【悲報】起きたらウマ娘になってたんだが【助けて】   作:らっきー(16代目)

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評価と感想に飢えています。それらを貰えるといっぱい更新しますし要望にも答えます


おまけ2

 朝日杯フューチュリティステークス、及びホープフルステークス。

 ジュニア級のレースということもあり、クラシック級の三冠レースやシニア級の有マ記念といったレースに比べれば知名度は一歩劣るものの、これらを制したウマ娘が後の名バとなった事例が多いため注目する人間は注目している。

 

 そんなレースを、一気に制したウマ娘が現れた。

 頭がおかしい、と言われても文句は言えないようなスケジュール。それに加えて1600mと2000mという距離の違い。

 

 常識的に考えれば、どちらも出るなどという選択肢はありえない。体力、距離適性、脚への負担。否定する理由は幾らでもある……というよりも、肯定する理由が見つからないと言った方が正しいかもしれない。

 

 事実、批判の声は多く上がった。将来を潰しているだとか、冷酷非道だとか、マトモな知識も無いのかだとか。

 

「……という声が上がっていますが、いかがでしょうか?」

 

 そんな質問を取り繕わずに伝えてくる記者。意図が伝わらないという事は起きないかもしれないが、その率直さは相手を怒らせるリスクも孕んでいる。

 

「うーん、言われてみるとその通りだとしか言えないね。我ながら気の狂った事をやったと思うよ」

 

 しかし今回に限って言えば、その当の本人がそのような言い方を好むタイプであったので何の問題もないのだが。……決して、遠回りな言い方を理解出来るほどの賢さが無い、という訳ではない。

 

「ただ、それでも走りたい理由があっただけだよ」

 

「それは?」

 

 フォルティシームは、基本的には穏やかなウマ娘である。常に余裕を持ち、芝居じみた仕草を身につけ、柔らかい微笑みを絶やさない女性だ。

 そんな彼女だからこそ、今この瞬間に浮かべたような獰猛な笑みが迫力を持つのだ。

 

「私が最強だと証明する。……言葉にすると、安っぽいかな?」

 

 世間知らずのウマ娘の妄言。そう言い切るのは容易いが、彼女の強さは結果が証明している。

 ならばこれは妄言ではなく宣言であろう。

 私がレースを支配する。貴様らは黙って私の背中を見ていろ。そんな宣戦布告。

 

「すると、今後の目標は……」

 

「一先ずはクラシック三冠かな。分かりやすい最強の証明だろう? ジュニア級で戦わなかった子達とも戦えるだろうしね。……後は、個人的な目標がもう一つ」

 

 それは? と水を向けられて。無敗の三冠を取ると強気の宣言と獣のような笑み──をふにゃりと消して、耳も尻尾も垂らして恥ずかしそうな顔になる。

 

「……担当のトレーナーと、もっと仲良くなりたいんです……」

 

 先程までの獰猛さはなりを潜め、年相応の女の子といった様子を見せる。

 ある意味ではこのギャップこそが彼女の一番の魅力であり、武器なのかもしれない。少なくとも、記者が一時言葉を失う程度には魅力的であった。

 

 コホンと咳払いを一つして、インタビューに戻る。

 

「話を戻しましょう……では次に、今回のレースの感想についてお聞きしても?」

 

「感想……うん。みんな強かった。今回の結果は運もあるかな。次があったらどうなるかは分からない……まあ、負けるつもりは無いけど」

 

 先程までの恥ずかしそうな顔は消え、いつもの微笑みの顔になる。フォルティシームにとってはこれがポーカーフェイスでもあるから。

 

「本当に? 適切な言い方ではないかもしれませんが、楽勝……とまでは言わないまでも、余力を残した勝ちに見えましたが?」

 

「あー……参考までに、何故そう思ったのかを聞いても?」

 

「フォルティシームさんは逃げウマ娘ですよね? 普通、逃げウマ娘はレースの始まりに全力で先頭を取りに行ってスタミナを使い切りながらゴールするものです」

 

 でも貴方は違ったと続ける記者と、黙って興味深そうにそれを聞くフォルティシーム。

 

「最終コーナーで後続のウマ娘に差しきられるんじゃないかというところでの二回目の加速。差しウマならともかく、逃げウマがそんな事を出来るとは思えません……最初から、その為のスタミナを残していたのでもない限りは」

 

 そんな指摘を受けても、不敵な笑みは崩れない。

 断じて、言われている意味が理解出来ていないからとりあえず笑っておこうなどと考えてはいない。

 

「面白い……いや、興味深い意見だとは思うよ。けれど、敢えて否だと明言させてもらおうか。私は……まあ器用にこなせるタイプではあるけれど。流石にレース中にそんな事が出来る程ではないさ」

 

 少しずつ、ゆったりとした語り口調。それはどことなくヒートアップしていた記者を落ち着かせるかのようであり、優しく包み込むかのような印象を与えてもいた。

 別に、何を言うか必死で考えながら喋っているからペースが遅くなったという訳では無いのである。

 

「あれはただ無我夢中で試しただけだよ。私は勝つためなら初めて使う戦法に手を伸ばす事に躊躇いはないからね。逃げて、差す。知人にそんな方法があるとだけ教わってトレーナーと煮詰めて。ぶっつけ本番だったけど形になって良かったよ」

 

「知人……? 失礼ながら名門の出では無いと記憶していますが……レースに詳しいお知り合いが?」

 

「ふふ。それは秘密さ。女は秘密を着飾って美しくなるものだからね」

 

 人差し指を唇にあて、小首を傾げて小悪魔的な表情を作る。

 自分の美人さで有耶無耶にしてやろうという意図はないと思いたい。

 

「それでは……そうですね。トレーナーの話を聞いても?」

 

「構わないよ……と言いたいところだけど、内容によるかな」

 

「まずは定番ですが、貴方にとってトレーナーとは? 上手くやれていますか?」

 

「まず一つ目に答えるなら、大切なパートナーで……素敵な人さ。上手くやれているかは……どうだろう? 練習はしっかり考えてくれるし、コミュニケーションに困ったこともないし。うん。上手くやれている、でいいんじゃないかな?」

 

 相変わらずのポーカーフェイス。質問は続き、当たり障りの無いような回答が続く。

 それに焦れたのか、はたまた他の理由か。記者が投げかけた質問にポーカーフェイスは崩される。

 

「トレーナーを変えたいと思ったことは? 例えばチームを持っているようなトレーナーなら──」

 

「必要無い」

 

 温和な雰囲気は消え去り、絞られた耳と温度を失った瞳を持って、底冷えのするような声が出る。

 

「あまりにも酷い侮辱だ。今までの私の答えを聞いていればそんな巫山戯た質問は仮定であっても出てこないはずだが?」

 

 地雷を踏んでしまったかと記者の額に一筋の汗が流れる。

 名を残すようなウマ娘には、気難しい者も少なくはない。温和な態度に甘えて言葉選びへの注意力が散漫になっていたのか。

 

 どんな罵声が飛んでくるのか、覚悟を決める。吐いた言葉の訂正も、言い訳もしないのは記者としての矜恃故か。

 

「……帰る」

 

 そんな覚悟は肩透かしに終わったが。気分を損ねても理性を保ったままだというのは良い事なのか悪い事なのか。怒りは短い狂気である。狂気に飲まれた方が幸せなのか、狂気を制御できる方が幸せなのか。

 それはさておき、インタビューはここで終了となった。

 

 無論、事実は最初からキレたふりをして帰るつもりだったから丁度いい発言があったのを良い事に帰ってみせた──という訳でもない。フォルティシームとしては元はそのつもりであったが、トレーナーの変更を勧められて嘘偽りなく、キレた。言葉を素直に受け取ってしまう弊害とも言える。トレーナーの事を好き過ぎるだけとも言える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 内容は一先ず置いておいて取材を終え、トレーナーと合流し、取材で溜まったストレスを解消するとの名目で何度か訪れたことのある甘味が食べられる店へと向かう。

 

 甘いものを好むウマ娘は多い。担当ウマ娘にやる気を出させたければパフェを食べさせろなんて言葉もあるほどだ。

 ウマ娘に人気のある店は甘味を豊富に取り揃えている店か提供する料理のボリュームが多い店かの二択と言っていい。

 

 今回も例に漏れず、美味しい甘味を食べてリフレッシュを図ろう──とは、少しだけ違う。

 

 フォルティシームが頼んだ甘味は机の隅においやられている。では何をしているのかといえば、単純なことである。

 

「はい、あーん」

 

 親鳥が小鳥に餌を運ぶように、トレーナーが注文した物を食べさせている。文字にするとそんなところか。

 初めてこの店に来た時から行われている定番の行為である。最初は恥ずかしがって拒否するトレーナーをフォルティシームが笑顔の圧で押し切っていたが、今では顔を真っ赤にしつつも受け入れている。慣れとは恐ろしいものである。

 

 ここで余談だが、ウマ娘というのは耳と尻尾がある分普通の人間よりもどうしても目立つ。そしてフォルティシームは神が自分にも美的センスがある事を証明するために作ったのではないかと疑うくらいには美人である。

 

 つまり何が言いたいのかというと、とんでもない悪目立ちをするのである。

 好奇の視線、嫉妬心混じりの視線。トレーナーにまだそこまで周りの様子を気にする余裕が無いのが幸いか。

 更に余談として、フォルティシームも気づいていない。彼女はトレーナーが食べている様子を見るのに夢中である。周りの視線になど最初から関心は無く、ただトレーナーちゃん可愛いと思っているだけの脳内ピンク色ウマ娘である。

 

「そういえば、インタビューどうだった? フォルティの事だから大丈夫だとは思うけど……」

 

「うん? あー……向こうもプロだからね。上手いことやるだろうさ」

 

「待って何したの?」

 

 目を逸らし、白々しく答える白銀の彼女を問い詰める。何をしたかと言われれば取材の途中でキレて帰ったのだが、そんな事を正直に言う訳にもいかない。そこで彼女のとった行動は……

 

「はい、あーん」

 

 とにかくこの場を誤魔化して有耶無耶にする事だった。

 流石にそんな事で誤魔化せるはずもないし、どの道ただの時間稼ぎにしかならないのだが目先のトレーナーちゃんを可愛がりたいという欲求に従った結果である。バカの考え休むに似たりという言葉があるが、寧ろ何もしない方がマシであろう。

 

 やいのやいのと時間は過ぎる。きっとこんな時間も、後から振り返ればいい思い出になるのだろう。

 

「何したのかは後で聞かせてもらうからね?」

 

 それはそれとして。フォルティシームは初めて逃げ切れない戦いを経験した。

 




Q 閃光の歌詞はまずいですよ!
A 修正しました。別に本筋は変わらないので見返さなくて平気です

Q 24歳…?
A 18歳を過ぎたら元ネタを調べてくれ

Q トレーナーの意味って?
A 別に練習内容考えるだけが仕事じゃないから(震え声)

Q スタミナ足んなくない?
A ゲームじゃないんだから坂路でスタミナもつくでしょ(慢心)

Q 安価踏んだところ色変えて?
A やり方調べてきます

男トレ×フォルティシーム

  • 焼き直し部分はカット
  • 被りも書く

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