【悲報】起きたらウマ娘になってたんだが【助けて】 作:らっきー(16代目)
セレクトステークス。英国のG3クラスのレース。
既にG1で複数勝利を上げていたダンシングブレーヴが何故そこに出走したのかと言えば、まあ凱旋門賞のステップレースとしてだ。
だが結果を見てみれば、果たしてそんなものが彼女に必要だったのかと疑うような圧倒的なものだった。
大差。それにコースレコード。
つまりは、相手にもならないという事である。
恐らくはダンシングブレーヴというウマ娘を見に来たのであろう観客達の大歓声の上がる中、騒音対策に耳をぺたんと伏せたフォルティシームが口を開いた。
「どう思う?」
トレーナーに向けた、相も変わらず口下手な足りない言葉。しかし長い付き合いのおかげかトレーナーにはしっかりと伝わったようで。
「圧勝……しかも、余力を残してって感じかな? 本当に調整の為に出ただけなんだろうね。実力はフォルティと……うぅん、シンボリルドルフさんと同じくらい……いや、もっと上かも……」
足りない言葉でも言いたいことが伝わる嬉しさと、トレーナーの中で一番強いウマ娘が自分じゃない事への嫉妬を感じながら──ルドルフ、いつか絶対に勝ってやる──とりあえず胸に生じたモヤモヤをかき消すためにトレーナーの頭を撫で回す。
全く。昔はいつもフォルティなら勝てるよ。と結んでくれたのに。同世代で最強になってから、どんどん強い相手と戦わされている気がする。最初はシービー先輩、次にルドルフ先輩。トドメに今回の凱旋門賞ではドイツ最強だとか英国最強だとかフランス総大将だとか。ボスラッシュもいい加減にしてもらいたいものだ。
昔は勝ってくるねと気楽に言えたのに。どうにも私は自分で思っているより引きずるタイプだったらしい。傍から見ればたったの一回、戦績に傷がついただけで勝利を確信出来なくなるくらいには。
ただまあ、それも善し悪しか。フォルティシームは思う。
敗北の味を知った。勝利の快感を理解した。
トレーナーが私のせいで泣くところを見た。無力感を知った。
それが無ければ今も適当に走っていたか、格下を狩って賞金を稼いでさっさと引退でもしていただろう。
それが有ったから。私は今でも走っているし、負けない為に……いや、勝つ為に全力を尽くしている。
だからこそ、私は言うのだ。トレーナーを安心させる為に。彼女に曇った顔は似合わないから。不安を隠して、不敵な笑みを浮かべてただ一言。
「大丈夫。最後に笑うのは私達だよ」
レース観戦も終わって、翌日。
実を言ってしまえばもはやイギリスでやることも無く、現地の空気に慣れるためにも早めにフランスに向かった方が良いのだろうが。飛行機とホテルの日程調整の兼ね合いでまだイギリスで過ごしている。
トレーナーちゃんは相変わらずホテルに缶詰だ。気晴らしに少しは出かけようよと誘ってはいるのだけれど、今のところは全敗している。
少しでも役に立ちたいから、と言ってくれるのは嬉しいのだけれど。本音を言うならもう少しでいいから構って欲しい。大体異国の地で日本語で話せる相手というだけでも貴重なのだ。それが好きな人であれば尚更一緒にいたくもなるだろう。
寂しさを持て余しながら街を彷徨く。
流石にこの辺りももう見飽きてしまったが、自分一人で遠出する気にもなれないからホテル近辺で我慢している。
外国の芝に慣れるために運動公園を走ったりもしてみたのだけれど、外国のウマ娘というのはどうにも目立ってしまうようで。居心地が悪すぎたからさっさと撤退してしまった。
若干拗ねつつ、前にダンシングブレーヴと出会った通りを歩く。なんか良い店でも無いかなという冒険心と、もう一回あの子に会えないかなという下心を持って。
僥倖。信じられない幸運と言うべきであろう。まあダービーウマ娘である以上私が幸運であるのは当然のことか。
読めない看板の建物から見覚えのあるウマ娘が出てきた。
何とも嬉しい事に向こうも私の事は覚えてくれていたようで──いや、どちらかと言うと私が他人を覚えている事の方が異常か? 名前にしろ、顔にしろ──柔らかい笑顔と、軽く手を振ってくれる。
駆け出したくなる気持ちを抑えて、ゆっくりと距離を詰める。あくまで余裕を持って優雅に。
「凄い偶然もあったものだね、約束も無しに二度会うなんて。これは運命と言ってもいいんじゃないかな?」
「フフっ。Italian みたいナこと言いマスね。Were you flirting with me ? アー、口説ク? してマス?」
英語の部分の意味は分からなかったが、とりあえず笑ってくれているので良しとする。やはりこういう喋り方の方が女ウケが良い。ついでにコミュ障なのも隠せて助かる。
「そんなつもりは無い……とは言えないかな。どうだい? このままお茶でも……といっても、私は特に良い店を知らないのだけれど」
「I’d like to. ……行きまショウ。お店は、私が連れて行きマス」
どうやら彼女は意外と積極的なようだ。警戒心が薄い性質なのか、案外私に好意的なのか。前者なら心配だし、後者ならもっと心配だ。悪い男に騙されそうだ。
それは一先ず置いておいて。彼女について歩く。ついでに聞きたかったことを一つ。
「ところで、どうして日本語を? 気紛れに学ぶには向かない言語だと思うのだけれど」
「好きナので、日本。アニメ、マンガ、美味シイご飯! ドレも素晴らしい文化です」
「おや、それは嬉しいね。スシ、スキヤキ、テンプーラかい?」
「サムライ、セップク、フジヤーマ! フフっ」
祖国を好きと言って貰えるのは悪い気はしないものだ。それと、彼女が冗談の通じるタイプである事も。
それから日本の所謂オタク文化について話しながら歩く。どうにもこの手の話は情報が古くなってしまう私だが、今回ばかりはそれぐらいで丁度良かったらしい……いや、別に今まで語り合う相手なんていた事は無いのだけれど。
此処です、と言われた建物──多分喫茶店かカフェ──に入って、席に着いてメニューを見る。うん、全く分からない。teaとcoffeeが分かるぐらいだ。勘に任せて適当に頼もうかとも思ったが、大人しく彼女と同じ物を頼むことにする。日本食が好きなぐらいだし、味覚はそう遠くはないだろう。
「そう言えば、レース見たよ。凄かったね」
ふと思い出したから、そんな事を言う。大差に終わったセレクトステークス。その一着が目の前にいる……こう言ってはアレだが、あまりそのような雰囲気は無いのだけれど。
「アリガト、ございマス。フフっ、どうですか? 私、結構強いデショ?」
「正しく。海外で強いと思えるウマ娘を見たのは、君で二人目だ」
「デート中に他の女の子の話デスか?」
「おっと、これは失礼」
クスクスと楽しそうに笑いながら、機嫌良さそうに話を続ける彼女。
「それに、アナタも強いデしょう? 日本最強のSatanさん?」
「そういう風に呼ぶ人もいるね。もっと可愛く呼んでもらいたいものだけど」
距離の壁を越えて。どの距離で走ろうと立ちはだかる、逃れられぬウマ娘。ルドルフ先輩に挑んだ時は皇帝に挑む革命家だったのに、今では他のウマ娘の心をへし折る魔王。随分と出世したものだ。
「イサマシくて良いと思いマスよ? ……デモ、知ってマスか?」
笑顔はそのままに。レース前のルドルフ先輩のような……いや、それ以上の威圧感が放たれる。
「Satanは、いつだって勇者に負けルんです」
「ダンシング、ブレーヴ。なるほど……宣戦布告かな? やはり、私達の出会いは運命だったのかもしれないね」
そんなじゃれ合いをしているうちに飲み物が運ばれてくる。どうにも締まらないものだ。
それからは年頃のウマ娘らしく──私がそう名乗るのは少し無理があるかもしれないけれど──好きな食事の話やレース談義なんかをする。
まあ分かったのはイギリスに美味しい料理が無いことくらいだったけれど。やはり日本食。日本食しか勝たん。
あとは私と彼女の共通点。無敗に土を付けたたった一人の相手。私にとってはシンボリルドルフであり、彼女にとってはシャーラスタニ。尤も、彼女は既にリベンジを果たしているようだが。
凱旋門賞にはそのシャー……何とかも出てくるらしい。二度と立ち向かえないように完膚なきまでに勝つとは彼女の言葉である。外見に似合わず恐ろしい女性なのかもしれない。私としてはルドルフ先輩にそんな事は到底思えない。
話も、お茶も飲み終えて──結構美味しかった。イギリスもティータイムだけは信用出来る──楽しい時間も終わる。次はレース場で。そんな言葉で別れる。
どうにも、本当に。流石は凱旋門賞と言うべきか、日本でのレースよりも圧倒的に強者が多そうだ。
勘弁してくれという気持ちも滾るという気持ちもどちらも本音だが、折角なら勝ちたいものだ。ここで勝てば世界最強──なんて称号には興味は無いけれど。世界最強を育てたトレーナーという名誉はトレーナーちゃんへの贈り物として良さそうだ。
溜め息を一つついて、足を運動公園の方に向ける。
誰も彼も捩じ伏せる。勝つのは私達だ。
Q なんでその選択肢(ぶっちぎり)入れたの?
A ここの票が少なかったらシリウスシンボリぐらいの成績で終わらせるつもりだったから
Q また口説いてる…
A 目指せ日本へのお持ち帰り
Q わりぃ、やっぱマズイわ…
A 言えたじゃねえか
Q マヤわかっちやった
A イケメン美人との食事に慣れたらもうヒトミミにナンパされてもゴミにしか見えなそう
Q 九冠バにキューカンバー
A ネイチャしか笑ってないよ
男トレ×フォルティシーム
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焼き直し部分はカット
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被りも書く