私のグリードアイランド   作:葉隠 紅葉

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第22話

 グラントリノ、本名を酉野空彦と言う。そんな彼は現在甲府市のとある住居に拠点を構えていた。

 

 とある平日の事である。彼はリビングに設えたソファに腰かけながらゆっくりとお茶を呑んでいた。穏やかな午後の昼下がりであった。そんな最中に突如来客用のベルの音が鳴る。どうやら客人らしい。

 

 開いた扉から独りの男がやってきた。まるで骸骨のようにやせ細った彼は申し訳なさそうな顔を浮かべながら中にいる空彦に対して謝罪した。

 

「お、遅れてすみません…」

 

「良い。気にするな俊典」

 

 どうやらここに来る道中で事故に合っていた人々の救出活動を行っていたらしい。そう、目前の骸骨のようなこの男、彼こそがNo.1ヒーローオールマイトなのである。オールマイト改め八木俊典が自身の前に座ったのを確認すると、空彦は口火を切るように話しかけた。

 

「今日呼んだのはちょっと電話ではしにくい話でな」

 

「盗聴を警戒しての事ですか?」

 

「全てだ、ちと厄介ごとに成るかもしれないんでな」

 

 グラントリノの言葉に首を傾げるオールマイト。だが、そんな彼の表情もとある物を目にすると一変する。どうやらそれは…一枚の写真であるらしい。

 

 写真の中にはとある一人の男が写っていた。グラントリノは懐からそれを取り出すと彼に対してそっと差し出した。

 

 写真の裏に書かれた情報から察するに数日前、宮城県仙台市で観測されたらしい。その写真の男を見て目を見開いて驚愕するオールマイト。彼は震えるような口調でグラントリノに対して問いかけた。

 

「こ、この写真の男…彼を一体どこで…?」

 

「宮城県の仙台市だ。何か事件を引き起こしたって訳じゃない…ただ調べた奴が俺に対して何か情報はないかと聞いてきたんだ」

 

「……」

 

「国際犯罪者データベースにかけたがどうやら此奴は第一級の犯罪者らしい。だが、犯罪記録には詳細が何も残っていなかった。この時点で不自然すぎる…どうにも闇が深い気がしてな」

 

 犯罪者データベース。指紋、犯罪歴、身体情報ありとあらゆる情報が記録され永遠に補完される。無論、個性を初めとした戦闘力も例外ではない。にもかかわらず彼に関するありとあらゆる情報が記録されていなかった。

 

 そんなデータベースに男の顔だけが載っているという不自然な事態。

 

 ただトップクラスに危険な人物であるとの情報。デッドオアライブ。彼の生死に関わらず殺害まで許可されているという恐ろしさである。通常敵といえど人権は保証されている。殺害許可などヒーロー、ましてや国から降りるはずもない。にもかかわらず見つけた場合軍事力を以てしても彼の殺害を認めるとアメリカを初めとした先進諸国が認めたらしい。

 

 

「一時期は海外に飛びまわっていたお前だ。この男についても何か知ってるんじゃないのか?」

 

「彼は…一度戦った事がある相手です」

 

「そうか()()()()()()()()()()()()()()か」

 

 疑う事なく、そう口にするグラントリノ。彼はお茶に湯を足すために給湯ポッドに手をかけながら話しかけた。目の前にいる男はNo.1ヒーローである。当然、彼が戦ったというのなら捕縛したのだろう。ならば情報がないのは一体どういう事なのだろうかと。

 

 彼は二人分の茶を淹れながら話の先を促した。額に大きな汗を浮かべたオールマイトは言いにくそうに、彼に対してこう告げた。

 

「いいえ違います。勝てなかったのです」

 

「は?」

 

「私が()()()()()()()()()()()()()()()()です」

 

 手が、止まる。お茶を呑もうとしていた手がびったりと止まり、思わずオールマイトの顔を見つめてしまうグラントリノ。今なんといったのだ。彼の言葉を脳内でもう一度再生し、その意味を理解し困惑する。

 

「全盛期のお前をか…?」

 

「…はい」

 

 思わず絶句する。俊典の言葉にひきつった表情を浮かべるグラントリノ。全盛期のオールマイトを返り討ちにした相手だと?一体どんな馬鹿げた強さを持つ相手なのだと。

 

 これには誤解が生じている。実際には全盛期のオールマイト以上の戦闘力を持つ実力者である。その実力者こそが、かつて米国とヨーロッパ諸国において暴れまくった猛者。ヒーローと念能力者を粛清して恐怖を轟かせた男なのである。

 

ヒーロー482名

念能力者557名

 

 これだけの存在を壊滅させた男である。それも集団ではなく、たった独り。単独で行った歴史上初の最大殺害数である。他にも軍用戦車、軍事用ドローン、爆撃機など彼が破壊したその被害総額は莫大な金額となる。

 

アメリカの軍事力27%

ヨーロッパ連合軍の戦力22%

 

 これだけの戦力をたった一人で削り切ったとすら言われているが…真実は誰にも分からない。無論、この数字ですらも全てではない。

 

 当時のヨーロッパ諸国はこの馬鹿げた戦力を持つ彼という存在を秘匿した。たった一人に負ける軍隊などに誰が投資をし、安寧を預けられるというのだろうか。この事が公になれば国家の存続にも関わる。

 

 当時の政府達は彼の存在を秘匿し、事件の存在をデータから抹消した。S級犯罪者として記録だけは残し、いつの日か人類が彼を討伐する事を夢見て。

 

 当時AFOの脅威がアジア全域にまで広まっていた悪の全盛期である。この脅威にアジアが震え、一丸となって迎えていた同時期にヨーロッパでは彼が猛威をふるっていたらしい。故に手が、情報が回らなかった。裏を返せばAFOの脅威に対してヨーロッパから応援の戦力をよこせなかったのはそういう事情があったからなのだろうか。

 

 そんな謎の人物がここ日本の、東北地方に現れた。これは一体何を意味するのだろうか。グラントリノは硬い表情のまま目前でうつむく彼に対して問いかけた。

 

「率直に聞くが…この男を倒すにはどうすれば良いんだ?」

 

「全盛期の私以上の戦力を持てばあるいは…」

 

「実質不可能じゃないのかそれ…」

 

 オールマイトの言葉に押し黙る。馬鹿げた話である。全盛期のオールマイトの強さなど子供でも知っている。弾丸よりも早く駆けつけ、倒壊する摩天楼のようなビルを平然と押さえる。蹴りだけでモーゼの如く海を割り、打ち付けた拳の風圧だけで天候すら変えたこの男。

 

 そんな男が全力を出しても勝てなかった…?

 

「そいつはAFOじゃないのか…?顔や姿を変えただけかもしれんだろう」

 

「いいえ、断言できますが完全に別人です。戦力だけなら私達以上の存在です」

 

「強さはAFOやOFA以上だとっ!?どんなバケモンだ!」

 

「同じ種族であるとはとても思えぬ位強く…何よりも巧いのです」

 

「ぎ、技術か?」

 

「技術、経験、学習速度…そして才能。全てが同じ人間とは思えぬ程に優れていました」

 

 グラントリノは深く、溜息をつく。この男にここまで言わせる相手がいるなどとは。すっかりと冷え切ってしまったお茶を端へと寄せながら彼は大きく息を吐いた。こんな時に下らぬ嘘をつくような男ではない。そんなこと、誰よりも知っている。

 

「そんな奴の存在をなぜ黙っていたんだ…」

 

「彼との戦闘の後、AFOが襲ってきたのです。警察も政府も、国民も…みなが敵達の来襲に怯えその対応に精一杯の時代だった為…」

 

「だからと言って説明しないのは…まぁ過ぎたことか」

 

 確かにAFO以上の存在がいると聞いて穏やかで居られるものなどいないだろう。話を聞くにその例の男が活動していたのはヨーロッパらしい。ここアジア、中でも日本では一切の活動を行っていなかったというのだから優先すべき脅威に備えたというのはおかしな話ではない。

 

 そもそも報告自体は然るべき機関に行っており、公表しないと決めたのは当時の政府首脳と総理大臣の判断らしい。現在でも彼の存在を知っているものは極々僅かであり、その全貌を把握している者に至っては皆無である。

 

 これはそうなるように彼に追従する者たちが裏工作を行った結果でもあるのだが…。ともあれつくづく権力者というものはろくな判断をしないものだ。

 

 AFOの討伐が成功したら彼を倒しにいこうと決めていたのだが、俊典はその戦闘の結果大傷を負いリタイア寸前に。やがて例の男は表舞台から姿を消した為詳細が分からなくなったという。

 

「問題はそいつの目的だ。今、なぜこの国に現れたかだな」

 

「彼はこう言っていました。腐った存在に鉄槌を下す。粛清と制裁によって変革を促すと」

 

「理想主義者か…厄介だな」

 

 この手の手合いの人間は自分が間違っているとは認めないものだ。正義感やら信念が強いまじめな人間が拗らせるとこうなる。オールマイトは勝てなかったという悔しさに、ヒーローとしての責務を果たせなかった己自身の弱さに顔を歪めていた。

 

 実際彼の存在を知っていれば評価は別である。彼と戦闘を行い、五体満足無事で逃げる事が出来ている時点でオールマイトは十二分に凄いと評価できる。超人とすら言えるだろう。

 

 それだけ彼という存在の強さは断絶している。彼はおよそ種族というもの、否生物としての次元からして異なった存在なのだ。

 

 

「一応ヒーロー達に警戒だけはさせておくか」

 

「グラントリノ…もしも彼を見つけたらその時は私が行きます」

 

「…話を聞いた限りでは全盛期を過ぎたお前では無理だ」

 

「しかし…っ!」

 

「なぁにヒーロー飽和社会とも呼ばれているんだ。皆が協力すれば越えられぬ壁などないさ…Plus Ultraだろ?」

 

 声を強くして主張するオールマイト。そんな彼に対してグラントリノは力強い顔で答えた。気たるべき次世代も育ってきている。頼れるヒーローも多々存在している。彼は信じているのだろう。この国に住むヒーロー達が協力すれば、と。かつての過ちと苦しみを、自分たちはきっと乗り越える事ができるのだと。

 

 彼らは知らない。例え何千人というヒーロー達が束になってかかろうとも、彼を倒すことは不可能であるという事を。

 

 彼という存在は最早この世界においてはバグにすら等しい。この脆い世界という存在は彼の気まぐれだけで成り立っている事を。

 

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