【悲報】起きたらウマ娘になってたんだが【助けて】   作:らっきー(16代目)

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おまけ(後日談とかifルートとか)は需要があれば書きますが毎日更新では無くなります。その辺は全部終わったら活動報告にでも


おまけ12

 場所は動いて、フランス。

 イギリスとは違ってきちんと食事に情熱を向けるという事を知っているこの国の食事には、フォルティシームもご機嫌である。

 

 マトモな食事に、観光地と化しているパリの街並み。しかし今日に限って言えば、二人とも引きこもってレース映像を見ていた。

 

 ダンシングブレーヴ。誰も彼も強敵揃いの凱旋門賞の中で、フォルティシームが一番気にしている相手。単純な強さだけでなく、直接喋った相手だという理由もあるだろうが。

 

 勝ったレース。勝ったレース。唯一の負けたレース。また勝ったレース。

 フォルティシームが見て分かるのはバカみたいに強いということぐらいだ。

 知っているところで一番近いのはミスターシービーか。後方に控えて、豪快に全てをぶち抜いていく。ある意味では、他人を必要としない強さ。

 

 誰かをマークしてその相手と、沈むも限界を超えるも運命を共にする。そのような走り方をするタイプでは無い。対極的に見えて、フォルティシームの逃げと同じようなものかもしれない。

 誰とも関わらない逃げと、何も関係なく全てを追い抜く追込。どちらもあまり競り合いなどをするタイプでは無い。

 

 さてどうしたものかとフォルティシームは考えて、考えて、諦めてトレーナーに抱きつきに行った。

 元々、考えるタイプでは無い。やることやって、なるようになればいいという程度にしか物事を考えないウマ娘だ。

 

 真剣な顔で映像を見ているトレーナーに後ろから抱きつく。うひゃっ!? という動揺の声に満足感を覚えつつ、もう少し何かしてやろうかという気持ちもあったがそれは我慢して普通に──とは言っても、抱きついている位置関係の問題で耳元で囁くような形になっているのだが──話しかける。

 

「やだねえ、こういう単純に強いウマ娘って。こっちのスペックが足りなきゃ挑めもしない」

 

 他の人に聞かれればお前が言うなと突っ込まれるであろう事を、無自覚に三冠バを足切りラインに設定している傲慢ともとれる強いウマ娘が言う。

 

 天然傲慢っぷりに慣れてしまっているのか、フォルティシームの事になるとちょっとバカになるのか。トレーナーも特に突っ込みを入れることなく話が進む。

 

「凱旋門賞だから、さすがにセレクトステークスみたいにはならないだろうけど……フォルティは逃げだからね。どうしても他のウマ娘頼みになりそうな……内側を塞いでもらうとか、競り合って体力を削ってもらうとか」

 

「なんとも……歯痒いね。自分の命運を他人任せにするとは。……いや、私の人生、案外そんなものだったかもね」

 

 自嘲するような最後の言葉は、言葉にならずに口の中に消えていった。

 

「あとは……フォルティの地力を上げる? でも今更一ヶ月でそこまで変わるとも思えないし……そういえばフォルティ、海外の芝には慣れた?」

 

「イギリスのには割と。フランスはまだよく分からないかな? ただ、私には外国の芝の方が合っているかもしれない。力が要るとは聞いていたけれど、私にとっては大した問題じゃない。……ただ」

 

「逃げるのには少し向かないかもね。かといって付け焼き刃で他の戦法にする訳にもいかないし……」

 

 いや全く。どうしたものかと二人で頭を悩ませる。ちなみにフォルティシームはトレーナーに抱きついたままである。

 

「……そういえば、ダンシングブレーヴは何か病気でもしているのかい?」

 

「え? そんな事は何処も言ってないと思うけど……フォルティはなんでそう思ったの?」

 

「前話した、彼女と会った時にね。二回とも薬を持っていたから。何か持病でも持っているのかなって」

 

「うーん……隠してるとかかもしれないけど……薬の名前とか、分かる?」

 

「何だったかな……トラマ……トラド……しっかり見た訳じゃないからなぁ……」

 

 うんうん唸りながら思い出そうとしてみる。未だにトレーナーには抱きついたままである。

 その位置関係をいい事に耳に息を吹きかける。上がる奇声に沈みかけた雰囲気が霧散する。

 

「分からない事を考えても仕方ないね。よし、とりあえずご飯を食べに行こう! お腹が空いてちゃ何も思い浮かばないからね!」

 

 気分転換。あるいは現実逃避。どう過ごそうと平等に時間は流れる。ならば少しでも楽しく過ごせた方がいいのかもしれない。

 凱旋門賞までは、あと僅か。

 

 

 

 

 さて、そんな結びをしてみたものの、特に何か語るべき事が起きる訳でもない。フォルティシームはフランスの芝に慣れるために走り回っていたし、トレーナーは少しでも勝つ確率を上げようと必死で頭を働かせていた。

 

 ならばさっさと時計の針を進めてしまうべきだろう。

 

 凱旋門賞前夜。最早やるべき事は全てやった。対戦相手については擦り切れるほどに調べたし、異国の走り屋として顔を覚えられる程度には身体を洋芝に慣らした。疲労が残っているなんてことも無いし、病気に罹ったなんてオチも無い。身体は正しく絶好調だ。

 

 だから、あとは心を整えるだけ。

 

 そのために──後は、若干の趣味と欲求のために──フォルティシームはトレーナーにピッタリとくっついて頭を撫でてもらっている。

 

 勿論不安にかこつけてトレーナーを堪能する為であり、そこには下心しか無い……という訳でも無い。レースに一切興味が無く、他のウマ娘など眼中に無かった彼女も今は昔。今ここにいるのは、当たり前のようにレースの前に緊張し、誰もがしてきたように不安と戦っている一人のウマ娘だ。

 

 レースの楽しさを知った。それと同時にレースの恐ろしさを知った。

 勝つ喜びを知った。負ける辛さを知った。

 勝てばトレーナーが喜んでくれる。負けるとトレーナーが悲しむ。

 

 ああ、思えば。フォルティシームが珍しく思考を回す。

 思えば、私は何もかもトレーナーに貰ってばかりだ。

 レースで勝ちたいのはトレーナーが喜んでくれるから。つまりはトレーナーがいなければレースはおろか勝利にすら興味が無かっただろう。

 

 今生きているのは、トレーナーに好かれたいから。恋の為に生きるなんて最早陳腐な理由ではあるけれど、フォルティシームにはそのくらいしか生きる理由が無い。トレーナーと、後はたった一つの人生哲学が無ければとうに命を絶っていただろう。

 貴女に恋をした。貴女に跪かせて欲しい。フォルティシームの思いはそのようなものだ。跪いた結果として差し出すものが無敗の三冠に史上最多の九冠に魔王の二つ名というのはあまりにも重すぎるが。

 

 負けたくないと思えたのはトレーナーの泣き顔を見てしまったから。あの時は、心臓が捻じ切れそうな程に痛んだ。もう二度と見たくはない。

 

 それだけじゃなくて、日常生活すらも。

 トレーナーと出会って、楽しいを知った。喜びを知った。トレーナーと出会って、恋を知った。

 

 トレーナーのせいで、無力感を知った。嫉妬を知った。貴女のせいで、寂しさを知った。

 

 フォルティシームが撫でられていた頭をずらして、トレーナーの胸に顔を埋める。寄る辺のない子供が、何かに縋り付くように。

 しばらく埋めて、泣きそうなのを何とか我慢して。顔を上げて言葉を紡ぐ。

 

「トレーナー……」

 

 出てきた声は、フォルティシーム自身も驚く程に弱々しい声だった。ならばトレーナーの驚きは言うまでもないだろう。

 

「ゴメン……ちょっと、弱いところを見せてもいいかい?」

 

 それは、異常事態と言っていい。今までいつだって粋がって、最高にカッコイイフォルティシームを演じてきたというのに。それを全て御破算にするような行動を取っている。

 だがまあなんて言う事は無い。ただドイツ最強だのイギリス最強だのフランス総大将だのを見てきたせいで自信を失っているだけである。

 全てに興味が無かった頃のフォルティシームには、そもそも自信なんて物は存在しなかった。だからこその安定性。そこに、ミスターシービーに勝利を意識させられて、シンボリルドルフに打ち砕かれて。そこからの空虚な勝利ではどうにも補強しきれなかったらしい。

 

「トレーナー……嘘でもいいから、勝てるって言ってくれないかい?」

 

「……大丈夫。フォルティなら勝てるよ」

 

「……言って欲しい。強いって」

 

「強いよ、フォルティは。大丈夫」

 

「……上手くいくかな?」

 

「そのために、頑張ってきたじゃない」

 

「勝てる。強い。上手くいく。勝てる──強い──上手くいく」

 

 それは最早ただの祈りで。きっと気休めではあるのだろうけど、今のフォルティシームにはその気休めが何よりも必要だった。

 

「ありがとう。貴女のおかげで少しだけ楽になった」

 

「ううん。……むしろ、ごめんなさい。私はこんなことしかしてあげられない」

 

「……じゃあ、トレーナー。一つ……私が勝ったら、一つだけご褒美が欲しいな」

 

 珍しいね。と言ってくるトレーナーに、何度か口をパクパクとさせるフォルティシーム。いつもの余裕は無いし、いつもの作ったキャラクターも捨て去った。

 

「貴女の唇が欲しい。……貴女を、私のものにしたい。愛してる」

 

 それは、フォルティシームに一番最初に産まれた欲求。一目惚れという言葉に一切嘘は無い。あれから二年、好きは強くなり続けている。

 

 トレーナーは顔を赤くして、暫し押し黙って。二人の間に沈黙が流れる。

 やがてゆっくりと、言葉を選んで喋り出す。

 

「大人としては……怒るべきだと思うの。大人をからかうもんじゃないとか、一時の感情でとか。でも私の本心は……嬉しいの。私だってフォルティが好き。一緒にいたいし、トレーナーと教え子の関係じゃ満足出来無い。だから……」

 

 最低な事を言うね? と前置きして、最後の言葉を紡ぐ。

 

「だからフォルティ、勝って? 誰をも黙らせられる実績を作って、そしたら……」

 

「ああ、勝とう。貴女は私のもので、私は貴女のものだ。誓おう。どうなろうと勝つと」

 

「背負わせちゃって、ごめんなさい……でもねフォルティ。どうなろうと勝つなんて言わないで。負けてしまったよって泣きながらでもいいから、無事に帰ってきてよ」

 

「……誓おう。貴女に、最高の栄誉と……私自身を捧げよう」

 

 心·技·体は全て整った。真実、最早やる事は無くなった。

 

 泣いても笑っても明日には全てが終わる。

 

 凱旋門賞が始まる。

 

 

 




Q 勝つ姿が思いつかない
A ワイも

男トレ×フォルティシーム

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