私のグリードアイランド   作:葉隠 紅葉

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第一章
第1話


 事務所に居た最後の男が倒された。手に持った鉄バットが虚しく音を立てて転げ落ち、部屋の隅へと転がっていく。やがて男自身も事切れたかのように地面に倒れこむとそのまま気を失った。そんな男の最後を確認すると彼、イレイザー・ヘッドはそっと溜息を零した。

 

 それはヒーローらしからぬ男であった。ボサボサとした長髪、くたびれた黒調のコスチュームに身を包んだ男の名は相澤消太。対(ヴィラン)戦闘特化のプロヒーローである。暴力団事務所から騒音が消え、静けさが月闇に紛れ込む。きっと最後に部屋の中にいたその暴力団団員の見た姿はゴーグルを付けた一人のヒーローだったに違いない。

 

「こちらイレイザー、鎮圧に成功。応援求む」

 

『流石だなイレイザー・ヘッド。相変わらずお見事な手際で』

 

「茶化すな、それよりそっちは問題あったか」

 

『いいや、無事に人質の救出にも成功だ』

 

「そうか…なら良い。それで例の方の手がかりは」

 

『…いいや、ここにもさっぱりだ』

 

「……」

 

 今回作戦を共にした同僚のヒーロー、電話口の相手の返答に対して思わず眉をしかめてしまう。おかしい、あれだけの被害者と大きな事件だ。だというのにここに至るまでまったくと言っていい程手がかりが見つからないだなんて。自身が身に着けた捕縛布で暴力団の団員を縛り上げながら相澤は心中でつぶやいた。

 

神隠し事件

 

 一般人がまるで神隠しのように消えたことから名付けられたこの事件。ある日を境に、幾人もの人間が痕跡一つ残さずに消えていく。不審に思った警察とプロヒーローは共同戦線を張り、巨大な捜査網を敷いた。

 

結果、痕跡は何一つ見つからず。

 

 当初はワープ系の個性を持った人間達による大規模な誘拐事件と考えられていた。とはいえ、それにしては人質として何かを要求するわけでもなく、また消えた人間の金品なり財産なりを奪っている訳でもないのだ。このヒーロー飽和時代、そして文明が進んだ電子監視社会である。痕跡一つ残さずにこれだけの人間を連れ去る等不可能といっても過言ではない。

 

 余りにも不可解なこの事件。今週に入っただけで更に12名もの人間が消失したのだ。マスコミはこぞってこの話題を取り上げるし、人々はこの姿なき誘拐魔に怯えきっていた。やはり不可解なのは…犯人の情報が一切不明な事だ。犯人の情報も、目的も、そこから救出された人間がいるのかどうかすらも。全てがまるで霞のようにはっきりとしないのだ。

 

 今回のこの暴力団事務所の調査もつい先日にこの事務所近辺で人間が消えた事から捜索をする事が決定したのである。犯人に直結する手がかりが見つかるとは思っていなかったが…イレイザーヘッドは苛立つように通信用インカムを弄りながらサイドキック達や共闘しているヒーローたちの通信を待っていた。

 

 ふと部屋の隅へと視線を傾ける。その部屋の隅にはもう一つ別の部屋があった。言いようのない違和感が相澤を襲う。そのまま注意を払いつつも、相澤はその部屋へと通じる扉へ手をかけた。どうやら鍵はかかっていないようだ。

 

 ほんの少しの抵抗感とともに、ドアノブがかちりと音を鳴らして回った。それはあまりに簡素な空間であった。部屋の中には物一つおいてなく、部屋の隅には塵一つ堕ちてはいなかった。そして部屋の中央には一つの机がおいてあり、その机の上には……

 

 

「ゲーム機…?」

 

 それは一つのゲーム機であった。見たところ随分と古い世代のゲーム機のように思える。名称は確か…ジョイステーションだっただろうか。

 

 最早4世代も5世代も古い随分と旧式のゲーム機であるが、隠れだけゲー(隠れた良作品&そのハードにしか登場しない作品)が多いとの事からマニアには堪らない逸品である。今の時代からすれば、相澤自身プレイしたこともないような古いゲーム機だ。

 

『ゲーム機がどうかしたのか』

 

「暴力団の部屋にゲーム機だけが置いてある…妙だな」

 

『彼らだってゲームくらいするんじゃないか?』

 

「随分と古いゲーム機だぞ…それにこの部屋だけ異様に綺麗すぎる」

 

 そうなのだ、血と埃にまみれた暴力団の事務所。隣の部屋には飲みかけた酒瓶やら菓子の袋が乱雑に置かれていたり、脱ぎ散らかした衣服が辺りに散らばっていた。にも関わらず、このゲーム機がおかれた空間だけが妙に綺麗な…いや、綺麗すぎるのだ。

 

 ふとゲーム機に近寄って観察を行う相澤。見たところ、このゲーム機は新品同様だ。古いゲーム機に特有な傷や劣化に伴う焼けの現象が極めて少ない。言葉にしにくい、奇妙な感覚を味わう。ともあれ、このゲーム機も押収品だ。後のことは警察官達に任せるべきだろう。

 

「こちらは既に全員捕縛布で拘束中だ」

 

『分かった、サイドキックへの連絡と警察への連絡だな』

 

「あぁそうだな。それと一応救急車の手配も…」

 

 ふと会話に意識を向けながらそっと手で机に触れてしまう。相澤自身も無意識下での行動だったのだろう。彼はその危険性を理解しないまま、その行為をしてしまう。その行為がトリガーとなってジョイステーションにセットされたとあるゲームソフトが起動してしまった。

 

ゲーム機に触れながら話し込む

ゲーム機に、触れてしまう

 

「とにかく警察に連絡を…なっ!?」

 

『どうした!おい…返事をしろっ!』

 

「か、身体が…一体これはっ!!?」

 

 ジョイステーション本体に触れた部分から力が吸い取られる。まるで生気を吸い取るように、全身の力が見る間に抜けていく。相澤は反射的に手を引こうとするものの、手で触れた箇所はピクリとも動かなかった。まるで鎖で縫いつけられたように動けない彼の左腕。そうしてイレイザーヘッドは…相澤消太の身体はあっという間にこの部屋から消失してしまった。

 

何もない空虚な空間に

ゲーム機のロード音だけが響き渡る

 

 それはかつて多くの念能力者達を引きずり込んだ悪夢のようなゲーム。中に入ったが最後、そのゲームプレイヤーは現実には戻れないとまで言われた幻のゲーム。部屋の中には一つのゲーム機だけがおかれている。そのゲーム機に挿入されたゲームディスクには『GREED ISLAND』と刻印されていた。

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