もう幾たびも目にしてきたグリードアイランドの太陽。その太陽が頂点に達しようかというその時に、彼等はその場所にいた。すっかりおなじみとなったこの修行場所では今日も彼等はビスケの下修行を行う。じりじりと照りつける日光に晒され、だらだらと汗を垂れ流しながら修練を行う彼に対してオールマイトが声をかけた。
「ねぇエンデヴァー…そっちの石使って良い?」
「自分で取ってこい」
「そんな硬い事言わないでよ。私たち修行仲間じゃないか」
「誰がいつ仲間になった!たまたま一緒になっただけだ!」
「あんたら仲良いわねー…」
二人のヒーローがもくもくと作業を行う。彼等は腰かけながら、何かを熱心に打ち付けているのであった。一体何を手にしているのだろうか、彼等の掌に注目してみるとその中にあったものは…岩石であった。この周囲にどこにでもあるような、赤褐色の石であった。
石割り
それは強化系における系統別修行、その初歩の初歩である。自身が手に持った片手で掴める程度の石を用いて1000個の石を割り切る事を目標とする修行である。この場合の石とは、自身の念を周にて強化したモノを用いる。
片手を振り上げ、石に対して石をぶつける。言ってしまえばただそれだけの作業である、だがそれが難しい。打ち付けるインパクトの瞬間に周りの攻防力を100にし、それを維持するという行為。精神的な疲労に耐えながらも念をいかに持続的に、正確にコントロールできるか否かを鍛える修練でもある。
「だいたい…この間から妙に馴れ馴れしいぞオールマイト」
「いや誰かと修行するのって新鮮で…なんか学生時代を思い出すなって」
「気色悪い事を言うな!あと年齢的に俺と貴様を一緒にするな」
「実年齢なら私達ほとんど一緒みたいなものじゃないかなぁ」
彼等は軽口をはさみながらも、黙々と作業を行う。その行為には一切の手抜きは存在しない。彼等は淀みなく石を打ち付けただひたすらに割っていく。彼等の周囲には何十、何百もの破壊された石が積みあがっていくのであった。
この修行、天性の才能を持つゴンとキルアですらも当初は苦戦した修行である。なによりも精神的な疲労と繊細なパワーコントロールが必要とするこの鍛錬。だが意外な…というよりも妥当とも言うべきか、彼等はあっというまにそのコツを理解したのであった。
なにせ日本を代表するNo1ヒーロー達である。第一線で活躍してきた彼等はその戦闘経験も尋常でない位豊富である。呑まず喰わずで戦い続ける事など日常茶飯事であった彼等にとって、戦場におけるストレス対策や精神コントロールとは呼吸をするに等しい行為。最早一流の念使いにも匹敵する程のそれは、まさに熟練の領域と言っても過言ではない。
個性コントロールにおいて最高峰の技術を有する二人である。オーラという異聞な能力であってもたちまちコントロールのコツを掴んだ二人にとってこの程度なんら障害ではない。熱心に修行を行う二人に対して、ビスケは本に収められたカードの整理を行いながら声をかけた。
「この辺りは流石はプロヒーローって所ね。うん、上出来上出来」
「いえいえ!教えが上手いからですよ!」
「でも俊則、回数を重ねるごとに念の精度が微妙に落ちてきてるわ。その辺り炎司の方が上手いわよ」
「分かりました、ビスケさん!」
「そして炎司。あんたは変化形よ。第一系統ではないけど強化系も戦闘においては大切な分野だからね。実践を意識しながらもっと気合入れなさいよ」
「あぁ分かっている」
「オーラをもっと薄く纏わせるイメージで…量と同じ位密度を高めて一度の質を上げなさい」
そういって時折実践的な指導を交えながらも彼等は着々と修行を重ねていく。彼等の周囲には放置された石が山のように積みあがある。散らばった残骸を一か所にまとめ、放棄しまた割っていく。黙々と行いながらもどこまでも手慣れた様子で行っていく。
この一連の行為ももう始めて5日目ともなるのだから慣れてきて当然だ。箒と塵取りで周囲の掃除を行いながら、エンデヴァーはビスケとオールマイトに対して問いかけた。
「しかし本来は1日に1系統の修行らしいが…それでは間に合わないのではないか?」
「そうねぇ、現実世界の方もきな臭くなってるらしいし」
「むぅ…そうですね。現実世界で警察とヒーロー達が集めてくれた情報によりますと…」
「脳無だったっけ?それ以外にも随分と大きな陰謀が動いていそうね」
以前のオールマイトの報告によると現在の日本では随分と裏社会がざわついているらしい。海外からの異常な資金の出入、海外暴力団による犯罪事件数の増加。中には明らかに念の概念に目覚めたと思われるような事件も発生しているらしい。個性では説明もつかぬ不可思議な現象に、学者やマスコミがこぞって騒ぎ立てているらしい。
事情を知らぬ一部の警察やヒーロー達はこの一連の事態の対応に追われているようだ。本来であれば念能力による犯罪を粛清するのがこの世界におけるハンター達の仕事でもあるのだが…いかんせん人手が不足しているらしい。或いは、このグリードアイランドによる事態の急変化はハンター協会やヒーロー達が想像していた以上に深刻で増大な物だという事だろうか。
半端な知識を得た人間の教えでも受けたか、或いはこのゲームの現実帰還者から何かを教わったか…。こうしている今も現場では何か只ならぬ、不穏な空気が流れ始めているのであった。
「脳無って奴…そいつ強いの?」
「2体も入れば小規模の街ならば壊滅できるでしょう。なにせありとあらゆる打撃…物理攻撃を無効化する厄介な敵です」
「ふん、そこらの雑兵では歯が立たないという事か。だがやりよう等幾らでもある」
エンデヴァーの言葉に対して苦い顔をするオールマイト。確かに彼の言う通り、物理攻撃が効かぬのならば別の方面からアプローチをするのが有効だろう。だがそれだけでは駄目だ、脳無の恐ろしい所は量産が可能という事だ。
もしも戦闘力をアップデートされながら何十体と量産されたら…それだけで被害はどれほど増えてしまう事だろうか。何か…やつらに対する絶対的な対抗策が必要となるはずだ。思わず黙り考え込んでしまうオールマイトとエンデヴァーに対して、彼等の師は何気なしに言葉を告げた。
「そうね、予定より少し早いけど…並行して発の修行も行いましょうか」