【悲報】起きたらウマ娘になってたんだが【助けて】   作:らっきー(16代目)

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2月14日175時3分なのでバレンタインのお話です


バレンタイン記念

 バレンタインデー。元はキリスト教圏のイベントであったが、製菓会社の陰謀か日本でも大流行りしているそのイベント。最近では恋人同士の一日という印象も薄れつつあり、仲のいい友人同士や、お世話になった相手、憧れの先輩などに甘いものを渡す日になりつつある。

 

 フォルティシームとトレーナーにとってもそんな認識の一日であった。恋人がどうこうというほど甘ったるい意識はなく、せっかくだからとトレーナーはフォルティシームにチョコを贈り、フォルティシームの方は好きな人からの贈り物に喜びつつ、周りのチョコの量に格差を感じる、そんな日であった。今までは。

 

 口さがない言い方をすれば、フォルティシームはモテるタイプではなかった。先輩とはほとんど関わりが無いし、同期からは恐れられている。

 だが、二年、三年とトレセン学園で過ごして。数は少ないとはいえ友人が出来たり、ファン感謝祭で営業用の愛想を振りまいたりしているうちに、少しだけ評価が変わった。

 

 相変わらず同期には苦手意識を持たれているが、代わりに後輩から人気が出始めた。

 

 長身で、カッコイイ顔立ちをしていて、文句無しの実力を持った孤高のウマ娘。

 そんなクールな彼女が、笑顔を浮かべて少々過激なファンサービスをしてくれた。まだ精神が成熟していないウマ娘が、恋愛観を破壊されても仕方の無い事だろう。

 

 まあつまり。今のフォルティシームは後輩からの憧れの先輩という立ち位置を確立しているということだ。……本人は全く自覚してないが。

 

 

 

 先輩、これ貰ってください! と何度目かの声をかけられる。

 同期との仲の悪さ故に教室で過ごすのが気まずいフォルティシームは、休み時間になる度にフラフラとその辺を彷徨いていて、それは結構多くの生徒に把握されている。

 上級生の教室に入りにくい後輩ウマ娘達にとってそれは有難い話であり、結果として休み時間に気疲れする哀れなウマ娘が出来上がった。

 

 手作りだったり市販品だったり、様々なお菓子を持って襲来する後輩達。最初のうちはとうとう私にもモテ期が来たかと喜んでいられたが、流石にずっと続かれれば笑顔も品切れになる。

 それでも慕ってくれるというのは嬉しかったから、なんとか愛想を振りまいて応対をする。……流石に一日中そうなるとは思わなかったが。

 

 集団で来てくれるウマ娘達はまだいい。こっちとしても手間が省けてありがたかったし、大量に送られても困ることを察してくれているのか、集団につき一つぐらいしか渡されなかったから。

 それに、”みんな”で来るということは精々憧れとか、そのぐらいのミーハーな気持ちでいてくれているということだろうから。気楽に優しくてカッコいい先輩に夢を見て、ここで過ごすうちに頭を冷やして自分だけの特別な相手を見つけてもらいたいところだ。

 

 ちょっと厄介なのは、本気で気合を入れてくる、お一人様のウマ娘。

 

「先輩……! その、迷惑かもしれないですけど……」

 

 勇気を出してきてくれたのだろうと、そう思える必死な声と、少々潤んだ瞳。いっそ下心ありきで来てくれたのなら断れたのだけれど、純粋な好意を向けられるというのは……何と言うか、少し居心地が悪くなる。

 恋する乙女ってこんな感じなんだなぁと、若干現実逃避とも言える思考をしながらなけなしの愛想をかき集める。

 

「迷惑なんかじゃないさ。……お礼のために、君の名前と連絡先を教えてくれないかな?」

 

 顔を真っ赤にしたウマ娘から個人情報を入手してお別れする。……果たして、これがあと何人来るのだろうか。願わくばこの子で終わってほしいものだけど。年下の子を悲しませたくはないが、そろそろ精神が限界だ。

 

 

 そんな一日を過ごしてしまったから、授業が終わってトレーニングのためにトレーナー室に向かう頃には既に疲労困憊としていた。

 こんなことならルドルフ先輩……は微妙だから、シービー先輩から後輩のいなし方でも聞いておけばよかった。そんな事を考えているうちにトレーナーも部屋に入ってくる。

 

「ごめんフォルティ、おまたせー……凄い荷物だね」

 

 ぐでーっと机に突っ伏している銀色のウマ娘と、その傍らに置かれているお菓子の詰まった紙袋──気の利く後輩がチョコと一緒に渡してくれた──を見てそんな一言。

 

「ふふ……私もついにモテ期だよ……はぁ……」

 

 精神的疲労故か軽口にも力がない。別に甘いものが苦手というわけでは無いのだけれど、改善されつつあるとは言え苦手な存在であるウマ娘に囲まれたことと、慕ってくれる年下という未知の生き物に接した疲労が大きい。

 

「なんか、言葉の割に嬉しくなさそうだけど……?」

 

「うん……モテるってのも良いことじゃないね……やっぱ先輩達は凄いなぁ……」

 

 繰り返しにはなるが、フォルティシームは別に甘いものが苦手ではない。苦手ではないが、流石に紙袋一杯の甘いものを見れば食べた時の胸焼けを想像してしまうし、今日一日でやたらと増えてしまった連絡先を思えば返礼に苦労するであろう事は容易に想像出来てしまう。そんな訳で中々に気分は沈み込んでいた。

 

「……とりあえず、一回置いてきたら? 冬だし溶けはしないだろうけど、冷蔵庫に入れた方がいいものもあるでしょ」

 

「そうしようかな……ゴメン、一回部屋行くね」

 

 ゆっくりと立ち上がって、チラリチラリとトレーナーの方に視線をやりつつ出口へと向かう。

 

「トレーナー……その……」

 

「なぁに?」

 

 ドアノブに手をかけたところで、一つ質問、或いはおねだりをしようと口を開いて。

 

「──いや、何でもない」

 

 勇気が出せず、言葉は出なかった。

 

 

 

 部屋に戻って貰ったお菓子を仕分ける。暫く持ちそうなもの、冷やさないといけないもの、早めに消費しないといけないもの。

 最後のグループにだけ共用と記して、後は適当な場所に保管しておく。これで急ぎのものの処分は同室の彼女も手伝ってくれるだろう。

 

「はぁ……」

 

 ため息が溢れ出る。後輩達からの慕ってくれる気持ちの現れだとか、甘酸っぱい恋心の現れだとか、そんなものを目の前にして、しかし気分は沈みこんでいく一方だ。

 

 だって本当に欲しい人からは貰えていないから。勇気を出して贈ってくれた子達には本当に申し訳ないことだけれど、量より質が欲しいのだ。好きな人から一つ貰えれば、他は何も無くたって構いはしない。

 

「嫌われちゃったのかな……」

 

 今まで毎年くれていたのに。と恨み言が漏れる。嫌われたというのは流石に飛躍した考え(だと思いたい)だが、他に渡したい相手──本命でも出来てしまったのかなとか、そんな事を考える。

 

 視界が少し涙で滲んできて。いけない、どんどん悪い方に考えてしまっている、と気づく。

 深呼吸して気持ちを落ち着ける。トレーナーのところに戻るまでに、いつも通りの格好いいフォルティシームに戻らなくては。

 

 

 

 そんな空元気は、全くもって無意味だったようで。練習をしている最中にトレーナーからストップがかかった。

 

「フォルティ、なんか調子悪い? ……今日は、練習やめとこっか」

 

 精神の乱れが隠しきれずに動きに出てしまったようで、そんな言葉をかけられる。車より速く走るウマ娘が転びでもしたら大事故に繋がる故に、安全管理としては正しい判断なのだろうけれど。それはそれとしてそこまで動揺してしまった自分が嫌になる。お菓子の一つでここまで落ち込むことになるなんて。

 

「トレーナー」

 

 そんな自己嫌悪から目を逸らす為か、或いは嫉妬心とでも言うべきものが閾値を超えたのか。話の流れも何もかも全て無視して詰問──若しくは泣き言が漏れ出る。

 

「誰にあげるの? ……誰が、本命なの?」

 

 流石に今は消えているが、最初に部屋で会った時には甘い匂いを漂わせていた。だから誰かに渡そうとしていた事は知っている。そして我慢できなかった問いを投げる。

 目的語の無いそんな問いに、トレーナーは戸惑った様子を見せる。

 

「私以外の誰かに渡すなんて……嫌だけど、許したくないけど。誰が本命かぐらい聞く権利はあるだろう?」

 

 耳をへにゃりと伏せさせながらそんな事を言うフォルティシームに、ようやくトレーナーも何を聞かれているのかを察した。

 

「あー……いや、その、ね? ……本命はフォルティだよ。というか、今更他の人なんて好きになれないよ」

 

「……いいよ、気を使わなくて」

 

「嘘じゃないって! ただその……あんなに貰ってたからさ、私があげても迷惑なだけかなって思って」

 

 少し問答を重ねて。実物を見れば気も晴れるだろうという提案に乗り再度のトレーナー室へ。

 別に隠されていた訳でもなし、すぐにそれは見つかる。

 

「ほらね? ……フォルティが迷惑じゃないなら、受け取ってくれると嬉しいな」

 

 そう言って差し出される物に、しかし受け取るための手は伸びず、銀のウマ娘は立ち尽くしたまま涙をボロボロと流す。

 

「え!? ごめん、そんな嫌だった!?」

 

「ちが……! 違うんだ。ただ……もう貰えないかと、嫌われたかと思っていたから……」

 

 子供のように。泣きじゃくりながら喋る、寂しがり屋のウマ娘。

 

「嫌いになんてならないよ。ずっと一緒。──愛してる」

 

 普段なら照れと立場から絶対に口にしないそんな一言。だが今日ぐらいは良いだろう。

 バレンタインデー。恋人達の一日なのだから。

 

 

 




男トレ×フォルティシームを多分みんなが思ってるより気に入ってるからがっつり書きたい気持ちがある。でもそれやると掲示板回とか焼き直しになっちゃうんよね……

男トレ×フォルティシーム

  • 焼き直し部分はカット
  • 被りも書く

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