【悲報】起きたらウマ娘になってたんだが【助けて】   作:らっきー(16代目)

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前話で書いたような人間不信のシリアスな話を書こうとして失敗しました。ここにいるのは擬似的な家族にベッタベタに甘えるフォルティシームだけです。

女性トレーナーの時と露骨にキャラが違うけど何となくこっちの方が素に近い気がします


フォルティシームif(契約したのが男トレだった場合)

 白銀のウマ娘は、前評判を覆し選抜レースで圧倒的な勝利を収めた。本来であれば彼女はここでとある女性トレーナーに一目惚れをし、生涯の相棒を得る。

 これは、そうならなかった話。蝶が羽ばたいて、何かが少しずれた話……とはいえ、心配は無い。彼女の幸せを望む者がいて、彼女自身も幸せを望んでいる。ならばきっとこの物語もハッピーエンドだ。

 

 話を戻そう。大差でゴールした彼女──フォルティシームは、当然の様にスカウトしようとするトレーナー達に囲まれる。しかし誰の言葉にも答えること無く、話しかけてくる有象無象を品定めするように見渡す。

 

 恐らくベテランであろう初老のトレーナー。駄目そうだ。取り敢えず確保しておきたいという下心が見え見えだ。飼い殺されるか上手いこと使われるかのどちらかだろう。

 

 同じくベテランと思われる少し歳のいった女性のトレーナー。無理だ。この歳頃の、こんな目をした女性には嫌な思い出しか無い。流石に顔を合わせるだけで嫌な事を思い出す相手を相棒に選ぶのは嫌だ。

 

 名誉欲、金銭欲、性欲。誰も彼もなんだか見慣れた顔をしていて、もしかして中央のトレーナーってロクな人がいないのかと内心で怯えるフォルティシーム。トレーナー達の名誉の為に言っておくと、別に心から下卑た欲望を持っている訳ではなく、単純にフォルティシームが悪意に敏感過ぎるだけである。彼女は黒を嫌うあまり灰色すら避けている。

 

 これは出直した方がいいかなーと品定めを終えようとして、後ろの方にいる若い男に目を止める。

 およそ熱の感じられない瞳。目の前のレースの結果も、勝者たるウマ娘にも興味が無いと言わんばかりの態度。どうしてここに来たのかまるで分からない彼の姿に、だからこそ心惹かれる物があった。

 

「ねえ、君はもう担当決まってるの?」

 

「あ? 何だお前。担当ならその辺の先輩達に頼みな。お帰りはあっちだよ」

 

 トレーナーとは思えない、チンピラのようなあまりにも冷たい態度。普通のウマ娘ならキレるか逃げるかしていたであろう。

 ただ、フォルティシームは慣れていた。幼少期に浴びせられた罵声は数え切れないほどだったし、得てしてそういう人の方が優しくしてくれるというのを経験から知っている。

 ガキがいると良く文句を言っていた人は、苛立たしげにしつつも来る度にお菓子をくれた。イカれた行為を笑顔を浮かべながらしていた奴らよりはよっぽどマシだった。

 

「君がいいの。ほら、一目惚れってやつ? ……担当してくれないと、職務怠慢で理事長に訴えちゃうぞ?」

 

 デカい溜め息を一つついて。渋々という言葉があまりにも似合った態度で心底嫌そうに返事をする。

 

「俺はそこそこのウマ娘を担当してそこそこ稼いでさっさと田舎で暮らしたいんだがな……まあ、仕事だからな。受けてやるよ」

 

「よろしい! それじゃさっさと契約を済ませ……どうやるの?」

 

「書類がある。取りに……いや、書きに行くぞ。……おい、引っ付くな」

 

「えー、いいじゃん。あっ、もしかしてドキドキしちゃう? 私、おっぱいおっきいし」

 

「ガキが。十年経ってから出直してこい」

 

 契約初日……いや、契約する前からやいのやいのと言い合う二人組が出来上がった。喧嘩するほど仲がいいという言葉もある事だし、きっと良好な関係なのだろう。多分。

 

 

 

「……驚いた。お前、本当に強かったんだな」

 

「いや、私もびっくり。私って強かったんだね」

 

 契約から数ヶ月。メイクデビューにジュニア級のG1を二つ、大差での勝利を成し遂げて。しかしそんな気の抜けるやり取りをしていた。

 

「で? どうすんだこっから。王道ならクラシック三冠かトリプルティアラでも狙うか。ダートよりは芝の方が合ってるだろうしな」

 

「三冠路線で! ちょっと友達と約束しちゃったからね。無敗の三冠と凱旋門賞って」

 

「ガキの夢だな。まあ精々頑張ってくれ。お前が勝つと俺の給料も増える」

 

「トレーナー君冷たくない!? そこはもっと『一緒に頑張ろう!』とか『お前なら出来る!』とか言うところでしょ!?」

 

 あまり似てない声真似をしながらそんな文句を付ける。別にガキの夢と言われたことには何も思うところは無い。何か信念があって語っている目標では無いから。

 だがそれはそれとして。適当にあしらわれている事には文句を言う。少なくとも年頃の女の子への対応では無いだろうと。女の子としての自覚が芽生えていて何よりである。

 

「知るか。俺の仕事はお前を勝たせる事であって、お前を応援する事じゃない。寧ろ俺はそんな有名人には成りたくないしな。新人トレーナーにはG1勝利でも重すぎるぐらいだ」

 

「いいのかなぁ、そんな冷たい態度でー! フォルティちゃん怒っちゃいましたー! 秋には三冠バのトレーナーって呼ばれるようにしてやるからなー!」

 

 随分と子供っぽく、感情のままに言葉を垂れ流す。どこかのフォルティシームならば有り得ない態度。

 無論そこには彼にはこの方がウケが良いだろうという打算がある。だがそれだけでは無い。

 

 フォルティシームは、子供をやってみたかった。ただそれだけの話。

 

 

 

 日本ダービーを制して、夏。

 何処かの世界と同じように砂浜でタイヤを引き摺り続けて合宿を過ごしている……が、そこは割愛する。

 

 普段過ごしているトレセン学園から離れた場所。いつもと違う空間に、いつもと違うイベントを求めるのは仕方の無い事だろう。

 何が言いたいか。つまり、フォルティシームはトレーナーを夏祭りに誘おうとしていた。

 

「トレーナー君! お祭りだよ! 行こう!!」

 

「嫌だが……」

 

 あえなく断られていたが。

 

「可愛い愛バの頼みじゃん! ケチ!」

 

「人混みは苦手だ。第一、俺が行って何になる?」

 

「私が嬉しい」

 

 バカか。と冷たい返事が返ってくる。フォルティシームは頬を膨らませて尻尾でペシペシとトレーナーを叩く。ウマ娘の力なのでそれなりに痛いはずだが、何処吹く風でパソコンのキーボードを叩いている。

 

 カタカタカタ、ッターンとキーボードを一際強く打ち込み、おもむろに立ち上がる。怒らせてしまったかとフォルティシームは耳を少しペタンと伏せ、尻尾をしゅんと垂れ下がらせる。親に怒られる事を恐れる子供のような、どこかの世界でトレーナーを口説いていたなどとは到底信じられない姿。

 

「……どうした? 行くんだろ、祭り」

 

 少しポカンとトレーナーを見つめて。言葉の意味を少し遅れて理解して、ちぎれんばかりに尻尾をブンブンと振る。

 

「トレーナー君来てくれるの!? 聞いたからね! 後でやっぱなしとか怒るからね!」

 

 準備してくるから! 逃げないでよ! と言い残して着替えに向かうフォルティシームと、それをやれやれと見送るトレーナー。なんだかんだで、トレーナーもフォルティシームに絆されている。口は悪いし愛想も無いが、慕ってくれる可愛らしいウマ娘に、実は内心悪い気がしていない……のかもしれない。単純に構ってやらないでウマ娘パワーで八つ当たりされても困るという理由かもしれないが。

 

 レース中もかくやといった速さで着替えを済ませてトレーナーの元へと帰ってくる。まさか一緒に来てくれるとは思っていなかったから、気合を入れた浴衣などは持ってきておらず普段使いの私服ではあるが。

 

「どう? トレーナー君。可愛い?」

 

「ああ、全裸よりはマシだ」

 

「最悪だよトレーナー君!」

 

 ちなみにこれは褒める語彙が貧困すぎてこんな事を言っている訳では無く、実際に全裸に遭遇したからである。

 寝る時に裸族なフォルティシームが寝坊して、起こしに来たトレーナーを寝ぼけた頭でそのまま出迎えた。そんな不幸な事故故に。

 

 さらに余談として、その時トレーナーは一切動じずに練習に来いとだけ伝えて帰って行った。フォルティシームはやらかしたぁ……と結構凹んだ。ついでに全く性的な目を向けてこなかったことに本気で同性愛者なのでは無いかと疑った。本人曰く『ガキに興奮するわけないだろ』との事らしいが。

 スタイルなら大人にも勝っているフォルティシームとしては疑わしく思いつつ、しかし結構嬉しかったりする。

 そういう目で見てくる大人とばかり接していた彼女にとって、下卑た欲望を向けてこない相手は救いだ。だからこそ親に甘えるようにトレーナーに甘えられる。フォルティシームは子供になれる。

 とはいえ。前世から今までずっと。親に甘えた事など一度もないのだけれど。

 

 

 

 お祭りの、初めて味わう雰囲気とそこらじゅうにある見た事も無い食べ物に目を輝かせるフォルティシーム。トレーナーの袖をくいくいと引っ張ってはアレは何? コレは何? と聞いている。それにいちいち答えているあたり、トレーナーも悪い人では無いのだろう。愛想は悪いが。

 

 あまりにも物欲しそうな目で見ていたからか、或いはお腹が激しめの主張をしたからか。トレーナーから買い食いのお許しが出る。

 

「どうしようトレーナー君。私一つに決められそうにないんだけど」

 

「太るぞ」

 

「うっ……トレーナー君のオススメは?」

 

「晩飯食ってないなら炭水化物でいいだろ。どうせ屋台なんて何食ったってそこまで美味くないさ」

 

「風情が無いよ! もっと雰囲気を楽しもうとか思わないの!?」

 

「思わん。言ったろ、苦手なんだよ。人混みとか」

 

 その言葉に。一瞬前までのはしゃぎようはどこへ行ったのやら耳も尻尾もしゅんとさせて、付き合わせちゃってごめんねとしおらしく謝る。

 耳がペタンと萎れて撫でやすくなった頭にトレーナーの手が置かれる。

 

「すまん。どうにも俺は一言多いらしい。……ガキは大人に気なんて使わず、ガキらしく楽しめばいいんだよ」

 

「……それ、慰めにしては下手すぎだからね?」

 

 自覚はあるのか、その一言に押し黙る。デザートも買ってくれたら許してあげる。とのフォルティシームの一言に、軽めの物にしとけよと返事を返す。とことんまで不器用な甘やかし方だ。

 

 

 

 花火が見たいと主張するフォルティシームに、人が少ない所からで良いならと返すトレーナー。文句を言いつつもトレーナーの条件を受け入れるあたり、やはり本当は一緒に居たいだけなのだろう。

 

 フォルティシームは、その気になれば一人で生きていけるはずだった。今更汚い手段を取る事に抵抗など無いし、ウマ娘としての身体能力や美貌を手に入れた今なら以前よりきっと楽だろう。

 

 しかし、もう一人では駄目なのだ。消去法で選んだはずのトレーナーとの時間はとても居心地が良くて、もし兄や父親というものがいたならこんな時間を過ごせたのでは無いかと思えたから。思えてしまったから。

 

 フォルティシームは、トレーナーの事が好きだ。子供として扱われたいというずっと抱えていた願いを叶えてくれたし、他の人のように下卑た欲望を向けてきたりしない。

 

 果たしてその好きは、異性に向けるものなのか、家族に向けるものなのか。どちらなのかは彼女自身もよく分かっていない。何故ならどちらも経験した事がないから。彼女にとって異性への──場合によっては同性への──好きという言葉は性欲を覆い隠す物でしか無かったし、家族からは悍ましい捻くれた愛情しか貰えなかった。

 

 けれど、彼女は思うのだ。

 

 彼女でも、教え子でも、妹でも、娘でも何でもいい。ただ彼の側に居たい。叶う事なら、彼と家族に成りたい。親を求める子供のように。寂しさを埋めたいと希う孤独な人のように。

 あの不器用で寂しそうな彼との時間が、どうしようもなく心地良いのだ。

 

 それは恋と呼ぶには余りに切実で。愛と呼ぶには余りに身勝手だ。

 

 




フォルティシーム(if)
父親代わりの人と会ったせいで前世で一切無かった子供の時間が今来てる。もし女トレーナーが母性に溢れた人だったらこうなってた……訳では無い。
フォルティシームにとって、父親は空白だけど母親は悍ましいものだから。

トレーナー(男)
芦毛のウマ娘の妹と死別してる。元々口が悪かったから、死ぬ直前の妹と交わした最後の言葉が口喧嘩でそれを今でも引きずってる。そのせいで言葉がいつも足りない。
フォルティシームにドキドキしないのは妹の影を重ねてるから。



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男トレ×フォルティシーム

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