照りつける太陽というものは例えどの世界にあっても煩わしく、そして生命に欠かせぬものらしい。例えゲームの中であっても現実同様にまばゆく照りつけるその陽光の下に彼はいた。拠点としている街とホテルからさほど離れていないその森林地帯にて、彼は鍛錬を行っていた。
意識を集中させる。徐々に自身の肉体にオーラが通っていくのを自覚する。まるで血液のように、自身の体内を駆け巡るエネルギー。もっとだ、まるで火薬を扱うかのように神経を集中させるギャングオルカ。
思えばこうして能力を発動させるという行為は久しい。自身の個性は異形型である。あまり意識せずとも能力の発動自体に苦労したことはない。だからこそ新鮮な感覚だ。日々めきめきと向上していくこの感覚は癖になる。座禅を組みながら丹田に意識を張り巡らせる、そんな彼に対して突如一人の男がやってきた。
「ギャングオルカさん!やりましたよ!!」
「うぉっ!?」
背後から大声をかけられたことで気がそがれてしまう。溜息をつきながら、ギャングオルカはそっと彼の方を振り返った。背後に立っていたのは弾けるような声をした男、ガンヘッドであった。
「いきなりどうした、ガンヘッド」
座禅を中止し、地面に手を付きながらそっと立ち上がる。修行を中断されて少しばかり不機嫌そうだ。だがそんな彼の様子を知ってか知らずかガンヘッドはなおも声をかけた。
「これですよ!これ!」
「これは…?」
「このカードがあれば全員救えます!」
そういって自身の本を見せてくる彼。どうやら解析の結果が身を結んだらしい。ガンヘッドが行っていた調査で良い結果でも出たという事なのだろう。
マサドラの魔法都市へと行き呪文カードを収集する。そうして離脱のカードを収集していたヒーロー達だったのだが、カードには無論アタリもあればハズレもある。そうして出たハズレのカードを定期的に使用したり他の使い道がないか研究していたのが彼なのである。
解析
指定した番号のカードの説明を視る事ができるこの呪文で調べたカードにアタリがあったらしい。その内容を視たギャングオルカは息を呑んだ。それはまさしく自分たちが望んでいたカードだったからだ。
「挫折の弓…っ!?」
「そう、この指定ポケットカードです!」
「な、なるほど。確かにこのカードがあれば…っ!」
【挫折の弓】
カードNo86 ランクA
装備すると弓の数だけ
なるほど、確かにこれが使えれば従来の離脱のカードよりも遥かに効率的に人を現実世界へと退去させる事が可能だ。だが、これだけでは…興奮しているガンヘッドに対してギャングオルカは眉をひそめながら静かに告げた。
「だがこれだけでは10人しか離脱させられないだろう…今このゲームには数百人もプレイヤーがいるんだぞ」
「いいえ、違うんです。その問題は大丈夫なんです」
「なに…?」
「
「なんだかにぎやかね」
「ウワバミさん!ウワバミさんも聞いてください!これでみんなゲームから脱出できます」
きょとんとした顔で首をかしげるギャングオルカ。そんな彼らの元へウワバミがやってきた。どうやら交代の時間らしい。彼女は部屋の中に入ると興奮した様子で話をしている彼らの元へ歩み寄ってきた。いぶかしげな表情をする彼女達。だがガンヘッドからの説明を受けるとなるほどと納得をした。この方法であれば、大勢のプレイヤーを救う事が出来る。ギャングオルカは深く頷くと手をたたいて喜んだ。
「そうか!なるほど」
その方法とはこうである。プレイヤーAの本の中身を全て仲間のプレイヤーに預け、中身を空にする。Aの本に【挫折の弓】だけいれる。Aの本に対してBが
なおこの方法で使用しても複製したカード自体はコンプリート対象に含まれる。ゲームとしては正規の手段で入手したとみなされるのである。ゲインとして使用する事も問題なく可能なため、並行世界のプレイヤーにとっては必然とも言えるテクニックでもあった。また、余談ではあるが同様の方法として擬態(トランスフォーム)と呼ばれる呪文カードを使用するテクニックもあるが…こちらは入手難易度はAであり、実現難易度は高くなる。
ともあれこの方法に早期の段階で自力で気が付く事が出来たのはガンヘッドが持つプレイヤーとしてのゲームスキル故にかもしれない。挫折の弓を複製し続ければ…このゲームのプレイヤーを全員退出させる事だってきっと可能だ。
「やるべき方向は決まってきたわね」
「あぁイレイザー達にも知らせて行動しよう」
「となると後はこのカードの入手を最優先ですね!さっそく
「ちょっと待って…
「え、なぜです?他のプレイヤーなんか居ないでしょう」
「いいからやってみて。呪文カードに余りはあったはずでしょう」
「は、はい…」
渋々ウワバミの助言にしたがうガンヘッド。
疑問に想いながらも呪文を行使するガンヘッド。時をまたずしてゲームマスターである少女の声がし、呪文結果がガンヘッドの本に反映される。その行使結果にぎょっとして動揺してしまう彼。なんということだろうか。その本にはあまりに無慈悲な結果が載せられていた。
「そ、そんな馬鹿な…」
「どうした?」
「11本は既にカード化済み…だそうです…所有者は2人のゲームプレイヤー…」
「まさか…とすると」
ガンヘッドからの言葉にギャングオルカ自身も消沈とした様子で応えてしまう。彼の言葉が正しければ…他にも着実にゲーム攻略を行っているプレイヤーがいるという事だ。そしてそいつらはこのカードの価値と呪文カードの仕組みにいちはやく気が付いたという事だろう。2人が分散して複数枚もっているのは強奪対策かはたまた…
ともあれこれで事態は前進した。ヒーロー達からすれば挫折の弓をもっている人物は非常に強力な実力を持っているという事である。この事件の犯人かもしれないし、例えそうでなくとも協力を仰げればこの謎の解明にも役立つだろう。
彼らに接触をするか
呪文カードでカード争奪戦を行うか
ヒーロー達は選択を迫られていた。
なお、呪文カードを占有していたのはスピリッツを含めたハンター協会組である。ハンター協会からすればゲーム外への大量の一般人の出入は混乱をまねくため抑えておきたいという意思の元行われた事だったのだが…なのだがそれが今回は裏目に出た。
新たな価値と社会の形成を目論む仙水
念の価値に気が付き始めたヒーロー達
今後の方針を決めかねているハンター協会
この世界の行く末はどうなってしまうのか。それは誰にも分からない。
「この場合はどうなるんだ…」
「おそらく…カードを独占している連中に使用させればカード化が出来るはずです。」
「或いは…呪文で奪うか…あぁそれでこんな名前だったのか」
「……?」
「違和感を持ったのは攻撃呪文と防御呪文の枚数と関係性、それからカード化限度枚数が少なすぎる点です」
「確かにそうね、200名もの人間が行動しているのに上位ランクのカードは数十枚もカード化出来ないなんてあまりにもバランスが悪すぎる気がするわ」
「けれどそれらは全部前提条件が違っていたとしたら…」
「つまりはプレイヤー同士による貴重なカードの奪い合いが前提というゲーム…だからこのゲームのタイトルがグリードアイランド(強奪の島)なのか」
大きなため息をつく一同。果たして彼らが念願のカードを手に入れる事ができるのか否か。事態は急速に進み始めていた。