男たちは修行を続ける。アントキバから北の山を越えた先に存在するその岩石地帯たる荒野が、すっかり彼らの修行場所となってから時間は久しい。
岩肌がむき出しのこの場所には、植物が一切生えておらず、周囲にはただ乾燥した空気と砕けた岩石が広がるばかりである。
時折吹き付ける乾いた風が、荒野の静寂を切り裂くように砂と細かい石を舞い上げていた。
丁寧に、丹念にエンデヴァーはオーラを練り上げる。
初回は5分と持たなかった[堅]も、今では12分と伸ばすことが出来ている。エンデヴァーは額に大粒の汗を浮かべながら、そっと傍らにて同じ修行をしていたオールマイトに問いかけた。
「ビスケの能力は便利すぎないか?」
「それは私もずっと思ってた」
エンデヴァーがオーラを練りながら、ふとつぶやく。その言葉には、訓練が順調すぎることへの戸惑いが含まれていた。
オールマイトもまた隣で深く頷きながら答える。
「どんなに疲れていても30分で全回復だものね」
「修行の効率が段違いだ、おそらく本人はこれで基礎能力を鍛えまくったのだろうな」
「ここまで修行が捗るとはねぇ」
オールマイトが再び息を整え、目を細めて遠くを見つめながら言った。その目は、過去の戦いで常に限界まで追い込まれた彼の記憶に一瞬だけよぎった苦しみを映していた。
「あぁ」
二人はしばし言葉を交わさず、互いの経験と重ね合わせるように黙り込む。
彼らが感じている違和感も当然のことだろう。ビスケの念能力「
たかがマッサージ
されどマッサージである
たった30分の実施時間で8時間の睡眠に匹敵するほどの疲労回復をもたらすのだ。その結果、修行の効率は驚異的なまでに向上していた。どれほど疲労しても、ほんの短い休息で再び最前線に戻れる。通常の修行では到底考えられないペースで二人の力は上昇していた。
「……」
「……」
短い沈黙が続く。エンデヴァーは、過去の自分を思い返しながら苦々しく顔を歪めた。
「現役の頃欲しかったなぁ…この能力…」
オールマイトもまた、しみじみとつぶやく。それはもう染み入るように重く響いた。
一分一秒を惜しみ、その日常のすべてを使って人々を救い続けた伝説のヒーロー。かつてふとんの中でぐっすりと安眠を取ることすら出来なかった彼は、この異能の存在にそっと涙した。
その彼の背後で、とうのビスケ本人はというと、本を読みながらグフフといやらしい笑みを浮かべていた。どうやら美青年のグラビア雑誌らしい。見目麗しいイケメンたちの半裸写真集をウキウキと読み込む少女。いや、実年齢はとっくに成人済みであるのだが、その容姿と無邪気な笑顔に、そのことを忘れてしまいそうだ。
この荒涼とした環境で行われる過酷な修行。エンデヴァーとオールマイトは常に全力でオーラを練り上げ、大量のオーラを消費してきた。彼らはオーラが枯渇し、死の淵に立たされる寸前まで力を使い果たす。砂煙が立ち、二人の足元にはひび割れた大地がその激しい修行の証として残る。
そして、その極限状態でビスケの
エンデヴァーは全身から蒸気のようにオーラを吹き出しながらビスケに対して問いかける。
「ビスケ、オーラが枯渇したらどうなる?」
「そりゃ死ぬわね」
「死ぬんですか!?」
「まぁそれ位のリスクはあるだろうな」
驚きの声を上げるオールマイトに対して、エンデヴァーは冷静にうなずいた。個性はいくら使っても死ぬことはない…とまでは言わないがそのような事は非常にまれであろう。
「当たり前でしょ、オーラは生命活動の源。修行で死ぬ奴だって珍しくないわさ」
ビスケは、まるで日常会話のようにさらりと言い放った。ぺらぺらと写真集のページをめくりながら、片手間に応える彼女。
「本当なら精孔だって素質のない人間が無理に開けば、オーラが全てなくなる。そのまま死ぬことだってあるわ」
「習得には危険が伴う技だと…秘匿されていた訳だ」
「昔はマフィアなんかが処刑方法としても使ってたらしいわよ。無理やり精孔開いて放置しておけば、勝手に突然死してくれるしね」
「凶器や死傷、犯行の証拠が一切残らないと…えげつないな」
思わず顔をしかめるエンデヴァー。その言葉には怒りと驚きが交錯していた。
オーラの枯渇による死亡。一度精孔を開いてしまえば、簡単に開け閉めできるようなものでも無し。
だからこそ念能力者は事前に瞑想などで、オーラを認知しやすい環境を整える必要があるのである。そうでなければ簡単に死んでしまう技術であるが故に。
「まぁ、あんたらは筋も良いしね。この修行方法ならあと1か月で実践レベルにはなるでしょうよ」
「……」
「リスクを考えなきゃ、これほど効率が良い方法はないわさ」
ビスケが、再び雑誌に目を落としながら気軽に言ったが、その言葉の裏には鋭い洞察が隠されていた。経験深い彼女は、きっと彼らの成長を確信しているのだろう。
現実世界では巨悪たる