私のグリードアイランド   作:葉隠 紅葉

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第4話

「お前…ウワバミか…?その恰好…いや、個性はどうした…」

 

 泣きじゃくる女に対して相澤は問いかける。確かにプロヒーロー自身も何人もこの事件の捜索に参加していたし、行方不明になったヒーローの存在も何人か聞いていた。ここにもプロヒーローがいる可能性は考えていたのだが…なにはともあれ、まずは彼女から事情を聞くべきだろう。

 

 中華料理屋で一人すすり泣くウワバミに対して相澤はそっと水を差し出すと、そのまま会話の続きを促した。

 

「ここでは個性は使えない…私たちは強制的に無個性になるの」

 

「む、無個性に…?まさか、異形型も含め全ての人間が対象なのか…っ!?」

 

 違和感自体は感じていた。プロヒーローもいるかもしれない、何より一般人にも強い個性を持ったヒーロー志望や職業で個性を生かしている人間も多く存在しているのが現代の個性社会である。

 

 にも関わらず、全くゲームを攻略した人間の話を聞かないからと不審に思っていたのだが…まさかそういうカラクリがあったとは。相澤は苦い顔をしながら会話の先を促した。

 

「他にプロヒーローはいないのか?」

 

「二人いたわ…ただ」

 

「ただ?」

 

「一人は殺された…この街を出てすぐの渓谷でモンスターに噛み殺された」

 

「……そうか、もう一人は?」

 

「分からないわ…彼が殺された後にモンスターに囲まれたんだけど…その時に助けられたはず…」

 

「そいつの名前は?姿を見たんだろう」

 

「見た…はずなんだけど。分からないわ」

 

「分からない…?」

 

「彼女の背後しか見えなかったの…身分証明用のヒーローバッジは身に着けてたからヒーローであることは間違いないと思うんだけど…」

 

「……」

 

 いまいち要領を得ない説明である。ともあれ彼女の話によるとこのゲームには既に三名以上のプロヒーローがおり、そのうちの一名は既に死亡<<リタイア>>したという事だろう。とすると…このゲームにはやはり死のリスクがある敵との戦闘があり、そして自分たちはそれに個性を使えぬまま対応していかねばならないという事になる。非常に厄介な事態であった。

 

 彼女自身もよく分からなかったというヒーロー。つまりそいつは元々は異形型のヒーローなのだろう。ここに来て無個性となった事で姿が変わり、ウワバミにもその正体が分からなかったという事だろうか。

 

 会話から察するに女らしいが…ともあれ、まずは件の彼女となんとかして合流することを目指さねばなるまい。

 

「とにかく動けるヒーローは俺達しかいないんだ…お互いに協力するぞ」

 

「そ、そのことなんだけど…もうちょっと人が来るまで待たない?」

 

「は?」

 

「個性も使えないなら…私たちはただの一般人だもの…だから…っ!」

 

「もう一遍、そのふざけた台詞を言ってみろ」

 

 つい、語気が荒くなってしまう。机に拳を叩きつけて怒りを露わにする相澤に対してウワバミはびくついたように身体を縮こめてしまった。そんな彼女に対して相澤は尚も言葉を続けた。

 

「俺たちはプロヒーローだ。個性の有無なんて関係ない…一般人が救助を待っているなら行動するのは当たり前だろうが」

 

「あ、貴方は外の化け物共を知らないからそんな事言えるのよ!!」

 

「……」

 

「わ、私の目の前で…彼が……振り返ったときには彼の身体にはもう首がなくなってた!残ったのは脚一本だけで…それすらもいつの間にか消えてしまって…っ…それで…」

 

 ウワバミが嗚咽を交え、ボロボロと涙を流しながら主張する。彼女自身の言うことも分からんでもない。目の前で同僚を殺されたのだ、現在の彼女は怯え切っていた。ヒーロー飽和時代とも呼ばれる現代社会、ヒーローたちは相性のいいヒーローやサイドキックと協力をする事が日常的である。ましてや偵察や諜報といった分野が得意とする非戦闘系のヒーローであるのが彼女だ。

 

 異形型である彼女が突如無個性になってしまったのである。産まれ持った時から在った個性が、無いのだ。精神的に脆くなっているのも、無理はないのかもしれない。

 

 PTSD、精神的なストレス障害。戦場帰りの兵士や犯罪被害者がかかると言われる病、俗にいうトラウマである。ヒーローとて人間なのだ。挫折することも、トラウマを抱えて恐怖する事も当然なのだ。

 

けれど

だからこそ許せなかった

 

「ここで待っていれば救助隊が来るはずよっ…だから私と一緒に…」

 

「その救助隊が来るのはいつだ?一週間後か、それとも一か月後か?」

 

「……」

 

「俺はここに来る道中、何人かプレイヤーを見てきた…なら分かるだろ、ウワバミ…」

 

瞳が死んでいた

 

 イレイザーヘッドが声をかけた人々。主婦・学生・サラリーマン。中には警察官なんて存在もいた。彼らは生まれて初めて個性を使用できないというこの極限的な状況におかれ、パニックを引き起こす寸前であったのだ。

 

 個性が扱えず、わけのわからぬ空間に連れてこられて生活を行う事が出来るものなどそういない。それを思えば、むしろこれまで良く持ったというべきなのだ。

 

 出会った瞬間涙を流すもの、助けを乞うもの。いまだに救援をよこさない政府やヒーロー達に対して怒りを露わにするもの。実に様々な人間達がいた。だがその誰もが…皆…瞳に不安と恐怖を抱えていたのだ。それを見て、相澤は決心したのだ。どんな手を使っても彼らを救うのだと。

 

「プロは個性が強いからプロなんじゃない…どんな状況でも諦めないからプロヒーローなんだろうが」

 

「……」

 

「それを忘れた今のお前はただの腰抜けだ」

 

「……無理よ、個性が使えないなら…私たちなんて…」

 

「それでも出来る事は有るはずだ…きっとな」

 

 そう言って、店を出る。背中に感じる痛いほどの視線を背負いながら、相澤はそっと店の引き戸に手をかけた。澄み渡るような青空が心に染みわたる。女のすすり泣くような声と、空になったラーメンの器だけがその場に残された。

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