかった背中に王手をかける。

 

 初めて。とうとうフォルティシームが負ける日が来たのかと歓声と悲鳴が上がる。あと数秒のうちに決着は付く。

 

 初めて。フォルティシームの顔に、色が付く。胸の内から湧き上がる衝動という初体験に身を任せ、初めての思いを胸に脚を動かす。ゴールまで後──

 

 万雷の拍手と歓声が上がる。

 

 一着、フォルティシーム。二着、ミスターシービー。差はハナ差。

 

「あー! 負けた負けた! ……疲れたから、ちょっと肩貸して」

 

「ちょっ……お互い、汗だくでしょう」

 

「えー、いいじゃん。私と君の仲でしょ?」

 

 見ようによっては仲睦まじく見える彼女達を鳴り止まない拍手が祝福する。

 

「……良い顔になったじゃん。ハッピーバースデー、フォルティシーム」

 

「だから意味が分かり……いえ、ありがとうございます」

 

 つまらなそうな顔ではなく、いつもの微笑みの仮面でもなく。

 初めて、心から楽しそうな笑顔を浮かべた。

 

 同じレースで競い合って、フォルティシームは初めて友人と呼べるような相手を得た。

 

 




Q カス発言
A ナチュラル煽りウマ娘

Q シービーの腰いいよね
A いい…

Q 来年のハードル
A 壊れちゃーう

Q 二つ名
A 痴女

Q ドトウと並べよう
A ドトウよりは小さいけど腰が細いからデカく見える

男トレ×フォルティシーム

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