私のグリードアイランド   作:葉隠 紅葉

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第6話

 懸賞の街アントキバにも夕暮れは訪れる。太陽が落ちかけたころ、街並みは変わり、周囲には飲食の為の出店や軽食の為のベンチが現れだす。街灯が灯り出す頃を目安に、突如地面から屋台やゴミ箱等が出現し始める。どこからともなく太鼓やハーブの音楽が鳴り出し、周囲にはエスニックな音楽が流れ出すのである。

 

 実に異国情緒溢れる景観である。あらゆる文化が入交じりここでしか見られぬ光景となっている。肉が焼ける心地よい香りと酒に興じるNPC達の笑い声が溢れてくる。そんな中、出店の一角のベンチに座った相澤は悲痛な声をあげた。

 

「Eランク…だと…っ!?」

 

メラニントカゲE-100

 

 『牛をも丸のみにする程の巨大なトカゲ。押されるだけで気絶してしまう程の敏感なほくろが背中にある。それを隠すためか全身が大小様々な斑点模様でおおわれているのが特徴。そのほくろは’とあるエネルギー’によって覆われている』

 

 カードテキストにはそう記されていた。あの巨体でトカゲとは一体…いいやそんなことよりも気にするべきはこのランクである。Eランク、それはつまり最低ランクからそう遠くない階級。つまりは雑魚敵という事である。あれだけ苦労して得たものがEとは…相澤は髪をかきむしって爆発しそうな苛立ちを無理にでも押さえつけた。

 

 自分は彼女に助けてもらえなければ死んでいた、それも最低にほど近い雑魚敵に。その事実に苛立ちを隠せない。ウワバミに対して大口を叩いた自分に、それでも成しえなかった己の弱さに腹が立つ。今もなお笑顔でモンスター肉にかぶりついているミルコに対して改めて礼を告げながらも、相澤は尚もカードテキストを注視し続けた。

 

「……」

 

「どうした?肉喰わないのか?強くなれないぞー」

 

「……後で食べる」

 

 ミルコからの言葉に空返事を行いながら、相澤はカードの一文に着目した。とあるエネルギー…またである。この単語が出てくるのは実に三度目だ。これがゲームであるとするならば、冒険を始めたばかりの己が弱いのは当然である。もしも正当な攻略法があると仮定するならば。やはりこのエネルギーとやらが攻略の為の鍵となるのではなかろうか。

 

 溜息をつきながら、ミルコが購入してきた小さな肉の串焼きへと手を伸ばす。匂いを嗅いでみるものの、なんの素材の肉なのかすらも分からない。明らかに豚や牛でないことは間違いなのだが…。ともあれ香ばしい香りに美味そうにかかった茶色いタレが彼の食欲を擽ってしまう。

 

 なぜゲームの世界で腹が減るのだろう、そう想いながらも空腹には勝てないのが人間だ。胃袋に食べ物を収めながら彼はぽつりと独り言をつぶやいた。

 

「やはりとあるエネルギーってのを突き止めるのが先決か…」

 

「とあるエネルギー?なんだそりゃ」

 

「…お前までゲームのNPCみたいな事を言うな。このカードに記されているテキストの事だ」

 

「ふーん、ちょい見せて」

 

 ミルコに対してカード化したメラニントカゲを手渡す。おそらくこれを売ったところで大した金額にもなるまい。街の住人から聞き出したカード化限度枚数とランクの関係に関して思い出している相澤に対してミルコは小首を傾げながら怪訝な表情をした。

 

「うん?…んんぅ~…どこに書いてあんだよ」

 

「最後の一文だよ、ほくろはとあるエネルギーによって覆われているって書かれているだろ」

 

「書いてないぞ」

 

「は?」

 

「だからここだろ、ほら。ほくろは【オーラ】によって覆われているって書かれてるぞ」

 

「オーラ…?」

 

 ミルコから返却されたカードを再び読む。無論、それでカードテキストが変更になるはずもない。一切変わりのないカードを改めて注視しながら相澤は深く思考する。

 

 彼女が嘘を言っていないとすれば…まさか、読む人間によってテキストが変わるという事だろうか。そんな事があるのだろうか。物は試しと相澤は(バインダー)からいくつかのモンスターのカードを取り出してみた。

 

「’ブック’」

 

「おぉ急にどうした?」

 

「いいから、こっちも読んでみろ」

 

「んー別にいいけど…。一つ目巨人、巨人族の中で最も巨大な種族。弱点の目にはオーラを纏っていない」

 

「ならこのマリモッチのカードは」

 

「オーラによって超高速で移動するボール状の生き物。オーラの有無で速度と軌道が変わる」

 

「…テキストの意味が違うな。おれは『とあるエネルギーによって』としか読めないし、二つ目のテキストは書かれてないから読む事もできない」

 

「うん?…つまり、どういう事だ?」

 

「俺とお前で条件が違うって事だ。何らかの条件…フラグって奴か?それとも何か別の…」

 

 そういってまた一人思考にふける相澤。カードテキストの周囲に刻まれた神字やカード自体にオーラによって刻まれた文字である。既にオーラに目覚めたミルコと相澤では読む内容が異なってくるのは当然であるとも言えた。

 

 実は念能力…というよりも、オーラの力を目覚めさせるには幾つかの方法がある。まずはゆっくりと起こす方法。これは瞑想や禅によって精神の感覚を研ぎ澄ませる事によって、自身の体内に存在するオーラを自覚する事によって徐々に精孔を開いていく方法である。

 

 そしてもう一つは激しく起こす方法。つまりはオーラを伴った外部刺激である。実はこのゲームにおける敵はオーラを込められた念獣の概念に近しい存在も多く、また意図的にオーラを発して攻撃対象者の精孔を刺激する役割もあるのだ。

 

 これはゲームマスターであり、ゲーム制作者であるリストが「どんな初心者であっても意思さえあれば攻略しやすいように」と意図的に設定した弱者救済措置でもある。

 

 つまり、攻撃を受ければ受けるほど『オーラに目覚めやすい(成長しやすい)肉体』になるのである。

 

 これにより例え外法によって念能力に目覚めた物であれ、知識のない師や独学によって念に目覚めた事で精孔の開き具合が整っていない者であれ。戦闘行為を重ねていけばより丁寧に質の良いオーラを産み出す事が可能となっていくのである。そしてこれは、まだ念に目覚めていない者ですら例外ではなかった。

 

 ともあれこれは外法である。ましてや念に目覚めていないヒーロー社会の住人達にとっては間違ってもお勧めできる手法ではないだろう。ミルコのようにオーラを使えなくとも桁外れた身体能力が無ければそのまま敵に押しつぶされて殺されるだけであるのだから。その事を知らぬ相澤は尚も思考を重ねる。

 

 

(俺と彼女で何かが違う…いや、そもそもミルコの身体能力は高すぎないか…?)

 

 山のように巨大なトカゲを蹴り飛ばす。現実世界で個性を使用してきた彼女を見てきたからこそ違和感は無かったが、冷静に考えて見ればそれこそがおかしいのだ。

 

 彼女は個性が無効化されなかったのか。或いは無効化された個性を一部取り戻したのか。そしてこの現象にはオーラという存在が関係しているのか。と、相澤は勘違いをしてしまったのだ。

 

 実際ミルコもここに来た当初は全くオーラが使えなかったのだ。が、来る日も来る日も敵と肉弾戦の死に稽古をしているうちに『なんか身体が軽くね?』と知らずのうちに謎のパワーアップ現象を体感してしまったらしい。もしもここに念能力者がいれば、ミルコの身体から湯気のように立ち込めるオーラが目視出来たに違いない。

 

 オーラをコントロールできる、それは即ち身体能力が倍以上に向上するという意味でもある。彼らの世界の言葉を借りれば、『どんな無個性人間でも増強型の個性に匹敵する程の』超人的な能力を発揮する事ができるのだ。

 

 ちなみに、オーラを纏う事で若さを保つ効果もあるので念使いの寿命はかなり伸びる。かの最強の念使い、アイザック=ネテロ氏は130歳前後という年齢でありながらもあの激闘を行うほどの生命力を保っていたのだ。

 

 もしも彼らがこのオーラコントロールに目覚めたまま現実世界に帰還できたならば。本来の個性に加えて大幅に増大した身体能力と寿命、そして個々人だけが持つ念能力を操るというとてつもない存在になれる事だろう。

 

 二つ星のプロハンター、ビスケ氏もこう発言している。念能力修行において『筋の良い人間の身体能力を一カ月で2~3倍にするのは比較的容易である』と。 

 

 

「なぁーとりあえず食事しようぜ!他のメニューも気になるし、ここはやっぱり追加注文するべきだな」

 

「おい、人の命がかかってるんだぞ!お前は楽観的すぎる」

 

「お、この肉うめーな!」

 

「……」

 

 肉を掴み、笑顔でほおばるミルコに対して相澤は眉をしかめた。ともあれ、彼女の言うことにも一理はあるのかもしれない。この何も分からない状態で一分一秒を悩んだところで仕方ない、まずは情報収集だ。救援がいつ来るかも分からない以上は、ゲームクリアには自分たち二人で挑まねばならない。そのためには肉体を健康に保つ事が不可欠だろう。

 

 精神の病は治るまでに時間がかかる、同僚を化け物に食い殺されたというウワバミが使い物になるか分からぬ以上はミルコの機嫌を取って友好な関係を築かねばならない。仲たがいするよりかはその方がよほど合理的というものなのだから。

 

 まぁ今は食事をとるべきだな。

 

 そうしてミルコに勧められた肉を相澤自身もほおばる。料理の味は憎らしいことに、最高の焼き加減と抜群の塩加減であり、控えめに言って美味であった。美味いな、とぽつりとつぶやく相澤に対してミルコは笑顔で返答をした。

 

 悲観主義よりかは楽観主義の方が幾らかマシか、そう考えた相澤はそのまま水の詰まった杯へと手を伸ばす。彼女の底抜けの明るさにのせられつつ、相澤は久々に暖かい食事を取った。

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