この現代社会において個性の恩恵を受けていないものは限りなく少ないであろう。皆多かれ少なかれ個性の恩恵を受けているものだ。ましてやそれがプロヒーローともあれば猶更である。
『ヘルフレイム』のエンデヴァー
『ファイバーマスター』のベストジーニスト
『樹木』を操るシンリンカムイ
いずれも紛うことなきトップヒーロー達である。彼らは多かれ少なかれ、否というよりもその全てが個性を活用しヒーローへと至ったのだ。断言できる、ただの無個性では彼らはヒーロー足りえない。もしも彼らが個性を使用できなくなれば、全員がヒーローとしての活躍をすることは出来なくなるだろう。
その点で言えばイレイザーヘッドである彼、相澤消太がこのゲームに迷い込んだのは不幸中の幸いだったのかもしれない。少なくとも彼は個性に依存していないという類まれなケースだったからだ。
彼の個性は『抹消』。目で見たものの個性を消失させるという強力にして独自の個性を所持しているからだ。彼の戦闘形態は敵の個性を抹消し、接近したのちに捕縛布を使用するというスタイルである。つまり…彼はこのヒーロー社会において例外とすら言っていい、戦闘力に直接『個性』が影響しない貴重な存在なのである。
だが、このゲームに入った際には自身の手元にあったはずの捕縛布は消失していた。おそらく、武器の類はこのゲームには持ち込めないのかもしれない。だがそんな戦闘に秀でた彼も目的地である魔法都市マサドラへと辿り着く事すら出来ないでいた。彼は汗をぬぐいながら自身の数km背後で佇むアントキバの街の方角を眺めた。見渡す限りの岩、岩、岩石の景色。茶色い渓谷の世界から、彼は抜け出すことが出来ないでいた。
アントキバから山を越え、北へ80km程まっすぐ進むと湖がある。その湖沿いに進む事こそが魔法都市マサドラへたどり着ける正規ルートである。つまり、相澤自身が辿ってきたように、道中山賊が出てくる山を経由したルートの方が比較的危険が少ないのだろう。その点を考えるとウワバミ達は一体どのルートから攻略を行っていたのだろうか。
道中出てきた山賊はまだ良い。対人戦闘等相澤の
相澤はこのヒーロー社会においては『個性に依存しない』という最も稀有な存在であることは先程述べた。だが、そんな彼でもこのゲームの攻略は非常に難を極めた。
最初の方に出会った敵『一つ目巨人』に関しては、なんとか倒すことができた。4mから6mの大きさはあるだろう複数人の一つ目巨人。巨大な棍棒を持ったいかにもな
「…クソっ」
思わず悪態をついてしまう。自身の目前で剣を構える
渾身の力を込めた前蹴り、だがそんな攻撃は眼前の鎧騎士には通じなかった。まるでダメージなどないと言わんばかりにまた立ち上がり、攻撃を繰り出してくるのである。
攻撃自体は単調である。避けて、反撃を繰り出すことはそう難しくはない。問題なのはそんな鎧騎士が自身の目前に
(最初から随分とハードなゲームじゃないか…作った人間の神経はどうなってるんだ)
当たれば骨折では済まなさそうな威力である。今もなおこちらを殺す気で剣を振り下ろしてくる鎧騎士の攻撃をなんとか躱す相澤。こちらの攻撃が全く通じている気配は無い。つまり、一定以下の攻撃は無力化されるという事だろうか。脳内で考察を重ねながら必死に生きる道を探す。
そんな中突如、鎧騎士の動きが止まる。彼らは動揺したかのようにびくりと身体を凝固させるとそのままばらばらと音を立てて崩れ始めた。な、なんだ…一体…。突如崩れた敵キャラに対して相澤はいぶかし気に見つめながらも油断なく構えを続けた。
ドシン
ドシン
突如鳴り響く土鳴り音。どうやら音の正体は背後からなってきた物らしい。相澤は戦闘によって荒げた呼吸を整えつつ、そのままふと背後を振り返ってみると…
「おいおい…冗談だろ…」
呆然とつぶやく。相澤の目の前にいたのは…山のように巨大な爬虫類であった。
全長30m…いや40mはあるだろうか。とても正確に分析している暇などない。全力で渓谷を道なき道を駆け抜けるイレイザー。そんな彼を今にも飲み込まんと大口を開けながらその巨大なトカゲが駆けてきた。『メラニントカゲ』Eランクのモンスターである。
もともとグリードアイランドとは念能力者がプレイする前提のゲームである。念能力者とはつまり、オーラを自在に操ることの出来る超人という事である。つまり、彼らの身体能力は常人の比ではないのだ。
だがこのグリードアイランドは何らかの影響を受けたせいか本来のゲームの仕様とは異なってしまったのだ。本来は念に目覚めた人間が発をする事でオーラを認識。オーラを発した対象者を別の場所へと強制移動させるという仕組みである。つまりは発という行為をトリガーとしてこのゲームは起動する。
それに対しこの並行世界転移したグリードアイランドは「手で触れた人物のオーラを認識し、触れた対象者を強制転送させる」という非常に厄介な性質へと変化してしまったのだ。
オーラ自体は全ての生命に存在する…つまり、手で触れたら最後、二度と出る事の叶わぬ悪夢のゲームとなってしまったのである。念能力者であっても苦労するこの序盤の敵は、個性すら使用する事のできなくなったこの世界の住人にとってはまさしく鬼門なのである。
死ぬ気で駆け抜ける
本来このモンスターは非常に独特のオーラを発している為、そのオーラを見分ければ戦闘を避ける事ができる。仮に遭遇しても『絶』を使用すれば簡単にプレイヤーを見失うという救済措置も施されている。だが勿論、念はおろか『オーラ』についてすら知らない相澤にとってはあまりに強すぎる敵であった。
「おいおい…なんて馬鹿げた威力だ…」
呆然としたままつぶやく。メラニントカゲが頭から突撃した結果だろうか、相澤の目前ではあれほど巨大で頑丈で会った岩壁に巨大な孔が空いていた。音を立てて崩れていく大量の岩に囲まれながら相澤は自身の肉体に活を入れ、その場からの脱出を試みた。当然、敵がそれを見逃す筈もない。メラニントカゲは大口を開けながら哀れな餌へと迫った。
「食われてたまるか!!」
「グゥォオオオン!?」
本からゲインした石をトカゲの目へと投げつける。成人男性の渾身の力を込めた一撃にたまらずひるんでしまうメラニントカゲ。無論、その程度で念で作成されたこの敵が倒せる訳もない。怒りを露わにして周囲にある岩壁ごと相澤を押し潰さんと試みるメラニントカゲ。
当然、むざむざと殺されるイレイザーではない。メラニントカゲが標的を見失った事を確認したとたん、相澤は近くの岩場に飛び込んで息を殺して身を潜めた。痛いほど鳴りやまない心臓の鼓動を無理やり押さえつけながら岩場の陰から敵を注視した。
「ハァ…クソっ…あれがこのエリアのボスか」
相澤が、そう勘違いをしてしまうのも無理はない。あの巨体、あの戦闘力である。表の世界に出れば間違いなく凶悪な敵指定され、プロヒーロー達による集団討伐対象とされる事だろう。皮肉な事は、メラニントカゲがこのゲームではEランク(最低ランクから三番目)程度の敵という事である。とにかく一度街へ街へ戻らなければ…っ!そう相澤は決心しそのまま走り去ろうとして…
「…なっ」
死角から迫りくる2体目のメラニントカゲに気が付かなかった。そのメラニントカゲは今にも相澤を飲み込まんとばかりに大口を開けていた。ぬちゃぬちゃと粘液を引く化け物の巨体とその口腔に、ゾッとする相澤。そうして、その哀れな男をそのまま飲み込もうとメラニントカゲは進撃を始め…
「うらっしゃぁあああああ!!!!」
「っ!」
突如横から弾丸のように飛び込む褐色の人物によって蹴り飛ばされるメラニントカゲ。一体何が起きたのだろうか。喜びよりも困惑が勝ってしまう。そんな中、場に飛び込んで来たその彼女はにやりと笑うと、メラニントカゲに対して挑発のようなジェスチャーを行った。
「きな!私が相手だ!!」
彼女の挑発に当てられたのだろうか。勢いそのままに体当たりを繰り出そうとするメラニントカゲ。そんな奴の突進を、
弾丸のような速度で飛び出す。恐ろしき速度でメラニントカゲの巨体を駆け上がった彼女は、そのまま空中で一回転を行い…奴の背中めがけて強烈な回転蹴りを繰り出した。
ハイエンド脳無すら唸らせた強靭な一撃である。それはメラニントカゲが纏ったオーラすら上から吹き飛ばすような恐るべき威力であった。その一撃にたまらずノックダウンしてしまうメラニントカゲ。彼は抵抗虚しく、そのまま彼女の手によって一枚のカードへと変化させられてしまったのであった。
もう何がなんだか分からん、そんな困惑中の相澤に対してメラニントカゲを蹴り飛ばした彼女は高笑いをしながら勝鬨を挙げた。
「ハッハー!巨大トカゲゲットだぜェ!!」
「グゥッ……お、お前は…」
「うん、誰だお前?
振り返る、彼女。そこにいたのは一人のプロヒーローであった。ヒーロー:ミルコ。個性『兎』を持つ、若手の中ではトップクラスの実力者である。特徴的な兎耳とはち切れんばかりの肉体美が特徴的な彼女。だが相澤の目の前には本来の兎耳と身体能力を失った彼女がそこにはいた。
<正史のGI>
・(発をトリガーとして)対象者内に存在するオーラを認識。対象者を別場所へと対象者を強制移動させる
・セーブが出来なくても良いなら何人まででもプレイ可能
<並行世界版GI>
・(身体の一部分が触れる行為をトリガーとして)対象者内に存在するオーラを認識。対象者を別場所へと強制移動させる
・プレイできる人数は限定