私のグリードアイランド   作:葉隠 紅葉

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第13話

 シソの木。それはグリードアイランドに来る全ての者が訪れる始まりの地である。

 

 そんな始まりの地に立った塔のような場所から、一人の男性が降りてくる。石造りの階段を降りながら彼は顔をひきつらせながらつぶやいた。

 

「これが…ゲームの世界…?」

 

  呆然とつぶやいてしまう逆俣。それは圧倒されるような光景であった。見渡す限りの大草原、幾つかまばらに生えた木々と草々がどこまでも歪で妙な現実感を演出していた。頬を撫でる風の心地をよそに、唖然としたまま彼はその光景に見入ってしまう。

 

 そんな彼らの元へ相澤とガンヘッドがやってきた。彼らはギャングオルカ…いいや、逆俣の姿を見ると仰天して思わず声を荒げてしまった。

 

「ギャングオルカさん!?その姿…」

 

「やはりそうなりましたか…」

 

「……」

 

 呆然とした様子で自身の手足を確認するギャングオルカ。彼の姿は…ただの人間であった。個性があったころのシャチという個性は消え、今の彼は正真正銘ただの人間である。

 

 見たところ、中東系の顔立ちとでも言おうか。彼の肌は浅黒く随分とホリが深い顔をしている。高く、まっすぐとした鼻筋にダークブラウンの瞳。髭を生やしている所から、渋い顔立ちのダンディーな魅力に溢れる男性であると言えた。まるでトレンディドラマにでも出ていそうな俳優のようだ。

 

 手も脚も、いたって普通の人間となんら変わりない。興味深げに自身の手足を振ったり手でそっと顔を触れるギャングオルカ。

 

「信じられない…こんなの…まるで…」

 

「…ギャングオルカさん、とりあえず移動しましょう」

 

「あ、あぁすまない…動揺してしまった」

 

「どこを目指すんですか?」

 

「ここから一番近い街だ、アントキバという街で……ん?」

 

『他プレイヤーが貴方に対し交信(コンタクト)を使用しました』

 

 ふと、声がする。取り出した相澤の本から、案内役である女の声がした。予め録音した音声か何かだろうか、それはともかく彼は本を開くと二人のヒーローにも聞こえるようにと彼らの傍へと近寄った。

 

『久しぶりねイレイザー』

 

「まさか…ウワバミか!もう大丈夫なのか…?」

 

『おかげさまでね、私もあれから教会へ行ったのよ』

 

「教会…そうか、お前も既に使えるようになったのか」

 

「本から声が?というかこれは一体…」

 

「シー…僕たちは一度静かにしてましょうよギャングオルカさん」

 

 本からする声の主と交信を取る相澤。どうやら通信相手と現状報告を行っているらしい。救援が来たと知らせる相澤の答えに彼女は嬉しそうに声を弾ませた。

 

『もうすぐ交信終了時間ね…それじゃ同行(アカンパニー)で向かうわね』

 

「待て、呪文がもったいないから入手ランクが低い再来(リターン)にしろ。アントキバの入口で落ち合うぞ」

 

「…何を言ってるか分かるかガンヘッド?」

 

「いやーさっぱりですね。これもこの世界のゲーム用語なのかな?」

 

 ガンヘッドが興味深げに相澤の本を見つめる。彼の目から見てもこれはとてもゲームの世界とは思えなかった。そっと地面を手で触れてみる。するとかすかに湿った土の手触りとぬくもりがそこにはあった。この感触は紛れもなく、どこまでも現実的であった。

 

 まるで現実からどこか別の場所へと飛ばされたとしか思えぬのだが…そう考えながらも彼は(かぶり)を振って相澤の後を追う。ゲームはまだまだ、始まったばかりであった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

 数日ぶりに訪れたアントキバの街並みは相変わらずであった。相澤はその光景にひそかに溜息をつく。好き好んで訪れたくなるような街並みでない事だけは確かだ。それでも時間だけは現実世界と同じように経過しているのが救いであるのかもしれない。

 

 二人の同行者、ガンヘッドとギャングオルカはその光景に驚きつつも見入っていた。とてもゲームの世界には思えぬその光景。街並みでホットドッグを売っている男性も、花を籠に居れて手売りしている少女も、全て造られた存在であるとしったらどれほど驚く事だろうか。

 

 ともあれ、まずは作戦会議である。そのまま街並みを数時間ほど共に散策した彼ら。手に入れた石や飲料水のカードを嬉し気に弄りまわすガンヘッドを連れた彼らは、中華料理屋へと脚を運んだ。相澤とウワバミ御用達の店である。

 

 現実世界でも見かけるような小汚い中華料理屋の内装に少しばかり面食らうギャングオルカ。そんな彼をよそに、彼らは合流したウワバミと共に流れるように指定の席へと座った。開口一番、相澤はガンヘッドに問いかける。

 

「ガンヘッド…なんでもいい。お前の意見が聞きたい」

 

「率直ですねー」

 

「この中ではゲームだのアニメだのに一番詳しいからな」

 

「うーん…第一印象としては凄く丁寧に造りこまれたゲームって感じですかね」

 

「…続けてくれ」

 

 水を、飲む。店員からサービスとして持ってきたグラスを傾けながらガンヘッドはその場にいる皆に語りかけるように持論を話しかけた。

 

「アイテム化が出来るものとそうでないものの境界線…あとは建物の中だとか、人が気にかけない部分まで丁寧に作りこまれてましたね…NPCの会話は少し杜撰でしたけど」

 

「確かに…NPCに関しては特定の会話にしか反応しなかったものね」

 

「RPGゲームにおいて重要な要素は幾つもあるけど…中でも重要なのはゲームシステム。つまりレベルアップとアイテムなんですよ。見た所このゲームはそれが非常に丁寧に設定されているんです」

 

「経験値は分かるけど…アイテムが重要なのかしら?」

 

「そうだなぁ。特に防御系呪文と攻撃呪文の関係性とか索敵に関する方法は凄いゲームバランスだと思います」

 

「ゲームバランス…」

 

「まぁそれは置いておいて…基本的なRPGゲームの流れはこんな所ですかね」

 

 そういってここに来る道中で購入してきた紙に何事かを記入し始めるガンヘッド。これは…紙というよりも羊皮紙か何かだろか。現代ではお目にかかる事などないような随分と質の低い紙をテーブルに広げるガンヘッド。その指の先を、彼らは目で追った。

 

 

・倒せない敵と遭遇

↓経験値上げorキーアイテムの入手

↓敵を倒し、ドロップアイテムを確保

↓アイテム&資金の活用の後冒険エリアの拡大

・倒せない敵と遭遇

 

 

「良作のゲームは例えそれがどんな初心者であれ、然るべき手順を踏めばクリアーできるようになっている点が共通してあるんですよ」

 

「つまり…このゲームもそのしかるべき手順を踏めば…」

 

「クリアとキーアイテムの入手は可能だと思いますよ…まぁまだまだゲームを始めたばかりの初心者の意見ですけど」

 

 ガンヘッドの言葉に思考する相澤。このゲームの場合のアイテム、とはカード化された指定ポケットカードと呪文カードの事だろうか。とすると今後情報を集めたり攻略を行っていくうえで入手した指定ポケットカードを駆使したりする必要があるのかもしれない。

 

 思考する相澤に対してガンヘッドが言葉を弾ませながら更に喋る。彼は自身の指輪をさすりながら呪文を唱えると、彼の呪文に起因してその場に変化が訪れる。

 

「にしても凄いですよねー’ブック’」

 

 ガンヘッドが唱えると、その呪文に呼応して突如空中から本が現れる。特徴的な図柄が書き込まれた本だ。その本の中には先程の道中や街中で手に入れたコモンカードが入っていた。コモンカードを手にした彼は嬉しそうに言った。

 

「いやー最新式のVRゲームを遊んでいる気分だ」

 

「遊んでいるんじゃないぞ」

 

「分かってますって…というかイレイザーさんに見せてもらったこのカードテキスト怖すぎません?牛を丸のみにする超巨大トカゲとか…」

 

「それでEランク…下から二番目の難易度の敵だ」

 

「おっと…やっぱりこのゲーム難易度やばいですね」

 

 アッハッハと冗談なんだか本気なんだかよく分からない言葉を口にするガンヘッド。実際に死にかけた身からすると非常に笑えない冗句だ。きっとこの男もこのゲームの悪質さを目の当りにしたら意見が変わるに違いない。

 

 苦い顔で水を飲む相澤に対して、隣に腰かけたウワバミが場に同席しているもう一人の男性に対して声をかけた。

 

「ギャングオルカ、貴方も会議に参加してよ」

 

「おっとすまない…いや、本当にすまない」

 

 片手鏡を覗き込むギャングオルカ。彼は未だに慣れぬ自身の顔に戸惑いを隠せない。彼は机に座ったまま自身の動揺を隠すように手鏡を懐へとしまった。

 

「まさか自分が普通の人間と同じような姿になるとは…」

 

「というかこの渋いダンディーなおじさまがあのギャングオルカだなんてまだ信じられないんだけど…」

 

「自分だってまだ信じられちゃいないさ」

 

「まぁ気持ちは分かるわ。私も同じ異形型だし」

 

「君の場合は蛇髪だったな。確か髪の先が本物の蛇になっているという」

 

「自分の個性なんて産まれた時からあったから…今も不安でしかたないわ」

 

「自分は…どうだろうな。喜び?それとも困惑か?なんとも言語化しにくい気分だ…」

 

 そう言って再び鏡をマジマジと見つめる逆俣。顔を右に、左に振ったり口元に手を当てて無理やり微笑んでみる。すると鏡の中の男性も同様に笑みを浮かべる。

 

 そんな彼の様子をどこか呆れた様子で見つめるウワバミ。彼女はため息交じりに彼に対して話しかけた。

 

「まぁ異形型は多かれ少なかれ影響が大きいでしょうね」

 

「あぁだが、異形型のせいで迫害を受ける同胞も少なくない。そんな人間にとってここは…一種の理想郷になりそうだ」

 

「…人が死ぬ理想郷だなんて嫌よ」

 

「む…すまない。無神経な発言だった」

 

 そういって謝罪をするギャングオルカ。そんな彼に対して苦い顔をしながら答えてしまうウワバミ。どうやらまだ死んだ同僚の事をひきずっているようだ。相澤は彼らの間に割って入るようにして話しかけた。

 

「話がそれているぞ…まとめよう。とにかく俺たちに必要なのは離脱(リーブ)の呪文カードの入手…そしてそれを得るための定期的でまとまった資金の入手だ」

 

「そのためにオーラと呼ばれる技術の習得が必須、でしたよね」

 

「そうだ、俺達戦闘班の最初の目的でもある。とにかくガンヘッド達にはこれから教会へ向かってもらう」

 

「ミルコは今も(エネミー)狩りをしているけど…呼ばなくて良かったの?」

 

「どの道二人を教会へと連れて行くのが先だ。目覚めるには時間がかかるからな」

 

「あぁなるほど、先に二人を教会へと連れて行った後に改めて合流ね」

 

 合点がいったとばかりにうなずくウワバミ。彼女は手元の本から幾らかの資金をギャングオルカとガンヘッドに対して渡した。彼女から手渡されたカード状の貨幣に対して興味深げに見つめる二人を尻目に、相澤はここに来る道中で例の女に消されたフリーポケットを憎々し気に見つめた。離脱(リーブ)の際にフリーポケットが消えるならもっと早くに忠告しろと思いつつ、彼は彼女から聞かされた話を思い出していた。

 

『カードをコンプリートすれば三枚のカードを現実世界へと持って帰る事が出来る』

 

 最初に来た当初こそその意味と価値に気が付けずに、あらゆる事態が起きたことで忘れていたがこの三枚のカードというのはとてつもない事なのではなかろうか。相澤は以前ミルコと共に手に入れたカードの一枚を眺めながら考える。

 

 

【コネクッション】

 

 『このクッションに誰かを座らせればその人は一回だけ貴方の願いを聞いてくれる。座った人の能力を超えてのお願いは無理』

 

 このカードテキストだけでとんでもない効果である。制限や限界はあるものの、願いを叶えてくれるなど…おとぎ話のような物だ。或いは性質の悪い洗脳系の個性のようでもある。これはゲームのNPCにだけしか使えぬのか、それともフレーバーテキスト…ゲーム上の設定だけの話なのか。

 

 カードや戦力に余裕が出てきたらこれらの要素も検証していく必要があるだろう。もしもこれらのカードが人間に対して本当に使えるのだとしたら…

 

 恐ろしいのはこれだけの能力を秘めていてBランクという事である。まさかそれらよりも更に上位ランクのカードにはもっととんでもない効果を持ったカードがあるのではなかろうか…

 

 そしてゲイン化して使ってしまえばこのゲーム内でも同様に使用する事が出来るという事でもあるのかどうか。これまではミルコと相澤しかおらず、離脱のカードを取る為に必死であった事から指定ポケットの収集と検証など悠長に行っている暇はなかった。だがもしもこれらのカードが悪用される事があれば…一体どれだけの被害が出てしまうのか。

 

 相澤はこの場にはいないマルチタップを使用したかもしれぬ例の人間達の事を思い出していた。もしもそんな存在たちと敵対したら…その時の為にいち早くこのゲーム内での練度を上げて、力を身に着ける必要がある。そう相澤は固く決心をした。

 

彼らと相澤達が出会う日はそう遠くない。

 

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