私のグリードアイランド   作:葉隠 紅葉

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第36話

「念能力の開発…いよいよか」

 

「えぇ予定よりだいぶ早いけど…先に最低限戦えるだけの念を教えた方が良さそうだし。二人の素質は悪くないもの」

 

「……」

 

「炎司の系統は変化系…それを加味して今から言う質問に答えなさい。あんたは何がしたいのか」

 

「何がしたいか?」

 

「ほら、石割りの手は止めないの。そもそも炎司の個性って生体エネルギーを炎へと変換して発動しているのよね?」

 

「あぁその認識で正しい」

 

「ならオーラに関しても同様の筈、これは大きなアドバンテージよ」

 

「変化系…ならばオーラを何に、どのように変化させるかという話だな」

 

「そう、普通ならオーラを変化させるのはとても大変な作業なんだけどね」

 

 そういってビスケの言葉に頷くエンデヴァー…いや、轟炎司。彼の個性はヘルフレイムである。これは身体中から業火を噴出させる事ができるという非常に強力な個性でもある。その最大出力はこの個性社会においても比類なきレベルであり、紛れもなく地上最強火力を誇る。

 

 足の裏からバーニアのように炎を噴出したり、その業火によって敵を殺傷することなく捕縛できるようにとミリ単位での出力調整も行える。これもまた、強い個性にかまけずに彼が日ごろから最大限の努力を重ねた結果でもある。

 

 だが一方でその噴出による熱エネルギーは消失することはない。つまり、彼はその火力の強さから長時間の戦闘活動が行えないという致命的な弱点を抱えているのである。

 

 戦闘の際は彼は自身のサイドキック達に消火器を携行させている。そして非常時には自身の身体に消火剤をかける事で強制的に冷却状態を保ち、戦闘復帰を行っているのだ。無論、普段はこのような事態に陥らぬように常に個性に大幅な個性制御を行っているのだが…もしも最大火力を連発する必要があった場合、身体にこもった膨大な熱エネルギーの処理は必ず必要になるだろう。

 

 何を望むかと言われれば…無論決まっている。この弱点を補う事こそが望みである。

 

「念能力は大別すると二つよ。つまり長所を伸ばすか、短所を補うか」

 

「……」

 

「炎司の場合は更に火力を伸ばすか、別の何かを会得するかね」

 

「短所を補うといっても…そんな事ができるのか?」

 

「出来るかどうかじゃなくやりたいか否かだわさ。念能力と言われてアンタはどんなイメージを持ったの?何を望むの?」

 

「…継続戦闘力を持続させる事。つまり熱処理の方法だ」

 

「個性を使うと身体に溜まるっていう膨大な熱エネルギーね。それじゃその対処法としてどうしたら良いと思う?」

 

「む…自身の系統と素質から慎重に決めていくのではないのか?」

 

「型に囚われたらだめなのよ。こういうのは直感なんだから浮かんだイメージを重視しなさい」

 

 ビスケの言葉に一人考え込む。確かに自身は現実世界…ヒーローとして活動する際はサイドキックに消火剤を持たせて無理やり冷却活動を行っていた。だが、冷却というのはあくまで手段であって目的ではなかった筈だ。それではいけない、もっと深く冷静に分析をする必要がある。であれば自分が真に望むべきは…

 

「熱エネルギーの変換…いや再利用だな」

 

「じゃあその為には何が必要かしら」

 

「…その質問はどういう意図だ?」

 

「教え子が口答えするんじゃないっての。ほらほら」

 

「……」

 

「ただ1つだけヒントを与えるとすれば…この問いは変化系単体でつかうか、具現化系や強化系を併用するかに関わってくるのよ」

 

 そういってさりげなく道標を与えるビスケ。仮にここで最適な念に対する知識を教えれば、より実践的な念能力を彼に身に着けさせることは可能である。しかしその場合、最適であるとするのはあくまで一般例でありビスケにとっての最適となる。念能力の場合はそれが必ずしも正しいとは限らないのだ。

 

 刃物と聞いて刀を想いうかべる人間もいれば包丁、ナイフを想いうかべる人間もいるだろう。人手ある以上はそこに必ず個人差による価値観の差異が生じる。

 

 要はその人間がその存在に対して、いかに強い思い入れを持てるかどうかにかかっているのだ。そしてそこに優劣は存在しない。何故ならばその人間にとってはそれこそが正解なのだから。

 

 例えば熱エネルギーを宝石のようなものに具現化してそれを捨てる。これならば身体に溜まった熱エネルギーを効率よく排除出来るだろう。或いは自身の耐熱性能を強化して活動を行う、でも構わない。手段なぞ幾らでもあるのだ。

 

 或いは冷却材スプレーや廃熱剤を具現化する事だって、もっと言うならば念に拘らず熱伝導率の高い武器やサポート道具を開発させる事だって間違いではない。ましてや念能力においては自身の魂、感性によって大きく左右されるのだから。

 

 これまで過ごしてきた時間と人生における価値観こそが正しき解となりうるのだ。だんだんと煮詰まってくるイメージ。自身の願望を脳内で思考を巡らせる彼らの元へ、オールマイトが声をかけた。

 

「あのー私は…」

 

「俊典の念能力の開発は今はやめとくべきね、水見式やったら強化系だったし」

 

「そ、そんな!」

 

「だいたいアンタ凄い個性を使えてたんでしょうに。今更炎が出せたり水を操作出来たりして嬉しいの?」

 

「…他人の芝生は青く見えるものなんです」

 

「ふーんそういうものかしら」

 

 産まれた時から無個性のビスケにとっては良く分からぬ概念である。結局のところ付け焼刃の念能力を身に着ける位ならば徹底的に武とオーラを鍛え上げた方が余程マシというものだ。驕った能力者は一発の弾丸と一個の爆弾に敗北するものなのだから。裏社会を生きて酸いも甘いもうんざりするほど味わってきたビスケにとっては自明の理である。

 

 自分も格好良い異能力が使えるかもしれない、そう考えていたオールマイトは思わず肩を落としてしまう。まるでコミックブックに憧れる少年のような仕草に思わず苦笑してしまうビスケ。彼女はそれとなく、彼に対して事実を伝えた。

 

「別に意地悪して言ってるんじゃないわよ。ただ念能力に関しては一生モノ、安易に決めるのは良くないって話よ」

 

「エンデヴァーのように明確に使用意図が定まっていれば…という事でしょうか」

 

「それだけじゃないけどね。でもま、一個だけ伝授してあげる」

 

「で、伝授ですか?」

 

「そ、今やっている修行の完成系よ」

 

 そういって手袋を外すビスケ。彼女は何気なしにすたすたと歩くと、とある岩壁の前へと移動した。突然の行動に、オールマイトは首をかしげてしまう。一体何をしようとしてるんですかと、そう問いかけようとしたその時、周囲には夥しいまでのオーラが集まりだした。

 

「っ!?」

 

「なっ…ビ、ビスケ…?」

 

 息を呑み絶句するオールマイト。いなその隣で思考にふけっていたエンデヴァーすらも顔をひきつらせる。念能力者として昇り始めた彼等。だからこそ理解してしまう、その絶大なまでの実力差に。

 

 どうやらビスケが’錬’を行ったようだ。達人である彼女が錬を行う、ただそれだけでこれ程の威圧感を与えるとは…。この張り詰めるようなプレッシャーは何とも形容しがたいものだ。

 

 例えるならば…極寒の地で薄着で凍えているようなものだろう。彼女を中心に周囲に漂うその絶対的なオーラの密度は、ただ放たれるだけで絶大なプレッシャーとなりうる。エンデヴァーもまた、無言のままただ静かに生唾を呑み込んだ。

 

「オーラを生成し、流によって全身のオーラを拳に集中させる。つまりこれまでやってきた事を組み合わせると…」

 

 彼女は力を込める。両足を大地に根ざし、精神統一を行っているようだ。その一挙手一投足ごとに馬鹿みたいに膨大なオーラが更に膨れ上がっていくのだ。それは恐ろしい、いやおぞましい程のオーラ量であった。そのエネルギーを身にまとった拳を、そっと振り上げる。そのまま彼女は巨大な岩壁に向けて殴った。そう、ただ武骨に殴る。言ってしまえばそれは、ただそれだけの行為であった。

 

 

「破ッ!!」

 

 

 瞬間、その途方もない量のオーラが弾けた。鼓膜を破壊せんばかりの爆音が周囲に轟く。それは例えるならばダイナマイトだろう。爆薬を数十個束ねたとしてもここまでの破壊力は産めないであろうその破壊の威力。それはオールマイトが放っていた天候をも変えうるスマッシュにも匹敵しうる一撃であった。

 

 何十m、大きく首を曲げなければ見上げる事すら出来なかった巨大な岩壁。その岩壁には彼女の拳によって、大きく抉れたクレーターが生じていた。まるで小さな洞穴かと見紛うばかりの巨大な空間がそこに産まれる。

 

「ま、ざっとこんなもんかしら」

 

「……」

 

「硬…念使いが放つ極意の一撃よ」

 

 

 それは4大行と各種技術を複合した応用技である。特定部位の攻防力を飛躍的に上昇させる事で絶対的な攻撃力を産み出す絶技である。『纏・錬・凝・絶』これらを複合的に体得する事で得られるそれはまさに念における奥義である。

 

 錬と纏が足し算とするならばこの硬こそは乗算である。この威力に肉体が持つ本来のスピードと破壊力を乗せれば…その攻撃力は文字通り桁違いに上昇する事だろう。例え破壊する事に特化した個性でも、ここまでの威力を持つモノはそう多くない。

 

「俊則に発は不要といったのわね、強化系には小手先の能力は不要って意味でもあるのよ」

 

「す、凄い…」

 

「強化系に必殺技は不要…ま、あんたならいつか出来るでしょ」

 

 そういって不敵に笑うビスケ。その笑みに、見せられた念能力の奥深さにオールマイトはゾクゾクとした武者震いのような感覚を味わっていた。既に個性はかの少年へと託しており、かつては死という末路すら受け入れていた自分。だがそんな己でも…この力があれば、再び戦う事が出来るのだと。硬く握りしめた拳と決意を胸に、オールマイトは再び苦難な修行を再開するのであった。

 




「しかし驚きましたよビスケさん…流石は強化系ですね」

「俺もビスケのような強化系が良かったな…」

「いや…私は変化系よ?」

「えっ」

「えっ」
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