私のグリードアイランド   作:葉隠 紅葉

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第33話

 懸賞の街アントキバにはいつだって夕暮れが訪れる。太陽が落ちかけたころ、街並みは変わり、やがて街の周囲には飲食の為の出店や軽食の為のベンチが現れだすのだ。街灯が灯り出す時刻を頃合いに、突如地面から屋台やゴミ箱等が出現し始める。それに伴って街内を闊歩するNPCも異なった服装を身にまとうのだ。

 

 どこからともなく太鼓やハープの音楽が鳴り出し、周囲にはエスニックな音楽が流れ出すのである。まるでお祭り、縁日のような賑わいを醸し出すそこは現実世界から来るプレイヤー達にとっての憩いの場となる。ここでは食事も休息も、ほんの少しの娯楽も存在する夕暮れの街なのだから。

 

 実に異国情緒溢れる景観である。あらゆる文化が入り交じりここでしか見られぬ光景となっている。どこからともなく肉が焼ける芳醇な香りが漂い、周囲には酒に興じる人々の笑い声が流れてくる。そんな街並みのとある店に彼等はいた。テラス席に座ったその三人は随分と異質な見た目をしていた。

 

 一人は金髪で筋肉隆々の男性であった。はち切れんばかりの大胸筋、太く逞しい両足。彼の上腕二頭筋は膨れ上がっており、来ているシャツを押し上げていた。加齢により少々衰えている物の、それは紛れもなくNo1ヒーロー【オールマイト】であった。そしてそんな彼の隣に腰かけているのは金髪の美少女であった。

 

 シルクのように美しく、端正な顔立ちをしたその少女。彼女の透き通るような肌には一切のシミがなく、その顔の造形はモデルも顔負けな程に整っている。まさに非の打ち所の無い美少女であった。そんな彼等…いや、オールマイトに対してエンデヴァーは強い口調で問いかけた。

 

「何故貴様がここにいる!オールマイト!」

 

「まぁ落ち着いてエンデヴァー…この焼き鳥食べるかい?」

 

「喰うか!」

 

「あっ…ビスケさん!一応みんなで乾杯を…」

 

「せんと言ってるだろうが!だからその子供は誰なんだと聞いている」

 

 そういって苛立ち交じりに拳を握るエンデヴァー。背丈の大きい成人男性である、彼が険しい顔をするだけでそこらの女子供なぞ怯えてしまう事だろう。だが一方のビスケはというと、そんな彼の様子に一切惑わされる事なく、彼女は呑気に料理へと箸を伸ばしていた。

 

 彼女は頬に手を当てその美味に酔いしれる。異界の料理に舌包みを打っているその様子だけを見ると幼い子供のようにしか見えなかった。だがエンデヴァーは彼女のソレに気が付いている。彼女の行動には一分の隙すらない事に。

 

 彼女が箸を向け、食事を行うその動作。それらの行為には一切の隙と呼べる物がなかったのだ。人間というものは食事と睡眠…及び排泄時など生理的な行動を取る時にはどうしても無防備になるものだ。

 

 だが、彼女にはその隙と呼べる物が存在しない。例えどのような事態に陥ろうとも彼女は瞬時に適切な行動を取るだろう。まるで武道家そのものと言った佇まいにエンデヴァーは内心舌をまく。そんな中、彼女が口を開いた。

 

「そりゃ私が指導役についたからよ」

 

「指導役…?」

 

「そうよ、念のスペシャリストとして派遣されたの」

 

「まさか例のなんちゃら協会とやらのか」

 

「そうよ、オーラの使い方と念をオールマイトに指導しろっていう依頼(ビジネス)でね」

 

「……」

 

「その事については私からも説明するよ、エンデヴァー」

 

 オールマイトは彼女の空いたグラスに飲み物を注ぎながら、エンデヴァーに対して説明を行った。どうやら、彼もつい最近このゲームの存在を知り、この世界にやってきたばかりらしい。オールマイトはその逞しい腕でビスケとエンデヴァーに対して料理を取り分けながら静かに語り出す。

 

 オールマイトの言葉によると日本政府とハンター協会は共同戦線を張る事に決めたようだ。彼の言葉に対してエンデヴァーはピクリと反応を示す。

 

「仙水…と呼ばれる恐ろしく強い男がいる。彼の為に対策チームを組む必要があったんだ」

 

「仙水…聞いたことがない名だな」

 

「恐らく彼の事を詳しく知っている人間はいないだろう。彼と直接対峙して生き残っているヒーローはごく僅からしい」

 

「……」

 

「…私達は備える必要があるんだ。これからの変革する時代に」

 

 そう重く発言をするオールマイト。聞くとこの為だけに彼は特別休暇を取ってまでゲームに来たらしい。雄英学校の教職員でもあった筈の彼だが、再び鍛えなおす事に決めたらしい。事情の変化と政府からの要請…はたまたその両方の理由の為か。

 

 ハンター協会からは協会員の派遣、及び念の指導を行う事。そして日本政府はその対価として協会への金銭的支援とオールマイトの戦力派遣を行う事が決定したらしい。

 

 一連の事情、そこまで話し終えたオールマイトは溜息をつきながら食事に箸を伸ばし始めた。どうやらよほどその仙水と呼ばれる男が気にかかっているらしい。一方のビスケはというと焼き鳥を嬉しそうに頬ばりながら夕暮れに佇むアントキバの街並みに視線を向けている。おいしそうに二本目の焼き鳥に手を伸ばす彼女、ビスケは何気なしに言葉を返した。

 

「それで私が選ばれたって訳だわさ」

 

「だわさ…?」

 

「そうよ、ここ(グリードアイランド)なら色々と都合も良いし…」

 

「ま、ともかくそういう訳だからこれからよろしくね!」

 

「どうでも良いが貴様、随分と機嫌が良くないか?」

 

「HAHAHA!健康になって最近ハイになってるからね!」

 

「健康…?」

 

「うん!体はもう絶好調!まさか私も不治の病が治るとは思わなかったよ」

 

「いや、待て!不治の病とはなんだ貴様!?」

 

「…あっ」

 

 つい、うっかりと口を滑らしてしまうオールマイト。思わぬ失言に、額から汗を流してしまう。そんな彼に対して、エンデヴァーは詰め寄るように問いかけた。彼が拳をテーブルに叩きつけた事により、机上の料理がわずかに動く。彼の怒声に対しても、周囲のNPCはなんら反応する事はなかった。

 

 ちなみにハンター協会はというと対仙水戦によって減った戦力の補充、及び金銭的支援を求めて日本政府に打診を行ったらしい。此度のグリードアイランド騒動で主軸となっていた日本は金持ちの国であり、数多のヒーロー達が集うヒーロー大国でもある。そしてその頂点に立つのがNo1ヒーローオールマイトなのだ。彼らがオールマイトという存在に目を付けるのは至極当然の事だろう。

 

 なにせ仙水忍との三日間にも及ぶ死闘を繰り広げた男である。これは例え熟練の念能力者であっても真似できぬ偉業である。これまでの活躍からしても、彼は貴重な戦力と成り得るだろう。そんな彼がもしも念を覚えたならば、と協会の上層部が考えるのも無理はない。

 

 きっとハンター協会は彼に念を覚えて貰い懇意の関係になれれば上等とでも思っていたのだろう。或いは、ヒーロー界のNo1が協会員の元、念を学んだという事実こそが或いは重要なのかもしれないが。

 

 だが、そんな打診に困ったのは日本政府である。極々一部の上層部、及び関係者しか知らぬことだが彼は既に重症によりリタイア寸前の存在であった。一月後に死んでもおかしくない身。両組織間での会合の末、故に藁にもすがる思いでこのグリードアイランドのリターンに手を出したのだ。

 

オールマイトの完全復活

それこそが仙水を倒す鍵になると

 

 そうして派遣されてきたのはハンター協会からやってきた熟練の念能力者達である。彼等によってゲームの攻略は劇的に進んだ。そんな念能力者達と共にプレイをしたのは相澤とミルコを初めとした初期にプレイを開始したヒーロー組であった。彼等に揉まれ、対人訓練を繰り返した結果、ヒーロー達の念能力は飛躍的に向上したらしい。

 

 ゲームをプレイした際に得られた2枚のリターンこそハンター協会によって優先的に確保された。が、残りの一枚枠として日本政府とプロヒーロー達は大天使の息吹を確保したという事らしい。そしてその虎の子の大天使の息吹によってオールマイトは全盛期の肉体を取り戻す…とまぁここまでが日本政府の事情である。

 

 健康になったのも束の間、彼はこのゲームに参加する事になる。彼が協会から派遣されてきたビスケット=クルーガー氏と出会ったのはつい数日前の話であった。OFAの譲渡の件は既に両組織の上層部には伝わっているらしい。この件については一悶着あったのだが…それはまた別の機会に後述する事にしよう。視点を彼等へと戻す。エンデヴァーはオールマイトに対して詰め寄らんばかりに大声を出した。

 

「つまり、瀕死の重症であったと…貴様!なぜ黙っていた!!」

 

「…済まない、これに関してはまだ詳細は明かせないんだ」

 

「くぅ…まぁ良い!これでまた第一線に戻るのだろう?」

 

「まぁそうだね…うん」

 

「話終わったー?ワインを追加注文するけどあんたらは何か欲しいのある?」

 

「あっ私はお茶で!」

 

「俺は水で良い…じゃない!お前は未成年だからアルコールは駄目だろうが」

 

 楽し気に会話をする筋肉隆々の男性と金髪の美少女。そんな彼等に対して苛立ち交じりに告げるエンデヴァー。成人が酒を注文するのは構わないが目の前の少女が酒を注文するのはいかがなものだろうか。オールマイトこそこの事に対して注意をするべきはずだろうに。エンデヴァーはビスケの手からメニュー表を取り上げると苦々しく言葉を紡いだ。

 

「そもそも貴様は何故そいつに敬語を使っているのだ」

 

「そりゃこれから念を教わる訳だし…あとこの人、私達より年上だから」

 

「…は?」

 

 オールマイトの思わぬ言葉に、思わず呆然とする。ちょっと待て、どういう意味だと。その姿はどう見ても少女にしか見えなかった。エンデヴァーはひきつった表情を浮かべながら、オールマイトに対して小声で問いかけた。

 

「…どうみても10代なのだが」

 

「うん、私も腰ぬかしそうになる程驚いた。でもこう見えても57…」

 

「オホホ…今何か言ったかしら」

 

「じょ、女性に対して年齢の話は失礼だったかな!」

 

 ビスケのおしとやかな微笑に対して、汗を浮かべながら背筋を伸ばすオールマイト。笑顔の裏に隠された恐ろしい圧力(プレッシャー)である。ムキムキの肉体を心なしか縮ませながらごまかすように食事を続けるオールマイトの向かいでエンデヴァーはぽつりとつぶやいた。

 

「これも念とやらの能力か?或いは回復系統の個性持ち…細胞を1つ単位で若返らせているのか?」

 

 顎に手を当てながら考察をする彼。少々まとはずれな意見をする辺り、やはり彼は天然と呼ばれる轟焦凍の父親なのだろう。

 

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