スマートファルコン(ファル子)
・ジュニア期の途中まで先行策で6戦3勝。
・皐月賞の後に思いつきで逃げたら本格化
・にぶトレーナーはウマドルとして成功したら意地でも懐柔する
トレーナー♂(25)
・単純に鳥のハヤブサが好き
・ウチの子逃げ打たしたら覚醒した(驚愕)
・
[newpage]
「トレーナーさん!おっはよ〜☆」
担当バから飛んできた星が、こつんと音を立てて頭に当たった。
担当のスマートファルコンは歌って踊って走れるアイドルウマ娘、通称「ウマドル」になることを目指している。
ウマドル自体は”まだ”存在していないが、芸能界の水面化ではそれに似た動きがあるようで、彼女はそれを知ってか知らずか日々鍛錬を積み重ねているわけだ。
「なぁファルコ、授業は?」
「え?…やば!!行ってきまーす!」
…今みたいに彼女はどうにも抜けている所があって少し心配だけどね。
***
さて、時刻はお昼前。
僕はこの前の東京大賞典の映像を見ながら彼女の走りの修正と出走する子の対策をしているが、競争バとしてのスマートファルコンははっきり言って「異常」だ。
担当になった当初こそ先行策でダートが得意な子ぐらいに思っていた。でも、単なる思いつきで逃げを打たせたら一気に本格化。
それから芝が苦手なのにも関わらず、わがままを通して挑ませた春の皐月賞で
さて、そんな彼女の将来の夢はウマドル。
愛らしいルックスに高い歌唱力。それに反して他を圧倒する剛健な走り…しかも芸能界から見ても事務所に入っている訳でもないダイヤモンドと来た。それを芸能界が見逃すはずもなく、これまでに彼女宛てのオファーは溢れるほど来ている。
勿論、その中には変な奴らもいる訳で
「はい。ああ、どうもお世話様です」
『どうもどうも。この前のお話はお考えいただけましたかね』
電話の主は最近しつこくオファーをしてくる芸能事務所のスカウト担当。その“お話”というのは去年の春の頃、この事務所からファルコ宛に夏の水着グラビアのオファーが来たというのが始まりだ。
ファルコ自身はやりたい気持ちとグラビア自体がウマドルとして必要なことなのかという疑念を天秤にかけて迷っていた。
そこで僕は「学生の段階でそこまで考えられているなら無理にやる必要ないんじゃないか?」とアドバイスをした。
すると彼女は『あくまで目標はウマドル』と、今回の水着グラビアはやりたくないという答えを出してくれた。
『ふぅん、そうですか』
その事を交えながら断りを入れると、電話越しのスカウト担当の男はつまらなそうに返事をして電話を切ってしまった。
…お前らの事務所アイドルいねぇじゃんというツッコミは我慢できてよかった。
***
電話を切ったタイミングで、廊下から軽やかなステップを踏む音が聞こえてくる。
ほぼ確でファルコだろう。
「トレーナーさん!一緒にご飯食べよ☆」
「えっと、どちら様ですか?」
扉の先にいるのは鹿毛でロングヘアが似合う上品な雰囲気のウマ娘。
「…いや、誰ですか」
「あら、失礼致しました。私、スマートファルコンと申しますの」
くるっとその場で一回転してから、気品のある所作で挨拶する…ん?
「なんだファルコかよ」
「”なんだ”って酷くない?」
よく見ると雰囲気は違うけどファルコだ。
そもそもステップしながらトレーナー室に入って、僕のことをトレーナーさんって呼ぶんだからそこで気づくべきだった。
「もー!せっかくイメチェンしたんだから褒めてくれてもいいじゃん!」
ドゴッ
ファルコが投げた雑誌が壁に突き刺さる。冷や汗をかきながら引っこ抜くと『イメチェン☆大作戦』と書いてあった。
これがクラスの間で流行り、全員イメチェンと称してみんなでおしゃれをしたそうだ。
「いやいや。褒める以前に誰かわからなかったら褒めようがないでしょ」
「あー」
今のファルコは落ち着いた雰囲気のおかげでお嬢様のようではっきり言ってめちゃくちゃ綺麗。どっかのパクパクにも見習ってほしいところではあるけど…
「せめて連絡して欲しかったなぁ」
「あー。そっか…ちなみに、可愛い?」
「可愛いというか、綺麗」
「そっか。じゃあ違うなぁ」
ファルコはうなりながら雑誌をめくる。
「あのね、今度のライブはトレーナーさんが好きなファルコで踊りたいの!」
はぇー…うちの子可愛いなぁ。
「あ、えっちなのはNGでーす」
ファルコが口の前で小さくバツを作る
「そんな変態に見られてる?」
「え、うん」
「ザックリ言うなお前」
「ごめんごめん!冗談だよ☆それで!トレーナーさんはどんなファルコがいいの?」
「…走ってるファルコ」
「ん?」
「圧倒的で、誰にも負けない。競争バ、スマートファルコンがいいな」
「そう来たかぁ。じゃあこうしよ!」
何かを閃いたファルコはトレーナー室にあるホワイトボードに書き込み始めた。
『ファル子 サイキョー☆大作戦!』
「なにそれ」
ファルコのことだからこれを理由にデートに連れ出そうという魂胆なのだろう。(前科アリ)
…と思っていた時間を返してほしい。
「えっとね。これから来るダートのG1を全戦全勝するの!」
「…何言ってんだこいつ」
「もー!ファル子はホンキだよ!」
「何か策でもあるのか?」
「うん!ズバリ…大逃げだよ!」
「後数ヶ月ぐらいしかないのに?」
「うん!」
自信満々なファルコが言った大逃げ…
ファルコがデビューする前、サイレンススズカという子がデビューした。
逃げウマ娘すらも突き放す異次元の走りはウマ娘の逃げブームの一因になっていて、ファルコの逃げ転向も彼女がきっかけ…
「いや、何言ってんだこいつ」
「この…にぶトレーナー!」
バガァン
ファルコが投げつけた雑誌が頬をかすめてガラスを粉砕した。
「・・・ヒェッ」
こうして、ファルコのサイキョー☆大作戦が(半ば無理やり)始まってしまったのだった。
サイキョー☆大作戦!スタート!
「トレーナーさんおはよ〜☆」
「…はぇ?」
「早く朝練行こ☆」
「…ここ俺の家だよ?」
「そうだね☆」
「なに勝手に入ってんの!?」
☆スピ-ド!
「ファルコー!オーバーワーク!!」
「ごめんなさぁい!」タッタッタッタッ
「はぁ…気合い入れるのはいいけどさ」
「だぁぁぁぁ!!」ダダダダダ
「オーバーワークってんだバカー!!」
☆☆スタミナ!
「はっはっはっはっ…」
「ファルコー!もう帰寮時間だぞー!」
「あと5しゅー!」
「止まれやー!」
「はーい!」タッタッタッタッ
「…聞こえてねぇなあれ」
☆☆☆パワ-!ヤ-!
「おいしょー!」ゴシャァン
「300キロのデットリフト…?」
「まだまだー!今度は334キロ!!」
「なんでや!てか止まっ危ねぇ!!」
☆☆☆☆コンジョ-!
G\強靭ッ!無敵ィ!最kゲッホゲッホ/
「むりむりむりぃ!!」
「俺も無理だって!!」
「どうしたと言うんだ、騒がしい」
「「エアグルーヴ!!」さん!」
「いったい何に怖気付いて…」
G\ティャ-!!/
ペタッ
G\ムム?…マシュマロ?/
「「あっ…」」
「」
「エ、エアグルーヴ?」
「立ったまま気絶してる…」
☆☆☆☆☆カシコサ!バクシンバクシ-ン!!
「すぅすぅ…」
「ファルコー?…寝かしとこ」
☆☆☆☆☆☆レ-ス!
「だぁぁぁぁっ!!」
『スマートファルコン!スマートファルコンだ!!砂のハヤブサは今日も速いっ!』
『圧倒的な走りですね!まるでサイレンススズカを見ているようです!』
「トレーナーさん!やったよー!」
「…なんだこいつ(ナイスラン!)」
「えー!?」
☆☆☆☆☆☆ライブ!
\L O V E ファルコ!!/
「みんなありがと〜!」
「…なんてエネルギーだ」
「ファル子のトレーナーさんですか?」
「え、あ!はい」
「えー!?」
「トレーナーさん!?」
「チャンスじゃん!!」
「サインくださ〜い!!」
(女性ファンの長蛇の列)
「…はぇ??」
☆☆☆☆☆☆☆オヤスミ-!
と言うわけで、今日はオフの日だ。
「えっと…なんで学園?」
「そりゃあ、お前が暴走するからね」
ウマ娘暴走というのはまぁ大変で、先週のオフに自分より早くに出かけたと同室のエイシンフラッシュから連絡を貰い、練習場に行けばファルコが練習をしていたのだ。
あの日は拘束(フラッシュの協力アリ)してどうにかしたけど、今日はフラッシュもレースだし大変なことになりそうだ。
「うん!今日だけファル子を独り占め☆」
「じゃあ早く寝とけや」
「はーい!…ってなんでよ!!」
「今月オーバーワークだよ!!」
??「やあ!お困りかな?」
ファルコと押し問答を続けていると、後ろから声がかかった。
「生徒会長!?」
「えええ!?」
シンボリルドルフといえば無敗の三冠!最強の名を欲しいままにしている生徒会長だ。
「ちょうど良かった!ファルコの拘束に付き合ってくれないか?」
「うーん。言うことぐらいなら構わないが、仕事があってだな」
…と同時に生粋のワーカーホリックでもある。
「あ、もしもし常盤さん!スマートファルコンのトレーナーです。」
『ああ久しぶり。どうしたの?』
常盤くんとはシンボリルドルフのトレーナーで、僕と同じ高卒の先輩でトレセンに入った生粋のエリート。才能は折り紙付きだ。
「え?…ま、まさか」
「生徒会長ならここに「わぁー!!」」
『えっ?』
ルドルフが携帯をぶんどった。
「あ!トレーナーさん?えっと今ですね!私を参考にしたいというオファーが来てですね!」
『ふぅん…そうなんだね』ジッオ-Ⅱ
「ひぃっ!!」
しばらく言い訳を続けていたルドルフの背がみるみる縮んでいく。そして俯いたままスマホを返してくれた…ん?
「ヨロシクタノム」
「あ、怒られた」
「嘘でしょ…」
ルドルフのトレーナーはデビュー前の子の指導員も兼任していて、彼女たちの間では”ン我が魔王”と呼ばれるぐらい恐ろしいと話題だ。
…なにせ”同じ速度”で走ってくるんだからね。
その反面、担当には仏のように優しいのでルドルフは仕事を詰め込む様だけど今回はダメだったようだ。
電話から声じゃなくてオーラが出るなんて普通じゃありえないし、あの皇帝の死にそうな顔も珍しい。
***
—というわけでトレセンでは有名なお昼寝スポットにやってきたわけだが…
「すう…すう…」
「すぴょすぴょ…うんぅ…」
皇帝さんは猫みたいに丸まって寝ているが、問題はうちのハヤブサちゃん。
「大の字はウマドル的にどうなん…?」
「すぴー…すぴー」
机の上で寝てるファルコは何度か見たことがあるけど、これはこれで…あり?
***
「んー!絶好調っ!」
ファルコは予想以上に身体が疲れていたようで、あれから3時間も寝ていた。そのおかげで今はうるさいぐらい絶好調。
「それはよかった」
「さて、始めるとするか」
先に起きていたルドルフが伸びをしながらアップを始める。
…え?アップ?
「あ、今日はオフ「トレーニングだね!」おいファルコ!?」
先に勘づいたファルコがルドルフと一緒にアップを始めてしまった…どうすんだあれ。
「はっはっはっはっ…」
「後ろのプレッシャーが凄い…!」
「はあぁぁぁぁぁっ!!」
「ええっ!?はやっ!?」
本来逃げを得意とするファルコにルドルフをぶつけるのはどうかと思ったけど、結果的にファルコが成長することにつながってよかった。
「汝、皇帝の神威を見よ」のヒントLvが5上がった
シンボリルドルフの絆ゲージが100上がった
***
「はぁ疲れた〜!」
どでっと大の字に倒れ込むファルコ。
なんというか…
「…ばかファルコ」
「トレーナーさんなんか言った?」
ぼそっと言ったつもりがさすがウマ娘。地獄耳で聞き取ったようだ。
「いやいやなんでもないですよ」
「むむむ?怪しい…」
本人曰く「可愛くない顔」で詰め寄られるが、どうにも可愛い。あー可愛い。ファルコンしか勝たん。というか勝たせる。
「さて、もうすぐG1が始まるけど…」
「あー!話ずらした!」
もー!とファルコン が怒る。あんまり怒らせるとまた豪速球が飛んでくるので…
「あはは…はい。ごめんなさい」
謝ることにしました。
「いいよ♪」
「え、早っ」
「それに〜…ファル子は負けないから」
夕焼けをバックに彼女から出たその言葉。
「…なんだこいつ」
「もー!」
【カッコよかった】とは言わないでおこう。
サイキョー☆大作戦!本番スタート!
★フェブラリーステークス!!
そして本番の日。
数ヶ月という短期間でのオーバーワークとそれに伴って勝ってきたレースのおかげでスマートファルコンは1番人気と発表された。
「トレーナーさん!行ってくるね!」
ファルコ自身は数ヶ月前と変わってない。
ウマ娘が過酷なトレーニングなどを経たことで表情が変わったり、雰囲気が変わることは多々ある。
それなのにファルコは何も変わっていない…
理由は『自分でやったこと』だから。
自分の意思で初めて、自分でトレーニングして、最終的にここまで来た。そりゃ、変わらないよ。
「…さん!トレーナーさん!」
名前を呼ばれて振り向くと、さっきレースへ向かったはずのファルコがいた。
「ファルコ?レース始まるよ?」
「もう終わったよ?」
「え?」
「え?」
「え?…順位は?」
「1着」
「…なんだこいつ!?」
「えー!?」
★★帝王賞!
「帝王賞!ボクのためのレースであーる!」
「ダート苦手だろテイオー」
「ハシンナイトワカンナイデショ-!」
「…負けたら予防接種な」
「チュウシャ!?イイモン!ボクカッテクルカラネ!」
「…トレーナーさん」
「あれを相手にしたら疲れるぞ」
「そうだね☆」
1着 スマートファルコン
2着 トウカイテイオー
「ほらっ!予防接種いくぞー!」
「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ」
「主治医です」
「ヤダヤダヤダヤダ…ピェッ!?ナンデイルノ-!?」
「それはお嬢様の主治医だからです」
「ワケンカンナイヨ-!グサッギャ-!!」
「…トレーナーさん。テイオーさんって相手にしなくても疲れるんだね(遠い目)」
「そうだな(遠い目)」
***
フェブラリーS、帝王賞とG1連勝したファルコ。夏合宿にも参加したはしたが、正直言ってこれからのレースに備えて休ませたい。
「それじゃあトレーナーさん!今日のトレーニングは何にする?」
「…休んでくれ」
「お断りしまーす☆」
しかしファルコはこの調子…どうしよ
「お二人ともお疲れ様です」
半ば無理矢理連れてこられた浜辺でたずなさんから声をかけられた。
「お二人ともお時間いいですか?」
珍しく真剣な表情で呼ばれたので、ファルコと一緒に宿舎の理事長室へと向かった。
「失礼します。スマートファルコンのトレーナーです」
「スマートファルコンです!」
「歓迎!よくぞ来てくれた!」
「理事長…早速ですが」
「うむ!」
ここまではいつも通りのやりとりだ。
「開催っ!年末投票だ!」
「「…はい?」」
「理事長、それじゃ伝わりませんよ?」
「だずな!頼む!」
「はい」
たづなさんからの説明が始まった。
毎年年末に開催される有馬記念だが、今年は投票先が近年に見劣るせいで年末が盛り上がらない可能性がある。
そのため、URA主体となって有馬記念と東京大賞のどちらかを最終レースにするかという選択権をファンの人たちに委ねるという決断をしたのだ。
※この世界では12月28日に有馬記念があり、そこから年越しまでレースが行われない。
「しかし、東京大賞典は毎年海外の投票が多いと聞きますが…調整などはどうなさるんですか?」
「それなんだが…今年は海外勢の怪我や棄権が多すぎるせいで、開催そのものが危ういんだ!」
困った顔をして唸る理事長
「今年は日本全国での立候補制にしたんです」
「立候補制!?」
たずなさんが出した助け船にファルコが驚いたように声を上げる。
「はい。今年の東京大賞典はファン投票をしません。その代わりとして、日本で活動している子たちで行うことにしたんです」
「ということは、地方の子も参加できるという認識であっていますか?」
「はい。中央からは既にハルウララさんやタイキシャトルさんの参加が決まっています」
「海外出身の子はどうするんですか?」
「日本のトレセンにいれば出走可能です」
「うむ!そこでダートを主戦場にする君たちに参加する意思を聞きたかったのだ!」
ファルコを見る。驚いているようだが、同時にものすごくワクワクしているようだ。
「どうですか?スマートファルコンさん」
「もちろん!出させてください!」
「承認!全力で盛り上げてくれ!」
「…ん?」
ここで気づいてしまった。
さっきたずなさんはなんて言った?
『レースのファン投票』と言ったよな?
「えええええええっ!?」
突然の大声に場にいた全員が驚く
「どうしたんですか!?」
「たずなさん!?ファン投票って言いました!?」
「はい!そうですけど…?」
「ええええええっ!?」
どうやらファルコも気づいたようだ
「そのとおりっ!最終レースが東京大賞典になるかもしれないな!」
はっはっはっと笑う理事長。それどころじゃない
今年の投票結果次第では…有馬記念と東京大賞典の枠を入れ替える可能性があるということだ。
年末最終レース、東京大賞典。
にわかには信じられない話だが…現実だ。
そして、それから少し後…更なる驚きがスマートファルコンを待っていた。
次の日
「ファル子センパイっ!!」
「わぁっ!?」
元気な声と共に誰かが降ってきた。
「エルコンドルパサー!見参!デェス!」
降って来たのはウンスと同期のエルコンドルパサー…たしかジャパンカップと有馬記念に出走するらしく、新人の担当トレーナーが白目を剥いていたのは記憶に新しい。
「若き怪鳥さんが何か用かい?」
するとエルはビシィとファルコを指差した
「砂のハヤブサスマートファルコン!どっちが最強の翼を持っているか勝負デェス!!」
「おー!いいよ♪」
ファルコはきらりと目を輝かせるが、エルはフッと笑って海の方を見る
「ノンノン!勝負は12月までお預けデェス」
「えー?なんでよ…ってまさか」
「エルは東京大賞典に出ます!」
「「えええええっ!?」」
あっ、エルのトレーナーがぶっ倒れた
そりゃあ、有馬記念に出ると言いながら突然ダートの東京大賞典にスイッチするんだから…
「わかった!勝負だね!」
「デェス!!」
さらに次の日
「貴女がスマートファルコンちゃんね?」
「あっ!マルゼンさん!」
黒いビキニをきたマルゼンスキーにあった。
…ん?このウマ娘は何年トレセンにいるんだ?
「今度の東京大賞典、出るからシクヨロね?」
「ええ!?」
「エルに続いてマルゼンもか」
「あら、怪鳥も出るのね?…楽しみ」
ゆっくりと舌なめずりをするマルゼン。どうやらスーパーカーのギアを入れてしまったようだ
前代未聞だらけで大変だった夏合宿はこうして終わってしまった。
★★★JBCクラシック!!
夏合宿でとんでもない話を受けたファルコ。その表情はどこか固かった。
「ファルコ、大丈夫?」
「え?うん!…だいじょうぶ!」
「…頑張ってな」
「うん…」
『さぁ!最終コーナー!おっとスマートファルコン失速だ!他の子たちはチャンスだぞ!!』
『これは不味いですね!後ろの子も気づいているみたいですしピンチですよ!!』
「ファルコー!!」
「だっらぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
『いやいやもう一度だスマートファルコン!またまた加速していくぞ!!』
『ゴールインっ!!スマートファルコン3連勝!危ないところもあったが終わってみれば4馬身の大勝だぁ!!』
「ファルコ!」
「トレーナーさん…勝ったよ☆」
「ああ…そうだな」
明らかにらしくないファルコ。勝ったのにも関わらずどこか辛そうな彼女にどう声をかければいいのか分からなかった…
***
来月にチャンピオンズカップ、そして東京大賞典を控えている秋。この時期のトレセンは全体的にピリピリとした雰囲気になるのだが
「ファルコー?」
「あ、トレーナーさん…」
トレーナー室にきた彼女は、いつものファルコはそこにいなかった。
「どうしたんだ?らしくない」
「うん…あのね…」
「ん?」
口を開きかけたファルコはそのまま押し黙ってしまう。何か言い迷っているようだ。
「…うぅ…こんなことトレーナーさんには言いたくないよぉ…」
ついに言い出せず、ファルコはぽろぽろと泣き出してしまった。
…こんなことをするのは”トレーナーとして”タブーだとは思うが
「んんっ…トレーナーさん」
泣いているファルコを優しく抱きしめる。
ファルコと僕の身長差は10cmもないが、ファルコは少しキツめに抱き返してきた。
—ひとしきり泣いた後、ファルコが話をしてくれた
「あのね、ファルコ…怖くなったの。皐月賞で負けちゃってからダートで頑張って、色んなレースで勝って、ウマドルとしてのファルコをみんなが見てくれてるんだよ?…でもね、合宿の時のあの話を聞いてすっごく怖くなったの」
去年と同じ東京大賞典だったら気にすることもないが、今年は有馬記念との最終レースを賭けたファン投票が行われている。それに中距離最強格のエルコンドルパサーに本気モードなマルゼンスキーの参戦…彼女にとってはプレッシャー以外の何者でもない。
「ファルコ、何のために走るの?」
「え?それは…最強のウマドルになるため?」
「大作戦を決めた時のこと覚えてる?」
「決めた時?…あっ!」
『トレーナーさんはどんなファルコがいいの?』
『…走ってるファルコ』
『ん?』
『圧倒的で、誰にも負けない。競争バ、スマートファルコンがいいな』
「そう来たかぁ。じゃあこうしよ!」
「そうだった…ファルコ、トレーナーさんに誰にも負けないファルコを見せたくて…」
「そうだね。今のファルコは、僕に誰にも負けないスマートファルコンを見せられる?」
「ううん。このままじゃダメだよね」
「僕は走ってるファルコが1番好きだから」
心なしかファルコの顔が赤くなった。
「ファルコの事…好き?」
「スマートファルコンは好きだよ?」
答えた瞬間、顔を赤くしていたファルコがそれはすごいぐらいのジト目になった。
「にぶにぶにぶにぶ…」
「!?」
「まっ、それもトレーナーさんらしいか」
パッと立ち上がるとテレビの前で決めポーズをする
「ファルコ?」
「トレーナーさんありがと!お陰で元気満タン!最強ウマドル!スマートファルコン復活☆」
こんな程度の慰めだったが、ファルコの不安を取り除けたみたいでよかった。
『お待たせしました!年末最終レース、ファン投票の結果を発表します!!』
ファルコの後ろにあるテレビから男性アナウンサーの興奮気味な声が聞こえて来た。
今日は年末最終レースの発表の日だった。
発表はこのために制作したPVが
実は、JBCクラシック後に今回の発表に使用するための撮影があって、黒い背景に勝負服を着たファルコを撮るだけの撮影。正直言ってどんなものになるのか想像もつかなかった。
ファルコも、僕も…いや、中央トレセン全体が静寂に包まれ、発表を待っている。
画面が暗転する……どっちだ
※楽曲『We Will Rock You』
読み上げ『ダンディボイスの声優なら誰でも』
[newpage]
【Next Stage】
砂が、芝を超えた。
時代が、砂を求めた。
砂上を荒らす
再び目覚める芦毛の怪物
迎え撃つのは、2つの翼
砂の隼スマートファルコン
世界の怪鳥エルコンドルパサー
狩るか、狩られるか
年末最終レース投票一位
『東京大賞典』
新時代を見逃すな。
URA
[newpage]
砂が芝を超えた。
引退したオグリキャップの電撃参戦
歓声を上げる者、悔しいという顔をする者、ただただ愕然とする者…三者三様ならぬ千者千様のこの状況の中で、僕たちは一つの決意をしていた。
「ファルコ…」
「うん」
自然に、ごくごく自然に手を繋ぐ
「…絶対勝とうな」
「うん」
真の最強を決める舞台が決まった。
あとは…走るだけだ。
★★★★チャンピオンズカップ!
今回のチャンピオンズカップは東京大賞典に予定のエルコンドルパサーも参戦している。夏に路線変更をしたんだから来るのは当然だと思うが、負ける気はハナから無い。
「ファルコ、スマイル忘れてんぞ」
「…おぉ〜」
「何感心してんだよ」
「トレーナーさんもスマイルだよ☆」
「ああ。…行ってこい」
「うん!」
『さぁ最終コーナー先頭は…エルコンドルだ!エルコンドルだ!このままゴールまで行くのか!?」
『後ろにスマートファルコンがピッタリついています最後まで気は抜けませんよ!!』
「っだぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぐっ…負けない…デェェス!!」
『先頭は…スマートファルコンだぁ!!』
「トレーナーさぁん!!」
「ファルコー!危なかったなぁ!!」
「うん!危なかったよ〜」
ほっと胸を撫で下ろす。
これで残るは再来週の東京大賞典だ。
***
僕がスマートファルコンに対して1番驚いていることは、その頑丈さだろう。作戦の本番にあれだけのオーバーワークを重ねたのにも関わらずこれまで怪我をしていない…大丈夫、ファルコなら行ける。
「トレーナーさーん!」
「ん?どうしたファルコ」
最終調整を終えたファルコがトレーナー室に来た
「ファルコが逃げたら〜?」
「…地の果てまで追いかける」
「突然物騒!?」
大袈裟なリアクションを見るに不安や恐怖は感じていない様だ。
「で、ファルコは何を追いかけるんだ?」
「もちろん!トレーナーさんだよ☆」
「…なんでよ」
「…にぶにぶにぶにぶ」
「そのジト目やめて。あとツンツンすんな」
「にぶトレーナーには丁度いいですよーだ」
「あー…そうですか」
完っ全に理解したわ。
「…卒業したらな」
「ふぇ!?トレーナーさん!?」
ファルコの顔が真っ赤に染まる。
「さて…砂の隼スマートファルコン!」
「は、はい!!」
先ほどまでの赤面はどこはやら、鋭く名前を呼ばれたファルコがビシィと直立不動の姿勢をとる。
「…明日は楽しもうな」
「…うん!」
さあ、最終決戦だ。
[newpage]
★☆★東京大賞典★☆★
『えー私、もうすぐ60歳に手が届く所。実況は20代からやらせていただいてますが…初めて読み上げさせていただきます!年末最終レース、東京大賞典!実況は私、
『よろしくお願いします』
『しかしまぁ、今年はダートイヤーと言いますか、砂が非常に盛り上がりましたね!』
『そうですね!スマートファルコンにハルウララのG2連勝と見応えありましたね!』
『はい。そのスマートファルコンですが、豊武さん彼女は1枠1番、1番人気ですよ!』
『枠順決めの生放送を僕も見たんですが、担当トレーナーのガッツポーズは家族共々笑ってました』
『あぁあれやはり面白かったですよねw』
『そうですね。こう、グワーっとw』
『はいw…2番人気はエルコンドルパサー。いやぁ今年の彼女は本当に素晴らしいですね!』
『いやぁ末恐ろしいですね。このまま順調に成長すれば凱旋門賞も見えてくるかと』
『凱旋門賞ですか!?』
『そのポテンシャルはあると思います』
『…3番人気はマルゼンスキー。豊武さん、あの、あれは本当にマルゼンスキーですか?』
『殺気立ってますね。あの表情はシンボリルドルフとのジャパンカップ以来じゃないですかね?本気で狩りにきているような感じです。』
『ええ。4番人気まで”上がって来た”と言えば正しいのでしょう。オグリキャップです』
『僕の”夢”です』
『おぉ!』
『笠松に戻った後にインタビューをさせてもらったんですけど、彼女も相当仕上げて来てますよ』
『それは楽しみですね!』
『ちなみに二宅さんの夢はなんですか?』
『私の夢ですか?エアグルーヴです』
『それはそれは!』
『はい!さあ夢と意地がぶつかる東京大賞典!まもなく出走です!』
***ゲートイン***
『改めましてまさに日本晴れ、”満員の”大井競馬場からお伝えしております東京大賞典!ダート2000、良馬場の発表です!』
『楽しみですね!』
『各ウマ娘ゲートイン完了…さあ始まりました東京大賞典!豊武さん出走した瞬間にすごい歓声が沸き起こりましたね!』
『いやぁびっくりしました!』
『さぁ序盤の先頭争いはやはりこの二人!スマートファルコンとマルゼンスキーだ!早くも3馬身4馬身とぐんぐんリードしていくぞ!』
『2人とも抜群のスタートを切りましたからね!逃げ切ることもできると思います!』
『なるほど!さあ第一コーナー過ぎた所2番人気のエルコンドルパサーは…中団にいるぞ!』
『オグリキャップが不気味ですね…』
『ああ本当だ!オグリキャップはシンガリだ!』
『取材の時もタマモクロスと練習していたので何か策があるのではないですか?』
『さぁ序盤から痺れる展開の東京大賞典!第二コーナー観客の前を通り過ぎます!』
『オグリキャップ中団まで上がりましたね』
『そうですね!先頭はスマートファルコンにマルゼンスキー、変わらない。しかし中団はどんどん入れ替わっているぞ!』
『えぇ!?』
『豊武さんどうしました!?』
『中間タイムが早すぎます!このまま行くとレコードタイムですよ!』
『そんなにですか!?…東京大賞典は2分11秒がレコードタイムとなっておりますが確かに先頭はもう3コーナーに入りますよ!?』
『あっ!オグリ来ましたよ!!』
『気づけばオグリキャップ5番手だ!これはロングスパートということでしょうか!?』
『そうだと思います!エルコンドルパサーと7番も釣られて来ましたね!!』
『えぇ!あぁ!スマートファルコンが落ちた!スマートファルコンが落ちた!現在4番手、5番手…マルゼンスキーの独走だ!これは大波乱だ東京大賞典!』
『さぁ来た!!』
『最終コーナー!先頭は…マルゼンだマルゼンだ!!何という加速力っ!!』
『オグリ来た!!』
『オグリ来たオグリ来た!そのすぐ後ろからエルコンドルパサー!!オグリがまだ伸びる!!いやいやエルコンドルパサーがマルゼン共々抜き去った!先頭はエルコンドルパサーだぁっ!!スマートファルコンは5番手!これは厳しいか!?』
『あっ!?』
『うわぁ!?スマートファルコン再加速だ!!ぐんぐん伸びていくぞ!!残り300メートルっ!!』
『やっぱりこの2人だ!!』
『エルコンドルパサー逃げる!!やはり2度目は譲らない!!大井競馬場が揺れているっ!!』
『まだ伸びるのか!?』
『さぁ並んだ並んだ!!残り100メートル!!』
『どっちだ!?どっちだ!?』
『怪鳥か!?隼か!?世界よ!!これが!!日本のダートレースだぁぁぁっ!!』
『うわぁ…すごいな』
『レコードタイムにっ!?2分ジャスト!?』
『タイムは出ましたけど順位がまだ…あー!写真判定ですね!』
『これは久しぶりの写真判定!しかし本当に最高のレースでしたね』
『どう転んでもレコードホルダーになりますからね!本当いいレースをしましたよ!』
『はい…確定情報をお伝えします。1着、2着が写真判定。3着はオグリキャップ、4着はマルゼンスキー…12月28日年納めの大接戦。実況は私、二宅。解説は豊武氏をお迎えしております。写真判定が来るまでしばらくお待ちください』
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—小さい頃、夢見たことがある。
家にこもっていた僕にとって、図鑑で見た隼は、美しく、勇ましかった。そんな隼の背に乗って青空を飛びたいと何度も思ったことか。
『写真判定の結果が出ました』
—今年に入って夢が増えた。
砂地を突き進む隼の…ウマドルになりたいという彼女の夢を叶えること。
『両者の差は6cmでした。1着は—』
良馬場のダートは乾いた砂地なのに…どうして潤っているように映るのだろう。
「トレーナーさん…やったよ!」
『スマートファルコンです!』
「おめでとう。
【The winner】
砂の祭典
一羽の隼が飛び立った
洗練されたその翼は
砂地に歓声というオアシスを生み出した
レコードタイム、2分ジャスト
さあ、凱歌の時だ
『スマートファルコン』
「駆けるハヤブサの背に乗って」END