青雲広がる草原。
平穏で心地よい風が緑を撫でている。
まるでアルプスの風が感じられるようなそんな場所。
……そんな場所で、俺はバトルをしていた。
「ザクIIIのカスタム機か……なかなかいい反応だな」
ビームを躱しながらそう呟く。
対峙しているのは、AMX-011「ザクIII」のカスタム機だ。
ザクIII自体は主にネオジオンで運用された機体で、その名の通りザクを正式に継ぐ機体だ。
ザクⅠやザクⅡの流れからのIIIだから、やられ役の量産機というイメージを描きがちだが、この機体は話が違う。
どちらかと言えば高性能の少数生産型機だ。
出力で言えば、ジ・Oやキュベレイよりも高い。
ザクの姿をした別物という人もいる。
そしてそんなザクIIIは『機動戦士ΖΖガンダム』の作品に登場する機体の中で、俺が最も好きな機体だった。
流石に対戦相手はそんなことを知らないだろう。
だがザクIIIは正確な射撃を続けることで、俺のアブソリュートガンダムを寄せ付けていなかった。
ソードシルエットを装着したアブソリュートガンダムへの対抗策だと言わんばかりに、射撃を続けていた。
対するこちらは牽制用の頭部バルカン砲を虚しく撃つしかない。
アブソリュートガンダムはシルエット換装で幅広いレンジでの戦闘を可能にする。
だがその一方で、その分手の内が読まれやすいという弱点もあった。
ソードシルエットの時は、射撃戦に限界がある。
ブラストシルエットの時は、格闘戦を仕掛けることは難しい。
そんな感じだ。
そしてこの戦闘でも対戦相手は、エクスカリバーを握りしめるアブソリュートガンダムに近づかれなければ大丈夫だと判断したのだろう。
弾切れを気にせずにビームライフルを撃ち続けていた。
俺の好きなザクIII相手にそんな風に手を封じられており、もどかしいしどこか悔しい。
だがこのまま相手の好きにさせるわけにはいかない。
実際のところザクIIIは連続的に攻撃を続けているが、そのいずれもアブソリュートガンダムには当たっていなかった。
攻めあぐねているのは向こうも同じだ。
恐らく今の状況が続いたところで、なかなか決着はつかないのだろう。
打開するためには、思い切った作戦が必要なのかもしれない。
「一か八か……やってみる」
決死の攻撃を仕掛けることにした。
後ろに下がっていたアブソリュートガンダムのスラスターを止める。
そしてザクIIIから迫り来るビームの中、アブソリュートガンダムはグッと大地を踏み締めた。
そしてそのまま、バックパックの大剣エクスカリバーを2本とも抜く。
そして柄の部分を双方逆向きにドッキングさせる。
縦に長い「アンビデクストラスフォーム」だ。
もはや剣というより槍のような大きさで、ソードインパルスガンダムの代名詞とも言えるだろう。
それを目の前で構える。
そしてそのまま、柄を中心にゆっくりと手首を動かし始める。
ビュン!ビュン!と回転するエクスカリバー。
アブソリュートガンダムの構えは扇風機のような形だった。
作戦はこうだ。
エクスカリバーにはビームの刃がある。
それを回転させて円形にする事で、簡易的なビームシールドになるかもしれないと踏んだのだ。
ゆっくり一歩を踏み出す。
そして二歩目は力強く踏み込んで、そのまま勢いよく走り始めた。
一方でザクIIIは一瞬動きを止めた。
機体の前でエクスカリバーを高速回転させながら迫ってくるアブソリュートガンダムを見て驚きが勝ったのだろう。
流石に対戦相手がいきなりそんな奇行に走ったら、俺だってギョッとするに違いない。
だがザクIIIはすぐにビームライフルを構えて、真っ直ぐにビームを放ちはじめた。
直線で迫ってくる相手にビームを当てることは決して難しくない。
実際に、エクスカリバーに次々とビームが命中していく。
アブソリュートガンダムの操縦桿がバジン!と震える。
「……っ!」
ここで手を離してしまえば、アブソリュートガンダムの進軍は止まってしまっただろう。
だがそんなことでへばる俺ではない。
勝ちに来たのだ。
操縦桿を押し込むと、ザクIIIとの距離が一気に縮まった。
スラスターの出力を上げ、ザクIIIに突撃する。
一方のザクIIIもビームライフルではダメだと判断したのか、投げ捨てるや否や腰アーマーをクイッと持ち上げた。
それはザクIIIの特徴的なビーム兵器だ。
そもそも腰アーマーに高出力ビーム兵器が搭載されてる機体はザクIIIくらいしかないだろう。
すぐにチャージがされ、ビームが発射される。
太い緑色の弾道がアブソリュートガンダムに迫ってくる。
そして放たれたビームがエクスカリバーを直撃した。
ボギッ!
これまでと違う振動が、操縦桿を握る手に走る。
エクスカリバーがビームの一撃で折れたのだ。
崩れ落ちるエクスカリバー。
それを見たザクIIIは勝利を確信したのだろう。
一瞬だったが、動きを緩めた。
だが俺が待っていたのは、この瞬間だった。
「俺の読み合い勝ちだ」
エクスカリバーの柄を地面に捨て、バックパックのフラッシュエッジビームブーメランを抜く。
エクスカリバーを捨てて、身軽になったアブソリュートガンダムは飛び跳ねるようにザクIIIに迫った。
そして、一閃。
アブソリュートガンダムが駆け抜ける。
そしてその後ろで、ザクIIIが爆発四散した。
撃墜成功だ。
──────────────────
モニターの右端のメーターに撃墜ボーナスの5ポイントが加算された。
後ろで俺を応援するクリスの歓声が僅かに聞こえたが、気にしていられない。
それもそのはず。
今俺が戦っているのは大阪大会の舞台だ。
こんなところで撃墜されてしまうと、その瞬間に俺の大阪大会は終わってしまう。
そもそも大阪大会は主に2部構成でできている。
まずは参加者全員の総当たり戦だ。
大阪大会はどうしても参加人数が多くなる。
篩をかけるといった意味もあるのだろう。
見たこともないような広さのバトルフィールドで参加者全員が同時に出撃する。
撃墜されるとその瞬間に敗退で、撃墜した側はそれ応じてポイントを獲得できる。
だがそのポイントは一律ではなくバトルに応じてポイント数が変わってくる。
例えばSDガンダムでPG(パーフェクトグレード)のガンプラを撃墜したら、それだけで一気に得点ランキング上位になれるといった感じだ。
それで勝ち残った上位32人が、優勝を決めるために1週間後に行なわれるトーナメント戦に進むことができるのだ。
とりあえず今はその上位32人を目指している。
一瞬たりとも気を抜くことはできない。
流石は大阪大会といったところだろうか。
対戦相手も一筋縄ではいかなかった。
「はぁ……はぁ……」
燃えるザクIIIの消滅を見ながら一呼吸つく。
正直ここまで苦戦するとは思っていなかった。
実際のところ、今のザクIIIはなかなかの実力者だったのだろう。
頭部バルカン砲だけで撃墜できたジェガンもいたことを考えるとそう思えたのだ。
総当たり戦ということを考えると、最初に出会う相手が優勝候補になる可能性だってある。
そうなると運が悪かったとしか言えないだろう。
だがそれを踏まえても、想定より消耗が激しかった。
エクスカリバーは2本とも失われて、ソードシルエットはもはや意味を成していない。
こんな状況で強襲されようものなら、勝ちようがない。
どうしようか……そう思っていた時だった。
「熱い戦いを見せてもらったぜ」
そう通信が入ったかと思うと、アブソリュートガンダムの横にドシンと濃赤色の機体が着地した。
ジョニーさんの「フライトサザビー」だ。
今回、ジョニーさんは俺に合わせるようにいつの間にか大阪大会への参戦を決めていた。
そして大阪大会向けに用意された機体がこのフライトサザビーであるらしい。
サザビーをベース機としているが、足はペーネロペー、腕とバックパックはΞガンダムという破天荒な組み合わせの機体だ。
だがその名前と素材パーツに違わず、大気圏内での飛行性能は高い。
まさにジョニーさんの魂の作品とも言える機体だった。
そんなサザビーは、アブソリュートガンダムの盾になるようにあたりを警戒していた。
「タカヤ、補給なら今だぞ」
そう促された。
もちろん総当たり戦だから、ジョニーさんはこのまま俺を撃墜することもできるだろう。
だがクルタ模型店の一員としてそんなことはお互いにしない、暗黙の了解だ。
そもそも協力した方が32人に残りやすいということもある。
だから俺もこの絶好の機会を逃すわけにはいかない。
「ジョニーさん、4時の方向からブラストシルエットを飛ばすから」
そう伝えると俺は換装のボタンを押した。
そしてその数秒後、森の方からシルエットフライヤーが飛んでくる。
アブソリュートガンダムは役目を果たしたソードシルエットを外し、シルエットフライヤー目掛けてジャンプした。
これは総当たり戦にあたって、俺が元々用意していた作戦だった。
そもそもヒントは兵庫県代表の三代との電話で得ていた。
32人が決まるまで続く総当たり戦だから、真っ先に弾数やエネルギー切れが辛くなる。
だから何かしらの補給方法を用意しておいた方がいいと。
それで俺が思いついたのがこの方法だ。
ブラストシルエットをつけたシルエットフライヤーを抱きしめながら出撃をした。
そしてそのシルエットフライヤーを安全な場所に隠しておき、元々付けていたソードシルエットに限界が来た時に交換するといった感じだ。
換装を可能とするアブソリュートガンダムならではの作戦だ。
ドシンと力強くアブソリュートガンダムが着地する。
その背中には予定通りブラストシルエットが装着されていた。
「敵として出会ったら厄介な機体だな」
ジョニーさんはそう笑っていた。
確かにアブソリュートガンダムの強みであるバックパックを破壊したと思っていたら、別のバックパックを装着して帰ってきた・・・なんて考えたら、俺もやりきれないだろう。
ただルール上、この作戦は問題はないから今は躊躇わずに使わせてもらうつもりだ。
「ところでジョニーさん、ポイントはどう?」
今、1番大切なことを確認する。
いくらアブソリュートガンダムを完璧にしても、ポイントが足りないと前半の総当たり戦で敗退になってしまう。
「いや。まだ足りないな……」
ジョニーさんから今の獲得ポイントがデータで送られてくる。
俺も似たようなもので、何か大きなパンチがないと予選突破は厳しい感じだった。
どうすれば良いか……頭を捻っていた時だった。
「ヴィー!ヴィー!ヴィー!」
アラートが鳴った。
音の種類で言えば接近アラートだ。
何がくるのか……
アブソリュートガンダムとフライトサザビーが同時にライフルを構えた。
そしてアラートが反応した主が姿を見せる。
「えっ……えぇっ!?」
「おいおいおいおい……」
俺とジョニーさんが同時に反応する。
黒色の飛行物体がゆっくりとこちらに迫っていた。
まるで山のような要塞のようなその機体は俺達の目の前で停止すると、ゆっくりと姿を変えていく。
そして巨大な黒いガンダムがどっしりと姿を現したのだ。
──────────────────
「サイコガンダム……なんてものを持ち込んだんだ」
横でジョニーさんがぼやく。
無理はないだろう。
俺だって絶句してしまっていた。
そもそも大きさが違う。
アブソリュートガンダムの3倍、いやそれ以上あるかもしれない。
Ξガンダムやペーネロペーといった機体パーツで機体高が高くなっているフライトサザビーと比べたところで、2倍以上はあるだろう。
そしてその恐ろしさは巨体だけではない。
サイコガンダムには身体中にメガ粒子砲がある。
指先1つですらメガ粒子砲で、全て発射した時はビームがシャワーのように襲いかかってくるのだ。
「このあたりに参加者が少ないのは、アレのせいかもな……」
もしかしたらジョニーさんのその言葉は正しいのかもしれない。
今このエリアにいるのはアブソリュートガンダム、フライトサザビーとサイコガンダムだけだった。
可能性は0ではないが、流石にこの3機しかエリアにいなかったということは考えにくい。
そうなると目の前のサイコガンダムに撃墜されたと考えるのが自然だろう。
「どうする、やるか?」
ジョニーさんが聞いてくる。
そうは言いながらも、フライトサザビーはビームショットライフルをリロードしていた。
だがそれは俺も同じだ。
ゆっくりとバックパックのケルベロス高エネルギー長射程ビーム砲、通称「ケルベロス」を両手で握りしめた。
そもそも今から逃げたところで、背中から撃ち落とされるのがオチだろう。
同じ撃墜なら逃げているところを落とされるより、果敢に戦って負ける方がいい。
「あいつ倒せばポイント高そうだからね」
ジョニーさんに返事をする。
画面の向こうでジョニーさんは鼻で笑ったかと思うと、フライトサザビーはゆっくりと離陸した。
「いくぞ!」
その掛け声と共に俺はケルベロスを正面からぶっ放す。
そしてその隙にフライトサザビーが高速でサイコガンダム目掛けて高速で飛行した。
そして一瞬のうちに背後を取ったかと思うと、後ろからビームショットライフルを放った。
だが俺のケルベロスの一撃は、正面から放たれた高出力ビームに相殺されてしまう。
そしてジョニーさんのビームはサイコガンダムの背面に命中したものの、まるでダメージがないようだった。
「ダメだ、ビームなんて全然効かん!」
ジョニーさんが叫ぶ。
サイコガンダムはIフィールドが搭載されている。
そもそもの話でビームには耐性があった。
ちょっとやそっとのビームではダメージすら与えられない。
ダメージを与えるのならば高出力のビームになるのだ。
だがそこでも機体の大きさが桁違いだから、多少の高出力ビームでは攻撃が通らない。
例えるならプラモデル用のデザインナイフで人形を真っ二つにすることはできるだろうが、それで人間の俺が真っ二つになることはない。
大きさというのは、攻撃一つとっても影響が異なってくる。
今回のサイコガンダムのような相手は、それに通じる規模の攻撃を放つか、一点集中の致命傷を与えるしかない。
それこそサテライトキャノンや月光蝶のような必殺兵器があればいけるだろうが、生憎アブソリュートガンダムとフライトサザビーはその規模の兵器を持ち合わせていない。
なんとか有効打を探すべくサイコガンダムに向き合う。
ビームライフルを数発放つが、指先から放たれるビームでかき消されてしまう。
「まずいな、このままじゃ……」
一斉射がきてしまう。
サイコガンダムが体中にあるメガ粒子砲が放たれると、あたり一面を焼き尽くす勢いで熱線が飛んでくる。
そうなってしまうとブラストシルエットをつけている今のアブソリュートガンダムでは機動性が足りずに、回避できないだろう。
その前に倒せるのか・・・
わからないがやるしかない。
ケルベロスの火力なら、命中する場所によっては有効打を与えることができる。
それはどこか……頭部だ。
モビルアーマーを撃墜する時の定石はコックピットを直接叩くことだ。
サイコガンダムのコックピットは頭部であり、実際に「機動戦士Ζガンダム」の劇中においてもコックピットへの攻撃で撃墜されている。
やれるのか……
いや、やるしかない……
バックパックのレールガンを牽制で放つ。
真っ直ぐ突き進んだ弾丸はサイコガンダムに命中したものの、その巨体ゆえにまるでダメージがないようだった。
だが相手の攻撃が飛んで来なければそれでいい。
サイコガンダムが迫る中、両手でケルベロスを握りしめる。
チャージが始っている砲身を斜め上に持ち上げる。
無理な姿勢だがやるしかない。
チャンスは一度きり……
「あたれっ!」
ケルベロスを放った。
高出力のビームは真っ直ぐサイコガンダムの頭部を目掛けて進む。
このままいけば命中コースだ。
だがサイコガンダムも動いた。
頭部、口元のメガ粒子砲をすぐに放った。
そして放たれた粒子ビームは真っ直ぐに迫っていたケルベロスの高出力ビームと激突した。
そして相殺するような形で双方のビームは消え去った。
僅かに残ったケルベロスのビームがサイコガンダムのアンテナを溶かしただけだった。
「まずい……」
今の攻撃を外したのは痛恨だった。
焦ったのかもしれない。
今の攻撃を外してしまったということは、アブソリュートガンダムは的でしかないということだった。
ケルベロスはすぐに再発射できない。
対してサイコガンダムはすでに全身のメガ粒子砲を発射体勢にしていた。
なんとかならないか……
額に汗が垂れた時だった。
「タカヤ!掴まれ!」
ジョニーさんの声がした。
瞬間、サイコガンダムの背後からフライトサザビーが姿を見せる。
そのままフライトサザビーはサイコガンダムの腕の下をくぐり、急接近してきた。
「ジョニーさん……!」
必死に手を伸ばす。
そしてコンマ秒の世界で、アブソリュートガンダムはフライトサザビーに引っ張り上げられる。
無理な体勢で大空にカメラが浮き上がった。
そして飛び立つ寸前、アブソリュートガンダムが立っていた位置に粒子ビームが降り注ぐのが見えた。
僅か一瞬の出来事だった。
ジョニーさんが助けてくれなければ間違いなく撃墜されていただろう。
ジョニーさんに感謝しながら、空中で姿勢を整える。
フライトサザビーのパックパックに掴まる形でアブソリュートガンダムも飛行を始めた。
「ジョニーさん、照射ビームもダメだった」
高速で飛び回るサザビーの背からそう話しかける。
そもそも砲門の数が圧倒的にサイコガンダムの方が多い。
照射ビームを1回、2回放ったところでどれかのメガ粒子砲で相殺されてしまうのだ。
撃ち合いをしたところで勝ち目はないだろう。
「じゃあどうするんだ、突っ込めば良いのか」
「割と真面目にそうかもしれない……」
ジョニーさんの言葉にそう返す。
俺の真面目なトーンにジョニーさんは「マジか!」と笑いながら叫んだ。
どうやらジョニーさんは冗談のつもりだったかもしれないが、割と真面目に、他に手はないと思う。
普通の射撃ではIフィールドで塞がれてしまうし、照射ビームは相殺されてしまう。
ここに仲間が20機くらいいるなら話は別かもしれないが、アブソリュートガンダムとフライトサザビーしかいない現状を考えると射撃戦で押し切るのは難しい。
そうなると格闘戦になるが、普通に切り掛かったところで体格差でダメージはない。
こちらとしては急所に一撃お見舞いするしかないのだ。
こうなると冗談抜きで突撃しかない。
至近距離から頭部めがけて突撃すれば勝ちは見えるだろう。
「だけどアレを避けながら突撃するのは、ブラストシルエットじゃ厳しい……」
「わかってるさ。足になってやる」
フライトサザビーが着地する。
あのサイコガンダムを落とすには、2機の協力が欠かせない。
右手でビームライフルを握りしめながら、左手でフライトサザビーの肩を掴む。
チャンスは多くないだろう。
体勢を立て直したフライトサザビーが浮かび始める。
それに合わせるように背中に掴まるアブソリュートガンダムと飛び上がった。
「いくぞタカヤ。振り落とされるなよ!」
ジョニーさんのその言葉と同時に、アブソリュートガンダムがグンッ!と引っ張られた。
最初からトップスピードを選んだらしい。
カメラが追いつかないようで、画面がぐるんぐるんと切り替わっていた。
視点の定まらないカメラの先で時折黄色い光が見える。
俺では計り知れないが、ジョニーさんの超絶な操縦テクニックでメガ粒子砲を回避しているのだ。
そしてそんな超スピードで飛んでいれば、チャンスというのも突然訪れる。
「タカヤいくぞ!3・2・1 ……!」
ジョニーさんの突然のカウントダウン。
そしてその直後、目の前にサイコガンダムがドアップで現れた。
「まずい……チャージが」
ケルベロスのチャージがまだ完了していなかった。
だがこのチャンスを無駄にはできない。
ブラストシルエットのオルトロスの脇からビームジャベリンを取り出す。
別に格闘戦で撃墜できるならばそれでいい。
「あたれ!」
フライトサザビーから飛び降りて、ビームジャベリンを真っ直ぐ突き出す。
その狙いはサイコガンダムの頭部。
だが……
「足りない……」
ビームジャベリンが届きそうになかった。
フライトサザビーから飛び降りた時、アブソリュートガンダムの勢いが足りなかったのだ。
急に格闘戦に切り替えたのが良くなかったのだろう。
絶好のチャンスを前に攻撃は虚しく終わってしまうのか……
いや、まだ諦めたくはない。
「ジョニーさん!俺を撃って!」
そう叫ぶとブラストシルエットを空中でパージする。
ここでジョニーさんが後ろからブラストシルエットを爆破してくれたら、その爆風で勢いがつく。
最後の賭けだ。
「なんて無茶な……行ってこい!」
フライトサザビーの肩から白い塊が勢いよく射出される。
ファンネルミサイルだ。
ファンネルミサイルの爆発も併せて、さらに勢いづけようというジョニーさんの計らいだったのだろう。
瞬間、アブソリュートガンダムの背後にものすごい力がかかる。
後ろから誰かに蹴られたようなそんな感覚だ。
止まりかけていたアブソリュートガンダムの勢いが復活する。
「タカヤ!しっかり決めてこい」
ジョニーさんの声がしたかと思うと、ファンネルミサイルがアブソリュートガンダムの脇を真っ直ぐに突き抜けていった。
それぞれサイコガンダムの手や足に命中し、向こうの動きを完全に封じたのだ。
もう止めるものはない。
「おぉおおおお!!!」
その勢いのまま俺はサイコガンダムの頭部にビームジャベリンを突き刺した。
──────────────────
「よっしゃあっ!」
ジョニーさんと派手にハイタッチをした。
総当たり戦が終了した。
俺はサイコガンダムの撃墜スコアが加算され、堂々とトーナメント戦へ進めることになった。
同じようにジョニーさんもトーナメント戦へ進出することができたようだ。
どうやら最後にファンネルミサイルをぶつけていたのが、俺と共同で撃墜したことになったらしい。
ともかく間違いなく喜ばしいことだった。
「だがここからが本番だ。今日のところは終わりだが、トーナメントに出るやつらはみんな1週間で仕上げてくるだろうぜ」
ジョニーさんが真面目な顔でそう言う。
確かにその通りだ。
トーナメント戦は1週間後に行われる。
総当たり戦を勝ち抜いた32人の実力者達はトーナメント戦に向けてガンプラの調整をするだろう。
もっと言えば大阪大会のルール上、総当たり戦とトーナメント戦で別のガンプラを使用しても問題ないのだ。
「でもタカヤもしっかりガンプラを仕上げてくるもんねー!」
後ろからクリスが力強くそう言った。
クリスの高い声が会場中に響き、自分の発言ではないのに恥ずかさを覚えた。
あまりプレッシャーはかけてほしくはない……
「とはいえ、今のアブソリュートガンダムはまだ完璧じゃない……」
家に帰った後、俺は1人で自分のガンプラを見つめていた。
今回の総当たり戦で分かったことがある。
「アブソリュートガンダムは特化しすぎてる……」
それはアブソリュートガンダムに限らず、バックパック交換を行うストライクガンダムやインパルスガンダムから通じるものだった。
インパルスガンダムの各シルエットをメインに使用しているアブソリュートガンダムは確かに、各方面においては突出した性能を誇る。
しかし同時に、例えばソードシルエットで射撃戦は出来ないし、ブラストシルエットで格闘戦は負けに行くようなものだ。
つまり機動性、格闘戦闘力、射撃戦闘力のバランスが釣り合っておらず、マルチな戦闘ができないということだった。
マルチ的に戦闘力が高い機体、それこそνガンダムやサザビー、フリーダムガンダムやダブルオーライザーのような機体と対面した時は不利になるのだ。
トーナメント戦で対戦相手がどんな機体を使用するかはわからない。
だが今のままでは苦戦を強いられるだろう。
なんとかする必要がある。
とはいえ今からアブソリュートガンダムに変わる機体を用意するのは時間が足りない。
あくまでアブソリュートガンダムをベースに強化する必要があるのだった。
「一応、考えはあるけど……」
誰にも明かしていないとびっきりのプランだった。
だが1人でこれを1週間で完成まで持っていけるだろうか……その不安はあった。
荒削りであれば俺だけでも準備できるだろうが、大阪大会は勝ちを狙ってるからこそ誰かに見てもらう必要があった。
とはいえ、誰に頼むかが問題だ。
真っ先に思いついて、頼みやすいのはクルタ模型店のメンバーだが、ジョニーさんは対戦相手になる可能性がある。
ジョニーさんと言えども簡単に教えられないだろう。
そうなるとクリスだ。
だけど今の俺は、クリスには連絡できなかった。
というより、したくなかった。
自分自身なんでかはわからないけど、クリスの知らないところで完璧なアブソリュートガンダムを作り上げて、披露したいという見栄みたいな気持ちがあったのかもしれない。
クリスの名前が書かれたスマホの画面を切り替えた。
そうして俺はその次に頼みやすい人に連絡をとった。
すでに夜の10時だったが、その人は2コールで電話をとってくれた。
「こんな夜中にどうも」
ポツリと抑揚の少ない女性の声が聞こえた。
「ごめん、ちょっと話があって」
「別に怒ってないよ。ヤスリがけしてるところだし」
流石に迷惑かと思ったが、相手は全く気にかけてないようだった。
むしろただ黙々と行うヤスリがけの途中で話し相手ができたくらいの感覚なのかもしれない。
「貴方がこのタイミングで電話してくるあたり勝ったんでしょ、総当たり戦。おめでとう」
「あ……ありがとう。三代はなんでもお見通しだな」
話し相手、三代ユイは俺の考えてることがまるで分かっているようだった。
確かに総当たり戦の前にも電話で作戦を教えてもらったりしたから、タイミング的には三代の思う通りなのかもしれない。
「お世辞はいいから……で、頼みがあるんでしょ?」
「そうだった……実は俺のガンプラのアブソリュートガンダムを強化したいんだ」
そう言って、三代に俺の思い描いてる強化案を説明した。
三代は「うんうん」と静かに聞いてくれた。
そして「面白いんじゃない?」と前向きに受け止めてくれた。
「それでその調整相手を三代にお願いしたいんだけど……」
本題を口にした。
俺が三代に頼みたいのは練習バトルの相手だった。
大阪大会のトーナメント戦に向けての練習は、実力者じゃなければならない。
その点、兵庫県代表の彼女なら文句なしだろう。
三代の回答はすぐだった。
「別にいいけど……神戸に住んでる私でいいの?」
確かに大阪と神戸は近いとは言え、お互いの家を考えても1時間はかかるだろう。
もっと近い人はいないのか?ということだった。
「俺、友達多い方じゃないから……」
「なるほど……まぁ、私も人のこと言えないけど」
やはり俺と三代はどこか似てるところがあるらしい。
ともあれ三代はOKしてくれた。
「で、いつやろっか?」
「パーツ作りで3日欲しい……だから練習は木曜日と金曜日、お願いできる?」
お互い学校帰りになるが、三代は快諾してくれた。
こうして俺の怒涛の1週間は始まった。
クルタ模型店のバイトはその週は全部休みにしてもらった。
月曜日から水曜日で寝る時間を削りつつ、パーツを作成した。
そして木曜日と金曜日に、三代と時間が許す限り練習バトルをした。
「うん、これならいけると思う」
三代がそう言ってくれたのは金曜日の夜の7時前だった。
僅かな調整を重ねていき、アブソリュートガンダムは満足できる状態になった。
「あとはトーナメントを勝つだけ。頑張って」
「ありがとう」
ここからが本番だ。
トーナメント戦としてはまだ始まってすらいなかった。
だけど今のアブソリュートガンダムなら勝てるだろう。
少しだけゴツくなったアブソリュートガンダムを見つめながらそう思った。
──────────────────
そして迎えた本番当日。
会場は前と同じ場所だったが、総当たり戦の時に比べて熱気は高くなっているようだった。
やはり勝ち残った32人のバトルは盛り上がるのだろうし、期待もされてるのだろう。
「タカヤ、頑張ってね!」
クリスが最後の激励をする。
そんなクリスに対して俺はアブソリュートガンダムをかざして応えた。
「勝ってくるよ」
クリスにそう言うと俺はシミュレーターの方へと向かった。
「あのアブソリュートガンダムって……」
俺の後ろで、クリスが何かに気付いたように呟いていた。
「バトルGは小杉ケイタ選手、対、鈴門タカヤ選手です!」
アナウンスが響くと、歓声が沸き起こった。
32人のトーナメント戦、16バトルが同時に行われるわけだが、その一つ一つに至るまで注目度は高いようだった。
「ガンプラをセットしてください」
再度アナウンスが響くと、俺はスマホとアブソリュートガンダムをそれぞれセットした。
新しいアブソリュートガンダムのデータが読み取られていき、俺の手元に操縦桿が出来上がった。
「バトル開始です!!」
宣言された。
そして16バトルが同時に始まった。
「アブソリュートガンダム、行くぞ!」
掛け声と共に俺も操縦桿を押し込む。
飛び出した先は宇宙だった。
スペースデブリが漂っており、簡単に突き進むことはできない。
「敵機はどこだ……」
あたりを見渡していた時だった。
「ヴィー!ヴィー!!ヴィー!!!」
アラートが鳴った。
しかも警告アラートではなく、照準された時のものだった。
「こんな攻撃は……ファンネルか」
まだこちらは敵機を認識していない。
恐らく相手は機体自体を隠しているのだろう。
それでもファンネルを使うことで、一方的な攻撃をしようと言うのだ。
確かによく見るとファンネルの小さなパーツが見える。
どうやらすでに囲われているようだった。
万事急す……と言ったところだろうか
でも今の俺にそんな不安はなかった。
「新生アブソリュートガンダムの力、見せてやる」
俺は操縦桿のボタンを押した。
アブソリュートガンダムのバックパックの羽が大きく開いた。
天使か悪魔を思わせる、紫色の羽は機体自体を圧倒する大きさだが、その真価はここからだった。
「デスティニーシルエット、光の羽……行くぞ!」
瞬間、アブソリュートガンダムの速度が上がった。
ファンネルの熱線はキラキラと輝く粒子を掠めていっただけだった。
そう、アブソリュートガンダムに俺が施した秘策は新しいバックパックのシルエット「デスティニーシルエット」の作成だった。
デスティニーガンダムとデスティニーインパルスガンダムをベースに作り上げたそのバックパックは高機動、近接、射撃全てをカバーしていた。
「恐らくあの辺り……あたれ!」
バックパック右にラウンチされたウルフスベイン長距離ビーム砲を展開する。
そしてそのまま足を止めることなく、高出力ビームを放った。
ゴンッ……ボンッ!!
狙った先の巨大岩石が粉砕された。
散り散りになった石やチリが宙に漂っている。
そしてその背後には一機の機体が見えた。
黒色のキュベレイのカスタム機。
ファンネルの攻撃を考えても間違いないだろう。
「光の翼は限界あるから……すぐに片付ける!」
今度はバックパック左にマウントされた対艦剣エクスカリバーを抜いた。
そしてそれを真っ直ぐに構えると、キュベレイ目掛けて突撃する。
キュベレイもそうはさせまいと大量のファンネルを飛ばしてきた。
熱線がアブソリュートガンダム目掛けて襲い掛かるが、どれもわずか光の翼に間に合わずに霞んでいった。
「でぇえやぁあああ!!!」
そのまま猛スピードでキュベレイの腹部にエクスカリバーを突き刺した。
もちろんキュベレイは爆発四散した。
「な……なんとバトルG、もう試合終了です!
勝者は鈴門タカヤ選手……バトル時間は…… 54秒です!」
アナウンスが響いた。
そして同時に歓声とどよめきが場内を包んだ。
どうやら俺のバトルが1番早く終わったらしく、時間も1分を切っていたらしい。
会場の視線が俺に集まるのがわかった。
「す……すごい、すごいよタカヤ!」
クリスが喜びながら声をかけてきた。
ただその声は単に喜びというだけでなく、驚きも混じっているようだった。
「デスティニーシルエットかぁ……考えたね」
クリスも珍しくベタ褒めだった。
ちょっとだけ嬉しかった。
「1週間でやれるところまでやってみたんだ。もちろん1人じゃこんなのできないけど……」
そこまで言って俺は言い淀んだ。
俺には珍しくメタリックパープルに塗ったデスティニーシルエットを見つめながら。
まだ戦いは始まったばかりだった。
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◯登場ガンプラ紹介4
①フライトサザビー
頭:サザビー
胸:サザビー
腕:Ξガンダム
脚:ペーネロペー
背中:Ξガンダム
色:深紅
ジョニーさんが大阪大会に用意した機体。
各方面での運動性及び継戦能力を高めた機体。ただし巨大すぎる。
しかしその巨大に似合わず規格外の機動力を誇る。
ファンネルミサイルや核酸メガ粒子砲も搭載しており、火力も十分に高い。ただし巨大すぎる。
②アブソリュートガンダム/D
頭:フォースインパルスガンダム
胸:ウイングガンダム(EW)
腕:ガンダムアレウス
脚:ビルドストライクガンダム
背中:デスティニーインパルスガンダム(エクスカリバーとウルフスベイン長距離ビーム砲を1ずつ装備)
色:機体はトリコロール、デスティニーシルエットの羽の部分はメタリックパープル
タカヤが作成したアブソリュートガンダムの強化機。
ネタで作成したフェイクデスティニーガンダムから着想を得ており、全方面で実力を発揮できる。
所々に補強を加えており、練習段階では直線速度において普通のデスティニーガンダムの1.5倍の速さを記録した。
シルエットの羽は、作成に協力してくれた三代ユイに敬意を込めたタカヤが、彼女のパーソナルカラーのメタリックパープルに塗装している。