バーカウンターに座ったモラウが上機嫌のままグラスを傾ける。バーから見える窓の景色からは心地よい海のさざ波が聞こえ、穏やかな雰囲気を醸し出していた。時刻は深夜、港町ソウフラビもすっかりと月闇に染まっているのであった。
ウイングもまた、グラスを傾ける。酒と煙草をこよなく愛するこの同僚の身体からはほのかに香水と煙臭い香りがした。そっとアルコールを口に含みながら、ウイングは隣にいる彼に対してそっと問いかける。
「所で
「あいにく
魚のツマミを食しながら、上機嫌に答えるモラウ。モラウ=マッカーナシと言えば北欧ではかなり名を馳せていた有名人である。かつてイタリアで個性「煙」を持って活躍していたプロヒーロー、それが彼であった。確か聞いた噂では表の世界で名を馳せた結果、その腕と実力を見込まれてハンター協会に引き抜かれたらしい。
彼のようにプロヒーローからハンター協会へと引き抜かれるケースは珍しくもない。というよりも才能があればハンター協会には様々な業界から人材の引き抜きが行われる。ヒーローでも元
そう、この世界でもハンター協会は存在する。最も並行世界においては都会の一等地に巨大なビルまで建て強力な念能力者を2000名以上備えていた巨大な組織であったのに対し、このヒーロー達が存在する世界においては隠れ住むようにして小さなビルを持つだけの組織になってしまっていたが。
並行世界とは比べ物にもならぬ程規模が縮小してしまったハンター協会。一体この世界においてはなにが起きてしまったのだろうか。
念能力
かつてこの
これにより念能力者達は独自のコミュニティを築き上げた。裏社会において絶大なる影響すらもった彼らを人々はハンターと呼び、いつしかそんなハンターと呼ばれる戦闘に関するプロフェッショナル達はハンター協会という組織を立ち上げた。だがそんな社会も突如終わりを告げる。
個性の発現である
事の始まりは中国軽慶市。発光する赤子が発見された事から全てが変わった。この赤子の存在を契機に世界各地で超常的な能力を持つ存在が次々と現れる。そして世界の治安が…秩序が乱れてしまったのだ。影ながらこの治安悪化に対して活躍し、社会秩序形成に務めてきたハンター達。だが皮肉なことに個性絶対主義ともいうべきこの社会においては排他的な思想が流行した事が仇となる。
元々才能がなければオーラを感知するまでに何年もの時間がかかり、念能力の発露に至っては10年以上もの時間がかかってもおかしくない異能である。誰でも一定の年齢がたてば使用できる個性の方がより簡素であり実用的ですらあった。
だが、矛盾するようでもあるがやはり念というものは非常に強力でもあった。敵にすると恐ろしく厄介であり、味方として育てるには手間と時間がかかるこの異能。この力が後の社会の常識となってしまえば漸く落ち着いてきたこの個性社会の基盤そのものが揺らいでしまう。
かつて時の権力者達はこの念能力という物に恐れを抱いていた。なによりも超常黎明期という地獄が、人々の恐怖を煽り思考を狂わせたのだ。結果、あらゆる場所で排斥運動が起こる。そして念能力の衰退が始まって既に120年近い年月が経った。
間を悪くして【とある災厄】が起きたことが念能力者達にとって致命的な打撃となる。この【とある災厄】によって数多くの念能力者達が殺され、劇的にその人数と影響力が減少してしまったのだ。
そしてその後、更なる追い打ちをかけるかのようにおきた犯罪者集団による念能力者の虐殺が始まる。今ではハンター教会に所属する念能力者は200名にも満たない。あとはただ廃れていくだけの存在となっていた。
「ハンター協会の反応はどうですか?」
「揉めてるな。改革推進派と保守派で今も議論の真っ最中だ」
「ブシドラ=アンビシャスですか?」
「それと例の二人だな。脱会長派さ」
二つの事件によってハンター協会の権威は失墜、及び念能力者の数が劇的に減少した。その組織の立て直しを図っている間に世界はあっというまに個性社会を形成した。ヒーローという存在が産まれてまがりなりにも秩序が産まれてしまったのだ。
改革推進派は一般社会への一部【念】に関する情報の開示、及び素質ある念能力者の徴収と教育を行う事でハンター協会の立て直しを図ろうと試みる一派である。念能力者の存在が増えれば、悲願でもあったハンターライセンスの復活ができる。ハンターという職業が世界に返り咲き、形骸化していた権威と力がまた戻るのだと。
一方の保守派は『もうヒーロー達が社会で活躍してるしそれでいんじゃね?』と主張する会長とその思想を支持する派閥である。あとは血と技術を絶やさぬようにしつつ、裏社会でこっそりと生きていこうという事だ。ヒーローにもヴィランに属さない第三の勢力としていつか来る災害の日に、社会を陰から支えていくべきであるとの主張である。
なにせ念能力は劇薬である。強すぎる薬が毒にしかならぬのと同じことだ。念能力が一般社会にも公になってしまえばこの曲がりなりにも安定したヒーロー達による個性絶対社会の崩壊にも繋がりかねない。現状、念について知っているのはハンター協会以外では拠点を置いているヨーロッパ社会、その極々一部の政治家とスポンサー企業の幹部のみであった。その彼らですら、念について全てを知っている訳ではない。
「…無理もないですね。両陣営にとっても想像外の出来事だったでしょうし」
「まぁな。というか誰が想像できるんだ?こんなもん」
慎重にならざるをえず終わることのない議論を重ねるハンター協会、理事会の老人達にとってはまさに衝撃。寝耳に水といった出来事だったに違いない。なにせこのグリードアイランドは個性の有無や強さを問わずに関わったものを飲み込む魔のゲームである。ましてやそれが世界中に散らばっているのだから。これでは近いうちに念の存在そのものが世間にばれてしまう。
頭を抱えたハンター協会は絶対数が減っているハンター達を可能な限り集め、このグリードアイランド内へ放ったり、世界中で情報収集や事態の沈静化を図っているのであった。きっとこうしている今も世界中ではハンターたちが寝る間も惜しんで活動に明け暮れているに違いない。
モラウや他のハンター達のようにハンター協会に対して絶対的な忠誠心を持っている訳ではないウイングとしてはどこか他人行儀な話でもあった。お金を貰って依頼された以上は情報収集という与えられた役割をこなす事位は勿論行うが。
「しかし何度見ても凄いなこのグリードアイランドは。造った奴は狂ってる」
「
「ゲームって形式にした事がどうかしてるよな。一体何を考えてこんなものを…?」
溜息をつくモラウ。彼からすれば堅気の人間をも無差別に巻き込むこのゲームの存在は許し難いものなのだろう。ウイングからしてもこのグリードアイランドを作製した人物の意図も目的も読めない事がなによりも不気味であった。
ウイングとモラウは知らない。並行世界において作製されたグリードアイランド。ジンを初めとした超一流の念能力者達が11人も集って造ったこのゲームがたった一人の息子を強くするために造られたとは知らない。まぁ資金集めの為であったり、とある大陸を攻略するためのシミュレーションを想定してもいるという別の理由もあるのだが。
ゲームの基本コンセプトにおいては各種のプロフェッショナル達が分割して役割を担当している。人物やモンスターの行動は数百にも及ぶ基本プログラムとランダムプログラムを混ぜ合わせて造られていた。
また建物や各種ゲームイベントには何万という神字が隅まで埋め尽くされている念の入りようである。これだけの数の神字と電子プログラムを複合的に織り交ぜたそれは最早狂気さすら感じる。だがこんな事をして作成者には一体どれだけのメリットがあるのだろうか。そんなものを世界中に無償で散らばらせるだなんて…。
衰退した技術しか知らぬこの世界のウイングとモラウにとっては気が狂っているとしか言いようがないゲームであった。ゲームについて関われば関わるほど、その底の深さと完成度の高さに畏敬の念を抱いてしまう。
最も、彼らは根本から勘違いしていた。このゲームを作製したのは並行世界の念能力者であり、このゲームをプレイしているのはこの世界の住人である。だがこのゲームを並行世界からこの世界へと持ってきたのは別の存在、とある男の手による物なのだから。
これから事態は変化する。世界は、加速度的に変革を余儀なくされるのだ。
秘匿されていた念という存在によってこの個性社会はその男の望むがままに変わっていくのだろう。AFOもOFAも、ヒーローも
かつてヒーローと念能力者の大量虐殺を行い【とある災厄】を引き起こした彼という存在に。
A:ハンターハンター世界のウイング『心源流所属のプロハンター。現在は弟子としてズシを育成中』
B:ヒーローアカデミア世界のウイング『心源流所属のハンター。ただしハンターというのは肩書だけであり、形骸化。普段はNGO法人の職員として働いている』
AとBは並行世界の存在でありそれぞれ独立して存在。ただし実力も知識もA世界線のウイングの方が遥かに強いと思われる。