私のグリードアイランド   作:葉隠 紅葉

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第34話

 すっかりおなじみとなった初期ステージ、モンスターが出現する峡谷に彼等はいた。岩と聳え立つ崖に囲まれたその場所は、正史においてゴンとキルア達が修行を行った場所でもある。教わる人間こそ違えど、ビスケという有能な師が同じ場所で指導を行うとはやはりこれも因果というものであろうか。

 

 風に交じって砂臭い土煙が立ち込める。幸いここは大きな崖に囲まれた渓谷である。修行のための道具には事欠かさない事だろう。頭の中で今後の修行の流れを振り返りながら彼女、ビスケット=クルーガーは赤褐色の岩石に腰かけた。

 

 こうしている今も彼女は周囲に『円』を張りながら淀みなく気配を探っている。定期的に修行場所周辺の探索は怠ってはいないが…どうにもこの場所では人間そのものが少ないように思える。やはり念を扱える正規プレーヤー数は未だにかなり少ないようだ。そうして彼女は目前の男性に対して尚も講義を続けた。現在彼女が教えようとしている技術は念能力における応用技『流』である。

 

「流」

 

 それは念使いにおける必須の技術である。これは体内におけるオーラ比率を変化させ、自在に配分・操作を行うスキルの事でもある。念の戦闘においてこのオーラの攻防力移動とは戦闘における生死をも左右する、まさに基本にして奥義なのである。これほど経験とセンスが要求される技術は他にはないだろう。

 

『オーラの総量を増やす事』

『オーラコントロールを精密に行う事』

 

 この二つを身に着ける事こそがオールマイトとエンデヴァーの当面の目標であり急務の課題なのであった。彼女はつらつらとそらんじるように言葉を紡ぎながら金髪の男の方へとふりかえった。

 

「っていう事なんだけど…話聞いてる?」

 

「ちょ、ちょっと待って…下さ…」

 

「あんた…身体なまりすぎなんじゃないの。もう病気は治ったんでしょう?」

 

「そのはずなんですがね…あはは、年齢のせいかな」

 

「あんた…もう一回それ言ったらぶっ飛ばすわよ」

 

 地面に片膝を付きながら、荒げた呼吸を整えようとする八木俊典。無理もない、ここでは個性の類は一切使用が出来ないのだ。培った豊富な戦闘経験を持つ彼ですらも、この新たな異能力を手懐けるだけで精一杯なのだ。むしろ年齢を鑑みれば純粋な身体能力でよく動けている方である。

 

「もう一度やるわよ…錬!」

 

「っ!」

 

「判断が遅い!錬に1秒も時間をかけちゃだめよ」

 

 彼女の言葉に慌てて姿勢を正す八木。全身を自然体へと保ちながら、淀みなくオーラを練り上げる。個性戦闘におけるプロフェッショナルである彼であるがやはり失敗なく、とはいかぬものらしい。彼は額に汗を浮かばせながら懸命にオーラの精製を行う。

 

 思えば個性とは電気のような物なのかもしれない。スイッチを入れさえすればとりあえず発動はできる。あとはいかにしてその出力をあげるかどうかだ。だが一方で念能力はやはり別物だ。

 

 言うならば念とはガソリンのような物。いかに上質なエネルギーをいかに素早く、大量に練れるかが鍵となる。そして練り上げたガソリンを爆発させる事で驚異的な現象を発生させるという行為。そこに個体差というものはない。どこまで純粋に、どれほど熱意を込めて鍛錬をしてきたかが如実に現れる世界なのだ。彼はぎゅっと硬く、痛い程拳をにぎった。

 

「オーラが荒くなってる…もっと爪先から足の裏隅々まで意識を込めんのよ」

 

「…はいっ!」

 

「それじゃ最もオーラの濃い部位の-5%のオーラで攻撃を行うわ…構えなさい」

 

「「堅ッ!!」」

 

 そういって全身に込めたオーラを全力でとどめる八木。二人は堅を行ったまま、組み手を行いはじめるのであった。そう、堅。これもまた念使いにおける基本である。

 

「堅」

 

 それは纏と錬を組み合わせた複合応用技である。通常よりも遥かに多いオーラを生成しそれを全身へととどめる技術。これにより本体の攻防力は遥かに上昇する。それこそ銃弾を受けようともびくともしない桁違いの防御力を得るだろう。また攻撃面に関しても同様である。

 

 硬よりは防御力が落ちるがこれこそが最も実践的な防御である。訓練を積めばオーラの総量が増し防御力も増す 。念使い…いや、対個性戦闘においてもこの堅の習得は必須技術であると言えた。しかし当然の事ながらこれがまた難しい。

 

 ウボォーギンを思い出してほしい。彼は脳天にライフル弾を受け、時にはマフィアが放ったバズーカをも片手で受け止めて見せたのだ。これは彼が非常に優れた強化系能力者であるが故であるが、それだけではない。分厚くまとったオーラの鎧というものがいかに強靭なものであるかを表しているのだ。無論、その分その技術の習得と維持は大変に難しい。

 

 なにせまともな鍛錬を積んでいなければ5分とだってスタミナが持たないのだ。通常時に比べて数倍もの速さで消費されるオーラに対していかに冷静に保たせるか。センスと経験が要求される所以はそこにある。

 

 ビスケは八木の前腕へオーラを固めた拳を撃ち込んだ。まるで鋼の塊をうちつけられたかのようなその衝撃は筆舌に尽くし難い。その痛みに反射的に彼はオーラの生成がおろそかになってしまう。すかさず彼女は八木の腹部に自らの掌底を叩きつけた。どこまでもえげつない一撃である。痛みを伴わなければ学ばないとは彼女の言葉でもあった。

 

「判断が遅い!何が起きようとも急所のオーラは絶っちゃだめだわさ!」

 

「まだまだ…っ!」

 

「オーラの移動と精製はコンマ単位で行いなさい。無意識下でも行えるように!」

 

「はいっ!」

 

「帰ったぞビスケ!もう一度組み手だ!!」

 

 熱の入った指導を行うビスケとオールマイト。白熱しながらも実の入った修行を行う彼等の元へ、一人の男が戻ってきた。むきむきの筋肉に武骨な顔立ちをしたその男、エンデヴァーは呪文カードによって彼等の元へと「アカンパニー(同行)」を行う。どうやら買い出しに行ってきた彼が戻ってきたらしい。彼は日用品や食料品を詰め込んだ本を片手に彼等の元へと向かうのであった。

 

 自他ともに認めるNo2ヒーローが買い出し…いや雑用を行っている等と彼を知る者達が聞けば一体どんな顔をする事だろうか。彼を心酔しているサイドキック達、なかでもバーニンあたりはひきつった表情でも浮かべてしまいそうな物だ。だがそれでも本人はこの境遇に対して不満を言わなかった。

 

 それは日々ごとに強くなっていく自分の存在故か。はたまた誰よりも認めた…憧れた男と共に修行を行っているからか。彼はヒーローとして過ごしていた生活とはまた異なった、とても充実した時間を過ごしていた。尤も、本人はその事を意地でも認めようとはしないだろうが。

 

「ふんっ…随分としごかれたようだな。No1ともあろうものが情けない」

 

「いやいや…これからもっと成長していくつもりだよ」

 

「その頃には追い抜いてやる…ビスケ、次は俺の番だ」

 

 腕を組みながら不遜な態度を取る轟。そんな彼の言葉にビスケは苦笑しながらもうなずいた。薄々分かっては居たことだがエンデヴァーには突出した才能はないのだろう。だがそれを補えるだけのモノが彼にはある。例え実力が不足しようともそれを鍛錬によって補おうという、煮えたぎるような熱き意思がある。どこまでも不器用な男だと彼女は思う。だがその不器用さ…年齢に見合わぬ青臭さは嫌いではなかった。

 

「了解。それじゃ俊典、あんたは休んでなさい」

 

「わ、分かりました」

 

 一方のオールマイトには絶大な才能がある。無論、OFAという絶大な力をコントロールしてきた実績がある彼である。今でこそ病み上がり…全盛期の戦闘経験に比べた不足感が否めないがいずれそれすらも取り戻すだろう。1度の戦闘、ビスケの忠言によってそれを巧みに呑み込み自身への糧としていく彼。1を聞いて10を知る…とまではいかぬが生徒としては極めて模範的と言えるだろう。

 

 なにせ日本を代表するNo1・No2ヒーロー達である。その戦闘経験も背負っている重みも違う。存外望まぬ修行であったが予想以上にのめりこんでいる自分がいる事を自覚するビスケ。

 

 無論、二人がおこなっているのはまだまだ拙いオーラ技術である。熟練の念使いであるビスケとは比較するのもおこがましい程の未熟さであった。だが彼等の意思は純粋な程に眩しく一途であった。殺し殺されが日常茶飯事のハンター達とはまた違った生への輝きがそこにあった。まるでそれは宝石のように輝く眩しいきらめき。鍛え上げればどのような色彩を放つのか、根っからの宝石ハンターでもある彼女は今から楽しみで仕方なかった。

 

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