魔法都市マサドラ。ここは髭を蓄えた老人やいかにもといった風貌のローブを身に着けた魔法使い達が住む魔法使いの為の都市である。無論、彼らはこのゲームの為に造られたNPCだ。だからこそ、無精ひげを生やした長髪の、頭を抱える成人男性に態々声をかける物好きなど居るはずもなかった。
「目当てのカードが出ない…」
カードショップの前のベンチにて、すっかり多くなってしまった溜息をつく相澤。通算9度目ともなるカード購入、どうやらめぼしいカードが手に入らなかったらしい。
目当てのカード
それは
魔法都市にあるカードショップの店員に聞いた、現実世界へ戻る為の方法の一つである。この呪文カードを使えば対象プレイヤー1名を現実世界へと帰還させる事が可能らしい。それを聞いてから相澤とミルコはこのカードを入手すべく粉骨砕身の労力を払っているのだが…どうやら成果は芳しくないようだ。
ちなみにカードはすべて袋詰めとなっており、中身は見えない。速い話がガチャガチャである。3枚入りが一袋となっており、値段は10000Jである。中身は絶対に見えず、全種類から三枚だけ入手できる仕様となっている。恐らく低いランクの
このゲームが意図する事は何となく分かる。
だがプレイヤーの大多数がこの魔法都市までたどり着けていない現状を見ると、ゲーム制作者はどんな超人を基準にしてゲームを造ったんだと怒鳴りつけてやりたい気分になってしまう。というか現状では入手したカードの大半が役立たずなのだからそんな反応にもなるというものだ。
ともあれ、目標は見つかった。現在行うべきはゲーム外への脱出を行い、外部へ救援を求める事である。相澤は気落ちした身体に活を入れながら、ゆっくりと立ち上がった。彼は一枚の呪文カードを取り出すと、そのままつぶやくように呪文を唱えた。
「
ここ数日ですっかり慣れきってしまった行為を重ねる相澤。マサドラへ着いた当初こそこうした
光の矢となって宙を移動する。ほんの少しばかりの移動時間の後、目的地へとたどり着く。どうやらミルコはマサドラの近隣にある無人の村に居たらしい。住居の中で椅子に座りながら水筒を飲んでいた。水を飲みながら本を整理する手を止めるミルコ。彼女は相澤の姿を確認すると嬉しそうに笑みを浮かべて手をあげた。
「お疲れさん、そっちの首尾は…聞くまでもねーか」
「さっぱりだ、
「確率低いらしいからなー」
相澤から食料等の支援物資を受け取るミルコ。無論、マサドラのデパートで購入したカードである。
ミルコはこうして外部でモンスター狩りを担当しているのだ。相澤はというとマサドラでのカードや物資の調達、アントキバでの一般人への金銭的且つ物理的支援、各種情報収取を担当していた。無論、それに加えて時間さえあればミルコと共にモンスターとの戦闘を通して資金集めを行うのであった。
相澤はオーラに目覚めた。それにより戦闘能力は格段に向上した。これまで苦戦したモンスターにも対等以上に戦えるようになった。…が、同時に体力切れなる現象も起きたのだ。
念使いは技術を巧みに利用することでオーラの量を調節するものである。だが今の相澤とミルコに出来るのはあくまで我流の錬もどき、しかもそれすらも長持ちしないのだ。オーラが切れれば一般人とは何も変わらない。現状、オーラを纏った状態で戦えるのは30分が限界であった。
無論、これは彼らが未熟なせいでもある。目的に合わせた正しいオーラの入出力が行えていないのだ。コンビニに行くのにアクセルを全開にして自動車に乗るようなものである。これでは直ぐにガス欠になるのも当然だろう。
その点、ミルコには天性の素質があるのだろう。精孔にググと力を込めることで漏れ出るオーラの量を少なくする技術を会得したのだ。これにより、昼寝や座禅を挟むことで格段に継続戦闘能力を向上させることに成功した。2時間20分、それが彼女が一度の戦闘に費やせるだけの万全の時間であった。
兎という動物的感覚を持つ事による直感。対人戦闘経験に由来する体術への才能。オーラに対する抜群の嗅覚。それらが組み合わさることで尋常ならざる戦闘力を産み出していた。現在の彼女ならば、天空闘技場の200Fクラスでも対等以上に戦えるかもしれない。
だが困ったこともある。
「おっと…」
「…またかよ」
「いつもこうなんだよな…何でなんだろう?」
水筒から水が溢れだすのだ
オーラを垂れ流したままミルコが水筒を掴む、すると水筒の飲み口部分から
ジョボジョボとだらしなく垂れていくその水量は日増しに多くなっていく。しかもその現象は彼女が水筒を掴み続けている限り起きるのである。
ともすれば、永遠に出続けるのではないかと思うほどの量。GI内の水筒は一度購入すれば無限に水が出続けるという便利な機能でもついているのだろうか。相澤からすればなんとも不気味な話であった。
「でも流石にこの量は勿体ねーな…イレイザー!飲むか!?」
「そんなに飲めるかよ」
良い笑顔で、こちらへと振り返ってくるミルコ。そんな彼女に対してそっけない声で答える相澤。同様に、オーラを垂れ流している相澤も又、自身の
振った反動でチャプチャプと音が鳴るばかりである。そのまま相澤は
「でも流石に人手が足りねーよな」
「一般人に助けを求めるって言う例の計画か」
「そうそう、緊急事態だしいいだろ?」
「警察官とかならば良いが…難しいところだな」
オーラの力を手に入れてからは順調な彼女らの攻略。だが絶望的なまでに人手が足りていなかった。ウワバミに対してもこれまでの事情を説明し戦闘に参加してもらいたいのだが…オーラに目覚めるまでに一カ月もかかられたらどうしようもない。一般人への呼びかけやメンタルケア、アントキバの一般人への支援役として、それをまとめる活動は現在彼女が行っているのだ。
それに…こういっては何だが個性が使えぬ女では一般人と変わりはない。彼女自身は元々偵察が得意な非戦闘系のヒーローなのだからそれも無理はないのだが。それなら戦闘経験がある体格の良い男の方がまだ戦えるだろう。だが一般人に死の危険があるゲームに参加して戦えというのも憚られる。…と相澤とミルコは堂々巡りの議論をしていたのだ。
ふとミルコは気が付く。相澤の目にうっすらとクマが出来ているではないか。ミルコは目をパチクリと瞬かせながら相澤に問いかけた。
「なぁイレイザー…お前ちゃんと寝てるか?」
「寝てるよ…いきなりどうした」
「よし、聞き方を変える!お前普段は何時間寝てる?」
「5時間だな…時々仮眠も取ってる」
「…少なくね?私は毎日10時間たっぷり寝てるぞ?」
「お前は寝すぎだ」
大丈夫かと言わんばかりにミルコが問いかける。そんな彼女に対してそっけない声で返答するイレイザー。そんなイレイザーの言葉に対してミルコは尚も問いかけた。
「じゃあ休暇は?ちゃんと休んでんのかよ」
「そんなもん要らん」
「いや、私も休みたいんだって!お前に倒れられたらみんな困るだろ!」
「倒れるような無様なマネなんかしない」
あーもう、と胡坐をかいたまま頭をかくミルコ。どうにも言いたいことが伝わらない。薄々、というよりこうして行動を共にするようにしてはっきりと認識したがこの男は不愛想でぶっきらぼうだ。彼女は苛立つように声を荒げながら尚もイレイザーヘッドに対して言葉を重ねた。
「不器用すぎんだろ!それと辛気臭い顔もやめろ!」
「辛気臭くて悪かったな」
「とにかく2人居るんだからお互い交代で休むべきだろ」
「じゃあお前が休めばいい、俺は働いている」
「そういう事じゃねーって!!」
「とにかく食事も休息も俺は勝手に独りで取る…だからお前も好きにしろ」
「…あーそうかい、じゃー好きにするぞ」
そう言って、彼の腰を掴むミルコ。え、と動揺するのも束の間、突然彼女の手によって相澤は担がれてしまう。まるで米俵でも抱えるかのようにして女性に担がれるその光景は一種滑稽じみていた。その光景に、思わず彼は慌ててしまう。
「よし、一緒に宿屋行って休むか!」
「おい、そんな暇あるか!…というかどんな馬鹿力で引っ張ってんだ!」
「マサドラでうまい飯屋見つけたからなー。イレイザーにも紹介してやるよ」
「だから要らないって…おい!」
彼女の手から逃れようともがく、相澤。だがオーラの質と量で完敗している彼が勝てる道理もない。ガハハと豪快に笑う彼女に対してジタバタともがく相澤。これも彼女なりの優しさ…なのかもしれない。
成人男性をまるで米俵でも担ぐかのようにして住居から出るミルコ。どうやらこのまま移動をするつもりらしい。彼女は本を出すと片手で器用に一枚の呪文カードを取り出した。
「どんな状況でも働くのがプロだろ!」
「いや違うだろ。休めるときに休んで、食える時に
「ま、待て!分かったから一回降ろせ!」
「ハッハー!もう遅い、
相澤の悲しいまでの叫びが木霊する。そうして光状になった彼女たちは呪文カードの効力によってあっという間に魔法都市へとたどり着く。前途は多難、それでも彼女達ならばきっとなんとかしてしまうのだろう。だって彼女たちはヒーローなのだから。
合理主義で不愛想な相澤とおおらかで楽観主義のミルコ。なんだかんだ言ってこのコンビは相性が良いのかもしれない。
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場所は、変わる。それは異様な空間であった。ゲームをプレイする人間が必ず最初に訪れるゲームマスターによる神聖なる場所。そんな空間に、彼女は無理やり連れてこられてしまう。
壁一面に刻まれた謎の象形文字に、びっしりと埋め込まれたコード類。壁の模様は時折点滅を繰り返しており、地面からは時折妙な光源からの光が点滅を繰り返して漏れ出ていた。見たことも無い場所に飛ばされてしまった、その少女は戸惑うように小さく悲鳴を上げた。
年齢は…小学4年生程度だろうか。随分と幼い見た目をした黒髪の少女である。その空間の中央部に居座ったイータが、彼女に対して声をかけた。
「ようこそいらっしゃいました、旅人様」
恐ろしい空間の中で突如かけられた声に、思わずびくついて反応してしまう少女。どうやら随分と
あぁ父親の書斎になど近づくのではなかった。見たことも無いゲーム機に触れてしまった事を今更ながらに後悔する少女。未知のものに対する好奇心よりも、異常事態に対する恐怖が勝っているのは年頃の少女らしい反応と言えるのかもしれない。そんな彼女に対してイータはにっこりと微笑む。その無機質的な笑みは、どこまでも少女を怯えさせた。
こうして物語は進む。それは本来の歴史では起きる筈も無かった奇跡であった。彼女が成長することにより歴史は歪み、やがては別のルートを辿るのだろう。
「貴方の名前をお伺いしても宜しいですか?」
「あ、あの…
これはそんな