【悲報】起きたらウマ娘になってたんだが【助けて】   作:らっきー(16代目)

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おまけ

 トレーナーが付く前から、模擬レースの1戦も行わないうちから話題に上るウマ娘というのは存在する。

 例えばメジロやシンボリといった名門のウマ娘であったり、既に結果を残しているウマ娘を姉や母に持っていたり。

 

 要はその素質に大きな期待を持たれているということだ。強いウマ娘をスカウトしたいというのはトレーナーに共通する欲求であるのだから。

 

 だが、今回に限って言えば少し違った様相を呈していた。

 

 レースを行わないうちから話題に上る。これはいい。よくある、とまでは言えないが有り得ないと言うほど少ない訳でもない。

 

 問題なのは、それが悪評だった事。

 理由は、ある1つの噂。

 

 トレセン学園に1人、全く人前に現れないウマ娘がいる。

 内向的な性格、健康上の問題。理由はいくつか予想できるが、どれであったとしても何かしらの問題を抱えている事は想像にかたくない。

 余程酔狂な人間でもなければそんな相手を数年を共にするパートナーとして選ぼうとは思わないだろう。

 

 情報通のトレーナーの中にはそのウマ娘が数週間前からトレーニング等に顔を出し始めたと知っている者もいたが、そのようなトレーナーはとっくにスカウト候補を見繕っていたからあまり関係は無い。

 

 簡単に纏めると、前情報から圧倒的なディスアドバンテージを背負わされたウマ娘がいるということだ。

 

 

 

 模擬レース当日。

 

 幾度かのレースが終わり、本日の最終レース。

 大方のトレーナーは既に目を付けたウマ娘をスカウトしており、熱心に見るのはチームに空きがある大御所とも言えるトレーナーか有望なウマ娘をスカウト出来なかった新人トレーナーくらいのもの。

 後は研究半分娯楽半分で観戦するトレーナーとウマ娘達。

 

 そんな晴れ舞台とは到底言えないような場所に彼女は現れた。

 

 スラリと伸びた手足。長身と言っていい上背。艶やかな銀の髪と尻尾。

 

 大半の、娯楽として見ている観客達は、こんなに美しいウマ娘がまだ模擬レースに残っていたのかと喜びの声を上げた。どうせ見るなら美しいものの方が良いというのは誰しもに共通する感性だろう。

 

 極一部の、彼女の前評判を知っていた観客達は驚きの声を上げた。少なくとも彼女の外から分かる部分には何の問題もないと、その経験から分かってしまったからだ。

 自然、レースを見る目にも熱が入るというもの。

 

 結論を言うと、要は本日の模擬レースは最終戦にして最高の盛り上がりを見せるだろうということだ。

 

 

 

 位置について。よーい、ドン

 

 極々気を使って表現するのならレースの実況、有り体に表現するのなら気の抜けたスタートの合図。

 

 それと同時に、白銀が飛び出した。

 

 チラリと後ろを見て、浮かべたのは獰猛な笑顔。

 貴様ら、抜かせるものなら抜かしてみろ。

 声なく告げられたその挑発に乗せられた者。萎縮した者。反応は様々であったが言える事がひとつ。

 このレースの流れは白銀の彼女に握られた。

 

 萎縮した者については言うまでも無いだろう。出遅れに加えて縮こまった体。観客達から見ても本来の力を発揮出来ないであろうことは明白だ。

 

 ならば挑発に乗ったものは? 

 実力が上回っていれば……とまでは言わずとも、せめて伯仲していれば話は別だっただろう。

 だが現実に起きたのは前を行く白銀に追いすがろうとして、無駄に体力を吐き出したという事実だ。

 結果、スパートをかける最終コーナーのあたりでズルズルと後ろに下がっていた。

 

 結果は白銀の逃げ勝ち。それも大差での勝利だ。

 

 娯楽として見ていた者達から歓声が上がる。見定めていた者達も思わず唸り声を上げる。

 それ程に完璧な勝利であり、悪評の多かった前評判を1回の走りで全て吹き飛ばした。

 

 それが引き起こすのは、控えていた者達によるスカウト合戦である。

 原石をなんとか手に入れたい新人トレーナーと、育て上げてみせる自信を持った大御所トレーナー。その全てが白銀1人の元に集まった。

 

 私のチームはG1勝利ウマ娘がいるの。俺のチームにくればトレセン学園1番のトレーニングメニューを考えてやる。といった大御所からの言葉。

 新人だが担当させてもらえないかという旨の熱意に溢れた説得。最早賛辞の言葉と化したスカウトとも言えないような、そんな新人トレーナーからのスカウト。

 

 全てを無視し、白銀は1人の女性の元へ向かった。大御所のトレーナーからの言葉にすら耳を絞って目もくれない。不機嫌ですと全身で表しているかのような態度。

 

 その態度はとある新人トレーナーの元へ辿り着いた瞬間に霧散した。

 その新人トレーナー──女性であるため彼女と呼称するが──彼女も白銀をスカウトしようと一声かけて、しかし出遅れた事、他にも大御所がスカウトをかけていた事から諦めようとしていたクチだ。

 

 彼女は、目の前に来た白銀に何か言わないとと焦っていた。レースお疲れ様でした。安直すぎる。私と契約しない? 唐突過ぎる。向こうへメリットを提示できない。

 というか近くで改めて見ると本当に暴力的なまでの美人……いや麗人という言葉の方が似合いそうだ。

 

 そんな混乱のあまりよそに行き始めた思考を、さらにショートさせるような一言が白銀から放たれた。

 

「惚れた」

 

「……え? 今、何て言いました……?」

 

「貴女に一目惚れをしたと。……絶対に貴女を惚れさせてみせましょう。どうか、私とトレーナー契約を結んで頂けませんか?」

 

 そう言って白銀は跪き、彼女の手を取り手の甲にそっと唇を落とす。

 

 それはまるで忠誠を誓う騎士のような姿で。使い古された表現ではあるが、1枚の絵のような光景という言葉が相応しい。……まあ、顔を真っ赤にしてわたわたと慌てている彼女の存在がコミカルさをもたらしているのだが。

 

 結局。周りの歓声と好奇の視線に耐えられなくなった彼女は、明日この場所でと言って逃げ去って行った。

 

 

 

 

 

 興奮冷めやらぬ翌日。

 レースもないコース近くに、ソワソワといかにも誰かを待っていますというような女性が1人。

 言うまでもなく、白銀に誑かされた新人トレーナーの彼女である。

 

 そんな彼女に忍び寄る影が一つ。

 こちらも言うまでもなく、誑かした張本人である。

 両手に買ったばかりの冷えたペットボトルを持ち、件の彼女にバレないように忍び寄る。

 

「だーれだ?」

 

「ぴゃあ!?」

 

 手で目隠しをして問いかけをする──ところで、代わりに冷えたペットボトルを首筋に当てた。

 結果は単純明快、奇声と涙目。

 

「ふふ。貴女は見た目だけじゃなく反応も愛らしいね。ところで、コーヒーと紅茶だったらどちらが好みかな?」

 

「……紅茶」

 

 憮然とした顔で、しかし素直に質問には答えた。普通に声をかけてくれればいいのにと呟いてはいたが。

 

「さて。それじゃあ緊張も解れた事だろうし、改めて自己紹介でもしようか。貴女の事が知りたいし、昨日は全然話せなかったからね。……と言っても、大して私に話す事なんて無いのだけれどね。名前はフォルティシーム。目標は一先ず無敗の三冠。特技は大体の事はこなせる器用さ。これぐらいかな」

 

 私の自己紹介なんかより貴女の話が聞きたい。貴女の事を知りたいと、言葉よりも耳と尻尾が雄弁に語っている。

 

「新人トレーナーの──です。契約を結ぶのは今回が初めてで、その……色々と不慣れな事もあると思うんですけど……よろしくお願いします……?」

 

 無難な自己紹介のお手本のような無難さ。得られた情報は名前くらいのものか。

 だが、意外にもフォルティシームが不満げな様子を見せることは無かった。或いは、表に出していないだけかもしれないが。

 

「──。貴女に似合う、可愛らしい名前だね。本当はもっと貴女のことが知りたいけれど……楽しみはとっておかないとね」

 

 柔らかく微笑みながら、そんなキザなセリフを言ってみせる。並の人物が口にしても自他共に恥ずかしくなるだけだが、それを平然と口にしてみせ、しかも様になっているのだからやはり美しいというのは得であるのだろう。

 様になっているのだからやはり美しいというのは得であるのだろう。

 

「そ、そういうセリフは禁止で! あんまり大人を揶揄うもんじゃありません! ……とりあえず、今日は何本か走るところを見せてもらっていいかな? まずはほる……フォルティシームさんに合う距離を知っておきたいから……」

 

「ん、了解。……だけど、フルネームにさん付けはちょっと寂しいな。せっかくだからフォルティって、愛称で呼んでよ」

 

「……フォルティに合う距離を知りたいから?」

 

「いいね。貴女の口から聞くと私の名前も新鮮な響きに感じるよ。……それじゃ、見ててね」

 

 しれっと自分の要求を通して、コースへと向かう強かな白銀の彼女。

 手渡されたコーヒーのペットボトルの冷たさは、気恥しさで熱くなった頬には丁度いいものであった。

 

 

 

「お疲れ様! ……走った後にコーヒーって、大丈夫なの?」

 

「ありがと。君から手渡してもらえればサラダ油でも甘露だよ。……冗談だから、そんなに怒らないで。

 味が強いものが好きなんだ。……ああでも、トレーナーが紅茶派ならコーヒーはやめとこうかな」

 

「なんで?」

 

「ん? キスする時に苦かったら嫌でしょ?」

 

 顔を真っ赤にしてポカポカと殴られたのは言うまでもない。

 

 こほんと咳払いをして話の主導権を戻す……戻そうとする。

 

「とりあえず! フォルティの走ってる姿を見た感じ、向いてそうなのはやっぱり中距離、長距離かな。三冠を目指すならとりあえずはこのままでも問題は無いと思うし、暫くは中距離……弥生賞を目標にしていこうと思うんだけど……」

 

「うーん、いいのかな? 私は正直レースについてあまり詳しくないから一先ずは任せるよ。なにか出たいレースでも出来ればその都度貴女に相談しよう」

 

 弥生賞。皐月賞と同じく中山の芝の2000メートルレース。目標のレースと同じコースで走れるというのは大きなメリットであるし、G2とはいえ大きなレースの雰囲気に慣れることが出来るというメリットもある。

 それに加えてもう1つ。優先出走権という大きな特典がある。至極簡単に言うと弥生賞にて1位〜3位までに入れれば皐月賞に確実に出られるということである……一部例外はあるが。

 

「後もう一つなんだけど。とりあえず明日から……は難しいんだけど、今後の練習メニューを考えようと思うんだけど、ここを重点的に鍛えたいとかってあるかな?」

 

「うーん、とりあえず脚が速くなりたいっていうのはまあ言うまでもないだろうけれど……ちょっと一晩考えさせてもらってもいいかな? すまないね」

 

「分かった。じゃあ取り敢えずは基礎練習メインで組んどくね。やりたいものが決まったらそれをメインに据えつつやっていこうか。その方がやる気も出るだろうし!」

 

 一先ず顔合わせも済ませ、早めに決めておきたいことについても目処を付けることができた。

 今日のタスクは概ね消化できたと言っていいだろう。

 

「……それじゃ、今日は一旦解散しようか。今日自主練習にさせちゃうのは申し訳ないんだけど、とりあえずの明日からのメニュー組んでくるね。……大丈夫かな?」

 

「寂しいけど頑張るよ、また明日。体を冷やさないようにね」

 

 そんな言葉と共に別れ、一人になったフォルティシーム。

 視界からトレーナーが居なくなるまで見送り、ストンと芝生──レースの芝ではなく、グラウンドにある寝転ぶのに丁度いいくらいのものだ──に座り込み、手で顔を覆う。

 

 もし頭の中を覗ける何者かがいたのならば、ドン引きしていただろう。

 

「トレーナーちゃん、めっちゃ可愛かったぁ……!」

 

 だらしなくなってしまう表情を隠し、頭の中はトレーナーちゃんが可愛かった! トレーナーちゃんと話せてよかった! そんなもので埋まっている。

 

 怜悧に整ったカッコ良いと評されるべき美人さも台無しにして、トレーナーの可愛さに悶えている。

 流石にこの姿を見られたら、顔が美人でもどうにもならない引き方をされるだろう。

 

 つまり、フォルティシームはとある掲示板に入り浸るような、そんな状態が素なのである。




Q トレセン学園って学費あるの?
A シングレで学園ってお金かかるという旨の発言があったので

Qぶっ壊れローテ大丈夫?
A3女神の加護です

Q新馬戦で顔バレしないの?
A新馬戦はマスコミもあんまり取り上げない(独自設定)そしてスレ民も全く信じていない(ご都合主義)


感想全部読んでます。こんな感じで答えられるものには答えつつ、指摘点は参考にさせていただきます。

男トレ×フォルティシーム

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