「グリードアイランドへようこそ、プレイヤー様」
「あ?」
「御案内役を務める、イータです。どうぞお見知りおきを」
ふと、目が覚める。相澤は見たことも無い空間に立っていた。壁一面に刻まれた謎の象形文字に、びっしりと埋め込まれたコード類。壁の模様は時折点滅を繰り返しており、地面からは時折妙な光源からの光が漏れ出ていた。
中でも目を引くのはまるで巨大な筒のように囲まれたその空間の中央部である。そこには宙に浮いた椅子がありその椅子には一人の少女が座っていたのだ。随分と特徴的なヘッドギアを着けており、その機械の端々からは美しい銀色の髪が見える。
その美しく整った顔立ちは人間味が薄く、にっこりとほほ笑む様はまるで人形のように現実味が少なかった。この部屋の妙な雰囲気と合わせるとどうだろう。随分とタチの悪いSF映画に出てくる電子空間のようではないか。
「ここはどこだ?」
「はい、ここはグリードアイランド。旅人達が集う欲望の島、グリードアイランドです」
「正直に吐け、目的はなんだ。暴力団の仲間か」
「これよりゲームの説明を行います。大切な説明ですのでどうぞお聞きください」
「お前達が集団誘拐事件の犯人か?お前の個性についても正直に答えろ」
「まずは指輪の授与を行います。利き手を前へと差し出してください」
「説明が遅れたな。俺はプロのヒーローだ……正直に吐かない限り、お前達を誘拐事件の関係者としてみなし、武力行使をせざるを得ない。もう一度言うぞ。お前らの目的を吐け」
「私共は旅人達の案内人。皆様への御案内をするのが役目です」
「…あぁそうかい。言い訳なら後で事務所でたっぷりと…っ!?」
地面を蹴り飛ばし件の少女、イータへと走り寄り拘束することを試みるイレイザーヘッド。瞬間、彼はいきなり地面へと膝をついてしまった。馬鹿な、個性を発動する瞬間など無かったはずだ!混乱する彼に対してイータはにっこりと微笑みながら会話を続けた。
「この空間ではオペレーターへの武力行使はゲームマスターによって禁じられています。もう一度先程のような暴力行為をなされますと規約違反としてペナルティーが下されますが宜しいですか?」
「……」
「はい、理解して頂けたようで何よりでございます。それでは再び説明を行いたいのですが構いませんか?」
「…ここはゲームの中か?」
「はい、ここはグリードアイランドです。貴方様にはこれからゲームをプレイして頂きます」
「…続けろ」
不愛想にそうつぶやく相澤。先殿彼女の会話から推測するに条件発動型の個性であることは間違いない。個性を行使したのは目前の彼女ではなく別の誰かの可能性もある。ワープ系の個性、それから体力を奪う個性。敵に回すと非常に強力な個性である。きっと今のこの状況も監視カメラか何かで随時観察されているに違いない、あまりにも厄介だ。
彼女は言った、ここはゲームの世界であると。つまりはそういう体裁なのだろう。狂っているとしか思えぬ言動である。だが彼女には厄介な能力があるのもまた事実、ここは一度奴の言うごっこ遊びに付き合うふりをして情報を集めなければならない。
なによりも誘拐事件に関与しているのなら人質がいる可能性がある。ひとまずはこの連中のたわごとに付き合って情報収集する必要がある。そう考えた相澤はいつでも動ける態勢を取りながら彼女へと言葉の先を促した。
「それでは…ここはグリードアイランド、数多の人間達の欲望がうずめく島です。貴方はここにひと時の夢と冒険を求めてやってきた旅人です」
「……なるほどな」
つまりは、そういう設定なのだろう。幻覚を見せる個性とやらの可能性も浮上する、ここまで手の込んだいたずらをする以上は眼前の奴は狂人で確定だ。
相澤は苛立つように貧乏ゆすりを繰り返しながらそっと女と、それから自身の周囲を可能な限り観察し続けた。もしも商品のタグやら窓からの景色、犯人たちが身に着けている証拠品の一つでも落ちていればそこから足跡が追えるのだが…残念な事にその空間は塵クズ一つ落ちてはいない密室であった。
周囲を隈なく観察しながらも決して自身から目を離そうとはしない挙動不審な男に対して微笑みながら、イータは自身の懐から箱を取り出した。掌サイズの小さな箱が、宙を漂い相澤のもとへとやってくる。その箱の中には、これまた美しい装飾が施された指輪が一つ入っていた。浮遊系の個性までもっているのか…、と相澤は小声で小さくつぶやいてしまう。
「この指輪を身に着けてください」
「……拒否したらどうなる」
「はい、ペナルティーとなります」
「……」
しぶしぶと彼女の言うことに従う相澤。その指輪には見たことも無い象形文字がびっしりと刻まれており、どことなく地方民族の工芸品でも彷彿とさせるデザインであった。自身の人差し指に、無言のまま嵌めてみる。不思議とその指輪は彼の人差し指にぴったりとはまるサイズであった。
「このゲームのセーブデータは全てその指輪に記録されます。決して紛失されないようにご注意ください」
「……続けろ」
「このゲームでは、その指輪を嵌めれば、どなたでも使える魔法が二つあります。それでは指輪を嵌めた手を前方へとかざし’ブック’と唱えてください」
「’ブック’……あのなぁ、一体これで何が…っ!?」
突如、空中から本が現れる。それは見たことも無い文字が刻印された本であった。中央には連なるような円が幾つも並んでおり、その周囲には四つの小さな三角のマークが並んだ特徴的なデザインが装飾されている。
馬鹿な
あり得ない!
一体どういう手品なのだろうか。思わず本を握りしめ動揺してしまう。これも幻惑系の個性なのだろうか。しかし、この本の手触りも指先の感覚も、どう見ても現実にしか思えない。にもかかわらず彼がブックと唱えるたびに目前の本は消失したり、また出現したりを繰り返す。
「このゲームは指定されたカードを集める事が目的です。そちらの
「本が…あり得ない…」
「ページをめくって頂けますか?番号が割り振られたカードポケットを御覧下さい」
「……これか」
「その一冊の本で指定ポケット100枚・フリーポケット45枚分のカードを収める事ができます。プレイヤーの皆さまは指定ポケットカードを100枚、コンプリートする事で見事ゲームクリアとなります」
「…まさか、これは本当にゲームなのか」
「はい、グリードアイランドは皆様に楽しんで頂く為のゲームですよ」
全力で頬をつねる。無論、頬をつねったことで相澤は鈍い痛みを感じてしまう。この頬の痛みこそが夢ではないことを彼に証明する。だが、それならば尚のことおかしい。この空間も、宙に浮いている女も、突如現れたこのも、全てが現実という事になってしまうのではなかろうか…。
皮肉なことにここに来ることなった経緯は全て覚えている。謎のゲーム機に触れた事で、全身の力が抜けた事も。自身が消えゆく瞬間の部屋の光景も。最早全てが異常であった。最も異常な事はこの目の前の光景が、相澤自身が
異形型を除く全ての個性は相澤ならば消す事ができる。ならば、消す事ができない目の前の超常現象は本当に個性によるものなのだろうか…
「……1つだけ聞かせろ。もしも、これが本当にゲームだとして…既に中に入った人間はいるのか」
「はい、現在211名の人間がゲームをプレイしています」
「に…211名…」
200名以上もの人間がこの狭い空間にいるとはとても思えない。ならば、別の空間へと送り込まれてこの狂人達の言うゲームとやらに参加させられているのかもしれない。ゾクリとした怖気が相澤に走った。目の前にいる奴らは善悪を通り越した狂気だ。絶対に許してはならない
「はい。そのうちのほとんどのプレイヤーが始まりの街から出る事も出来ていません」
「…なるほどな。そういうやり口か…っ」
「このゲームに入った場合、プレイヤーの皆様は’とあるアイテム’を手に入れるか。またはゲームをクリアするまで元の世界へと帰還する事はできません」
「…ゲーム内で死亡した場合はどうなる」
「はい、ゲーム内での死は現実世界での死を意味します。その場合プレイヤーデータは消去されます。
「そうか分かった。お前らの薄汚い魂胆はよく分かった」
はっきり言ってこれはあまりにも非日常的であった。これが一体どんな個性なのか、そもそもどのような原理であれば再現できるのか。それらも一切が不明なこの状況。仮に電子的な…それこそ魂を操る個性があったとしよう。そのことを加味してもあまりにも不可解で不可思議な現象だ。だが何にせよ、目の前にいるこの女達の目的は分かった。
この女は一般人へ危害を加える事を楽しんでいる
つまり、憎むべき快楽殺人者の類だ
相澤の心は決まる。被害者がいるのなら、助けを求める人間がいるのなら。立ち上がるのがプロヒーローなのだから。まずは情報収取だ、機を見て外にいるヒーロー達へと連絡を取ってしまえば、晴れてこの狂人共は
「まっていろ
「それが貴方のお望みなのでしたら。改めてようこそ、グリードアイランドへ」