「以上でB班の報告を終えます」
時は、とある日まで遡る。それは警察署内部に設けられた巨大な会議室であった。第二会議室と刻印されたその空間には難十個ものパイプ椅子と長机が置かれている。なかでも目を引くのは壇上に備え付けられた巨大プロジェクターだろう。
幾人ものヒーローとそれ以上の警察官たちが椅子に座り、会議を行っていた。皆、配られた手元の資料とプロジェクターを眺めながら、会議に積極的に参加する。塚内は改めて、その熱気と熱意に感激しながらも、会場に集ってきたプロヒーローや警察官達の為に説明を行った。
「現状をまとめます。現在消えたヒーローは4名です」
ラビットヒーロー 『ミルコ』
スネークヒーロー 『ウワバミ』
車輪ヒーロー 『ライドスター』
抹消ヒーロー 『イレイザー・ヘッド』
この4名が行方不明となっていた。警察署内やヒーロー達の間でも意見が分かれていたものの、現在では非常に強力な移転系の個性を持った犯人達の仕業であるとの考えが主流であった。
車輪ヒーロー『ライドスター』彼の両脚には頑丈な車輪が備わっており、個性を発動する事で自動車並みの速度で移動できるというプロヒーローでもある。個性を生かした格闘にも特化した存在である。
その彼が、誘拐された。彼ならば例え単独でも事件現場から逃げ切れる筈だとの同僚の証言から、それが出来ない状況にある。つまりそれだけ戦闘や捕縛に特化した強力な個性を集団による、大規模な犯罪集団である可能性が出てきたという事だ。
イレイザーヘッドやミルコも脱出を出来ていないという事は、それができないだけの集団による事件という事なのだろう。敵は我々が予想する以上に強力で凶悪なのではなかろうか。
それだけではない、相澤やライドスターが身に着けていた常時発動型の位置発信機が不能になった事から、電波に関する個性を使用している可能性も浮上してきた。電気や電波に関連する個性というのは貴重であり、強力でもある。
プロヒーローすら脱出を拒む戦闘型個性
電波の活動を阻害する個性
最低でもこれらの個性が合致して協力し合っているのである。電波が拾えぬ島なり地下空間に囚われている可能性。しかも、その生死すら分からないのだ。
そして何より…一般人やプロヒーローを誘拐してまでする一切の意図が不明。誰が、何のために行っているのかまるで分からないのである。ヒーロー排除を目的とした
ましてやこれだけの数の警察官とプロヒーローが探しているのに未だ有力な手がかりすらつかめていないのだ。塚内はマイクを握りしめながら、会場に集った人々に対してとある録音を聞かせた。
「イレイザーヘッドが消える直前の通信の様子がこちらです」
【ゲーム機…?】
【ゲーム機がどうかしたのか】
【暴力団の部屋にゲーム機だけが置いてある…妙だな】
【彼らだってゲームくらいするんじゃないか?】
【随分と古いゲーム機だぞ…それにこの部屋だけ異様に綺麗すぎる。とにかく警察に連絡を…なっ!?】
【どうした!おい…返事をしろっ!】
【か、身体が…一体これはっ!!?】
通信が途切れる。言いようもない、不穏な空気が部屋に流れた。溜息交じりに、塚内は尚も言葉を重ねた。
「通信は以上です。お聞きの通り、彼は
相澤のケータイと財布
机の上に置かれたアンティーク調の机
古い旧式のゲーム機
「我々は暴力団の事務所にあった物品を押収し、その中に奇妙な物を見つけました」
「それがこのゲーム機だと?」
「はい、そうです。そしてゲームソフトを警察署まで回収し、中身を確認。それをテレビ画面につないだ所…以下の画面が現れました」
「これは…一体どういう事なんだ?」
プロヒーローの戸惑う声が聞こえる。資料を固まったまま、塚内自身も改めて書類に印刷された写真を眺める。それはゲーム画面を直接カメラで撮影したものである。
旧式特有の荒いグラフィック画面、ドット調の画面にはゲームのタイトル名らしき『グリードアイランド』なる文字と2人分の名前が刻まれていた。
『イレイザー・ヘッド Now Playing』
「もう一人プレイしている人間は暴力団の団員であることが判明しました。ここから先は別の方に説明をして頂きます」
「警察官の井淵です。こちらのゲームに関して資料を別紙にてまとめましたので御覧ください」
塚内に変わって、別の警察官が舞台に立つ。塚内からマイクを受け取った井淵はそのまま僅かばかりの緊張感を伴って説明を続けた。目前にいるのは名だたるヒーロー達である。これだけの人数がそろっていれば、きっと何が起きても大丈夫だと。そう安心感を抱きながら、彼は自前でそろえた資料を眺めた。
「――といった事情から、現在はウワバミ氏とライドスター氏が捜索していた付近を再調査…なんと2台目の同名ゲームソフトが見つかりました」
「同名…つまり同じゲームソフトが誘拐事件の犯行現場にあったと」
「グリードアイランド…トイ・ランドを始めとした公式ネットショップにアクセスしてみましたが一軒も
「ゲーム年鑑はどうだ?あれならこれまでに市販されたゲームが全て記載されているはずだが…」
「該当する物は有りませんでした」
「つまり…個人で造った同人作品という事か?」
「はい、現在コミックマーケットやゲームマニアに問い合わせている最中です…」
「アタシからもいいかしら…大切なのはゲームの中身ではないのでは?つまりグリードアイランドとは犯人からの犯行声明文のようなものではないかしら」
「我々も同様に、その可能性が高いと考えています」
プロヒーローからの問いかけに塚内が答える。態々ゲーム画面を通して誘拐した人間の情報を表示させる意味はない。つまり犯人たちはゲーム機を通して伝えているのではなかろうか。
彼らは預かった
彼らは我々の遊戯に囚われているのだと
態々ゲーム風を装って回りくどいメッセージを伝えている事である。動画や犯行声明文を通して意思表示をするのは情報割れ対策だろうか。なにせ、見たところはどこでもあるような、普通のゲーム機である。
ともあれ、謎のゲーム機にばかり固執しても仕方ないのは事実だろう。塚内は説明を終えた井淵から改めてマイクを受け取ると、そのまま通常捜査に関する報告と会議の内容を進めた。敵がどのような個性であれ、これだけ大量の人間の痕跡を消し去る事など不可能なはずなのだ…。今必要なのは人海戦術である。そう彼は信じながら言葉を続けた。
「現在は各地方や各警察署に問い合わせている所です。怪しい集団や、誘拐された一般人・プロヒーローの目撃情報がないかどうかを確認中であり…」
「後手後手だな、我々の方でもっと先手を打つ必要がある」
「しかし、相手は
「それが甘いんだ、こういう輩は時間を与えると戦力を整えられて厄介だぞ」
「その点についてはご安心を、既にスペシャルアドバイザーを招集しました…彼らならきっと大丈夫でしょう」
突如部屋に入ってきた人物に、討論を行っていたヒーロー達は思わず、視線を見合わせる。その空間に入ってきた老人は、黒いスーツを着こんでおり物静かに微笑みながら佇んでいた。彼の胸元を注視してみると、どうやら何か身に着けているようであった。その彼の装着したバッジには、見慣れぬ紋章が備わっていた。