【悲報】起きたらウマ娘になってたんだが【助けて】   作:らっきー(16代目)

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短めですが投稿です


おまけ10

 天高くウマ肥ゆる秋。

 秋は美味しいものがいっぱい増えるから体調管理には気をつけよう! 

 そんな諺もある季節で、しかしフォルティシームは珍しく顔を曇らせていた。

 

「まずい……あれもまずい、これもまずい。この国で美味しいのは朝食しかないのかなあ!」

 

 紳士の国。ブリカス。いつも霧が出てる陰気な国。世界一不味い料理が食べられる国。

 そんなイギリスに、フォルティシームとそのトレーナーはやって来ていた。

 

「ごめんね、トレーナー。まずいご飯に付き合わせちゃって……」

 

「フォルティのせいじゃないよ。味は……うん、アレだったけど……」

 

 珍しくエスコートに失敗して落ち込むフォルティシーム。かなりレアな姿かもしれない。独特な勘のおかげか、彼女は適当な店に飛び込みで入っても大体美味しい店を引き当てる。おかげでトレーナーの外食満足率は脅威の九十八パーセントである。二パーセントはトレーナー自身が行ってみたい店があると言ってハズレを引き当てた。

 レースの勘の良さと関係があるのかは分からない。

 

「……晩御飯は中華にしようか。それかハンバーガー」

 

 一人でいる時ならともかく好きな人といる時にファストフードは……などというフォルティシームの考えを改める程度には美味しくない料理を食べて、意気消沈した様子を見せる。彼女が落ち込んだ姿を見せるのはシンボリルドルフに負けて以来の二度目だ。流石にあの時ほど落ち込んではいないが。

 

 ちなみに、ウマ娘という生き物は種族の特性なのか、中々に食に貪欲である。

 ヒトでは考えられない程の量を食べたり、やたらと甘い物を好んで、太りやすい体質から目を背けてパクパクですわ! したり。

 特にトレセン学園という寮生活を送っているウマ娘達には、三度の飯が毎日の楽しみであるという者も少なくない。学園の食堂のレベルが高いというのもあるが。

 珍しく食にあまり興味が無い側であるフォルティシームにしても、食事という日に三度行う行為には楽しみを求めているし、それが裏切られればそれなりにしょんぼりする。いや、今に限って言えば彼女の場合トレーナーにまずいご飯を食べさせてしまったという罪悪感かもしれないが。頭の中ピンク色だし。

 

 更に余談であるが、イギリスで美味しい物が食べたいならいっそパブにでも入った方がいい。軽食になってはしまうが、得体の知れないまずい料理を食べさせられるよりはパイなどで手堅く腹を満たすべきだろう。

 未成年ウマ娘を含んでいるこの二人には取りにくい選択肢ではあるが。

 

 閑話休題。

 

 さて、何故この二人が日本を離れてイギリスまで来ているのか。当然ハネムーンである。結婚記念に特別な思い出を作るために、足を伸ばして外国まで。そう珍しい話でもないだろう。嘘だが。

 

 九冠バ──冠の数だけで言えば、シンボリルドルフを超えた。直接対決では負けた訳だが──としてURAから出走を求められた凱旋門賞。そこで共に走るウマ娘の視察、ついでに外国の空気や芝になれようという魂胆である。この前には十一連勝中のドイツ最強とも噂されるウマ娘を見るためにその国まで行き、そこで彼女の十二連勝目を見届けた。一週間程前の話である。

 

 まあ他人に興味を持たないフォルティシームとしては本音を言えばどうでもいい事ではあるのだが。少なくとも一人だったら早々に切り上げて観光に切り替えるか、ギリギリまで日本に居たかのどちらかだったろう。別に他のウマ娘の走りを見たからと言って作戦を考えられるほど賢くも無いし。

 

 確か同期に外国に行った子がいたなぁ……とぼんやり思っている程度である。サ……シ……? シなんとかだった気がする。全然違うかもしれないけど。などと思いながら外国のレースを見ている。あまりよろしいとは言えない態度である。

 

 今のところの例外は、件の十二連勝したドイツのウマ娘の時ぐらいだろうか。

 

 その時は、フォルティシームにしては珍しくしっかりとレースを見て、観戦しているうちに、少しだけ唇が緩んだ。

 そのウマ娘の走りに、雄大な山と激しい噴火を幻視した。

 

 世代を作るようなウマ娘は、自分の世界を他人に押し付ける。

 

 闇に引きずり込むフォルティシームも、紫電轟く城へと招くシンボリルドルフも同じだ。ミスターシービーはその走り故か押し付けるというよりも受け身に回る事が多いが。他人の世界を走破して、打ち破る。彼女にとって世界とは自分のことであり、自分自身こそが押し付ける世界なのかもしれない。

 

 ドイツの彼女が何故そのような世界に至ったのかは分からない。彼女にとっての原初の風景なのかもしれないし、走っているうちに辿り着いたイメージなのかもしれない。

 

 分かるのは、その世界がとてつもなく強固であること。少なくとも、見るものが見ればレース外からでも感じられるくらいには。

 

 いいなぁ、あの子。無意識のうちに小さく呟いていた。その時の顔は、かつてシンボリルドルフが見せたような獰猛な笑みで。こんな相手が他にもいるんだと、柄にも無く胸を躍らせていた。

 ミスターシービーに闘争心を教えられ、シンボリルドルフに敗北の味を教えられた。

 結果、フォルティシームが目覚めたのは勝利への執念。

 強者を捩じ伏せて勝つ。私の名を、最強を証明してみせる。

 

 まずは一人、競走相手を見つけた。

 どうせ勝つなら、強い相手でなくてはならない。そうでなくては意味が無い。難敵を捩じ伏せてこそ、勝利の味は甘美になるだろう。

 

 ミスターシービーとの戦いで勝利の美酒の味を覚えた。シンボリルドルフには辛酸をなめさせられた。それからは空虚な勝利を繰り返した。

 だから、勝利に飢えている。恐らくそれは、シンボリルドルフがフォルティシームと戦う前に思っていたことで。

 

 だから、勝つ。傲慢と言える自信で勝利を望む。何故なら私はフォルティシームだから。いつかはシンボリルドルフをも打ち倒してみせる。何故ならトレーナーに勝利を誓っているから。

 

 

 

 

 時を現在に戻して、イギリス。

 まずいご飯を食べた後。気晴らしに街をブラブラと歩く。

 お目当てのレースまではまだ少し日があるから、今は完全に自由な時間だ。

 

 本当はトレーナーと一緒に過ごしていたかったのだけど、食事が終わってすぐに別れてしまった。凱旋門賞に出るウマ娘達の研究の為と言ってトレーナーは大体の時間をホテルで過ごしている。

 

 本当なら一緒に見るべきなのだろうけれど。同じ空間で過ごしているのにトレーナーに構えないし構ってもらえないというのはフォルティシームにとって耐え難い苦痛だ。フォルティシームが他人の走りを見ても何も得るものが無いというのもある。色々と試した結果一番気に入ったのが他人を必要としない自己完結した逃げという戦法だったから、あまり他人の走りが関係する余地が無いのである。

 

 晩御飯の時と、後は寝る前にその分構ってもらおうと考えながら、目的も無く彷徨う。異国の街並みや人は眺めているだけでも割と楽しめる。

 知らない街並み。何と書いてあるのかよく分からない看板。外国人……いや、ここでは国民か。イギリス人。ついでにイギリスウマ娘。日本では目にする事の無いそれらを眺めて適当に歩く。

 

 景観に意識が向いていたのが良くなかったのだろう。フォルティシームの肩の辺りに衝撃が起こる。

 

 誰かにぶつかったな、やってしまった。と謝罪の言葉を──つまりは、すみませんと口にして、通じないのかという事に気づく。

 ええと、英語ではなんだっけとドイツ語と混じった脳内辞書を検索している間に、相手の方から言葉が飛んでくる。

 

「コチラこそ。……あの、日本のウマ娘さんデスか?」

 

 聞こえてきたのは、聞き慣れた──訛りはあるが──日本語。

 驚いて思わず固まっていると、不安げに言葉が続く。

 

「ア……日本語、間違ってマス……?」

 

 何処か庇護欲をそそる彼女、イギリスのウマ娘……だろう、多分。に申し訳なくなって、いつもの笑顔を作って応じる。

 

「ごめんね。異国で日本語が聞けるとは思わなくて、少し戸惑ってしまった。大丈夫。君の日本語は間違っていないし……ああ、君の口から聞くと日本語も美しく聞こえるね」

 

 動揺を隠すための長ゼリフを、聞き取りやすいようにゆっくりと。

 そんな事をしている内に、恐らくぶつかった衝撃で落ちたのであろう物に気づく。紙袋。中身は……錠剤? 

 まああまり人の荷物をジロジロ見るものでもない。さっさと拾って手渡す。

 

「Ta アー……ありがト」

 

「どういたしまして。私が悪いのだから、これぐらいはね?」

 

 観光のなんでもない一幕。袖すりあう程度の出会いは、しかしもう少しだけ引き伸ばされた。

 

「UK……イギリスには何をシに?」

 

「ん? sightseeing……いや、目的はレースかな?」

 

「レース?」

 

「凱旋門賞に出るウマ娘が走るらしいからね。セレクトステークスだったかな」

 

 それを聞いて、少し驚いたように目をパチリとさせ、柔らかな笑みを見せるイギリスウマ娘。

 

「It's strange……アー、タマタマ? 私も出マスよ?」

 

「おや、凄い偶然もあったものだ。名前を聞いてもいいかい? お嬢さん」

 

「ブレーヴ……ダンシングブレーヴ、デス。アナタは?」

 

「フォルティシーム。この国の言葉で言うなら……strongest、かな?」

 

「強そうナ名前。素敵デスね」

 

「君の方こそ。勇ましくて、美しい名前だ」

 

 これが。日本最強──本人はシンボリルドルフがいる以上認めないだろうが、全距離制覇と九冠を成し遂げた彼女への周囲からの評価は高い──と、英国最強のウマ娘の出会いだった。

 

 

 




ダンシングブレーヴがマリー病を発症したのは引退後の話ですが本作においては現役時代から病弱というキャラ設定にさせていただきます。
ご不快な方は読まんでええ!人生は冒険や!他の小説を読め!

Q チョコ
A ファン感謝祭は4月、バレンタインは2月

Q 掲示板の民度
A リアルにしたら掲示板形式の小説なんて成り立たないよ

Q アンケート結果
A 参考にはしますが無視もします。チートオリ主はつまらないので

男トレ×フォルティシーム

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