警察署に一台のタクシーがやってくる。そのタクシーからずしりと巨体を唸らせて降りるその男性は…とても厳つい風貌をしていた。異形型の個性を持つそのヒーロー、白いスーツを身に着けた彼の肌は黒く、口元には引き裂かれんばかりの牙とぎょろりと鋭い瞳が見える。
鯱ヒーロー『ギャングオルカ』であった。
本名
はち切れんばかりの筋肉、逞しい胸板を持つ彼。逆俣の首元は強靭であり、その腕や足腰は見るからに太い筋肉の塊であった。身長は202cmというのだから驚きである。見るものに威圧感さえ与えるその風貌と気色にその場にいた警察官は思わず生唾を飲んだ。
「お、お疲れ様であります!!」
「お疲れ様です」
敬礼をしてくる警察官に対してこちらも頭を下げて返事をするギャングオルカ。そうして彼はそのまま警察官に案内されるがまま、警察署内へと入っていく。彼が歩いたことで、廊下の一部からはミシミシと音が立つ。
警察署内の対策会議室に入る。中では様々な警察官、ヒーロー達がせわしなく活動を行っていた。地図上に印を記載していく警察官。自身の武装とヒーロースーツの手入れを行いながら端末で何かしらの電話を行っている男性ヒーローの姿があった。どうやら、ヒーローたちは交代で例のゲーム機に関する大規模な捜索活動を行っているようだ。
あたふたとお茶を用意している女性職員の邪魔をせぬように静かに入室を行う
「お久しぶりですギャングオルカさん」
「イレイザー・ヘッドか…何時ぞやの事件以来だな」
握手を交わす二人。そんな彼らの元へ一人の男性ヒーローがやってきた。彼は相澤とギャングオルカの姿を確認すると片手をあげて陽気に挨拶を行う。見た目とは裏腹に、随分と社交的な人間なのかもしれない。
「こんにちは。僕も今回の事件に参加させて頂くことになりました」
「ガンヘッド!君まで来ていたのか」
「いやーご無沙汰してます、ギャングオルカさん」
こちらへ来て挨拶を行うヒーロー『ガンヘッド』本来の歴史では麗日お茶子にインターンの際の指導監督を務める男である。個性は『ガトリング』自身の角質を非常に硬度な物質として固め、弾丸以上の速度と威力で発射できるという個性である。
ガンヘッドとギャングオルカもまた同様に固い握手を交わす。そうして一同は相澤が座っていたテーブルへと着席した。自身に手渡された書類を眺めながら、会議に入る。書類は相澤が作製した報告書レポートである。これまでの経緯が書類上にてまとめられているのであった。
「事情ならば電話でも聞いた…にわかには信じがたいが…」
「しかし、事実です。貴方達の力が必要だ」
そういって深々と頭を下げてくる相澤に対してなんとも固い表情のまま返答に困ってしまう
ギャングオルカ
ガンヘッド
この2名が新たに追加される支援チーム。グリードアイランド攻略においては戦闘班を担当する事になった。頭を下げてくる相澤に対して改めて力強い言葉で返答をするギャングオルカとガンヘッド。そうして彼らは打ち合わせを行った。これまで得た経緯を相澤という体験者から実体験を踏まえて聞き出していく。
「改めて確認をしましょう。俺達戦闘班は
「中にいる民間人への支援とケアは支援班の役目だったな。後からやってくる予定の心理カウンセラーと現地人数名の協力を仰ぐとか…」
「えぇそうです。そして同時に他に現実世界へと帰還する方法はないかの情報収集も行います。いずれにせよゲームの攻略には特殊な技術の習得が必要になる」
「そして向こうでは個性が一切使えない…だから我々が呼ばれたのだな」
そういってガンヘッドの方を見る逆俣。ガンヘッドもまた逆俣からの視線に対して力強くうなずいた。
武闘派ヒーロー『ガンヘッド』
GMA(ガンヘッドマーシャルアーツ)の創立者でもあり、あらゆる武術、武道を修めた彼。対人戦闘技術において彼は他のヒーローと比較しても非常に秀でた才能を持っている。身長191cmの肉体に加えて鍛え抜かれた鋼のような肉体を持つ。
グリードアイランド内では純粋な対人戦闘こそ少ないであろうが…それ以上に個性だけに依存しない肉体と格闘派としての技術を持つ事から今回の作戦に招かれた。
ちなみに見た目とは裏腹に繊細な面もあり、お茶目な喋り方や仕草もする。本史においても麗日お茶子からも『この人可愛い喋り方だ…』とまで言われる程である。漫画やゲームといったサブカルチャーも好んでいる事から本作戦に呼ばれたようである。
鯱ヒーロー『ギャングオルカ』
対してギャングオルカは知識と実践経験豊富な万能ヒーローである。プロヒーローランキングでも上位層を維持しており、その圧倒的なまでの強さと優れた能力から「ヒーロー仮免最終試験」の試験官としても採用されるほどの信頼を得ている。身長202cmの強靭なる鯱の肉体を持つ彼は、ありとあらゆる困難を乗り越えてきた屈指の実力派でもある。その豊富な知識と実践経験を生かし、困難に立ち向かう為の実力こそが今回の作戦では求められる。
個性無効化がどう影響するかは分からぬが個性に由来しない肉体と戦闘力を持つ一流の武闘派ヒーロー達である。個性が使えぬ以上は元の身体能力が少しでも高い方が有利であろうとの相澤達の思惑でもあった。
ふと、相澤は視線を壇上へと移す。壇上では台の上に薄型テレビと変換ケーブル、そしてグリードアイランドが繋がれていた。女性の警察官が個性を使用する。どうやら彼女は『念力』型の個性を持っているらしい。
絶対に手で触れないように個性を使い、マルチタップを宙に浮かせたまま慎重にゲーム機へと挿入していく彼女。そしてギャングオルカとガンヘッドの分、追加でコントローラーとメモリーカードを挿入する。ちなみに相澤とセットでプレイしているであろう、同ゲーム機のもう一人の人間は今もゲームをプレイ中である。
メモリーカードとコントローラーを取り外す事が出来るのは現実世界へ帰還したものだけである。そして追加マルチタップは元のプレイヤー側の操縦口に突き刺すのだ。
つまり、もう一つの方はメモリーカードを取り外すことは出来ない。その為新たにプレイできるのは追加で三名のみであるという事である。今もプレイしている人間のメモリーカードはどれだけ力を込めようが絶対に抜くことは出来ない。これも検証済みの事であった。
押収済みのゲーム機からも誰かが帰還すれば更に追加でマルチタップを挿入する事ができる。つまりそれだけ新たなヒーローの追加ができるのだ。ミルコやウワバミと合流し、彼女達を一度帰還させればメモリーカードを抜くことができる。そうして速やかに、新たな人員を投下する事もまた彼らの重要な任務であった。
「それにしてもジョイステーションかぁ…懐かしいなぁ」
「プレイしたことはあるのかガンヘッド?」
「親戚の人たちと一緒にやりましたよ。コンバットウォーズとかワンダーゾーンⅡとか」
「全く分からないな」
「イレイザーさんも僕と同世代なんじゃないかなぁ」
「…まぁいい。グリードアイランドはジャンルとしてはRPGに近いと思う。用心してくれ」
「分かりましたー。任せてください!」
そういって力こぶを造ってポーズをするガンヘッド。どうやらゲームの世界に入れるという事で浮かれている…ようにも見受けられてしまう。ともあれ彼の実力と素性も確かである。ゲームという世界においては非常に頼もしい存在であろう。
一方の
「君を疑う訳ではないし事情に納得も出来ているが…これで本当にゲームの世界に入れるのか?」
「案内役の言う通りなら、最悪俺だけでも入れる筈です」
「案内役?」
「ゲームに入ったときに現れる説明役です。…もしもお二人が入れなかったら俺だけでもまた帰還しますよ」
「そうならない事を祈ろう」
「全くです…あぁ向こうの準備が整ったようだ」
そう言って、後ろを振り返る相澤。会議室の壇上では稼働したグリードアイランドが机の上に置かれている。その様子を撮影するかのように一本のビデオカメラが立っており、画面の様子を会場にいる警察官や今もなお他のゲーム機がないかどうか広域捜索しているヒーロー達もライブ中継で現状を見ているらしい。
相澤はこちらへと振り返る。決意を固めているかのような苦い表情をする彼。彼はこわばった表情のままギャングオルカとガンヘッドに対して言葉を発した。
「もう一度いいます、ゲーム内は非常に危険です」
「分かっている」
「…死ぬ危険もあります。現にヒーローが独り化け物に喰い殺されたそうです」
「
「僕も微力ながら力を尽くしますよ…一緒に頑張りましょう!」
「…ギャングオルカさん、ガンヘッド。どうか宜しくお願いします」
「あぁ、任された」
今度こそ、力強く返事を行う。その言葉に背中を押されたのだろうか、相澤は微笑むようにして笑みを浮かべるとそっと前方へと向き合った。力強い歩みのまま、そっとグリードアイランドへと近寄っていく。その圧に、思わず近くに居た職員は気圧されるようにして後ずさった。
ごくりと生唾を呑むギャングオルカ。幾度となく、作戦前に感じてきたこれまでの雰囲気とはどこか違う空気。改めて、考えてしまう。ゲームの世界…個性が使えぬ空間。
産まれた時から、この身体である。どこまでも黒く、人体とは似ても似つかぬ異形の肌だ。幼少期の頃はこの見た目のせいで差別と偏見を受けてきた。ヴィランっぽいヒーローランキングでは常に上位、子供にはいつも泣かれて近寄る事さえできなかったこの身体と個性である。もしもそれがなくなってしまうというのなら…
「…それでは…先に行きますっ」
「っ!?」
相澤がジョイステーションに手で触れる。その途端、相澤の身体が消えた。一人の人間が跡形もなく消えるという現象、ワープのような個性現象がひとりでに起きたという事態に思わず動揺してしまう。
手で触れた相手を転移させるゲーム機。これもまた発展した個性による現象なのか、それとも全く未知の何かなのか…。自身の身体がこわばっていくのを感じてしまう。
「イ、イレイザーヘッドが…き、消えたぞ!?」
「おい井淵!今のちゃんとカメラで記録したか!」
動揺する警察官たち。これは凄いな…、隣でそうつぶやくガンヘッドの声を聞きながら逆俣自身も息を呑んでしまう。声を荒げて驚愕を露わにする警察官達の傍へ、彼はそっと歩み寄る。未知を恐れて何がヒーローか、彼は腕まくりをしながらそっと壇上へと昇っていく。
「…よし、次は自分が行こう」
「さ、逆俣さん…」
「大丈夫ですよ、塚内さん。任せてください」
そう言って壇上の上に立つギャングオルカ。彼の背後では彼自身の部下達が額に汗を浮かべてその光景を見つめていた。覚悟など、とうの昔に決まっている。彼は安心させるように自身の部下たちへと片手を挙げて答えた。
手で、ゲーム機に触れる。
その途端全身から来るとてつもない虚脱感に襲われる。自身の中の一部が吸い取られて、抜けていく感覚。声にならぬ悲鳴をあげる。それでもなお、彼は雄々しく立ち続けた。眼前を見据えながら、彼はその場にいる全ての人間達に向けて最後の別れを告げた。
「プロはいつだって…命がけだっ!!先に行ってるぞガンヘッド!!」
そう言い残して消えていくギャングオルカ。彼の後にはただゲーム機だけが残されるのであった。