「ヴィー! ヴィー! ヴィー!」
警告アラートが鳴る。
場所は右斜め後ろ。進行方向に対して、5時の位置と言ったところだろうか。
この警告音は接近音だ。
まだ間に合う、ロックオンまで完了していなかった相手のミスだ。
「そこだっ!」
振り返りながら、ビームライフルの銃口を後ろに向ける。
そしてそのまま視認するよりも先に、引き金を引いた。
ボカン!という音と共に目の前で機体が炎上した。
オリジナルカスタマイズされたガンダムタイプの機体だったが、ビームライフルの直撃を防ぐためのIフィールドやABCマントといった防御は用意してなかったようだ。
瞬きをするよりも先に、その機体のデータはフィールドから消えた。
今のバトルは俺の勝ちだ。
だが今回のバトルは総当たり戦。
まだ戦いは終わらない。
「咄嗟に選んだ機体だけど、なんとかなっているな……」
俺が今駆っているのはMS-14 量産型のゲルググ……のガンプラだ。
「30分後にバトルをするから」と有無を言わせずに参加させられたバトル。
30分しか時間がない中で選んだのがこの機体だ。
『機動戦士ガンダム』が好きな人ならわざわざ説明する必要もない機体だろう。
色々なガンダム作品で、様々な機体が登場している今なら派手さもトリッキーもない機体だ。
だがその分信頼感は強い。
そして何よりビームライフルがある。
相手がどんな敵だったとしてもビームがあれば、さっきみたいな勝利がある。
ザクマシンガンだときっと厳しかったはずだ。
「次は……」
ビームライフルの残弾確認をしていた時だった。
「ヴィー!! ヴィー!! ヴィー!!」
さっきよりも一際強い警告アラートが鳴る。
今度は間違いない、ロックオンされた音だ。
何よりも先に横へ跳ねる。
まず回避だ。
瞬間、さっきまでゲルググが立っていた場所にビームが着弾した。
ビームによって抉られた地面の面積を見るに、出力は大きいようだ。
緊急回避をしたゲルググは体勢は良くない。
だが俺は先ほど相手が狙ってきた場所に銃口は向けた。
だが機影はない。
……いや、正確にはあった。
だが俺が銃口を向けた時点でその機体は流星のように高速で移動していたのだ。
火力と機動力を兼ね備える機体は少ない。
急いでメインカメラを、その機体が移動した方へ向ける。
今度は確認できた……既に俺のゲルググをロックオンしているその機体が。
「ブレイヴか……!」
GNX-Y903VS。
『機動戦士ガンダムOO』の劇場版で登場した機体だ。
フラッグの系譜を汲む機体で、その集大成とも言える機体だろう。
トライパニッシャーを展開すれば凄まじい火力を誇る。
「負けるか……」
上空に向かってビームライフルを2回、3回放つ。
だが冷静に照準を合わせきれていないビームなど、高機動のブレイヴに当たるわけがない。
あえなく躱されてしまう。
そして次の瞬間、俺のゲルググはそのトライパニッシャーの熱線に焼かれ、爆発四散した。
──────────────────
「第3回クルタ模型ゲリラチャンピオンシップ、勝者はクリス・フェルール!」
クルタ模型店店長の来田イチロウ、通称ジョニーさんが高々に叫び、女子大生のクリスがピースで観客にアピールする。
そしてその脇でガクッと崩れ落ちる高校生が俺、鈴門タカヤだ。
こう言葉で言うと、まるで選手権レベルの大会を思わせる。
だが実際は商店街の一角、50平米くらいしかない模型屋での小さなバトルイベントだ。
参加者と観客の殆どが地域の小学生達で、後はクルタ模型店でバイトをしている俺とクリスだけだった。
まごうことなき小規模大会だ。
それにチャンピオンシップなどと謳っているが、実情は商店街の一員として遊びの場を設けているにすぎないと言った方が正解だろう。
クルタ模型店は珍しくガンプラバトルのバトルシミュレーターを設置している店だ。
そもそもガンプラバトルとは、組み立てたガンプラをバトルシミュレーターとスマホで読み取り、データ上でそのガンプラを自在に操縦して戦闘するゲーム、遊びだ。
実際のガンダムの世界観が広がるような数多くのフィールドデータが広がり、何より組み立てた自分だけのオリジナルガンプラを動かすことができる。
一度ハマってしまえば、無限に楽しさを追求することができる。
バトルシミュレーターは決して安いものではないはずだが、来田店長、ジョニーさんはすぐに購入した。
多分ジョニーさん自身が楽しみたかったのだろう。
そしてさらにジョニーさんはその楽しさを地域の小学生にも伝えようとしている。
シンプルなことだが、これがきっかけでガンプラの楽しさを知った子供達が大きくなってからも店に通い続けてくれれば、クルマ模型店は安泰と言えるだろう。
とはいえ、流石にバトルで小学生に負けるわけはない。
最終的には俺とクリスの一騎討ちになる。
だがこれも殆ど出来レースだ。
というのもクリスは何故か小学生に人気がある。
フランスからの留学生というのが珍しいのだろう。
そして反対に、小学生の中で何故か俺は悪役扱いになっているのだ。
小学生相手だから俺とクリスはハンデとして量産機しか使えないルールになっているのだが、まずここの時点でおかしなことがある。
俺に選択肢として与えられる量産機は、ザクⅡとかジムばかりだ。
その一方で、クリスはサーペントとかジンクスと言った高性能量産機から選ぶことができる。
同じ量産機とはいえ桁が違う。
そして今回、彼女が最終的に選んだのはブレイヴ一般機だった。
そもそもブレイヴは量産機というよりは試作機の方だと俺は思うが……
だが小学生達が待ち望んでるのは俺がボコボコにされるところなのだ。自分たちが負けても、俺がクリスに完膚なきまで叩きのめされるのを見ればそれで満足なようだ。
つまり、俺は毎度毎度負け役を演じさせられているわけだ。
ちなみに今回は第3回のチャンピオンシップだが、第1回も、第2回も勝者はクリスで準優勝は俺だった。
まあ実際のところ、対等な状況でバトルしたとしても俺がクリスに勝てるかどうかはわからない。
そもそも俺にガンプラのイロハを教えたのは、他ならぬクリスだからだ。
大阪の大学に通う彼女は暇だからと、近くに引っ越してきた俺にガンプラの世界を半ば強引に押し付けてきた。
俺はもともとガンダムシリーズを見て育ってきたが、ガンプラというものはそれまで作ったことはなかった。
高校以外に特にアテもなかった俺は折角ならと受け入れた。
だがそれが全ての始まりだった……
彼女は持てる全ての知識と技術を俺に叩きつけてきた。
彼女と出会ってから俺が作ったガンプラの数は計り知れない。
学校以外は殆どガンプラという謎の生活を送ってきた。
周りから見たらガンプラに関して、俺は急成長したのだろう。
だがそれでもまだまだクリスには敵わないはずだ。
作り込みもバトルの腕も。
そう物思いに耽っていた時だった。
「今回もタカヤの負け〜」
小学生の1人がそう言って俺を煽ってきた。
勘違いされたくないが、俺はクリスには敗れたがこの小学生には負けてない。
小学生相手に大人気ないかもしれないが、このまま弱い奴として認識されるのも困る。
反論しようとしたその時だった。
「実はタカヤも強いんだよー。あんまり目立ってないけど」
俺の後ろからクリスの声がした。
彼女も俺が馬鹿にされ続けてるのが嫌だったのだろうか。
わからないが庇ってくれた、目立ってないというおまけ付きだったが……
「でもタカヤの本気バトルを見たことないんだよなぁ。大会とか出ないから」
クリスに言われた小学生がそう呟いた。
確かにその子の言うとおりで、俺は大会とかは好まない。
理由は単純で、目立つのが嫌いだからだ。
だから小学生達にとっては俺はクルタ模型店でクリスに負け続けている姿しか知らないのだろう。
「今度本気でバトルしてみるか?」と言おうとした時だった。
「だったらちょうど良かったね!今度の大阪大会にタカヤ出場するから!」
またしてもクリスが後ろからそう言った。
彼女が言っている大阪大会とは、半年後に行われる公式大会の西日本選手権に向けた大阪代表選考会のことだ。
参加年齢や経歴に制限はなく対象は全年齢と聞いているから、かなり大きな大会になるのは間違いない。
当たり前だがそんなのに出てしまえば、目立ってしまう。
「ちょっと待って、そんなの出るつもりは……」
ない。
そう言おうとしたが、そんな俺の前にクリスがスマホの画面を見せてきた。
それは大阪大会へのエントリーページであり、すでに俺の名前や住所が入力されていた。
好きな機体は何かというアンケートにもしっかりと答えており、あとは「エントリーする」というボタンを押すだけの状況だった。
まさかとは思うが、相手に自分のことをよく知られていたらこんなこともできてしまう。
「いや、俺はそんなのに興味がないから」
クリスからスマホを取ろうと手を伸ばす。
だが彼女は軽い身のこなしで、俺の手を躱した。
サザビーのビームサーベルをジャンプで避けるνガンダムのような動きだった。
「えいっ!」
そしてそのまま俺の横で「エントリーする」のボタンを押した。
「あぁあああ……!!」
俺の目の前で画面が「エントリー完了」に変わったのだった。
──────────────────
面倒なことになった。
はっきりと言って、自ら好んでエントリーするはずのない大会だ。
もちろん都合が悪くなった参加者のために、キャンセル窓口は設けられているだろう。
だが厄介なのはエントリーはクルタ模型店で行われ、その瞬間をみんなが見届けたということだ。
安易にキャンセルをしようものなら、小学生達から「逃げた〜」などと言われるかもしれない。
それはそれで嫌だ。
その点今回の大会は、クリスの言うとおり、俺の実力を見せられる良い機会にはなるかもしれない。
後ろで俺達の様子を見ていたジョニーさんは「諦めて参加するんだな」と笑っていた。
「完成させたばかりのこれもあるし」
棚に飾ってあるガンプラを手に取った。
アブソリュートガンダム。
いつか本気のバトルをする時のために組み立てたオリジナルのガンプラだ。
ウイングガンダム、ビルドストライクガンダムと言った運動性が高い機体のパーツを組み合わせた機体だ。
頭部パーツとカラーリングから全体的に、ベースとなったインパルスガンダムを思わせるようなガンプラになっている。
ハイメガキャノン砲やファンネルといった目立つ武装がないが、その分操縦性は高い。
そして最大の特徴はインパルスガンダムが使用した各シルエットパーツを使用できることだ。
これで色んな戦場に対応することができる。
そう、ガンプラの準備はできていた。
そして自分自身予期していなかった大会へのエントリー。
知らないうちにレールは敷かれていたのかもしれない。
決断をする時か、と思っていた時だった。
ピコン!と音がなる。
クリスからメッセージが届いた。
「参考にしたいから、明日ガンプラを持ってきて」という文章と頭を下げるスタンプが押されていた。
明日俺がクルタ模型店のバイトの日だということを見て連絡してきたのだろう。
一方的なお願いだったが、別に問題があるわけでもない。
明日のシフトにクリスは入ってないが、文章を見るにクルタ模型店に遊びにくるようだ。
その時に大阪大会についてももう一度話をしよう。
そう思って、OKとスタンプを押した。
──────────────────
そして翌日。
「話が違うんだけど……」
シフトの時間前に、クルタ模型店に入った俺は何故かクリスに拘束された。
そしてそのままジョニーさんの車に乗せられたのだ。
「良いからいいから!」
軽い感じでそう言ったクリスは何故かわからないがテンションが高いようだ。
一方のジョニーさんはどこか目的地があるようで、迷うことなく車を走らせていた。
そして車に揺られること20分くらいだった。
「よーし、到着だ」
ジョニーさんが目指していたのは、市で1番大きなショッピングモールだった。
あまり来たことはないが、確かガンダムショップもあるはずだ。
「よーし、早速エントリーするよ!」
クリスがそう言って俺の手を引いた。
抵抗できないほどの結構な力で。
そして彼女は何気なく不穏な言葉を口にしていた。
「エントリーするよ!」
自動ドアを突っ切って、すぐのエスカレーターに踏み込む。
大人しく待てばいいものを、ドシドシと左側を登っていく。
クリス1人ならばまあ普通の光景だが、それを俺の手を引っ張りながらやっているものだから、側から見ると変な人達でしかないだろう。
エスカレーターで階を2つ上がった先に、白く広がる空間がある。
ガンダムショップだ。
クルタ模型店なんかとは比べものにならないほどの圧倒的な数と種類のガンプラが販売されている。
なかなかお目にかかれない旧キットも当然のように売られている。
このままここでガンプラの買い出しをするのも楽しそうだ。
だが状況は違った。
「あっ! タカヤおせーぞ!」
そこに待っていたのは例のごとく小学生達だった。
「タカヤの本気見せてもらうぜ!」
いきなり何を言われているのかわからない。
だがここはガンダムショップ。
俺はガンプラを持って連れてこられた、そして小学生達が俺の本気を見たがっている。
ここまで条件が揃うともうガンプラバトル以外あり得ないのだ。
「ガンプラショップ特別オープンチャレンジは動画配信サービスでも中継されます!」
司会を務めるガンダムショップの店員さんもそう言っている。
どうやら俺はハメられたらしい。
恐らくこの大会を知ったクリスとジョニーさんが、俺を連れてくるためにあんなメッセージを送ってきたのだろう。
普通に誘っても俺が断ってくるとわかっている2人だ。
そしてわざわざ店を臨時休業にしてまで連れてきたのだった。
「じゃあ頑張ろーね、タカヤ」
クラスはそう言って、早々とバトルシミュレーターの方へ行った。
今回は彼女はただ俺にさせるだけではなく、自分もプレイを楽しむらしい。
「まっ、ピンチになったら俺が助けてやるからな。はっはっは」
ジョニーさんも俺の肩をポンッと叩くと、バトルシミュレーターに消えていった。
俺を煽っていた小学生達ももう近くにいない。
それで俺はどうだろうか。
はっきり言ってこんなに目立ちそうなイベントは好きではない。
だからといってここで退くのもまずいだろう。
俺の手にはガンプラが握られているからだ。
周りから見るとガンプラまで持ってきて、やる気満々に見えた人が、いざシミュレーターの前で恥ずかしくなって帰るように見えかねない。
それはとてもダサい、死ぬほどダサい。
どうやら逃げ道は既に防がれていたようだった。
仕方がない……今回は諦めよう。
だが、やるからこそは本気でやってやる。
左手でスマホを取り出す。
そしてシミュレーターの上にガンプラとスマホをそれぞれ決められた場所にセットする。
ガンプラを乗せた台座が、シミュレーターの中へ沈む。
シミュレーターの機械の中で記念撮影のように各パーツをスキャンし、ガンプラのデータを読み込む。
そしてシミュレーターがスマホからプレイヤーデータを読み取れば、俺の両手元に操縦桿が構成される。
同じく目の前にはスクリーンが広がり、機体のコックピットから広がる世界を映し出していた。
あとは操縦桿を握って動かすだけ、タイミングは自分次第だ。
操縦桿をグッと握りしめた。
「アブソリュートガンダム、出る!」
操縦桿を前に押し込む。
バックパックのスラスターが噴く。
目の前のビジョンはジェットコースターのような加速で突き進む。
カタパルトを飛び出たら、そこはもう戦場だ。
「フィールドは……梅田か。すごい入り組んでいるな」
空中からまわりを見渡す。
大阪駅、梅田駅近辺の街並みが広がっていた。
オフィスビル群や百貨店、さらには観覧車まであり本格的に再現度されたステージだった。
「やっかいなステージだな」
あくまでこれはデータだから、てきとうにビームで建物を撃ち抜いても現実の建物が崩れ落ちることはない。
問題はその地形だ。
大阪駅・梅田駅近辺は驚くほど建物があり、高層ビルも多い。
慣れてなければ普通に迷子になるような場所で、遮蔽物も多くなるということだ。
地上戦だとピンチになれば安易に逃げられる。
かと言って今のように空中に漂っていたところで、スナイパーの格好の的だろう。
幸い今のアブソリュートガンダムはインパルスのフォースシルエットを着けている。
どのような戦局になろうと対応はできる。
だが1機だけで行動するのは怖い。
流石に5機くらいで強襲されようものならひとたまりもないだろう。
移動をしようとしたその時だった。
「タカヤ!助けて……」
下の方から通信が入った。
クルタ模型で俺を煽っていた小学生の1人、レイだ。
空色と白色で大空を思わせるような塗装をしたガンダムデスサイズとウイングガンダムのミキシング機体であるガンダムスルーズに乗った彼が、グフの改造ガンプラに押されていた。
格闘戦に持ち込めたら安定するだろうが、グフの操縦者はそれを見越して、マシンガンで連続的に攻撃をしていた。
前進ができずに苦戦しているようだ。
そんな時に上空に参戦した俺を見てSOSを出してきたと見える。
「レイ、後ろにジャンプしろ」
俺がそう声をかけると、レイは機体の体勢を後ろ向きに変えた。
小学生とはいえクルタ模型店で日々練習をしており、レイは俺が求めていたように機体を動かしてくれた。
そしてそのまま脚部のスラスターで後ろに跳ねるように飛んだ。
その様子を視認した俺は空中からグフに向かってビームを放つ。
その空中からのビームをグフは最も簡単に躱した。
ビームは道路のアスファルトを砕き、破片が巻き上がる。
だがもとよりビームは機体に当てるために放ったものではない。
「あくまで囮だ!」
スラスターの向きを上に傾け、アブソリュートガンダムを急降下させる。
メインカメラの映像はスピードの影響で相手を捉えてないが、大体の着地点は予測済みだ。
そのまま粉塵が舞う道路に着地するや否や、グフの胴体をビームサーベルで真っ二つに切り裂いた。
「タカヤ、すげぇ……」
グフの爆発を背にしたアブソリュートガンダムを見たのだろう。
後ろでレイがそう息を呑んでいた。
「クリスの相手をしていたら、こうもなるよ」
そう返事をして、レイの駆るガンダムスルーズの右腕を掴んで起き上がらせた。
だがレイは今の一瞬の出来事に感動したらしい。
「タカヤ!今までバカにしてきたの謝るから、もっとすごいの見せてよ!」
詰め寄るかの勢いで、ガンダムスルーズが迫ってくる。
だがその後ろからバスターガンダムが姿を見せた。
こちらが見つけたのと同様に相手も俺達を確認したらしい。
94mm高エネルギー収束火線ライフルをアブソリュートガンダムとガンダムスルーズに対して向けようとしていた。
バスターガンダムは射撃戦特化の機体で制圧力は高いが、2対1で攻撃を加えれば勝てるだろう。
だが肝心なことにレイは気が付いていない。
もしかしたら俺に通信するのに夢中で、アラートを切っているのかもしれない。
仕方がないが俺だけで対応するしかないようだ。
「レイ、こうするんだ」
レイにそう言うと、俺はガンダムスルーズを手で右脇に押す。
ガンダムスルーズがよろけたことで僅かな隙間が生まれ、そこから胸部のマシンキャノンを放った。
だが命中はするものの、ダメージはほぼない。
そもそもPS装甲を持つバスターガンダムに実弾兵装でダメージを与えるのは難しい。
その間にバスターガンダムは体勢を変え、左右に手にした銃砲を連結させる。
そして対装甲散弾砲の姿勢に構える。
超高インパルス長射程狙撃ライフルではなく、こちらを選んだということはこちらをまとめて狙おうとしている証だ。
確かに命中すれば機体はへしゃげて、跡形もなくなるだろう。
だがそうさせるつもりはない。
発射まで時間のかかる手を選んだ相手のミスだ。
俺は左手に装備したアブソリュートガンダムのシールドを盛大に投げた。
まるでブーメランのようにシールドは回転しながら、バスターガンダムにヒットする。
もちろんこれだけでバスターガンダムを撃破できるわけはない。
だが相手はシールドの衝撃で、発射の姿勢を失う。
そして何よりシールドが相手に死角を作った。
「はぁあああ!!!」
スラスター全開でバスターガンダムに突撃する。
まるでドムのホバリングのように地面スレスレの飛行だった。
間合いは一気に詰まる。
ここまで来るとバスターガンダムの超火力は脅威ではない。
アブソリュートガンダムが両手で持ったビームサーベルは真っ直ぐにバスターガンダムの腹部を貫いた。
バスターガンダムが爆発する中、立っていたのはアブソリュートガンダムだった。
「かっけぇえ!」
レイが歓声をあげる。
それは今までクルタ模型店で俺に対して見せていた態度とは正反対のものだった。
もう俺の実力は十分に伝わったらしい。
そして今のバトルを見ていたのはレイだけではなかった。
「すごいでしょ?タカヤって本当は強いんだから」
そう言いながら空から俺達を見下ろしていたのは、クリスのリュンヌガンダムだった。
高機動のフリーダムガンダムをベースに、直線加速力を高めた機体だ。白銀のカラーリングに加え、時にどこかヒロイックに見えるフリーダムのパーツはどこか周りに神々しさを感じさせる。
「そんなこと言ってるけど、そっちだってもう何機落としてきたことか」
クリスを見上げながらそう返した。
その証拠にリュンヌガンダムが両手に持つビームライフルショーティーは既に熱が回っているようだった。
ハンドガンサイズのビームライフルショーティーは小回りがよく効く。それでガンプラの関節部分を的確に打ち抜くのだから恐ろしい。
俺の言葉にクリスは「ふふん」と笑った。
だがリュンヌガンダムは空中に漂ったままである。
まるで「来てみろ」と言わんばかりに。
そう挑発されると、断りたくないのがガンプラバトルだ。
「レイ、よく見てろよ。これが本当の俺とクリスのバトルだ」
後ろでリュンヌガンダムを見上げるレイを尻目に、俺は操縦桿を押し込んだ。
スラスターは全開。
瞬間的にトップスピードに達して上昇する。
そして一瞬のうちにクリスのリュンヌガンダムの元へ、そしてリュンヌガンダムを超えた。
そのまま機体は180度回転。
下に向けてビームライフルを構える。
照準はリュンヌガンダム。
だがクリスの方も俺の行動を読んでいたのか、すでにプラズマビーム砲を展開しており、下からアブソリュートガンダムを捉え、発射体勢を整えていた。
そして構え合うこと数秒。
「いくよ、タカヤ!」
「ああ!」
クリスからの言葉に、俺が返す形で火蓋は切られた。
アブソリュートガンダムとリュンヌガンダムから放たれた砲撃は、双方当然のように回避した。
クリスは今の位置関係を嫌ったらしい。
やはり1対1だと上を取った方が優勢になりがちだ。
即座にビルの合間を縫うように移動していく。
こうなると追わざるを得ない。
上の位置を捨てたくはないが、ここで見失うほうが危険だ。
こちらも曲線を描くように降下する。
クリスは大阪駅の北口の方に移動していった。
建物の数は多いが、比較的大きな建物が多い場所でもある。
まだ見失いにくいところだが、やはり市街戦となるとどこから襲ってくるかわからない。
警戒しながら、御堂筋を北上しようとした時だった。
「ヴィー!ヴィー!ヴィー!」
アラートが鳴った。
俺は咄嗟にアラートが鳴った方にシールドを向ける。
ガンッ!と音がして、シールドの向こうでリュンヌガンダムの動きが止まった。
手にはビームサーベルを持っており、クリスは明らかに斬りに来ていた。
左腕に付けられたシールドを押し込み、リュンヌガンダムを押し飛ばす。
体勢が崩れたリュンヌガンダムに向かって、マシンキャノンを放つ。
有効打にはならないだろうが、今度は逆にこちらの攻撃の起点になるだろう。
だがその思惑は外れた。
クリスは体勢をすぐに戻すと、なんとマシンキャノンに構わず、アブソリュートガンダム目掛けて突っ込んできた。
当然ながら被弾は避けられない。
だがクリスは自らのテクニックを信じ、大破することはないと踏んで突撃してきた。
最初は肩などに被弾していたリュンヌガンダムだが、クリスの操縦でみるみるうちに接近してくる。
こちらも慌ててビームサーベルを取り出した。
そのまま互いのビームがつば競り合う。1回、2回と。
後方から様子を見ていたレイが「すごい……!」と呟いていたが、今は気にしてられない。
3回目の切り込みをシールドで受け止める。
だがクリスがリュンヌガンダムのサーベルの出力を調整したのか、シールドはあっという間に真っ二つに割れた。
「くっ……!」
押されるわけにはいかない。
このままでは4回目のサーベルが飛んでくる。
アブソリュートガンダムの左腰に装着しているビームサーベルを回転させる。
そしてタイミングよくスイッチを押し、腰にマウントしたままサーベルの刃を展開した。
スタービルドストライクガンダムがウイングガンダムフェニーチェにした作戦と同じだ。
だがアブソリュートガンダムは奇襲用に調整をしていない。
展開までもたつき、結局リュンヌガンダムには回避されてしまう。
そのまま空中で今度は対等な高さで、アブソリュートガンダムとリュンヌガンダムが向かい合う。
双方の手にはビームサーベル。
「ねえ、タカヤ。今の気持ちは?」
クリスが俺に問うてきた。
だがそんなのは答えが決まってる。
「もちろん、楽しいさ!」
そう答えると、今度はこちらからリュンヌガンダムの方に突撃していった……
そう、何があってもガンプラバトルは楽しい。
勝っても負けても。
本気でバトルしている時は、目立つことなんて気にしていられない。
他のことを気にする時間すらもったいないほどに楽しいのだ。
そしてきっとそれはこれからも変わらないのだろう。
「まだまだだよ、タカヤ!」
「なんの、これから!」
──────────────────
──────────────────
◯主要キャラクター紹介1
①鈴門 タカヤ(スズカド タカヤ)
年齢:16歳
性別:男性
使用機体:アブソリュートガンダム
大阪府在住の高校生。
クルタ模型店でアルバイトをしている。
最近引越して来たばかりだが、同じマンションに住むクリスに振り回されがち。
その一方でクリスのおかげでクルタ模型店の一員になれたので感謝もしている。
好きな食べ物はケーキ。
②クリス・フェルール
年齢:20歳
性別:女性
使用機体:リュンヌガンダム
大阪の大学に通うフランスからの留学生。
クルタ模型店でアルバイトをしている。
タカヤを振り回すことで存在感を放っており、周りからも「ガンプラバトルが強い留学生」と認識されている。
その一方で経歴等についてはクルタ模型店の来田店長にしか知られていない。
好きな食べ物は蕎麦。
③来田 イチロウ(通称、ジョニーさん)
年齢:48歳
性別:男性
クルタ模型店の店主。
商店街に貢献するため(そして客を集めるため)、クルタ模型店で定期的にミニガンプラバトル大会を主催している。
本人のガンプラバトルの実力は、自称「中の上」とのこと。
ジョニーさんと呼ばれているのは、姓の来田を誰かが「ライデン」と読み間違えたのがきっかけ。
この呼ばれ方は本人も気に入っている。
好きな食べ物はハンバーガー。
◯登場ガンプラ紹介1
①アブソリュートガンダム
頭:フォースインパルスガンダム
胸:ウイングガンダム(EW)
腕:ガンダムアレウス
脚:ビルドストライクガンダム
背中:インパルスガンダムの各シルエット
色:トリコロール
タカヤが自作したガンプラ。
インパルスガンダムをメインとしており、所々にデスティニーガンダムを改造したパーツを組み込んでいる。
シルエットを換装することにより、フィールドを問わないバトルを可能にしている。
②リュンヌガンダム
頭:ビルドストライクガンダム
胸:ユーラヴェンガンダム
腕:フリーダムガンダム
脚:ストライクノワールガンダム
背中:フリーダムガンダム
色:白をベースとし、部分的に薄紫色
クリスが駆るガンプラ。
高機動を誇り、腰部のビームライフルショーティーとバックパックのバラエーナプラズマ収束ビーム砲を使い分けることで全距離に対応したバトルを繰り広げる。
③ガンダムスルーズ
頭:ガンダムデスサイズヘル(EW)
胸:ウイングガンダム
腕:ウイングガンダム
脚:ガンダムデスサイズ
背中:ガンダムデスサイズ
色:白と空色
小学生のレイのガンプラ。
同作品のウイングガンダムとガンダムデスサイズをベースにしているので親和性は高い。
トリッキーな戦い方を発揮できるポテンシャルはあるが、操縦するレイの技術がまだ追いついていない模様。