【悲報】起きたらウマ娘になってたんだが【助けて】 作:らっきー(16代目)
無敗の三冠バ、過去を破る。
メディア各社は似たような……つまりはフォルティシームがミスターシービーに勝利したという話題で騒ぎ立てる。
当の本人が大のメディア嫌いでなければ今頃は時の人となっていたであろう。少なくとも、URAはフォルティシームのグッズ展開を大きく行い売り上げを伸ばし──これには、ミスターシービーとシンボリルドルフの際の反省という面もある。この二人の際のグッズの売れ行きに味をしめたと言い換えてもいい──テレビは連日のように三冠バ二人の決着の瞬間を垂れ流している。
まあ当の本人であるフォルティシームは同じ映像が垂れ流される事に嫌気がさしてテレビを付けなくなったし、ミスターシービーはそもそも世間の評判などというものに無関心でメディアをあまり見ないのだが。一番盛り上がるのはいつも外野である。
そんな中で、熱心にレース映像を見ている者が一人……いや、二人。
フォルティシームとミスターシービーのトレーナーである。
フォルティシームが初の担当であり、トレーナー二年生である小柄な女性と、既にベテランと言っていい大柄な男性である二人のトレーナー。
二人で並んでレース映像を見ながら、ああでもないこうでもないと意見を交わしている──などということはなく、とりあえず感想を述べて、後は二人でお互いの担当ウマ娘の苦労話をしている。
自由人であるミスターシービーに振り回されている彼と、外面は完璧なくせに意外と甘えたがりだったり我儘だったりするフォルティシームに振り回されている彼女。結構似合の二人なのかもしれない。
まあ彼女の方はフォルティシームに誑かされて悪い所なんて見えなくなっているのだが。痘痕もえくぼとはこの事であろう。
それから話題はシンボリルドルフの話へ。
無敗で冠を七つ取った規格外と戦う予定のフォルティシームにとって、実際に戦った経験のあるミスターシービーの話は役に立つと思ったから。
ただ、実際にはシンボリルドルフの強さを実感させられるだけであったが。王道の戦法で、当然の様に勝つルドルフに対策など考える方が無理というものだ。
結局の所、ミスターシービーとの時と同じ様に全力で逃げて差されない距離をリードするしかない。菊花賞の時のような奇策が通用する相手でも無いことだし。
フォルティシームが見たら憤死しそうな二人きりの会合を終えて──念の為に明記しておくが二人のどちらにもそのような気はない。単純に仕事としてである──一人になったフォルティシームのトレーナーから溜息が零れる。
トレーナーとしてフォルティシームと契約してすぐは、こんな憂鬱な気持ちになる事も無かった。フォルティシームの走りに見惚れて、その本人から逆スカウトを申し込まれたのは本当に嬉しかったし、暫くは子供じみた万能感というか、無知ゆえの全能感というか、そういうものがあった。
ジュニア級ぐらいまでは本当に楽しかったのだ。段々とプレッシャーが大きくなってきたのはクラシック三冠への挑戦を始めた辺りか。
フォルティシームが勝利を刻む。周りからの期待が重くなる。フォルティシームが勝利を刻む。周りからの罵声が増える。フォルティシームが勝利を刻む。無力感が我が身を苛む。
たまたま強いウマ娘と契約出来た幸運のトレーナーだとか、お前にフォルティシームは相応しくないだとか、まあそれなりの事は言われてきた。カミソリ付きの手紙が送られてきた事もある。
それでも、フォルティシームと一緒に居るのは楽しくて。何とか嫌な事も誤魔化しながらここまで来たのだけれど。
最近、フォルティシームには友達が出来たらしい。初めての友達、という言葉が本当なのかは分からないけれど、きっとトレーナーとしては祝福するべき事なのだろうとは思う。
その友達、ミスターシービーと一緒によく練習をしている。そのおかげでミスターシービーのトレーナーと一緒に練習を考え、指導するようになった。
それはつまり、単純に考えてもフォルティシームが頼ってくれる事が半分になるわけで。しかも実際にはベテランのトレーナーである彼の方が頼られている……気がする。
もっと頼って欲しい、なんて言うには実力も実績も足りていないとは自覚している。所詮二年目のトレーナーでしかないのだから。
それでも、フォルティシームが他のトレーナーの所に行っている事を不愉快に思ってしまうのは、あまりにも醜い、自分勝手な嫉妬だ。
この感情は、恋だとか愛だとかでは断じて無い。そんなに綺麗な名前をつけてはいけない。
扉が開いて、部屋に入ってくる銀色の君を、急拵えで作った笑顔で迎える。
願わくば、君がこの思いに気づきませんように。
最近、トレーナーの様子がおかしい。
無敗の六冠にして、皇帝シンボリルドルフとの対決を控えているフォルティシームが抱えている悩みは、そんな俗物的な物だった。
最近出来たばかりの友人に相談するにはプライベートすぎるし、とある頼りにしている場所……というには少し頼りないが、そこに相談してもよく分からない返答しか返ってこない。
もう分からない、なるようになれ。
そんなある意味投げやりとも言える態度で、取り敢えずトレーナーのところに突撃することにした。初めての友達が出来ようと、相変わらず駆け引きの出来ないウマ娘である。
シービー先輩のトレーナーに居場所を聞いて、映写室──良くレース映像を見たり走る際のフォームを確認する為に使っている──へと向かう。
なんか悩んでる事でもあるの? そんなど真ん中ストレートの会話のキャッチボールをする為に。
映写室へ到着。トレーナーを確認。いつもの笑顔で迎えてくれ──いや、ちょっと引き攣っているような気もする。何となく口角の角度や目尻の角度が無理やり作った物のように見える。
さて、どうしたものかとフォルティシームにしては珍しく考えた。直球勝負のつもりで来たが、わざわざ笑顔を作るという事は触れられたくないのではないかと推測したからだ。それならこっちも気づいていないフリをして、一先ず別の話でも振ろうかと、本当に珍しい事に気を回した。
ただ、それはそれで思い付かないのがコミュ障の悲しいところである。シービー先輩のコミュニケーション強者っぷりに助けられてきたツケを支払わされている。
考えて、考えて、トレーナーが怪訝な顔を浮かべるぐらい考えて。
良い案が浮かばなかったから結局全て諦めて、取り敢えずトレーナーを抱き締める事にした。
声にならない叫び声が胸の辺りから聞こえているが、それは気にしないこととする。
トレーナーちゃんを見ていると仔犬や仔猫を抱き上げたくなるように抱き締めたくなる、とはフォルティシームの言葉である。
当初の予定も忘れて胸の中のトレーナーの感触を堪能していると、控え目に、しかし確実にフォルティシームの背中に腕が回された。フォルティシームの脳は破壊された。
なんて事だ一大事だどうしようトレーナーちゃんが甘えてくるなんててか温かいし柔らかいななんかもうこのままでもいいんじゃないかな、などとフォルティシームが考えて……いや、考えられなくなっている時、トレーナーの方はフォルティシームの体温に安心感を得ていた。
結局の所、なんとなくの不安感や寂しさなんてその程度で埋まるものでしかない、などと言葉で言うのは簡単だがこれは二年間の積み重ねがあったからであろう。
ゆっくりとお互いの体温を感じ合った後ようやく、どうしたの? とフォルティシームは口にする事が出来た。
少しだけ、自分の抱えている不安感──つまりは、自分はフォルティシームの役に立てていないのでは無いかという思い──を吐き出して。
フォルティシームは笑って、貴女のおかげで走れていると答える。
その言葉に、嘘は無い。
フォルティシームは、レースに興味が無い。現在の六冠バという称号も、ただ周りの意見に流されて、周りからの期待に応えた結果である。
フォルティシームは、他人に興味が無い。最近たった一人だけ例外が出来たが、基本的に共に走ったウマ娘の事も覚えてはいないし、話しかけてきた相手の事も五分と経たずに忘れている。
自分の意見は持たず、目標も無く、フラフラと流されるままに生きている彼女。
ただ、トレーナーだけは自分で選んだ。
Q 皇帝の戦績
A 感想欄の返信でも書いたけど史実とは違う7冠。私はシンボリルドルフには絶対の強者でいてもらいたいのでフォルティシームより戦績が劣るのは我慢が成りませんでした。またカツラギエース、及びギャロップダイナがウマ娘に実装されていない以上皇帝の敗北に説得力を持たせる描写も出来ないと考えております。本小説においてシンボリルドルフに勝てる可能性があるのはミスターシービーと、主人公補正のかかったフォルティシームだけの予定です。
Q 3女神ノスタル爺説
A あり
Q 自撮り要求ニキ
A シービーにお礼を言いなさい
男トレ×フォルティシーム
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焼き直し部分はカット
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被りも書く