「で、結局タカヤはどうするの? 大阪大会」
クルタ模型店でアルバイト中の俺にクリスが詰め寄ってくる。
今日のシフトにクリスは入ってないないが、いつもの如く遊びに来たらしい。
カウンター越しに、キラキラした目を見せつけてきている。
「正直なところ、まだ悩んでる……」
クリスに返したのは曖昧な言葉だった。
実際のところ俺の返事は決して嘘ではない。
出たくないと思う自分と出たいと思う自分の2人が心の中にいた。
そもそも目立つことは、前から変わらず嫌いだった。
実際にこれまで出場したイベントでも、優勝後のインタビューは嫌で仕方がなかった。
「こんなの早く終われ」と思っていたくらいだ。
だがその一方で、ガンプラバトル自体はとても楽しかったのだ。
例えば前にバトルした三代ユイのような、強者とのバトルは手に汗握った。
バトル中は人前に立っているということをすっかり忘れるほどだった。
人前を嫌う自分と、激しいガンプラバトルを望む自分が心の中でせめぎ合っているのだ。
「そっか……無理にとは言わないけど、締切もあるからそろそろ考えておいてね」
クリスがそう付け加えるように言う。
その言葉に俺は少し驚いた。
彼女にしては珍しく、グイグイ来ない感じで面食らったのかもしれない。
だが彼女の言うことも最もだった。
大阪大会の申込をキャンセルするならば、早い方が良い。
下手にドタキャンなどしようものなら、今後本当に出たい大会があった時にペナルティが課されることも考えられる。
そろそろ本当に決断するべき時期なのだろう……
クリスも出ていき、特にお客さんもいない店内でカウンターに頬杖をつく。
ぽけーっと考えていた時だった。
「タカヤ、あのさ。お願いがあるんだけど」
突然声をかけられた。
カウンターを挟んで立っていたのは、地域の小学生の1人のレイだった。
後ろには、その同級生のガクとトモキも並んでいる。
クルタ模型店に遊びにくる仲良し3人組だが、彼らの手には何か紙が握られていた。
「ん……? 関西小学生ガンプラバトル大会?」
それはチラシだった。
どうやら今週の日曜日に小学生限定の大規模大会があるらしい。
「オレ達、それに出るんだ。
でもオレ達ってタカヤみたいにガンプラバトル上手くないからさ……」
どうやら全員エントリーはしているものの、ガンプラがこのままで良いのか気になるらしい。
簡単に言えば可動域の調整とか、細部のチェックをして欲しいと言うのだ。
「それで俺にガンプラを見てほしいということか」
「そう! 頼むよ……タカヤ!」
レイが頭の上で両手を合わせて懇願する仕草を見せた。
よく見るとそれに合わせる形で、後ろのガクとトモキも頭を下げて手を合わせていた。
大体の事情は理解した。
大会に出るのにガンプラが完璧な状態ではない……というのは流石に可哀想だ。
チラッと壁にかけられたカレンダーを見る。
予選会まではあまり時間は残されてなかった。
仕方がないか……
「わかった。俺でよければ力になるよ」
カウンターから3人に微笑む。
俺がそう言うとレイ達は嬉しそうに声を上げた。
模型屋の店員として、ガンプラバトルに対してアドバイスをするのもアルバイトの業務の範囲内だろう。
実際のところ、そんなことをしていても問題ないくらいに、閑古鳥が鳴いているということもあるが……
「とりあえず、3人のガンプラを見せてもらって良いか」
まずは状況を確認してみないことには始まらない。
俺の掛け声に、3人はそれぞれカバンからガンプラを出した。
「まずは俺のガンダムスルーズ」
そう言いながら、レイがカウンターにガンプラを置く。
レイのガンプラの「ガンダムスルーズ」は前にも、クリスとジョニーさんに連れられたショッピングモールのイベントの時で見たことがあった。
その時は確かウイングガンダムとガンダムデスサイズを合わせた機体だった。
だが目の前に置かれたガンプラはさらにカスタムされており、バックパックにはウイングガンダムの大きな羽が見える。
胸はウイングガンダムゼロになり、下半身はガンダムデスサイズヘルに変わっていた。
レイなりに強さを求めてカスタムしたのだろう。
白と空色が映える、スタイリッシュでかっこいい機体だった。
続いてガクがガンプラを取り出した。
「俺のガンプラはこれだ」
カウンターに置かれたのは、大斧を手にしたガンプラだった。
確か名前は「キントキガンダム」だと、いつかにガク本人から聞かされていた。
シャイニングガンダムとマスターガンダムといった「機動武闘伝Gガンダム」の機体パーツで構成されたパーツの親和性と運動性の高い機体である。
もちろん近接戦特化の機体で、機体モチーフはその名の通りに金太郎とのことだ。
スーパーモードにも対応しているようで、マスクの開いたシャイニングガンダムの頭はまるで歌舞伎俳優みたいに迫力が増すのだという。
「最後に僕のガンプラ、ジムデテクティブ!」
最後にトモキがカウンターに出したのは、一転してジムをカスタマイズした機体だった。
だが確かに頭部と下半身はジムカスタムだが、胸部と腕部そしてバックパックはガンダムアメイジングレッドウォーリアのパーツを使用している。
名前がガンダムじゃないからといって、運動性で劣ることはないのだろう。
白と黒、部分的に輝く赤色に塗装された機体は、パトカーのカラーリングで「刑事」に相応しい色合いになっている。
武装面では、バックパックに装備されたハイパーバズーカとビームガトリングに加え、通常装備としてライトニングガンダムの狙撃用ビームライフルを装備していた。
ガクの機体が近接戦闘向けの機体だとすれば、この「ジムデテクティブ」は射撃戦用の機体に仕上がっていると言える。
まさに三者三様の機体だった。
そしてどの機体にも共通して言えるのは、俺が思っていたよりも完成度が高いということだった。
確かに小学生のガンプラだからと俺が思っていたのもあった。
だがそれ以上に、一つ一つのパーツが丁寧に組まれているのだ。
例えばそれぞれのパーツの間は、模型用接着剤を使って合わせ目消しがされているといった感じだ。
「しっかりと組み立てられてるな……」
思わずそう呟いたほどだった。
「クリス姉ちゃんに教えてもらったからな!」
ガクがそう答えた。
どういう経緯でそうなったのかはわからないが、確かにクリスなら合わせ目消しとかしっかりと教えるだろう。
レイ達が好きなように塗装をしただけのガンプラだと思っていたが、このレベルがくると話が違ってくる。
ここから大きく機体のステータスを上げるのはきっと難しい。
緻密な修正を加えていき、僅かな成長を掴めるかどうかの世界だ。
とはいえ、俺はさっき3人の前で「力になる」と言った。
今から、やっぱりなしというのはダメだろう。
「とりあえず2日間で調整してくる。
それで残りの3日間でバトルの練習をしよう」
そう伝えると、3人は明るい声を出した。
「ありがとうタカヤ!」
そしてそのままクルタ模型店で並んでいるガンプラを眺めていたかと思うと、レイ達は何も買わずに店を去っていった。
見送る俺に満面の笑みで手を振りながら。
──────────────────
「さあ、やるか」
誰もいなくなったクルタ模型店の店内。
俺はカウンター席で、3つのガンプラを1つずつ手に取った。
「ゲート処理はまず問題なし……合わせ目消しも基本的にできてる」
360度回転させながら、ガンプラを顔に近づける。
腕部の端の方とかに接着剤が少しはみ出ているものもあったが、これはデザインナイフで整えられるだろう。
腕パーツを外して、ナイフを入れる。
ここであまり力を入れすぎると、勢い余ってガンプラ本体に傷をつけてしまう。
繊細な手作業が求められるが、これでも俺は模型店のアルバイトだ。
それにクリスにノウハウは叩き込まれている。
言うならば「これまでの経験は伊達じゃない」ってところだろうか。
模型用やすりで削ることも多いが、託されたガンプラはすでに塗装がされている。
そこにやすりを当ててしまったら、接着剤だけでなく塗装まで剥げてしまうだろう。
塗装は作成者のこだわりが大きく出るところだ。
削れてしまったからと、同じ色で塗ったところで完全に再現できるわけではない。
だからピンポイントで固まった接着剤だけを狙えるデザインナイフを選んだのだ。
流石にどうしようもないところは目の細かいヤスリを使うしかないだろうが……
黙々と手を動かしていく。
とりあえず2時間くらいかけて、3機分の合わせ目消しを整えた。
それから次の1時間はスジ彫りに費やした。
ヤスリやデザインナイフを使い分けながら、腕の凹凸等細かなところでガンプラを立体化させていったのだ。
「さてここからだ……」
これまでの作業は準備段階でしかない。
バトル用に調整するのは今からが本番だ。
ここで細かな調整をしたおかげで、ガンプラバトルの勝利の女神が微笑むことも普通にある。
逆に言うと、ガンプラバトルのプレイヤーが拘りを見せるところなのだ。
だが今回はそんな簡単な話ではない。
自分のガンプラじゃないからということもあるが、最も厄介なのはしっかりと組み立てられているというところだった。
完成形に近ければ近いほど、何か手を加えていくというのは難しくなる。
それこそ合わせ目消しで、接着剤を使われてしまうとそこのパーツははずくことができなくなってしまう。
かといって今からフルアーマーパーツを作るなんて、1週間ではまず無理だろう。
関節パーツの可動域を調整したり、武装面の変更を加えていくしかないだろう。
「3人の機体コンセプトがバラバラだしな……」
三者三様というのも、手を加える側としては厄介だった。
例えば高機動を売りにしているチームなら、全員の機動性能を高めれば良いだろう。
だが逆に防御を固めて盾となるべき機体に、機動力を与えても豚に真珠となる可能性がある。
要はその機体に合った調整をしなくてはいけないのだ。
「まずガンダムスルーズは機動力だろうな」
レイのガンプラを手に取る。
大きな翼が特徴の機体だ。
これを活かさない手はない。
優しくバックパックのパーツを外した。
翼を摘んでみると、接続が若干硬い感じがする。
「ちょっと気になるな」
そう思ったらすぐに実行に移る。
もちろんガンプラバトルの実戦だ。
クルタ模型店にガンプラバトルのシミュレーターがある。
それで適当なガンプラデータを敵機として登録し、練習用の簡単なミッションを組み立てられるのだ。
「仮想敵はこれでいいか」
クルタ模型店に飾ってあるガンプラを棚から取り出して、シミュレーターに登録する。
ちなみに今選んだ陸戦型ガンダムとゲルググは、俺が組み立てたものだ。
展示用だが、誰もお客さんがいない時に暇潰しでガンプラバトル用にも調整していたのだ。
簡単なバトルの相手としては申し分ないだろう。
そしてガンダムスルーズを手に取り、シミュレーターにセットした。
そして数分後……
「意外にピーキーな機体だったな……」
ガンダムスルーズを動かしてみた感想だ。
レイのガンダムスルーズは、俺ですら最初は操縦に慣れなかった。
小ぶりな機体ということもあり、全体的に機体が軽いのだろう。
そもそも「新機動戦記ガンダムW」に登場する機体は全体的に重量が軽い。
例えばXXXG-01W「ウイングガンダム」で7.1tだ。
RX78-2「ガンダム」が43.4t、GAT-X105「ストライクガンダム」が64.80tなのを考えると、その差はよくわかるはずだ。
もちろんガンプラバトルに元機体のデータが、そこまで反映されるのかはわからない。
だがガンダムスルーズもスラスターを全開にしようものなら、一気にトップスピードに達して空中で体勢を崩してしまうのだ。
操作性を改善するとなれば、プラ板を付けるなり別パーツに変えるなりして下半身を少し重くした方が良いと思う。
だがそのような修正は、時間が1週間あっても間に合わない。
何をするのがベストなのだろうか……
カウンターに置いたガンダムスルーズを見ながら腕を組む。
だが同時に、頭の中には一つの考えが浮かんでいた。
「レイがこの機体を自由自在に操ればかなり強くなるだろうな……」
逆転の発想だ。
重くできないのなら、軽い世界に操縦者を慣れさせれば良い。
それが生み出す高速の世界について来られる機体が、周りにどれだけいるだろうか。
恐らくガンプラとレイの操縦が調和した時、ガンダムスルーズという機体は真価を発揮するに違いない。
決めた、そっちの方向性にしよう。
そう思ったら、俺は再びガンダムスルーズを手に取る。
ここからが調整だ。
まずやはり翼の接続部が気になる。
もっと柔軟に動いた方が変則機動にも対応でき、戦闘の幅が広がるだろう。
「そういえばこの機体、ゼロシステムを搭載できるんだな……」
確かにスペック的には搭載可能だった。
個人的にはあまり好まないシステムだが、万が一に使うこともあるだろう。
武装設定で端の方に登録しておいた。
次に手に取ったのはガクのキントキガンダムだった。
この機体はレイのガンダムスルーズに比べると、一つ一つのパーツが逞しい。
展示用だとしても、手にした大斧を肩に担いでみたりすると迫力がある。
そんなこの機体の特徴としては近接戦闘、もっと言えば格闘戦に特化していることだ。
逆に射撃武器はバルカン砲ぐらいしかない。
当然伸びしろは格闘能力ということになる。
そうなるとまず注目したのは目立つ大斧だ。
「もっとエッジをつけた方が良いな」
大斧を手から外しながら呟く。
そもそも今手にしている大斧はガンダム・グシオンリベイクのハルバードだった。
劇中でもグシオンリベイクの近接武器として活躍した武器で、力頼みの機体と合わされば破壊力は抜群だ。
だがそんな大斧も、刃の角度を若干変えるだけで威力を上げることはできるだろう。
端部をナイフで落とし、ヤスリを片手にハルバードの形を整えていく。
今の俺は研ぎ師が、本物の刃物を研いでいく光景と重なるのかもしれない。
黙々と形を整えていき、1時間半くらい経った頃にやっと自分自身で満足できた。
だがこの機体はこれで終わりではない。
そこがもう一点気になるところがあるのだ。
「そもそも腕がマスターガンダムだから、ダークネスフィンガーになってしまうのか」
注目したのは両手先だ。
そこにはマスターガンダムの誇る必殺技、ダークネスフィンガーがある。
これはきっと、キントキガンダムの切り札に違いない。
だが昔話の主人公として馴染み深い金太郎が、闇に蠢くダークネスフィンガーを放つのは個人的にイメージができない。
どちらかと言えばシャイニングフィンガーやゴッドフィンガーといった主人公らしい方が相応しいだろう。
ましてやキントキガンダムはベージュや金色で色が合わさっており、そこに紫色のダークネスフィンガーはあまりパッとしなかった。
実際にシャイニングガンダムとゴッドガンダムのパーツを外して、試してみる。
そもそも手首パーツの交換だから、組み替えは簡単に終わる。
後はデザインナイフで、指先の彫りを深めて完成だ。
そこまできたらどこまで動くかだ。
差し替えが終わったらつぎはシミュレーター。
そしてさらに10分経った後……
「よし、これで行こう!」
すごくしっくりした。
やっぱりシャイニングフィンガーの方がかっこ良いのだ。
最後はトモキのジムデテクティブだ。
この機体はガチガチの射撃戦用の機体だ。
つまり他の2機とは、全く異なる調整をしなければいけない。
まず最初に求められるのは射撃の正確さだ。
だが射撃に関しては、武器を変えたからといって簡単に精度が上がるというわけではない。
機体性能というよりは、操縦者の技量によるところが大きいのだ。
そういうことを考えると、ジムデテクティブに求められるのは射撃をサポートするための調整になるのだろう。
そういう視点で考えることにした。
「脚部の安定性に不安があるな」
まず気になったのは下半身だった。
トモキのジムデテクティブは接地性が完璧ではなかった。
時に踏ん張る力も求められる狙撃手にとって、足に不安があるということは望ましくない。
腰からパーツを外して、足裏の端の方にヤスリを入れる。
とりあえず自然な接地ができるように、慎重に角度をつけていくしかないだろう。
一つ一つパーツを外してみる。
よく見ると足裏に僅かな隙間があった。
肉抜きのようだ。
これを活かさない手はないだろう。
市販のプラ板を、棚の引き出しから取り出す。
プラモデル用のプラ板で、機体に貼り付けて見栄えを良くしたりするために使われるものだ。
今回はそれで安定性を高めたい。
かと言って外付けで対応すると、追加で塗装をしなければならないだろう。
自分の機体ではない以上、勝手に塗装を弄るのはご法度になる。
その点、足裏は気が付きにくい箇所であり、調整がしやすい。
僅かな隙間から差し込み、少しでも重りにできたらいいわけだ。
だが、だからと言って重くしすぎたら、スラスターだけでは浮上できなくなってしまう。
絶妙な重さ調整が求められるのだ。
プラ板を小さく切って、ピンセットでつまむ。
そして隙間に当ててみる。
またデスクの上でプラ板を切る。
そして隙間に……の繰り返しだった。
いつできるかはわからない。
それでとあまりてきとうなことをして、左右でバランス悪くするのはもってのほかだ。
その僅かな隙間に差し込むことができて、駆動にも影響しないギリギリのサイズを求め続けるのだった。
──────────────────
そして、2日後。
「うぉおお! これすげえ!」
俺の調整したガンプラを操縦した3人は歓声を上げた。
実際、シミュレーターで3人が機体を動かすのを外から見ていたが、とても楽しそうに操縦していたのだ。
個人的には時間があればもっと手を加えられたと思うが、限られた時間の中でここまでできたのは十分満足だった。
「後は操縦慣れして、練習を重ねるだけだな」
3人にそう伝えた。
大会に出場するレイ達には今回のガンプラをしっかりモノにして欲しかった。
そしてそれは3人も同じ思いだったようだ。
「もちろん。タカヤも手伝ってくれるんだろ!」
ハナからあてにされているのはちょっと引っかかってしまう。
だがもちろん断るつもりなんてなかった。
むしろ3人の練習相手として、とっておきの機体を用意していたくらいだ。
「あぁ。ガンプラの恐ろしさと模型店店員の腕前を見せてあげよう」
カバンの中からとっておきのガンプラを取り出した。
そのまま俺達は店奥のガンプラバトルシミュレーターに移動する。
3人全員が練習をして上手くなってほしいから、今回は俺が敵役となり3対1で戦ってもらう。
同時に3人の相手をしないといけないわけで、難易度は高い。
それでもハナから負けるつもりなんてなかった。
流石にガンプラバトルの腕では、まだ俺に分があるだろう。
それに3人の機体は近接、中距離、遠距離と役割が見事に違う。
少なくとも、狙撃手3人編成のグループよりも闘いはしやすいだろう。
とりあえず、俺は俺でベストを尽くすだけだ。
ガンプラデータが読み込まれる。
今回、俺が用意したガンプラはネタのような機体だが今後のガンプラバトルへの実験も兼ねていた。
操縦桿を握りしめ、勢いよくカタパルトを飛び出した。
ステージは市街地だった。
廃ビルなどの障害物も多く、3人側としては攻め方がたくさん考えられる。
当然だが1人の俺は、その分あらゆる攻撃を想定しなければならない。
まず今飛んでいる位置だと、トモキのジムデテクティブの狙撃が考えられる。
そもそもカラーリングが鮮やかなトリコロールの時点で、狙ってくださいと言わんばかりだ。
対してのジムデテクティブは白と黒で、廃ビルの中に身を潜ませやすい。
アドバンテージは取られたか……
そう思った時だった。
ビュン!!!
速い音が機体を掠める。
ほぼ同時に俺の背後でビルが爆発した。
間違いなく狙撃だ。
そしてこんなことができる機体はトモキのジムデテクティブしかない。
恐らく次も、連続で狙撃をしてくるだろう。
だが今、俺の機体には狙撃を回避するだけの機動力がある。
バックパックにある特徴的な翼を広げて、一気にスラスターを全開。
その羽からキラキラとピンク色の光が解き放たれる。
バックパックから出るその光の翼は時間制限があるものの、狙撃を回避するのには十分すぎる機動力を誇るのだ。
その自慢のスピードで一気にステージを駆け抜ける。
恐らくトモキは、もはや照準を合わせられないはずだ。
「残念だったな」
後ろで掠めていくビームを尻目に俺はほくそ笑んだ。
だが逃げた先には、別に俺を待ち構えていた機体があった。
「いくぞぉおお!」
廃ビルの屋上から弾丸のように勢いよく迫ってくる。
ガクのキントキガンダムだ。
落下の勢いを活かすように、手にした大斧を勢いよく振るってくる。
ズシン!
振り下ろされた巨大な刃に、周りの空気が歪められるような気さえした。
斧の刃はこちらのメインカメラの前を掠める。
寸のところで避けたものの、2回目は体勢的に回避できないだろう。
向こうより先に攻撃を加えることにした。
右足を大きく蹴り上げる。
ビームの刃を展開したこちらの右膝は、キントキガンダムの腹部を捉えていた。
あわや体の上下が真っ二つに……まさにそんな時だった。
機体の可動性を活かして、ガクが大斧の柄をこちらの右足を受け止めるように差し込んできた。
「なんでこんなところにビームが……いや、こいつデスティニーじゃない」
俺の機体を見ながら、ガクが驚きの声を上げる。
その言葉通りで、俺の機体はカラーリングや全体的な外見でデスティニーガンダムぽくしていた。
だがその一方で、純粋なデスティニーガンダムのパーツはほとんど使っていないのだ。
例えば腕や足は∞ジャスティスガンダムのパーツを使っており、実際の戦闘ではデスティニーのイメージを崩すような超格闘戦を仕掛けられる。
そう、これこそが俺が練習用に用意した機体「フェイクデスティニーガンダム」だった。
「ガンプラは自由。だからこそ対戦相手の機体を見抜くのも実力の一つだ」
腰にマウントしたビームサーベルを握る。
そして驚いていたガクの機体を真っ直ぐ突き刺す。
まずは1機……
だが突如として、目の前からキントキガンダムが消える。
突き出したビームサーベルは無を貫いた。
「ヴィー!! ヴィー!! ヴィー!!」
そして同時にアラートが鳴る。
フェイクデスティニーの背後を取っていたのはレイのガンダムスルーズだった。
キントキガンダムを左手に掴みながら、バスターライフルをこちらに向けていた。
どうやら俺の目の前でキントキガンダムを救出して、こちらの背後を取ったらしい。
「ここまでのスピードを出せるようになったか……」
レイの速さに思わず嬉しくなった。
そのトップスピードは、調整した俺ですら反応できなかったくらいだったのだ。
そして操縦者のレイが徐々に操縦にも慣れてきている。
これが嬉しくないわけがない。
だがまだ練習を終わらせるわけにはいかない。
バックパックにマウントしたビーム砲の照準を合わせる。
ガンダムスルーズと向かい合う形でチャージが始まる。
ガンダムスルーズのバスターライフルは威力は高いが、発射まで時間がかかるのが玉に瑕だった。
それはつまり、まだまだ改善点はあるということだ。
「いくぞ、シュート!」
俺とレイは同時に発射ボタンを押した。
そして互いのビームは途中でぶつかり合い、派手に爆発したのだった。
──────────────────
その後も俺達は何度も実践練習を重ねてきた。
最終的に3人は俺のフェイクデスティニーガンダム相手なら撃墜くらいまで実力をつけたのだった。
大会に向けては問題ないだろう。
そして迎えた大会当日。
「泉田レイ選手のガンダムスルーズ、また1機撃墜です!」
3人は大会で大暴れしていた。
それぞれの機体の特性を活かしながらバトルを進めており、他の小学生参加者をまるで寄せ付けていなかった。
今回の大会ルールは参加者全員が同時に出撃するバトルロワイヤル形式だ。
一度撃墜されると失格で、参加者の機体が半分と残り10%になったタイミングでインターバルが入り、ステージが変更になる。
レイ達3人は最初のインターバルをほぼダメージなしで突破しており、第2フェーズも軽々と勝ち進んでいた。
俺も観客席から大きなモニターを見ているが、3人のバトルに全く心配を感じていなかった。
そしてそのまま2回目のインターバルを迎えたのだ。
「よし、これで上位10%に入ったな」
意気揚々と凱旋してくる3人に声をかけた。
監督みたいな俺の言葉に、3人は「ふふん」とドヤ顔を見せてくる。
「このまま優勝を目指そう」
バトルロワイヤル形式だから、仮にTOP3まで残ったとしても、優勝は3人の中の誰かだけになってしまう。
だが今の彼らが求めているのは、間違いなく激励の言葉だろう。
そうして3人を戦いへと見送ろうとしていた時だった。
「でもそう簡単にはできないよ」
突然後ろから声をかけられた。
間違いなく俺達……というより俺に向かって放たれた声で、それは聞いたことのある声だった。
反射的に振り返る。
「久しぶり、また会ったね」
そこに立っていたのは三代ユイだった。
前に神戸でバトルした時と同じようなレザージャケットの出立ちであり、見間違えようがなかった。
その脇には眼鏡をかけた小学校高学年くらいの男の子がいる。
「三代……さん。久しぶりだけど、なんでこんなところで」
まさかこんなところで、会うとは思ってなかった。
「弟がこの大会に参加してるからその応援にきただけ」
そう言いながら三代は横の男の子、つまり弟の背中を軽く押した。
「残念だけど、私の弟もガンプラバトルかなり強いから」
三代は微笑みながらそう言った。
言われてみれば彼女の弟も両手で大切そうにガンプラを持っている。
要は俺やレイ達3人に対して宣戦布告をしに来たらしい。
「これは負けられないな」と後ろのレイ達に言おうとする。
だが後ろは後ろで大問題が起こっていた。
「おい……あの姉ちゃん、誰!? タカヤの知り合い?」
レイ達がヒソヒソ話していたのだ。
本人達は聞こえてないつもりかもしれないが「タカヤの彼女か!?」とも言っていた。
思えば、クルタ模型店のメンバーで三代ユイの存在を知っているのは俺とクリスだけだった。
これは後で3人から詰められるに違いない……面倒なことになってしまった。
そんなことをしていると、大会の最終戦が始まるアナウンスが流れた。
「タカヤ! 行ってくるからな!」
レイ達、優勝を目指して挑戦する小学生は戦場へと向かっていった。
「子供達に好かれてるんだ」
並んで見送った三代がそう言う。
確かに俺にとってレイ達はただの近所の小学生でしかない。
そんな彼らの試合の応援に来るくらいなのだから、周りからはそう見られてもおかしくないのだろう。
「玩具として見られているだけだよ」
そう答えた。
子供達に好かれているのは事実かもしれないが、俺自身が素直にそれを認めるのが何となくむず痒かったのだ。
決勝戦になると観客席はすっかり混んでいた。
すでに敗退した小学生達も決勝を見届けようと座っており、前にも後ろにも観客がいるような状況だったのだ。
「3人の機体、良い感じに仕上がってるね」
モニターに映ったレイ達の機体紹介を見ながら三代がそう言った。
流石は兵庫県代表といったところか、彼女はそれらの機体が並の性能ではないことを一瞬で見抜いていた。
むしろ「手を加えたんでしょ?」と無言の問いかけすら感じられたのだ。
「おかげで昨日まで練習と調整だった……」
俺がボーッとモニターを見ながら言うと、横の三代はクスッと笑っていた。
だがそうは言ったものの、次に映った彼女の弟の機体もかなりの完成度を誇っていた。
「弟さんの機体もすごくないか」
「百式S4型」と言う名前のその機体は、百式改とデルタガンダムを合わせた機体だ。
デルタガンダム系統の機体で構成されていることから、元のパーツの相性は良いのだろうが、それでも可動域なども完璧に調整されているようだった。
「あれ、弟が1人で作ったの。
元々体の弱い子で、ガンプラ作るぐらいしか出来なかったから」
三代はそう言った。
聞くところによると、彼女の弟は生まれた頃から病気がちだったらしい。
外で遊ぶ体力もなく、楽しみは好きなガンプラを組み立てるだけだったようだ。
そもそも三代自身もガンプラバトルに参加したきっかけは弟を喜ばせるこためだったらしい。
今となっては、弟の病気も安定して、三代自身もガンプラバトルにハマったことで、姉弟仲良くガンプラバトルをしているそうだ。
「ガンプラ歴だと私より長いから」
そう言う彼女の瞳は弟の勝利を信じていた。
──────────────────
バトルは序盤から大きく動いた。
ドゴーン! という爆音が響き渡った。
残っていたトップ10の出場者のうち、3割くらい一気にリタイアになったのだ。
「三代ソウ選手の百式S4型の会心の一撃が決まったー!」
実況の声が会場に響く。
突然のことに何が起こったのかわからないが、市街地のフィールドの一部分が直線的に建物ごと消滅していたのだ。
「メガバズーカランチャーか」
百式S4型をズームしたカメラで、その正体は判明した。
戦線の中央から少し離れた所で、百式S4型は確かに高出力ビーム兵器「メガバズーカランチャー」を構えていた。
宇宙のフィールドならまだしも、混戦になりやすい市街地戦でMS1つ分の大きさがあるメガバズーカランチャーを持ち込んだというのだ。
その作戦と手際の良さは、小学生のものとは思えなかった。
「すごい弟さんだな」
三代がわざわざ宣戦布告しに来た理由がわかった気がする。
「でもそっちの3人もしっかり回避したみたい」
三代にそう言われて、ハッとした。
モニターをよく見るとレイ達3人の機体はしっかりと回避をしており、まさに反撃に移ろうとしていた時だった。
まずレイのガンダムスルーズが手にしたバスターライフルを上空から数発放つ。
バスターライフルの高出力ビームは地面に着弾すると廃ビルの瓦礫を巻き上げた。
俺もよく使う手で、レイは相手の視界を奪ったのだ。
「レイ……成長したな」
俺との特訓は無駄ではなかったらしい。
そしてその瓦礫の粉塵の中から、百式目掛けて細く早いビームが次々と飛んでいく。
恐らくどこかからトモキが狙撃をしているのだろう。
堪らず百式S4型が真上にジャンプする。
どうやら今のトモキの狙撃で、メガバズーカランチャーは破壊されたようだった。
ジャンプした百式の前にガクのキントキガムダムが畳みかけるように姿を見せた。
すでに大斧を振りかぶっており、回避をするにはもう間に合わない様子だ。
こうなるともう防御しかない。
百式は左手のシールドを真っ直ぐ構えた。
ゴツン!
鈍い音がして、シールドが真っ二つに割れる。
機体自体に損傷はないものの、もう百式を守るものは何もなくなった。
「終わりだー!」
ガクの声がスピーカーで会場に響く。
フィニッシュに向かうのか、キントキガンダムは手にした大斧を豪快に捨てた。
そして瞬間的に頭部が変形していく。
「必殺! シャイニングフィンガー!」
ガクの叫びと共に、光り輝く黄金の右腕が突き放たれる。
至近距離からのシャイニングフィンガー。
当たれば文句なしの必殺だ。
バトルはこれで決まるのか……そう思われた時だった。
百式がスラスターを瞬間的に切り、自由落下で高度を落とす。
「あっ……」
キントキガンダムの放ったシャイニングフィンガーは何も捉えていなかった。
無理な姿勢だが、百式はシャイニングフィンガーを躱したのだ。
「まずいな……」
手を握りしめ、呟く。
次にどうなるかはもう見えていた。
今の体勢はキントキガンダムの下に百式S4型がいる形になっている。
つまり百式からすると下から真上に攻撃すれば、すぐにでも撃墜できてしまう。
俺も調整でキントキガンダムの機体性能はよくわかっている。
近接機だが、取り回しが大きい武器や装備がメインになっている。
牽制用の武器はバルカンしかないほどだ。
そんな機体が懐に潜り込まれるとどうなるか……わからないはずがない。
「ぅわぁあああ!!!」
ボカンという音がして、キントキガンダムが爆発する。
撃墜した側の百式S4型はすぐにビームサーベルを後腰に戻して、次の戦闘への準備をしていた。
「小学生であの戦いができるってすごい弟さんだな……」
思わず呟く。
その言葉に横の三代は何も言わなかったものの、目はとても穏やかだった。
だが彼女の弟の駆る機体は引き続き標的にされていた。
それもそのはずで現時点で、彼の百式S4型が最終戦で最も撃墜スコアが高い機体だったのだ。
1対1のタイマンになったら勝てないと他の参加者は判断したようで、数が多い今のうちに撃破しようとしているのだ。
だが当の百式はそんなこと全く気にしていないようにさえ見えた。
まず迫ってくるギラ・ドーガをビームライフルで簡単に撃ち落とし、下から飛び立とうとしていたガンダムXにビームサーベルを投擲し突き刺す。
ビームサーベルを回収すると、スラスター全開で飛翔して墜落したガンダムXを誘爆させた。
「本当に小学生の戦い方なのか……」
そう思わせるほどに三代の弟、三代ソウの操縦は洗練されていた。
「くそ、当たれ!」
残り参加者も少なくなってきた中、果敢に百式S4型に攻撃を加えるのはトモキのジムデテクティブだった。
地上からスナイパーライフルで狙撃を仕掛けていくが、百式側は狙撃の対処法を知っているのだろう。
その運動性で縦横無尽に飛びながら、ビームを躱していく。
現時点で狙撃ができる参加者はトモキしか残っていないことを考えると、狙い撃つのは厳しいはずだ。
「だったら!」
ジムデテクティブがスナイパーライフルを地面に置く。
そして代わりにバックパックのバズーカとビームガトリングガンを両手に握りしめた。
「あたれっ! あたれぇ!」
ジムデテクティブが百式と同じ高度まで飛び上がった。
飛び上がる最中にバズーカを連発しており、果敢に百式に挑んでいく。
飛び上がるまでに全弾使い切ったようだが、百式は軽々と回避したようだ。
そしてお返しとばかりにジムデテクティブにビームライフルを向ける。
その時だった。
「かかった!」
ジムのゴーグルがキラリと光る。
そして左手に握りしめたビームガトリングガンを向け返す。
「うまいぞ、トモキ!」
トモキは相打ち覚悟でビームガトリングを至近距離で叩き込めるようにしたのだ。
ビームガトリングはすぐには発射できない。
最初に放たれたバズーカはその時間稼ぎだったのだ。
「いくぞ!」
ジムデテクティブのガトリングガンが勢いよく回転し始める。
雨のようなビームが次々と百式に襲いかかった。
「っ……!」
だが百式も負けじとビームライフルを放つ。
こんな最接近での射撃戦で大切なことはいかに正確に狙えるかということではない。
被弾は当然で、どちらが先に有効打を与えられるかということで勝敗を決まるのだ。
そんな激しい撃ち合いを制したのは……
百式S4型だった。
ジムデテクティブのビームガトリングで全身に細いビームを受けたものの、逆に放ったビームライフルの一撃がジムデテクティブの中心を撃ち抜いたのだ。
「くっそぉおお!!!」
トモキの叫びが会場に響く。
確かに今の射撃戦ならば十分に勝ち目はあっただろうから、その僅かな差は悔しいはずだ。
ただ、トモキの負けは決して無駄ではなかった。
ビームガトリングの攻撃が百式のビームライフルに命中したのだ。
いつ誘爆するかわからない。
三代ソウは、猛威を誇ったビームライフルを捨てざるを得なかった。
だが機体自体は被弾してるものの、まだ戦闘継続可能のようだった。
戦闘を諦めておらずすぐにビームサーベルを握りしめる。
そしてそんな百式S4型を前に降下してきたのは、レイのガンダムスルーズだった。
その手にはすでにバスターライフルはなかった。
これまでの戦いを見て、バスターライフルで撃墜できるような相手ではないと見抜いたのだろう。
代わりにビームグレイヴが握りしめられていた。
リーチは長く、出力も高い近接ビーム兵器だ。
2機が空中で睨み合った。
機体状況としてはほとんど損傷のないガンダムスルーズの方が有利なはずだろう。
だがまだ十分に動ける百式S4型は依然として脅威的なことに違いない。
確かにレイは1週間で成長したのだが、それでもハイレベルの操縦を見せる三代ソウに勝てるのか……
色んな想いが俺の頭の中を交差していた時だった。
「切り札を見せてるぜ!」
レイがそう宣言すると、瞬間ガンダムスルーズのカメラアイの色が変わる。
同時に「ピピピピピ……」と謎の駆動音が鳴り響いた。
「ゼロシステム……!」
俺の横に座る三代が息を呑むように言った。
ガンダムWを語るには欠かせない兵装だ。
1番簡単に言えば「新機動戦記ガンダムW」で登場する兵器で、戦闘で操縦者をアシストするものだ。
余裕があったから、俺がこっそり登録していたことにレイは気が付いていたらしい。
そしてこの局面でレイは単純な実力だけでは、三代ソウに勝てないと判断したのだろう。
一か八かの切り札として、ゼロシステムを起動したのだ。
ガンダムスルーズと百式S4型が武器を真っ直ぐ構える。
そして同時に両機のスラスターが火を噴いた。
「ソウ! 行けー!」
真横の三代が立ち上がって観客席のモニターに声援を上げた。
普段の立ち振る舞いがクールな感じの彼女からは想像できない声援でびっくりしたが、こっちも負けてられない。
「決めろ! レイ!」
俺も立ち上がってモニターに叫んだ。
そしてモニターの中で今、2機がぶつかった。
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勝ったのはレイのガンダムスルーズだった。
圧倒的な性能と実力を発揮した三代ソウの百式S4型だったが、それを僅かにゼロシステムを起動したガンダムスルーズが上回ったらしい。
腹部で真っ二つに切れた百式S4型はガンダムスルーズの背後で爆発した。
そしてこの瞬間、レイが大会を制覇したのだった。
「負けちゃった……か」
三代がへにゃっと座席に座り込んだ。
悔しそうな言葉遣いだったが、その顔は晴れ晴れとしていた。
彼女にとっては弟が優勝を逃したのは悔しいだろうが、同時に弟が好きなガンプラバトルに夢中になれたのが嬉しかったのかもしれない。
「でもこの大会の主役は君の弟の機体だった」
俺も座席に腰を落とし、そう声をかけた。
三代に対する慰めの気持ちもあったが、純粋にそう思ったのも事実だった。
「ありがと」
三代が返事をする。
そして疲れたようにポーチ状のカバンを探っていたかと思うと、中からチョコレート菓子の小さな紙箱を取り出した。
「食べる?」と聞きながら、俺に箱を向けてくる。
折角だから、ありがたくもらうことにした。
一粒取って紙包装を開いていたときだった。
「ねぇ。聞いたんだけど、大阪大会でるの?」
三代が話しかけてきた。
突然のことにびっくりした。
情報の入手元はどこかわからないが、恐らく SNSだろうか。
兵庫県代表の彼女にとっては確かに気になることだろう。
無視するわけにもいかない。
「正直、悩んでた……」
他の人に聞こえないように静かに答えた。
あまり目立つのが好きではないこと。
エントリーは知り合いのクリスに勝手にされたこと。
そして周りからは出場を希望されていること。
淡々と説明していく。
三代は静かに聞いていたが、クリスの名前を出した時に俺に同情するような顔を見せた。
「クリスってこの前のイベントで手を挙げた人だっけ。そう言われたらわかる気はする……」
確かに三代とバトルした時も発端はクリスが勝手に立候補したことだった。
それだけでクリスの性格は大体わかるだろうし、俺の説明にも納得してもらえるようだった。
「でも正直なところだけど、私も貴方には参加してほしい。本当の舞台で決着をつけたいから」
三代が俺の方を見ずにそう言った。
彼女が言う本当の舞台は各府県大会を超えた後の西日本大会のことだ。
前のイベントでは引き分けに終わったが、今度は対等の立場で決着をつけたいのだという。
それが強者として三代の望みだった。
その言葉は俺のどこか心の奥に突き刺さる感じがした。
いや、それだけではない。
この大会にレイ達のガンプラの調整から間接的に参加した時点で、俺の心持ちは少し変わっていた。
「楽しい」
それが今の心の奥底だった。
それがぐるぐると心の中で渦巻いている。
三代の言葉に何も返せずにいた時だった。
「頼れる人が近くにいたから勝てました! ありがとうタカヤ!」
優勝者インタビューでレイがそう言ったのだ。
満面の笑みだった。
その言葉に観客席から盛大な拍手が巻き起こった。
もちろんレイに向けられたものであって、俺に対するものではないのはわかっている。
だが同時にある思いが湧いた。
「ガンプラバトルでここまでたくさんの人を夢中にさせることができるのか……」
観客席にいた人はみんな楽しそうだった。
恐らくは負けただろう小学生の参加者も笑顔で拍手していた。
みんな心の底から勝者であるレイを、そして激戦を繰り広げた参加者達を称えていた。
「すごいな……レイ」
大歓声のに包まれるレイをどこか遠くの存在に感じられた。
だがある想いが俺とレイの距離をグッと短くする。
「俺も勝ったらこんな歓声が起こるかな」
だがその考えはすぐに打ち消され、ある別の感情が湧いてきた。
「いや、俺の手で歓声を掴みたい」
そう思ったのだ。
そもそもガンプラバトルを始める人は少なからず自分の愛機をアピールしたいと思っている。
その自己顕示欲がない人はガンプラバトルなんてしないだろう。
クリスだって、ジョニーさんだって、レイだって、三代だったそうだ。
自分の愛機を棚に入れて愛でるだけではない。
みんな自分のガンプラをアピールしたいと思っているし、その愛機で勝ちたいと思っている。
俺が目立ちたくないと思っていたが、そもそも本当に嫌ならガンプラバトル自体辞めてるはずだ。
こそこそと続けてきたのは、俺の中の自己顕示欲が抵抗を続けていたのに他ならない。
クリスからしつこいまでに勧誘され、三代から決着をつけたいと言われて、レイからは俺のおかげで優勝できたと言われた。
気がつけば、もう周りは俺の参戦を求めている人達しか居なかった。
あとは俺の心一つだろう。
だけど今なら問題ない。
「夢中にさせたい、俺のガンプラで」
一度でもそう思ってしまったのだから止まることはできなかった。
「決めた。俺、やってみるよ」
ポツリとそう言った。
突然のことに横の三代はびっくりしたようだった。
「大阪大会に出ることにする。それで俺の、鈴門タカヤのガンプラを見せつけてやりたい」
言い切った。
もう後戻りはできないだろう。
横にいた三代はただ無言で聞いていたが、俺の心持ちの変化については聞かなかった。
恐らくどこか俺と波長の合う彼女は静かに俺の意思を汲み取ってくれたようだ。
「そっか、じゃあ楽しみにしてる」
そして三代は横を、俺の方を向いた。
「大阪大会に勝ってほしい。応援してるから。それで勝ち進んできた時、全力でバトルしたい」
そう言った三代は力強い目をしていた。
「約束する。だからその時は……」
拍手喝采の中、俺も力強く掻き消されないように言った。
「全力でバトルしよう」
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数日後。
俺はクリスに、クルタ模型店のみんなに参加する意思を伝えた。
「やったあ! ありがとう!」
何より嬉しそうなのはクリスだった。
俺を勧誘し続けてきた甲斐が報われたのか、両手を上げて喜んでいた。
「ありがとう! ありがとうレイ君!」
そして何故かレイにお礼を言い出した。
「えっ? どういうこと……」
思わず聞いてしまう。
だがそんな俺を尻目に、クリスとレイはハイタッチしていた。
「実は今回の大会でタカヤのやる気をあげてほしいってクリス姉ちゃんから言われてたんだ」
レイがそう言ったのだ。
その奥ではクリスがピースサインをしていた。どうやら俺は嵌められたらしい。
聞けばこういうことだった。
小学生大会にレイ達が参加すると聞いたクリスは俺のやる気を上げることを依頼。
頼まれたレイ達は機体の調整や特訓を俺に求めてきた。
監督的なポジションで俺に大会に間接的に参加させることで、俺は結果的にやる気を出したのだ。
思えば今回の大会でクリスもジョニーさんも、レイ達に関与していなかったのは今思えば不思議なことだった。
ただ裏でクリスの意図があったにせよ、レイ達は出たかった大会で好成績を収め、俺は参加を決意した。
それだけは変わらない事実だろう。
「でもアブソリュートガンダムはできてるけど、他の大会の準備は大丈夫?」
クリスが心配げに言った。
確かに今からのスタートだと大会まではあと僅かだ。
大会で使われるフィールドやステージに合わせた機体調整も必要になってくるだろう。
そもそもどんなステージが使用されるのか周りは知らないのだ。
だけど俺はあまり心配もしてなかった。
「そこは大丈夫だと思う」
そう言いながら、俺はカバンからアブソリュートガンダムを取り出した。
前とあまり変わってはないが、すでに若干の調整は始めているのだ。
「昨日の夜、三代から県大会のステージ構成とか電話で教えてもらったんだ。夜の11時くらいまで話していたから若干今眠いけど……」
俺がそう言うとクリスはうんうんと頷いていた。
「なるほどユイちゃんに。それは心強い……って、えぇ!?
タカヤ、いつの間にユイちゃんとそんな仲良くなったの?」
クリスがびっくり仰天の声を上げる。
確かにクリスには伝えてなかったがこの前の小学生大会の時に連絡先を交換しており、割とメッセージのやり取りはちょくちょくしていたのだった。
それを伝えると、クリスは驚きすぎて掠れるような声でこう言った。
「タカヤはたらしだったんだね……」
そう言うと奥の方でジョニーさんが声を上げて笑っていた。
それは、やめてくれ……
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◯主要キャラクター紹介3
①泉田 レイ(イズミダ レイ)
年齢:10歳
性別:男性
使用機体:ガンダムスルーズ
クルタ模型店の近所に住む小学生①。
放課後の遊び場としてよく店に来てガンプラバトルをしている。
素直に言えてないものの、タカヤのガンプラバトルのレベルの高さに憧れている。
好きな食べ物はハンバーグ(特にチーズ入りのもの)。
②坂田 ガク(サカタ ガク)
年齢:11歳
性別:男性
使用機体:キントキガンダム
クルタ模型店の近所に住む小学生②。
レイ達と共にガンプラバトルをしている。
サッカー好きで運動神経は良い。
ガンダムは最近見始めたばかりで、アクティブに動かせる機体を好む。
好きな食べ物は餃子。
③明智 トモキ(アケチ トモキ)
年齢:10歳
性別:男性
使用機体:ジムデテクティブ
クルタ模型店の近所に住む小学生③。
レイ達と共にガンプラバトルをしている。
父親が刑事であり、自らも将来は警察官を目指している。
好きな食べ物はミートスパゲッティ。
④三代 ソウ(ミシロ ソウ)
年齢:10歳
性別:男性
使用機体:ジムデテクティブ
三代ユイの弟。
病弱体質で数年前までアクティブなことは出来なかった。
そのため友達も少ないが、姉のユイからは可愛がられており、姉弟仲は極めて良好。
ユイにガンプラを勧めた本人でもある。
好きな食べ物は寿司。
◯登場ガンプラ紹介3
①ガンダムスルーズ
頭:ガンダムデスサイズヘル(EW)
胸:ウイングガンダムゼロ(EW)
腕:ウイングガンダム
脚:ガンダムデスサイズヘル(EW)
背中:ウイングガンダム(EW)
色:白と空色
泉田レイの愛機。
オリジナルの改修が施されており、機動戦に極めて強い機体へと進化した。
ハイパージャマー等の特殊兵装が排除されたものの、空中戦で颯爽と駆け抜けるその姿はレイが本当にしたかったバトルだった。
②キントキガンダム
頭:シャイニングガンダム
胸:シャイニングガンダム
腕:マスターガンダム(手先はシャイニングガンダム)
脚:マスターガンダム
背中:シャイニングガンダム
色:ベージュをベースとして、赤と茶色。アンテナは金色。
必殺技:シャイニングフィンガー
坂田ガクの誇る近接戦闘機体。
「金太郎」及び「坂田金時」をコンセプトとして作られた機体であり、格闘戦に長けている。
ちなみに金太郎のマサカリ部分はガンダム・グシオンリベイクのハルバードが採用されているが、これはガクが色んな機体の斧武器から選び抜いたこだわりの武器でもある。
③ジムデテクティブ
頭:ジムカスタム
胸:ガンダムアメイジングレッドウォーリア
腕:ガンダムアメイジングレッドウォーリア
脚:ジムカスタム
背中:ガンダムアメイジングレッドウォーリア
色:白をベースとして、黒模様。メインカメラは赤のクリアパーツ。
刑事をイメージとした明智トモキの自信作。
パトカーをベースとしたカラーリングをしており、射撃兵装に長ける機体。
一見するとジムベースだが、ガンダムアメイジングレッドウォーリアのパーツが大部分を占めているため、相手の油断を誘うような高性能機体となっている。
④百式S4型
頭:デルタガンダム
胸:デルタガンダム
腕:百式改
脚:デルタガンダム
背中:百式改
色:金色をベースに所々で、白とエンジ色。
三代ソウの駆る機体。
百式のカスタム機として構成されており、原作の百式に引けを取らないほの戦闘継続能力の高い機体となっている。
ビームライフル、クレイバズーカ、メガバズーカランチャー等使用可能兵器も多く、ビームサーベルの位置はデルタガンダムのシールドから、腰後に変更されている。
ちなみに機体名のS4型とは操縦者の名前のイニシャルと、改修・変更が加えられた回数から成り立っている。
⑤フェイクデスティニーガンダム
頭:ガンダムラヴファントム
胸:インパルスガンダム
腕:インフィニットジャスティスガンダム
脚:インフィニットジャスティスガンダム
背中:デスティニーインパルスガンダム
色:デスティニーガンダムに準ずる
タカヤが作った実験機。
デスティニーガンダムのパーツを使用せずにデスティニーガンダムを再現しようとした機体。
腕部や脚部のパーツから本家デスティニーガンダムよりも、格闘戦寄りになっている。
クリス曰く「ラヴファントムとデスティニーインパルスのパーツを使ってるうちはまだまだ」とのこと。