最初の火   作:Humanity

4 / 14
どうやらHumanityは卿の名前を間違えて覚えていたようで。赤頭巾さんの報告無しでは気付くことはなかったでしょうから、改めて有り難さがわかりますね。以後気をつけます。



第三層

………

 

 

あの男(ボンドルド)の基地の一角、内燃機関の排熱を利用して作られた狭い水浴場に灰はいた。「帰宅」してすぐに祈手へ水浴びをしたい旨を伝え、どこからか伝え聞いたらしいボンドルドの先導でやって来たのだ。

 

 

「ここに監視役は置きません。確かめていただいて構いませんよ。」

 

「…。」

 

「防具や装備品などはこの籠をお使いください。私はこの場を少々離れます。済んだようであればここの外の廊下に立つ祈手にそう伝えてください。ああ、それとお身体を拭う際にはこちらをお使いくださいね。」

 

「…む。」

 

「では私はこれで、ごゆっくり。」

 

「…。」

 

 

やけに手慣れた様子のボンドルドがその場から立ち去ると確かに扉の外には一人気配があることが灰には分かった。さらに灰は浴室や脱衣所を見回すが確かにあの男の言う通り監視役らしい気配は見て取れない。

最後に積まれた白い布を確かめようと手を出し、思い至って左手の真っ黒なガントレットを外す。するとおおよそ剣や盾を持って戦う手とは思えないほどに白く柔らかい肌と細い指が露わになって、さらに四本の指にはそれぞれ指輪がはめられている。

それを灰は布の中へ無造作に突っ込んだ。

 

 

「…んむ…。」

 

 

結果はなんの問題もなくただの白い布であることがわかった。強いては質の良い布であることがわかったほどである。

 

 

「…さてと。ぼくはただ水浴びがしたいと言っただけなのだが…。」

 

 

湯船に浸かる経験などなかった、ハズの灰であるから本当にただ水を浴びる程度でよかったなどとも考えつつしかし素直に応じることにしたらしい。左手に次いで右手のガントレットも外し、灰色のローブのフードを脱ぐと兜の全体があらわになった。

フードを通してみる正面の側は返り血や顔に受けた外部からの衝撃により黒く変色しているが、ローブに隠れた後頭部はというと輝くような銀色をしている。バイザー付きの西洋兜としては小ぶりで軽量であるそれは、後頭部には特徴的な八条の筋がコウム(鶏冠とも)を挟んで左右対称にありさらにバイザーの上部にも簡易的ながら筋状の装飾が彫り込まれている。やや貴族趣味的だ。

 

 

「よいしょっ……と。」

 

 

その兜を外し棚に置くとさらにその内側に着る鎧下の、ぴったりと肌に張り付くフードを脱ぐ。

毛先がそろった女性のような白髪をふるふると頭を振って癖を直すと、灰色の厚手なローブを脱ぎ、黒い布地に灰色のスカーフと金糸の装飾が施されたコートとさらに内側に着つけていた真っ黒なチェーンメイル、同じくガーゴイルを思わせる石のような黒い足甲をソウルに仕舞う。

 

 

 

「…湯に浸かるなら下着も…んぅ…仕方ないか…。」

 

 

もとより鎧と鎖帷子、さらにインナーの下に身につける下着であるので生地は薄くまた丈も長いものなので、これを見て下着とわかる人物も少ないやも知れない。そんな無駄な考えをしながら灰は下着も脱ぎ捨てて裸になって、ふと思ったことがいくらかある。

 

 

「そういえばここまで脱ぐことはそう無かったな…。」

 

 

砂の呪術師装備やふんどしといった吹き溜まり産の装備を好んで身につける趣味はなかったものであるが、魔術繋がりで有名な逸話といえばかの『ビッグハット』ローガンの最期は

 

 

「いやあれは狂ったからだ。結晶魔術の狂気に抗する能力が足りなかっただけだろう。」

 

 

——きっとそうに違いない。——

なお誓約で時たま出会うほかの灰たちが衣服を身に着けていなかったり露出を好んだりしていたのは個人の嗜好であって、あれらはまた別の話であろう。

 

 

「…まあいいか。」

 

 

なかば自身に言い聞かせながら脱いだ鎧や衣服を全てソウルにしまい込み、護身のためにグルーの短刀のみを持って浴室へ入った。

 

生前の育ちについて火の無い灰その人自身が覚えにあることはとんと存在しないのであるが、不思議と行儀作法というものは染み付いるもので一挙一動の意味を理解する可否は別としても行為自体はなせるものだ。思えばこちらの世界に侵入した身でありながら裸であっても一礼を交わした敵対の霊体や、こちらから助けを借りるべく召喚した霊体たちがその最たる例であろうか。

 

 

「……熱い。」

 

 

無論文化圏の違いとは常にあるものだろうが。湯船から桶へ汲み掛け湯をしながらそんなことを灰は考える。

そうして頭から足の先まで全身を流してから湯船へと浸かった。

 

 

「熱い…『熱い』か。」

 

 

温度という感覚情報。

湯船につかりながら灰は自らの言動を顧みて、果たしてロスリックに在った頃も今と同じように温度を感じていただろうかと考えた。ロスリックの高壁に始まり不死街、カーサスの地下墓と燻りの湖、イルシールとアノールロンド、そしてロスリックの本城と果てはアリアンデル絵画世界や輪の都とかなりの寒暖差や物の温度を見たはずではあれど、それは確かに自身の感じ得た情報であったのだろうかと。

 

 

「んんぅ…。」

 

 

アリアンデルで感じた吹雪の寒さや篝火から感じた温かさは果たして本当に「感じた」情報であったのだろうかと。

 

 

「うぅ…?」

 

 

寒色暖色とはよくできたもので、色覚の及ぼす影響とは計り知れないものだ。真っ白な雪の絵を見て「寒そうだ」と変換するその過程に実際の温度は伴っただろうか。いや多くの場合は伴っていない。経験に基づくイメージの問題なのだ。

 

 

「…んん。」

 

 

そしてふと思い至る。果たしてエストには温度があっただろうか、と。

直近では外部の探索での回復や手を切ってそこに流し創を癒したことなどが思い浮かぶ。灰エストにしても確かにそれらには温度があったはずだった。

 

 

「…まだ一度も触れてはいないが…。」

 

 

篝火も似た温かさだろうか。改めていま体を浸して任せている湯をきちんと感じ取ってみれば、これは少しエストとは温かさの本質が違うのではないか。その気づきを得て灰はようやく思索の海から意識を浮上させる。

肩まで浸かっていた灰の顔はもうすでにじっとりとした汗をかいており、髪もまた濡れているので高い位置にある灯りに照り輝いて見えることだろう。

 

 

「上せる前にあがるか。」

 

 

ざあという水音と共に湯船で立ち上がった灰はふと扉口を、そしてそこに立ち尽くす子供を見た。

 

 

「…む?」

 

「あ…えっと…。」

 

 

女の子だろうか。白い布で体を隠して紅潮した顔を背けているので、真っ赤になった右耳の端と地味な茶色の髪の毛が肩にかかっていることしか特徴は見えなかった。

 

 

「まちがえた…かも…。」

 

「いや間違えてはいないだろう、あの男が間違えるとは思えない。あれは謀ったつもりかもしれないがぼくはもう上がるからな。」

 

 

背丈は灰よりも若干低い。齢は見てくれより上であろうが、とはいえこの基地の構成員と比べれば娘と言われて違和感もないほどには幼いだろう。

そんな少々礼を失した推察をそうと理解しながらもチラと考えた灰は、白い布に包んでいたグルーの短刀をそっとソウルに仕舞い込むとそのまま浴室を出て行った。

 

 

………





灰の装備は以下の通りです。(体力17)

上級騎士の兜
魔術師のローブ
黒騎士の手甲
モーンの足甲

エルデンリングにハマっていて私の全ての執筆、投稿などの活動が完全に停止していました。お久しぶりです。
このSSで主人公になっている魔術剣士ビルドが星の世紀、筋バサビルドが黄金の時代を迎えそれぞれがエルデの王となったのでぼちぼち執筆活動を再開していきたいと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。