【悲報】起きたらウマ娘になってたんだが【助けて】   作:らっきー(16代目)

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アンケートはふーんって思って見てました。でも知りません。私の作品なので

それはさておき最終回です


最終回(おまけ14)

 凱旋門賞を見事優勝で飾り、堂々と日本へ凱旋……とはならなかった。

 折れた脚に一ヶ月は絶対安静ですと医者に言われ、フランスの病院に入院しているフォルティシーム。金にものを言わせて個室を用意してもらって退屈な時間を過ごしていた。

 

 異国に友達など居るはずもなく──勿論日本にもほぼ居ないが。二人の先輩ぐらいである。例外的なダンシングブレーヴもイギリスのウマ娘である。──お見舞いに来てくれるのもトレーナーぐらい。それも諸々の手続きやら取材の申し込みやら大人の何やらであまり会えていない。勝つのもいい事だけでは無いようだ。

 

 テレビを付ける。

 

 最近、フォルティシームのトレーナーはよく取材を受けている。フランス語が分からないフォルティシームには内容は全く分からないが、そこまで険悪な雰囲気ではなさそうで一安心というところだ。

 

 ちなみに。トレーナーが取材をよく受けているのはフォルティシームが入院しているせいである。本当は世界最強にインタビューしたいところを病院に突撃する訳にもいかず、その相方で我慢している。まあ極東の島国のウマ娘が凱旋門賞を制覇するという快挙を一番取材したいのは日本のメディアであろうが。メディア嫌いのせい……ではなく単純な物理的距離によって涙を飲まされている。

 

 ちなみにと言うなら更にちなみに。

 トレーナーへの取材は若さに驚くのが二割、今までの戦績が一割、世界最強のトレーニング内容への質問が二割、レース直後のキスについてが五割である。いつだってゴシップネタは大衆の興味を引く。トレーナーは聞かれる度に顔を真っ赤にしている。いっそフォルティシームに聞けば嬉々として語って……いや、メディア嫌いが発動して中指を立てるかもしれない。

 

 余談はこの辺にしておいて。ともかくフォルティシームは大分寂しい入院生活を送っているということである。

 

 

 

 一ヶ月程経った。

 

 最近になって松葉杖での歩行の許可が降りたが、だからといって病院の敷地の外に出れる訳では無い。暇潰しはトレーナーとの会話と、お土産に持ってきてもらってる雑誌──当然フランス語。フォルティシームには読めない。写真を眺めるだけである──と、最近までそんな機能がある事を忘れていた電話ぐらいである。と言っても電話の相手は三人しかいないが。そして忙しくしているダンシングブレーヴを雑談に付き合わせるのも申し訳なくて、結局話すのはミスターシービーが七割、シンボリルドルフが二割、ダンシングブレーヴが一割といったところである。

 

 さて、そんなフォルティシームだが、今日は早起きして早朝からソワソワとしていた。正確に言えば電話がかかってくるのを待っていた。何故か。

 今日は、秋の天皇賞。ミスターシービーとシンボリルドルフの対決の日だったからだ。

 

 三冠バと無敗の三冠バ。どちらが強いのかというのは誰しもの興味の対象で、だからこそとっくに結論は出たと誰もが判断していた。

 直接対決でシンボリルドルフが勝った以上、強いのは彼女の方だ。一度なら偶然でも、二度目からは必然だ。

 世間はそう思っているし、その上でミスターシービーを応援したりシンボリルドルフを応援したりしていた。

 

 納得していなかったのは本人達。

 

 負けて終わる気など毛頭ない。皇帝の無敗伝説に終止符を打つのはアタシだ。

 アナタはこの程度では無いだろう? 私を。皇帝を殺して見せろ。それすらも上回って私が勝つ。

 

 この一年。この日の為に磨き上げてきた。故に滅びろ。勝つのは此方だ。

 

 

 

 振動して着信を告げる携帯電話。どちらからの発信かも確認せずに電話を取る。

 

『フォルティ──!!!! 勝ったよ──!!!!!』

 

 携帯のスピーカーを音割れさせながら部屋中に響き渡るその声の主は、ミスターシービー。

 ウマミミにキーンと響くその声に思わず耳をぺたんと伏せて。少し遅れて言葉の意味を理解した。

 

「勝った……って、ルドルフ先輩にって事ですか? それは……! うん、おめでとうございます!」

 

『やー! ありがとねー! ついにアタシも念願成就よ。フォルティのあんなレース見たら、負けてられないからね』

 

 私だって負けるつもりは無かったのだがな。と少し遠くから声が聞こえてくる。どうやらシンボリルドルフも近くに居るようだ。

 

『次はフォルティにも勝つからね! だからさっさと脚を治して帰ってくること。帰ってきたらいっぱい話聞いてもらうから!』

 

 あ、ちょっとルドルフに代わるねー。という言葉と物音。すぐに代わった声が聞こえてくる。

 

『フォルティ。脚は大丈夫かい?』

 

「あー……まあ、一応? 故障して引退、とかも覚悟してたんですけど……リハビリ次第で何とか、らしいです」

 

『それは良かった。世界最強に、どちらが強いか分からせなくてはと思っていたからね』

 

「あはっ。知ってます? ルドルフ先輩。凱旋門賞のトロフィーって、結構軽いんですよ?」

 

『それはそれは。君に勝った後でゆっくり確かめさせてもらうとしよう。……本当は、無敗の皇帝として迎え撃ちたかったのだけれどね』

 

 後ろからミスターシービーのアタシの方が強いからね! という声と、それへの次は私が勝つさという返答が聞こえてくる。

 

 そんなじゃれあいをしてから本題に入る。凱旋門賞後に相談していたこと。つまり。

 

『ダンシングブレーヴの事だがね。結局、留学という形で落ち着きそうだ。テン会長が色々と頑張ってくれたようだから、お礼を言っておくといい』

 

「良かった……これで上手くいかなかったら、寝覚めが悪いなんてもんじゃ無いですからね」

 

『ふふ。勝者としての責任を存分に果たしてくるといい』

 

 それじゃあ私達はライブに行ってくるから。と通話が終わる。そのままダンシングブレーヴに電話をかけようとして、時差に思い至る。

 まだ寝てるかも、とフォルティシームにしては珍しく他人に配慮して。とりあえずメッセージアプリでピコンとひとつ。

 

『留学決まったんだって? おめでとう……でいいのかな?』

 

 さて返信が返ってくるまでどうしようか、と思ったところで既読の印が付く。お、と思っているうちにピコンと返信が届いた。

 

『ありがとうございます。日本、楽しみです』

 

 そう言ってくれるのは素直に嬉しい。ただ、どうしてもそれが本心なのか疑ってしまう。しかしそれを直接聞いたところで答えてはくれない……というか、気を使った答えを返してくるだろう。

 

『大丈夫? 不安な事とか、分からない事とか無い?』

 

 結局送れたのはそんな抽象的な文。もっと良い言葉があるのだろうけれど、フォルティシームには思いつかなった。

 

『優しいですね。でもフォルティシームさんが居てくれるんだから、大丈夫です』

 

 少しだけ口元が緩む。友達という関係性を持ったことの無いフォルティシームにとって、頼ってもらえるというのはそれだけで嬉しい事だ。若干重い感情を向けられている事には気がついていない。

 

 それならいいんだけど。と送り、そこから幾つか雑談をやり取りする。

 

 暫くメッセージを送り合って、相手のトレーニングの時間が来たからそこで終わりにする。

 

 さて、これ以上入院生活をダラダラと紹介しても仕方が無い。早く時計の針を進めてしまうとしよう。

 

 

 

 一ヶ月と半分程経った。

 脚は未だ治ってはいない……が、一先ず日本に帰れる程度にはなった。お世話になりましたと頭を下げて、迎えに来てもらったトレーナーと一緒に病院を、フランスを後にする。

 

 十二時間程かかるフライトを、のんびり喋ったりダラダラと寝たりして過ごしていた。まあつまり、いつもの二人である。

 

 イチャイチャしている様は割愛して。

 日本に飛行機が到着した時、当然のようにマスコミに囲まれる。当たり前の事だろう。何せURA悲願の凱旋門賞を制覇したウマ娘が、およそ二ヶ月も帰ってこなかったのだから。流石にメディア嫌いがどうこうで誤魔化せる範囲を超えて……いや、今までもとっくに超えていたが。トレセン学園というある種守られている場所から出てしまっているせいだろうか。

 

 だが。もしかして今までの経験がフォルティシームを成長させたのだろうか。マスコミに笑顔を向けて──思いっきり中指を立てようとして、慌てたトレーナーに手を掴まれた。

 

 結局、むっすりとしながらマスコミの取材を受ける事になった。その片手は下品なサインを示さないようにトレーナーに握られたままだったが。取材を受けることに苛立ち耳を絞りながらも、トレーナーの手の感触に尻尾はご機嫌に揺れている。実に矛盾したウマ娘である。

 

 フォルティシームのメディア嫌いを良く知らないメディアがどんどんと質問を並べ立て、三、四割ほどはフォルティシームがハイ、イイエで答え、五割ほどはトレーナーが答えている。残りは無視されている。

 

 ある程度答えたところで、脚が痛いと主張して逃げようと試みる。流石にそう言われてはこれ以上妨げる事も出来ないのか、マスコミ達が道を開け──

 

「最後に一つだけ! トレーナーとの関係は!?」

 

 厄介な記者が、そんな質問を投げてきた。例のキスシーンは世界に流れているから、まあ当然と言えば当然の質問である。

 ちなみにフランスでは最高のパートナーと返していた。愛情表現が激しいと少々無理のある主張をして、しかし案外そんなものかと受け入れられた。文化の違いなのかもしれない。

 

 さて、それなら同じようにここでも返せば良かった──現にトレーナーはそうしようとした──のだけれど、フォルティシームは悪戯な笑みを浮かべて。

 

 トレーナーを器用に抱き寄せて、唇を奪って見せた。

 

「こういう関係です。それでは」

 

 歓声のような悲鳴のようなどよめきを背に、トレセン学園への帰路に着く。

 

 

 

 学園に到着して。一先ずトレーナーと別れて自分の部屋へと帰る。二人の先輩への挨拶とか、テン会長にお礼を言いに行くとか、寮長に挨拶に行くとか。やる事は色々とあるのだけれど、とりあえず一旦置いておいてパソコンを開く。

 

 入り浸っていたサイトを開いて、自分がいなくても割と活発に動いていた事に若干の不満と懐かしさを覚えつつキーボードを叩く。

 

 

 

『ただいま。世界最強のウマ娘です』

 

 

 

 

 

 

 

 




活動報告に募集を作っておくのでリクエストを投げて貰えれば書けそうなのは書きます。匿名は最終回記念に解除します

男トレ×フォルティシーム

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