転生者にとってポケモン世界は甘くない   作:かにかに銀

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1章開始です。


1章 開幕ジムチャレンジ
人の繋がり、予期せぬ邂逅


 ローズの宣誓を聞いた後、俺は直ぐに会場を後にした。

 ジムチャレンジ開幕までにやらなくてはいけないことが沢山あるからだ。

 

 今年度のジムチャレンジ開会式は明後日。

 明日には、エンジンシティでジムチャレンジのチャレンジャー登録を済ましておかなければならない。

 それに数年ぶりにガラルに帰って来たのだ。両親に顔を見せに行かないといけないし、ろくな挨拶も出来ず卒業してしまったスクールの先生に、お礼と謝罪を言いに行くことも忘れてはならない。

 

 兎に角ここ二日間は、予定が多く詰まっていた。

 

 「会場がシュートスタジアムでよかった……」

 

 望外の幸運に息が漏れる。

 ゲームではOPのシーンだったこともあり、ローズの宣誓とエキシビションマッチが行われた具体的な場所の確証は無かったが、ここシュートシティのスタジアムがその開催地であった。

 

 幸いなことに俺の実家も、通っていたスクールもどちらもシュートシティからなら頑張れば歩いていける距離である。これなら今日一日アーマーガアタクシーやトレインでガラルのあちこちを急いで回る必要は無い。

 まぁ、それはそうとして忙しいことに変わりはないのだが。

 

 ワアアアアアアァァァ!!!! 

 

 スタジアム前の階段を下りながら、チラリと振り返る。

 轟音と共に、割れんばかりの歓声が外にまで広がってきていた。原作通りなら今頃ダンデVSキバナのエキシビションマッチでもやっている頃か。

 

 「ホントは見たかったけどなぁ」

 

 ガラルの二強とも言える二人の試合だ。見たくなかったと言ったら嘘になる。勉強になることも多いだろうし。

 だが、あのスタジアムに長居するのは得策では無かった。

 

 「ローズやオリーヴに見つかるとストーリーに影響が出る可能性があるからなぁ」

 

 ローズとは暫く連絡が取れていない。

 

 修行と、ある理由の為、世界の諸地域を回っている中、途中まではローズに状況を伝えることが出来たのだが、一年ほど前からぷっつりと繋がらなくなってしまった。

 

 ローズは責任感がある。仮にも面倒を見た子どもを途中で放り出すようなことを軽々しくおこなうとは思えない。

 彼の真意はよくわからない。だが、一つの予想は出来る。それは、ローズの事情が変わり()()()()()()()()()()()()()()ということだ。

 

 ローズは3年前まで、科学によるアプローチでガラルを救おうとしていた。それは、俺をマクロコスモスの研究室に勧誘したことや、当時の資料からも推測できる。それが1年前から状況が変わった。

 

 つまり『()()()()()()』の存在。

 

 恐らくローズは壁に行き当たり、科学によるアプローチから、神話のポケモンによる強硬手段へとガラル救済方法を変えた。

 ムゲンダイナを無理やり呼び起こし、その内蔵する莫大なエネルギーでガラルの千年後を救うという異常な手段へと。

 

 俺が精神的【Fall】とも言える状況であることはローズにバレている。自分の計画が漏れる万が一のことまで考え、俺を意図して遠ざけたのだろう。

 だが、俺は【Fall】では無い。()()()だ。そこを彼は履き違えている。

 

 俺には原作知識がある。何れはローズの計画を破綻させてやるつもりだ。だが、それは今ではない。特訓したとはいえ、今はまだ無力な一人のガキ。まだまだ強くならないとローズと対面した時に、容赦なくポケモンバトルでボコられて終わるだろう。それは避けたい。

 

 強くなる時間を稼ぐという意味や、ローズの暴走する日にちを固定化するという意味でも、ある程度は原作と同じ道を進んでもらわなければならない。その為にも、今は出来るだけ接触は控え、ジムチャレンジに専念するつもりである。

 

 「やるべきことをやろう」

 

 決意表明と、状況の確認は済んだ。

 取り合えず、後顧の憂いを断ち、今後のポケモンバトルに集中する為にも、胸に残るモヤモヤを消しに行こう。

 

 

 

 

 

☓☓☓☓☓

 

 

 

 

 

 

 「あらあらあらこんなに大きく可愛くなって…!先生あれから心配で心配で……!ローズ総帥の推薦とはいえ突然卒業しちゃうし、お家に電話したら『娘は修行に出たから行先は分からない』とか聞いちゃうし、もう…本当に…不安で…ウゥゥ……!」

 「連絡しなかったのは反省しています…!だから離してくれると助かります…ッ!」

 「ナズナちゃんあの頃は男の子みたいで目つきとかも怖かったし先生、貴方のこと心が弱い子じゃないとは思っていたんだけど、もしかしたら何処かで道を踏み外しちゃうんじゃないかと……」

 「ち、力が…!ごめんなさい!先生本当にごめんなさい!!もう許してください!!!いや、ホントに…!呼吸が…」

 

 スクールに顔を出すと、当時一番お世話になっていた先生にたっぷり3分以上強烈な抱擁を受けてしまった。

 しかも、抱擁を解かれた後も、知己の先生方にもみくちゃにされた。頭を撫でられ続け、被っていたキャスケットが皺くちゃだ。

 

 自分のことながら当時は使命感で焦っており、挨拶もせず、卒業許可証等諸々の書類も、家に送らせるという酷い卒業の仕方をしてしまった。心配をかけてしまった先生方には悪いことをしたと大いに反省である。

 だが、その一方で、心は幸福感で一杯になった。

 砂をかけるような別れをしてしまったのにも関わらず、こんなに多くの人に気にかけて貰えて、覚えていて貰えたことはとても嬉しい。

 

 俺は本当に人の出会いに恵まれた。

 

 

 「ナズナちゃんポケモントレーナーになれたって本当…?総帥からは聞いてたんだけどちょっと信じられなくて…」

 「本当ですよ。今も私の大事な家族がこのボールに入っています」

 「本当に、本当なのね…!よかった…よかったわね……!ナズナちゃんあんなに頑張っていたんだから報われなきゃおかしいわよね…!」

 「先生…。!、グエッ! しまった またこうなった!」

 「先生貴方の力になれなかったことが悔しくて…もっと貴方に寄り添えたんじゃないかって……!ウウウゥゥゥ…!!」

 「分かりました!分かりましたからっ! ちょっ…、見てないで、た、助け……」

 「あ~あナズナ君が感動させるから。これはまた長いぞ」

 「ま、大人しく先生の愛の抱擁を受けておくんだな。我々では受けられないものだ。ありがたく思っとけ」

 

 

 心に残っていた一つの大きなシコリは取れたが、結局、当初の予定時間より2時間以上多くスクールに滞在してしまった。

 

 

 これからはめんどくさがらず、もっと他人と連絡を取ることを俺は心に決めた。

 

 

 

 

 

 

 「お母さんただいま……」

 

 あの後、夕暮れ時にスクールと先生方に別れを告げ、その足で帰省することにした。

 10歳の頃の感覚で昔歩いた道を辿ると、歩幅の違いに成長を感じることが出来て、ノスタルジックな気持ちが呼び起こされる。

 

 実家に帰る事には、太陽がすっかり沈んでいた。

 一日中歩き続けた足がヒリヒリと痛む。後でリオンに癒してもらおう。

 

 数年ぶりの故郷の町は、修行に出る前と殆ど変わりが無く、とても安心感を覚えた。きっと望郷というのはこういう気持ちのことを言うのだろう。まぁ、今その故郷に居るのだが。

 

 見慣れた、されどとても懐かしいドアを開けると、キッチンの方からパタパタと足音が聞こえる。

 

 「お帰りナズナ!」

 

 お母さんがエプロンをつけたまま出迎えてくれた。事前に今日帰ると伝えていたから、料理を作りながら待っていてくれたみたいだ。

 

 「おう。帰ったかナズナ」

 「お父さんもただいま」

 

 懐かしむように久しぶりの母との会話を楽しんでいると、お父さんも居間から迎えに来てくれた。久しぶりに見るお父さんの顔は、数年前よりも眉間に皺が増えており、元々物騒だった顔が更に厳つくなっている。

 だが、そんなお父さんの姿をよく見ると、ジーンズの右膝に強く握った後がついているし、眼鏡も少しズレている。平静を装っているが、きっと俺のことが心配でたまらなかったのだろう。可愛い父である。

 

 「荷物置きたいし一度部屋に戻るね」

 「そうね、後で沢山話す時間があるわよね 今日のディナーは期待しておきなさい!後で声を掛けるわ」

 「食後に一度お父さんの部屋に来なさい。ナズナがいない間、渡せていなかった誕生日プレゼントとお小遣いを纏めて保管してある」

 「うん。お父さんもお母さんもありがとう。今日はゆっくりさせて貰うことにする」

 

 両親の気遣いに感謝しながらゆっくりと階段を登る。今日一日の疲れが膝に大分キテいた。

 

 階段を登りきった先、直ぐ横の部屋が私の部屋だ。

 

 部屋の扉を開けると、そこには10歳の時と変わらない部屋があった。お母さんがこまめに掃除していてくれたらしい。

 これまた変わらない懐かしい空気に思わず一息つく。

 

 鞄を床に放り投げ、ボールのついた腰ポーチを机の上に置くとベッドにダイブする。

 カビゴンやピカチュウの人形に囲まれたこの空間が昔から好きだったのだ。

 

 横になると疲れがドッと押し寄せて来た。眼をゆっくりと閉じていく。まだ、晩御飯を食べていないが、直ぐ傍まで来ている眠気の波に少しでも身体を任せたかった。

 

 「頑張ら…ないと……」

 

 明後日からは、愈々ジムチャレンジが始まる。明日は会場であるエンジンシティのホテルに泊まる為、自宅でゆっくりと出来るのは今日が最後だ。

 ジムチャレンジが始まると、これまでの人生で経験したことの無い本格的な()()()()()()()が続くだろう。ここから先は待ったなし。止まることのない快速急行だ。

 

 

 それでも、今は少しだけお休みなさい。

 

 

 

 

 

 

☓☓☓☓☓ 

 

 

 

 

 

 「もう行くの?」

 「チャレンジャー登録しなくちゃいけないからね」

 

 昨晩は自宅で、心を最大まで回復させることが出来た。

 慣れ親しんだ空気で休むことは、万物の療養法だ。

 それに、心だけで無く、ついでに見た目も大分清潔になった。

 

 他の地方はガラルみたいに観光で発展している町が少なく、修行の間、基本野宿での生活だった為、服は彼方此方解れが目立っており、髪の質も、身体のケアも万全に出来てはいなかった。そんな状態の俺を、母は見逃してはくれなかった。

 

 『開会式ってテレビ放送もあるんでしょ?大勢の人の前に立つからには、少しでも小奇麗な格好をしておかなきゃね!』

 

 開会式はユニフォーム着用だから必要無いと言ったのに、母は聞く耳持たず。結局俺は押しに負け、化粧&着せ替えマネキンへとへんしんすることに。メタモンじゃないんだからさ。

 

 そんな訳で、今の自分は、トップスからソックスまで全て新品のお洒落服に着替えている。前と同じなのは赤いマフラー位なものだ。これだけはリオンの強い要望で継続となった。

 ミニスカートを履くのは相変わらず慣れないが、まぁ、今日くらいはいいのかもしれない。どうせ後でユニフォームに着替えることになるんだし。

 

 「それとこれお父さんから」

 

 出発間際、履き慣れないローファーを慣らしていたら、母から箱に包まれた物を渡される。

 今開けなさいと言われ、開封してみると、そこには最新のスマホロトムが入っていた。

 

 「わっ、スマホロトム! これ高かったんじゃないの?」

 「お父さんがね『俺はポケモンのことはよく分からないが、戦いに行くのなら最高の武器を持って行け』って」

 「お父さん……」

 「ま、カメラ付きスマホの中で一番いい奴買っただけなんだろうけどね。『また暫く娘と会えないなんて…せめてビデオ通話位はしてくれないと寂しくてしんどい』って言ってたし」

 「お父さん……」

 

 一人娘を持つ父親は異常に過保護になるという現象は、この世界でも同じだったようだ。

 

 理由はどうあれ、スマホロトムはとても嬉しい。これが有ると無いでは、冒険の難易度が格段に違う。昨日貰ったお小遣いを全てはたいてでも買おうと決めていたものだった。思わぬプレゼントに小躍りしそうになる。

 

 「後、これも」

 「何この封筒?」

 「私も分からないけど今朝届いたのよ。貴方宛てだったから出発前に渡しておこうと思って」

 

 スマホロトムの後、母は俺にもう一つの贈り物を渡した。

 白い小さな封筒。その蓋は高そうな蝋で止められている。

 

 開けてみると、そこに入っていたのは、二つの物。一つはポケモンのダイマックスに必要な『ダイマックスバンド』。そしてもう一つは、一言の小さなメッセージだった。

 

 

 『good luck,have fun

 

 

 誰が送ったのか、直ぐに想像がついた。

 また大きな借りが一つ出来てしまった。4年前の分も合わせて、利子も込めて完ぺきに返済しないといけない。

 

 ニヤける俺を不思議に思ったのか、母が怪訝そうに尋ねる。

 

 「誰からだったの?」

 

 

 

 「私の友達からかな」

 

 

 

 

 

☓☓☓☓☓

 

 

 

 

  

 ジムチャレンジの受付場所があるエンジンシティには受付終了時間に余裕をもって到着した。

 

 エンジンシティは、ゲームマップでも広い街だったが、実際に見ると途轍もなく大きく発展した街であった。

 街の中心には巨大な水車が回っており、あちこちに、蒸気機関を利用した建造物がビルとなって立ち並んでいる。流石、ガラルの中心に位置する観光地だ。

 

 この素晴らしいスチームパンク的な光景に、心の赴くまま街を観光したい欲が芽生えてくるが、何はともあれまずはジムチャレンジの登録に向かう。

 俺は夏休みの宿題は初日に済ましてしまう質なのだ。

 

 

 

 人生で初めて入るジム施設の中は、想像よりも何倍も広く、そして()が籠っていた。

 この異常な熱気には、エンジンジムが炎タイプのジムであるということもあるだろうが、それ以上に、『戦いの興奮』がこの場を包んでいる。近いモノをあげるとすれば真夏の甲子園といった感じだろうか。

 

 受け付けの列最後尾に並び、自分の番を待つ。順番は思ったよりも大分早くやってきた。

 

 「ジムチャレンジの受付ですね。では、『推薦状』又は、『ジムチャレンジ許可証』をお見せください……はい!許可証を確認しました。それでは、ユニフォームに使われる番号をお選びください」

  

 番号?番号か…そういえば何も考えていなかった。

 ゲームの時は『世界最速でクリアしてやるから001番でいいや』と適当に決めてしまったが、いざ実際に決めるとなると慎重にならざるを得ない。

 

 『315(サイコー)』?無いな…。自虐も込めて敢えて『666(オーメン)』とか?不吉すぎるか…。う~ん……。

 

 結局、考えてもいい番号が思いつかなかったので、シンプルにいくことにした。

 

 「じゃあ番号は……『727(ナズナ)』で」

 

 安直過ぎたかな?まぁでもいい番号ではないだろうか。

 

 「727番ですねかしこまりました!これにて今年度のジムチャレンジチャレンジャー登録は完了になります。このチャレンジバンドをお受け取りください。貴方がジムチャレンジを行っているという証明になります。」

 「ありがとうございます」

 「それと、ジムチャレンジに参加なさる皆様は、『ホテル スボミーイン』に泊まることが出来ます。ホテルはここエンジンジムから出て、右手にございますので、是非ご利用ください」

 

 チャレンジバンドを腕に巻く。右腕には今朝貰ったダイマックスバンドに加え、モンスターボール用のグローブもつけている為、右側だけどんどん重装備になってしまっている。

 

 やることも済んだし、観光でもしながら道具集めをして、そこそこの時間になったらホテルにチェックインしようかと振り返った時、後ろに並んでいる人にぶつかってしまった。完全に此方の不注意である。気を抜き過ぎた。

 

 「あ、わり。ン゛ン゛! ごめんなさい!」

 「気を付けてください。僕が怪我でもしたら貴方責任とれるんですか?」

 

 

 …………………ん?

 

 

 その声に違和感を感じ、足元を向いていた目線を上げ、ぶつかった人物を見る。

 紫のポーチ、ピンクのコート、生意気そうな顔つき、白い髪。

 おもっきり知っている顔である。

 

 

 あ、これはもしや やらかしたかな?

 

 

 

 後悔もつかの間、目の前にいる少年の後ろ側。ジム入り口のドアが開き、二人の男女がジムに入ってくるのが眼に入る。

 

 「ダンデさんは言っていたけど受付ってどうするのかな?」

 「分からなければ人に聞けばいいんだぞ!あそこのいる子たちに聞いてみようぜ」

 

 入ってきた少女は、ボブに揃えた茶髪の上に緑のニットベレー帽を被り、服装はピンクのリボンワンピースとグレーのニットパーカーを合わせたようなもの。少年の方は、独特な髪形をした黒髪を持ち、上下共黒で揃えた服の上から浅葱色のジャケットを羽織っている。

 

 その姿を認識した瞬間、思わずマフラーの中で叫んでしまった。

 

 

 「嘘だろ!?」

 

 

 

 生意気そうな顔つきの少年───ビートは目の前で俺を見据えており、主人公(ユウリ)とそのライバル(ホップ)は、会話をしながらゆっくりと此方に近付いて来るのであった。




GLHF(幸運を祈っています 楽しんでください)

暫く更新がスローペースになると思います。クリスマスにロシアの狐狩りにきのたけ戦争にやることが多くてね…

ナズナ:ガバ運は転生者の嗜み
ビート:ピンク?何ですかそれ
ユウリ:ジムチャレンジ楽しみだね!
ホップ:そうだな!

どのジムリーダーが好きですか?

  • ヤロー
  • ルリナ
  • カブ
  • サイトウ
  • オニオン
  • ポプラ
  • マクワ
  • メロン
  • ネズ
  • キバナ
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