理由は活動報告に投げているので、読んでいただければ幸いです。
『ぶぃ……』
シアが爪をスパイクシューズのように立てても、それで脚力の踏ん張りがつくかどうかといわれたら、多分NOといえる自信がある。
元々この群青の海岸の坂道は砂利が少なからずあれど、きちんと整備された場所だ。ベースキャンプが立つことからもうなずける。
それに砂利があったとしても、その上から氷でふさいでしまえば、つるつるのアイスフィールドの完成だ。そこには適性を持ったグレイシアしか行動する権利を許されない。
「いま! グレイシア、れいとうビーム!」
『フォォン!!』
『ぶぃいいいい!!!!』
前回の雪辱を晴らすがごとく、冷気の光線を発射したグレイシア。
その目にいるのはシア。イーブイだ。グレイシアだったならいざ知らず、イーブイではひんしはともかく、致命傷は逃れられない。生命の危機を感じたシアが急いでその場から脱出しようと、後ろ足に力を入れるが、滑る。
「シア!!」
マヌケにも的とも言える身体を晒してしまったシアの腹部かられいとうビームが直撃する。
吹き飛ばされるならばまだいい。だが、その光線は冷気。たちまち空中の水分と結合していき、シアの体を丸ごと氷で包んでしまったのだ!
俗にいうこおり状態。この状態になってしまえば、特殊なほのお技でなければ内側から溶かすことは困難。その上溶けるにも時間がかかってしまう。
個人的な1VS1という未来から持ち込んだプライドが邪魔をする。
シアはグレイシアとの対決を望んでいる。だけど、この状態では対決もままならない。
打開策はある。だけどそれをシアは理解してくれるだろうか。
「これで、ショウさんのイーブイは動けなくなった。どうする?」
モンスターボールに戻すこともできるだろう。
そうすればシアの安全は確保できる。シアが望むことではないということを除けば。
ふと、シアと目が合った気がした。凍結されていても意識はあるようだ。
その瞳は、闘志はまだ燃えている。シアはまだ諦めていない。
グレイシアという自分が越えるべき相手。そのためにはどんな手だろうと使うべき。最後にシアとグレイシアを戦わせられればいいのだから。
「……わたしね、あの時空の裂け目からやってきてから1つだけ信条にしてきたことがあったんだ」
それはトレーナーとしてのプライド。
相手がポケモンつかいなら、こちらも1で対応するということ。
要するに現代のポケモンバトルの形式だ。プライドであり、執着。
どんな時でも元居た時代のことを思い出せるように、と思ってのことだった。
でもここでのルールは違う。
この時代でのポケモンバトルはまさしく戦い。血と肉を貪り合う死闘。
だったら、こちらもそのルールに従うのが、通りというもの。
「いまから、それを破る!」
懐のカバンから木製のモンスターボールを取り出したと思えば、そのまま空中に投げ込む。
弧を描いたボールの中から飛び出してきたのは何倍もの力強さが大地を揺らしかねない、大きな熊のポケモンだった。
「デンボク、さん! お願いします!」
「オヤブンリングマ……。って、デンボクさん?!」
『ぐまあああああああああああああ!!!!!!!!!!』
轟く方向はオヤブン個体特有の覇気。
わたしの支配下にあるが、そのポケモンはむしろ知性を得た怪物といってもいい。
踏みならす大地がいかに悪くとも、デンボクさんの重量と爪の鋭さがあれば、ある程度は対応できる。
「な、なんでデンボクさんって言う名前なの……?」
「……そ、それっぽいかなーって」
『ぐま!』
デンボク、さんもうなずいた。間違いない。
「じゃあ仕切り直しといこうか! デンボク、さん、地面に向かってほのおのパンチ!」
「え?!」
叩きつけた拳は熱を持つ。勢いよく振りかぶったデンボクさんのパンチの着弾地点からは氷を散り散りにし、土をむき出しに、それどころかへこませるほどの破壊力がカイちゃんの表情を一変させた。
デンボクさんは生粋のパワープレイヤーだ。
だから自前のフィールドはただただ破壊しつくすだけ!
「デンボク、さん! ほのおのパンチを連打! 当たりかまわず破壊しつくせ!!」
『ぐまああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!』
「っ! グレイシア、れいとうビームで地面とリングマ! それからえっと。イーブイは逃げて!」
きっとベースキャンプから見たら普通に異変ともとれるかもしれない。
それだけこのデンボクさんの破壊力は場を混乱させるだけの状況突破能力がある。
もはや癇癪したゴリラのようにほのおのパンチで地面を叩いたり、グレイシアを攻撃したり。それはもう整地が大変だろうという今後訪れるであろう整地士に黙とうをささげておく。
だけどこれも勝つための戦術だ!
「よし、リングマの足場を凍らせた! イーブイ、力業たいあたり!」
フィールドは暖まった。アイスフィールドだけど、デコボコしていてもはやスケートリング場をやめた方がいいレベルだ。
つまり、シアの降臨条件が整った。
「デンボク、さん! イーブイを捕まえて!」
『ブイ?!』
『ぐまあ!!』
襲い掛かる力業たいあたりをこの身一つで受け止める。反動ダメージは大きい。だけど、これで最初の目的は果たせた!
「そのままシアに投げ込んで!」
『ぐまぁ!!!!』
「まずい!」
凍った足元などなんのその。
純粋なパワーで足元の氷を粉砕すると、一本背負いのようにイーブイをシアの氷へとぶん投げた。
相変わらず、デンボクさんは本当に強い。よく勝てたな、わたし。
『ぶい!』
こおりの柱から脱出したシアはそのまま空中で縦回転。反発して身動きを取れないイーブイに狙いを定めて、しっぽを振り下ろした。
「シア、アイアンテール!」
『ぶいぃ!!!』
脳天に直撃した鋼のしっぽが相手のイーブイを地面に叩きつける。
氷の花々が飛散する。土煙の中心。発生源であるイーブイは目を回して倒れこんでいた。
「イーブイ!」
「これで、イーブンだね」
『ぶい!』
『フォン……』
向き合うシアとグレイシア。その視線はバチバチと殺意と闘志で満ちていた。
わたしはデンボクさんに目を合わせて頷く。出番は終了だ。よくやったね。そういう意をこめて。
デンボクさんもそれを承知したのか、モンスターボールにおとなしく入っていった。
「……どういうこと?」
「わたしがいた時代のポケモンバトルは1対1や2対2とかの公平性を重視してたの。だからカイさんのグレイシアしかいなくなったから、デンボク、さんを引っ込めたの」
「……そっか。ノボリさんみたいなことを言うんだね」
それって? その言葉を口にしようとした瞬間、カイちゃんの声が隙間から入ってくる。
「なら、ちゃんと戦わないとね!」
『フォン!』
そうだ。今はカイちゃんとのバトルを楽しもう。
それに、待ちに待ったグレイシアとのバトルなんだから!
「シア、早業でんこうせっかで距離を詰めて!」
「させない! こごえるかぜ!」
フィールドは暖まっている。
さっきもそういったはずだ。
デコボコになった地面。土や砂利がむき出しになった滑り止め。そして段差のある氷。このすべてが意味することはたった一つ。
「ショウさんのイーブイが素早い?! 氷の地面だったのに……」
「全部デンボク、さんが壊してくれたよ!」
以前よりも格段に歩きやすくなったシアは滑らない場所を選んでグレイシアへと接近する。
最後はアイアンテールで決める。これなら抜群技。一撃でも与えれば、もれなくKOだ。
「でも甘いよ! むき出しの地面を狙って!」
『フォン!』
だが相手は仮にも北国の長。歩きやすいところを見極めることだって容易い。
シアの進行方向にこごえるかぜを放ち、でんこうせっかでの接近を許そうとしない。
横に逸れても追ってくる氷の息吹に打開策がない。まるで簡易的な結界。気づけばグレイシアの周囲には最後の氷のスケートリングが出来上がっていた。
どうする。力業アイアンテールであればフィールドは破壊できる。
だけど、その隙を狙ってれいとうビームをされたら……。
『ぶい』
不意にシアが空を見た。空。空中からの奇襲なら、確かに可能だけどどうやって……。いや、それなら。
「ショウさん、このバトルに勝ったら、1つ言いたいことを言う、でいいんだよね?」
「うん。そうだよ」
「だったらわたしが言うことになるね」
「……それはどうかな?」
シアのしっぽが腹部にもぐる。同時に技のエネルギーをしっぽにため込んで、わたしの合図とともに解き放った。
「シア、早業アイアンテール!」
『ぶい!!』
早業のエネルギーは技を出す速度。
ならばバネのようにしっぽのエネルギーを地面へと叩きつける。
瞬間。シアの速度が爆発的に上昇する。アイアンテールという技エネルギーを爆発させた一種のロケットのようなもの。急接近したグレイシアは対応することができない。
「そのまま力業たいあたり!!」
完全に不意を取った電撃作戦。軍配が上がったのは、はじき出されて空中を回転し、着地したシアにあった。
◇
「……負けちゃった」
『フォォン……』
『ぶい!』
傷ついた体をまたぺろぺろとなめている。シア、グレイシアのこと気に入ったのかな。グレイシアが勝者に舐められて、ちょっと複雑な顔をしてるんだけど。
「わたしの勝ちだね」
「ポケモンの技って、本当にすごいんだね」
「そうだよ! ポケモンは機械じゃない。応用すればどんなことだってできる。その辺はトレーナーの腕とポケモンとの信頼関係がかかわってくるけどね」
「……やっぱりショウさんはすごいや」
でもカイちゃんだってすごい。作戦を考えて実行して。そのすべてをトレーナーじゃないのに実現できている。
カイちゃんとグレイシア、その信頼関係がなければできない芸当だ。
「で、わたしに言いたいことって、なにかな。……ひょっとしてもう手伝いませんとかそういう」
「違う違う! なんでそんなにネガティブになっちゃうの!」
わたしが言いたいことはたったひとつだけ。
ずっと。ずーーーーーーーーっと前から考えていたけど、なかなか言い出せなかった。
わたしと同じぐらいなのに長という立派な立ち位置にいて、凛とした雰囲気はわたしが憧れるには十分だった。
ともすれば少し恥ずかしがり屋で、内気だけど、人前では頑張らなきゃって細い身体に鞭を打っている姿は間違いなく強いものだった。
だけど、わたしが本当に思っていたのはそんなことじゃない。
息を吸って、吐く。
頭の中で考えていた不安や恐怖を一時的にまひらせて、わたしはカイちゃんの目を見た。
「……ショウ、さん?」
「わたしの、友達になってください!」
「へっ?!」
憧れとか、強い人とか、そういうのは関係ない。
黄金の髪色に、新雪のように白い肌。くりりとしたまんまるな瞳。
それからわたしよりも身長が高くて、すらりとした体系。わたしは心を奪われた。
凛々しく年上の男性に対抗する敵意も、団を思った長としての優しさも、本来の、自信がなくてそれでも声を張り上げて自分がみんなを守れる立場なんだって奮闘する姿も。
すべて、わたしは魅力的に感じたんだ。
頭を下げて、右手を差し出して。まるでプロポーズみたい。
それでもいいか。だって友達になりたいんだし。
「あ、あの。わたし……」
「……ダメですか?」
「そ、そんなことない。そんなことないよ!」
見上げたカイちゃんの瞳は潤んでいた。見たことのないカイちゃんだった。
「わたし、も。ずっと考えてたの。ショウさんと友達になれないかなって……。だから、嬉しくて。嬉しくって……なんで涙が出るんだろう」
気づけば泣いているカイちゃんの手を握っていた。無理矢理に。
ほんのり暖かくて、触って本当にわかった。この細くて小さな指でみんなのことを守ってきたのかなって。
「友達になろう!」
「……うん!」
ザザーンと浜に波打つ音がこだまする。
少し塩の匂いと、目の奥に感じるすっぱいような違和感とともに、わたしとカイちゃんは友達となった。
◇
503:名無しのトレーナー
ぶああああああああああああああああああああ!!!!!!!
504:名無しのトレーナー
よかったなぁ、ショウちゃん!!!!!!!
505:名無しのトレーナー
泣いた
506:名無しのトレーナー
俺こういうの弱いんだよ……
507:通りすがりの流星ネキ
戦えばもう友達よね
508:名無しのトレーナー
今日も百合が美味しい
509:名無しのトレーナー
酒がうまいぜ
510:ショウ
まって、なにこれ
511:名無しのトレーナー
おかえり
512:名無しのトレーナー
ずっと見とったで
513:名無しのトレーナー
カイちゃんとよろしくやろうな
514:名無しのトレーナー
いいものをありがとう!
515:ショウ
待って?! なんで!!!!
スマホ電源落としたのに?!!!!
516:名無しのトレーナー
神さまの粋な計らいで全部筒抜けやったで
517:名無しのトレーナー
イッチ、電源オフ
↓
神さまが電源オン&不思議な力で配信状態に
↓
俺たち乾杯
って感じ
518:名無しのトレーナー
改めてみても、神さまが性格悪すぎて笑ってる
519:ショウ
ふざけんな、邪神!!!!!!!
520:名無しのトレーナー
ショウちゃんとカイちゃんが友達になれて、おじさんはうれしいよ
521:名無しのトレーナー
やっぱ百合やなって
522:名無しのトレーナー
女の子2人が笑顔なら、ぼくは満足です!
523:ショウ
くううううう
ぉおおおおおおおおおお!!!!
あの神、絶対捕まえてやるううううううう!!!!!!
◇
前書きにも書きましたが、このお話でいったん区切りをつけたいと思います。
好き勝手書くというコンセプトから少し外れてしまっていたので、そういう意味での区切りです。
もちろん更新は自由気まま、モチベのままに更新します。
ショウちゃんの話も書く予定ですが、今度は書きたいところをぼちぼちとやっていく感じになるかなーと。
今後も読んでくださると、嬉しいです。