私のグリードアイランド   作:葉隠 紅葉

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第11話

塚内直正(つかうちなおまさ)

 

 彼は優れた分析力と捜査能力を持つ警察官である。オールマイトと旧知の仲でもある彼は、そのプライベートを知る数少ない一人でもあった。そんな彼は今もなお、警察署内にて徹夜で捜査資料を見返していたのであった。

 

 掛けていたベンチから立ち上がる。飲んでいたコーヒーの紙カップを急いでゴミ箱に捨てた彼は部下からの報告に目を見開いて驚愕した。

 

「相澤さんが見つかっただって!?」

 

「今朝、例のゲーム機の前で倒れている所を職員が発見…現在は相澤さんを保護して医務室に寝かせています…」

 

 部下からの報告に声を荒げて驚く塚内。そのまま彼は勢いよく顔をはたいて気つけを行うと、そのまま1Fの廊下を歩き出した。時刻は午前、日光がちらほらと窓ガラスから照らし出す時間帯であった。

 

「は、はい。ですが…」

 

「どうかしたのか?」

 

「様子がおかしいのです」

 

「様子?」

 

「ゲームの世界がどうだとか、カードによって帰還しただとか…」

 

「…すまない、なんだって?」

 

「グリードアイランドに囚われていた。今もなお多くの民間人が囚われているから直ぐに対策チームを呼んでくれ…と。本人は目を覚ました途端…近くの職員にいきなりこう言ってきまして」

 

「グリー…え?」

 

「担当職員の話では錯乱状態にあるのではないかと…」

 

 部下である井淵の報告に困惑したように答える塚内。動揺した彼は思わず立ち止まって部下の顔を見つめてしまう。

 

 一体どういう事だろうか。とまあれまずは話を聞いてみないことには始まらない。はやる気持ちを押さえきれぬまま彼は部下を戻らせる。塚内はスーツの上着を握りしめ、急いで医務室へと向かうのであった。

 

 

~~~~~~~~~~

 

 警察署内に設けられた医務室に入る。ここは急患や体調を崩した人間に医療的な処置を施す医療空間である。部屋の左奥には、薬品がぎっしりと詰まった医療棚やら書類が収納された色とりどりのファイルが並べられていた。

 

 部屋の中央に備え付けられた幾つかのベッド。その一つから大声で言い争うような声が聞こえた。カーテンの端からそっと中を覗いてみるとそこには件の重要参考人でもあるイレイザーヘッドがいるのが見える。

 

 失礼します、と声をかけるものの彼らから返事は来ない。塚内はコツコツと足音を鳴らしながら、そっとそのベッドの空間へと近寄った。

 

「根津さん…俺は狂ってなんかいない…っ!」

 

「分かってるよ相澤君、まぁ落ち着いて」

 

「いきなりベッドに連れて来られたんですよ!こんな事をしてる暇なんて…!」

 

「だからこそ、僕たちは話し合う必要があるんだ…塚内君も、良ければ同席してくれないかな」

 

 力強く訴えかけてくる相澤の言葉に対して根津はなだめるようにして声をかける。彼のその言葉に当てられたのか、相澤もまたおとなしくベッドに座った。やはり部下からの報告は正しいのではないか、現在の相澤はとても正常であるとは思えなかった。

 

 ともあれ、まずは事情を聴取である。塚内もまた、近場からパイプ椅子を取り出してベッドの端へと座った。彼の姿を確認した相澤は、塚内にもまた掴みかからんばかりに声を張り上げて主張した。そんな混乱した場において、根津だけが冷静に問いかける。

 

「まずはお互いの状況を確認しあおう…塚内君、警察側の認識を話してもらえるかな」

 

「…分かりました」

 

 根津からの言葉にうなずく。そうして塚内はこれまでの経緯を相澤と相澤に話した。3週間前に相澤が行方知らずになったこと、プロヒーローを含めた幾名かの消息不明、民間人からの訴えとマスコミの反応等。

 

 ここ最近、警察が掴んだ情報を可能な限り惜しみなく話した。そして今朝警察署内でゲーム機の前で倒れているところ発見した所まで話すと、塚内は会話を切るようにしてそっと相澤の反応を伺った。

 

「マスコミは騒ぎ立ててますね…残された民間人の悲痛な声やら訴えと共に、ヒーロー達の不甲斐なさを連日報道しています」

 

「俺を含めたプロヒーロー…ミルコやウワバミ達の扱いはどうなってますか?」

 

「……長期任務に伴う消息不明扱いだ」

 

「つまり、死んだものとして扱われていたと…まぁ妥当だな」

 

 自嘲するように笑う相澤。彼自身も同様の意見である。三週間近くも行方知らずになった同僚が居れば、そいつがどうなっているかだなんて薄々感づいてしまうものだ。ベッドの上で胡坐をかく相澤に対して根津が更に問いかけた。

 

「それで、改めて聞きたいんだけど相澤君達は一体…」

 

「…ゲームの世界に居ました」

 

「ゲーム…本当にゲームの中に居たのかい?」

 

「はい、それがグリードアイランドという場所です」

 

「ふむ、塚内君から聞いたゲームソフトの名が確かそれだったね」

 

「仮想現実のような場所でして…現地では数名のヒーローと協力していました。そして離脱(リーブ)というカードを一枚だけ手に入れた自分達は情報を伝えるべく帰還を」

 

「…バカバカしい!ふざけないでくれイレイザー!」

 

 二人の会話に間を挟むようにして、声を荒げてしまう塚内。もう耐えられなかった。こうしている一分一秒でも民間人が犠牲になっている可能性がある以上、くだらない妄言に付き合ってなどいられなかった。

 

 塚内はパイプ椅子から勢いよく立ち上がると相澤の胸ぐらを掴まんばかりに迫った。力強い言葉で、訴えかける塚内の気迫に根津自身少しばかり気圧されてしまう。

 

「ふざけてなんか居ませんよ」

 

「正直に言おう、我々は君が錯乱状態なんじゃないかと疑っている!妙な薬品なり拷問でも受けて気がおかしくなっているんじゃないのか!?」

 

「つ、塚内君…流石にその言い方は…」

 

「良いんですよ根津さん、回りくどい言い方よりよっぽど好感が持てる。その方が話が速い」

 

「まぁまぁ二人とも冷静に…ほら、水でも飲んで落ち着いて」

 

 塚内の気迫に対して相澤もまた表情を歪めて答える。医務室内に、少しばかり緊張した空気が走った。ともすれば言い合いにもなりかねないその空気の中で、一人だけ根津は笑みを浮かべて場に立ち会った。

 

 根津は棚から二つ分のグラスを持ってくる。冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した彼は、そっとグラスに中身を淹れる。いくらかの氷を取り出してグラスに淹れた彼は、そのまま二人の間に割って入ると落ち着けるように声をかけて話の続きを促した。

 

 

「ふむ、色々と気になる部分はあったけれど、一つずつ話し合っていこう」

 

「……」

 

「まず君はゲームの世界に引き込まれた…それはゲーム機に触れたからだったね」

 

「…そうです。暴力団の事務所でゲーム機に触れました」

 

「そして塚内君、君たちもそのゲーム機を確認してみたがそんな事実は確認できなかった。無論ゲーム機には触れた状態で、だ」

 

「根津さん、今はふざけている場合じゃないんですよ!」

 

「分かっているよ塚内君。であるならば、この場合は相澤君には出来て塚内君たちにはできなかった条件の違いというものがあるはずなんだ」

 

「条件…?」

 

「結論から言うよ、それはプレイヤー制限じゃないかと僕は思う」

 

 ジョイステーションには1Pと2P側のコントローラー差し込み口がある。確かにコントローラーとメモリーカードはそれぞれ一組ずつしか刺さらない。彼が確認したゲーム機も、それぞれ2セットついている状態ではあった。

 

「つまり…これは本当にゲームの世界に引きずり込むための装置であり、それには2人という定員制限があると?馬鹿げていますよ全く」

 

「なぜそうなっているかは問題ではないよ。現実にこれが存在する以上はどう対処していくかの方が大切だ」

 

「……」

 

 根津からの言葉に対して腕組みをして無言のまま答える塚内。彼からすればとても正気で聞いていられる会話では無かったからだ。塚内は無言のまま爪をかみしめてしまう。こうしている今も犯人達はのうのうと悪事を企んでいるのかもしれないのだ。ゲームの世界に関する会話など付き合っていられる筈もない。

 

「改めて確認だが…相澤君、そのゲームの世界と犯人達はどんな関係があると推測できるんだい?」

 

「…詳細な関係は不明です。ですが犯人達はゲームの世界を造った連中の可能性が高く、彼らはゲームのルールに則って行動している傾向があります」

 

「無差別ではなく、規則があると…?上手く表現できないがそんな所かな」

 

「引きずり込まれましたが同時に出る手段も確かに有りました…情報収集の為にもヒーロー達で対策を練って民間人の救出とゲーム内での犯人逮捕を行う必要があるかと」

 

「外の世界からのアプローチは無理なのかい?犯人をゲーム外へ出た時に捕まえるとか」

 

「…すみません可能かどうか分かりません」

 

「…ふむこれ以上はここで話しても仕方ないね。相澤君は報告レポートの作製、塚内君は僕と一緒に救出班のプロ―ヒーロー選別作業を行おう」

 

「根津さん!こんな会話に付き合ってなんか居られませんよ!」

 

「まぁまぁ…所で塚内君、このヒーロー達なんかどうかな?」

 

「だからそんな!…え?」

 

 根津から見せられたスマートフォンの画面を思わず見つめてしまう。画面には電子メモアプリが起動されており、そこには根津が書き込んだテキストが記されているのであった。

 

『彼は混乱しているかもしれない、今は話を合わせて』と

 

 

 それを見て思わず沈黙してしまう塚内。身体にくすぶっていた衝動の熱が引いていく。そうだ、彼は単身で誘拐犯に連れ去られていたのだ。心身にどんなダメージを負っているのかも分からない。一体彼らにどんな酷い仕打ちをされたのか…それを思うと声を荒げて問い詰める行為などとても…

 

 塚内は根津と瞳を見合わせると、そっとうなずく。ここでは突き詰める事ではなく、話を合わせるべきなのだろう。相澤から()()()()()()()()()()()()()()()話の詳細を聞く根津、塚内はそんな彼らの会話をそっと口を挟まずにそのまま静かに聞いていた。

 

 

「よし、それじゃ話をまとめよう。その空間では現実世界へと帰還する方法はごく少なく、中では個性は一切使えない…そうだね?」

 

「そうです。大半の人間は始まりの街から出られてもいません」

 

「ふむ、なるほどね」

 

 そういって瞳を閉じて考える根津。腕組みをしたまま、静かに思考を重ねているようだ。30秒ばかり沈黙を重ねた彼は、そっと相澤に対して答えた。

 

「…色々と関心は持ったが、()()()()()()()()()()()()()()僕が一番気になったのはプレイヤーの人数かな」

 

「人数ですか?確か211名…いや、あの時の自分を含めると212名ですかね」

 

「半端だとは思わないかい?」

 

「…中途半端という事ですか」

 

「商品というのは売るにせよ作るにせよ、キリが良い数にするものだよ。もっと言うなら半端な数にするメリットがない。普通は50の倍数とか…その方がずっと管理しやすいしね」

 

「つまり何かの事情で見つかっていないか。破損したか…」

 

「あるいは何らかの理由から212名という数にしたか、だね。仮にゲーム機を100台限定とした場合…ある仮説が浮かび上がってくる」

 

「……」

 

「結論から言うとね、マルチタップではないかと思うんだよ」

 

「マルチタップ…?」

 

「そう、ゲーム機でよくある。コントローラーを増やす追加装置だよ。パーティゲームなんかをやる為に付けるものなんだけどね」

 

 根津は語る。ジョイステーションには1Pと2Pがゲームをプレイするためのコントローラーとメモリーカードの差し込み口がある。このグリードアイランドはコントローラー、またはメモリーカードの枚数を認識して人間をゲームの世界へと引きずり込んでいるのではないか、と根津は話しているのだ。

 

 そして、このジョイステーションにはコントローラー数追加の為のマルチタップが存在する。本来プレイするべきコントローラーの部分に差し込む追加アタッチメントであり、更に追加で新たな人間がゲームプレイ可能となるアイテムでもある。

 

 通常では1Pと2Pの2名しかゲーム機ではプレイできないが…これにより追加で6名分の計8名のプレイヤーでの追加遊戯が可能となるのだ。

 

 つまり、警察官達がゲーム機に触れたのは本来は2名までのプレイ人数制限が有る為。この2名がまだプレイしている間は3人目はゲームをプレイする事ができない。その為、彼らは入ることができなかったという可能性があるのではないか、と語る根津。二人の会話に思わず塚内もまた口を挟んでしまう。

 

「マルチタップ…」

 

「そう、一台のゲーム機でプレイできる人数は2名まで。なおかつそしてマルチタップを4つ分使えば212名ぴったりにはならないかな」

 

「つまり…我々警察官が入れなかったのは一台2名までのプレイ制限、またはゲームそのもののプレイ制限に引っかかっていたから?…そんな事があるのでしょうか」

 

「先程の話と合わせると…そのマルチタップを利用しているかもしれない人間は犯人、またはこのゲームに精通した人間という事にもならないかな」

 

「死のゲームで帰還できる程の練度を持つのはこのゲームの仕組みに詳しいから。プレイできる人数を増やしつつ裏で何か悪だくみをしている…そう考えると辻褄が合う…のでしょうか?」

 

「何にせよ、もしも出会えたら詳しい事情を聞くべきかもしれないね…相澤君、大丈夫かい?」

 

 塚内と根津の会話に対して呆然と聞き入っまま一人思考する相澤。もしも根津の仮説が正しければゲーム機に触れたであろう人間がグリードアイランドに引きずり込まれなかった理由にも繋がる。だがそれ以上に危惧すべき事がある。

 

 あの狂った難易度で自分達よりもゲームを攻略している連中がいる。その連中が現実世界に何度も帰還する事で秘密を得て、マルチタップの存在に気が付いたとしたら…相澤はぞっとするような背筋の寒気を感じた。何よりも恐ろしいのはゲームの中にいた自分たちがその存在に露とも気が付かぬこと、気が付かせぬほどの練度を持った連中がいたかもしれないという事だ。

 

 もしもそんな連中が悪意を持っていたら、個性も使えぬ民間人の虐殺など容易な事だろう。ミルコやウワバミ達だって無残に殺されてしまうかもしれない。相澤はベッドから飛び上がるようにして勢いよく立ちあがった。

 

 

「速く戻らなければ…ミルコ達が危ない!」

 

「…その辺りの現状は照らし合わせていくべきだね。とにかく相澤君はこれまであった出来事を報告レポートにしてまとめてくれるかい?その情報を元に対策班内でよく話し合っていこう」

 

「そんな暇なんてある訳ないでしょう!」

 

「だからこそ、慎重に行動しなければいけない。個性が使えず人数制限がもしもあるのなら…なおさら僕たちは慎重にならなくっちゃ」

 

「…」

 

 根津の言葉に、思わず力なく同意する。確かに個性が使えもしない空間である。勢い任せに行動したところで何も成果など得られないだろう。ここ最近起きた不可思議現象の連続に思わず溜息をつく。どうにも自分らしくない行動ばかりしている気がする。肩を落とす相澤に対して根津はそっと問いかけた。

 

「ゲームの攻略にはオーラと呼ばれる技術の習得が必要になる…確かそうだったね」

 

「そうです」

 

「そのオーラって奴がなければ進行はできないのかい?絶対に?」

 

「不可能ですね。間違いなく死ぬだけです」

 

「そうか。しかしオーラとは…一体どんな技術なんだい?」

 

「身体強化のような術です、ゲーム内ではこうやって集中する事で発動を…なっ!?」

 

 そういって身体にオーラを巡らせる相澤。ゲーム世界のスキルの話である、相澤自身も出来るとはおもっていなかったのだろう。開かれた精孔によって相澤の中で徐々にオーラが巡りだす。

 

 手に水が入ったグラスを握ったまま、錬もどきを行ってしまう相澤。彼が集中をした事から、突如中のグラスが音を立てて鳴り出した。

 

コン

コンコンッ!

コンコンコンッ!!

 

 突如、グラスに入った氷が震えだす。()()()()()()()()()()()()()氷同士が振動し動き出す。その振動によってグラスから水が零れだす。動揺する男達の前で、一つの氷が勢いよくコップから飛び出してきた。

 

「なっ!こ、これは!?」

 

「あ、相澤君!?」

 

 今度こそ、驚愕する。相澤の個性は抹消であったはずだ!目の前で起きた現実がとても信じられない。塚内は口を唖然と開けてその光景に見入ってしまう。

 

 流石に予想外の出来事だったのだろう。根津もまた、今まで見た事が無いほどに声を荒げて動揺してしまう。震えはまだ収まらない。相澤が手に持ったグラスの中では、今もなお氷と氷が微細な振動を放って小さく震えている。

 

 まるで2つ目の個性のような不可思議な現象…まさかこれがオーラという物なのか!?呆然とした表情で思わず相澤を見つめてしまう。そんな相澤もまた茫然自失の状態で力なくつぶやいた。

 

「なんでオーラが現実世界でも…まさかそんな…」

 

オーラは現実世界でも使える…?

 

 そうつぶやく相澤。三人の男達の眼下では、今もなお床に散らばった氷が音を立てて小さく震えているのが見えた。




 (プレイヤー人数等)一部過去話の情報を修正済み。
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