ナンジャモのラストポケモンを見ていたら、こういう妄想がはかどります
「みんなの目玉をエレキネット! 何者なんじゃ? ナンジャモでした~!」
いつものように活動報告の連絡を終えた後、ボクは配信終了ボタンをポチリと押す。
この瞬間が、なんというか。詰まった意識が一気に吐き出される感じがして、なんか好きなんだよなー。
「みんなおつかれー! 今日もよく頑張ったね~!」
『バリバリ~』
長年の相棒ポケモンであるハラバリーがいつものようにぷよぷよと身体を揺らして、疲れを労ってくれた。
っはー、やっぱハラバリーのお腹、ぷよぷよしてて気持ちいぃ~……。
頬ずりしてると、たまにでんきが帯電してることがあるから、あまり長い時間はスリスリできないんだけど、このひとときがたまらなくいい……。
猫吸い、ならぬポケ吸いをしたところで次の予定をスマホロトムで確認する。
ふぅん。もうこの時期かぁ。予定表を見てグググッと背伸びをして力んだ肩をほぐした。
「今日はもう寝ちゃお」
配信者を長年やっていると、当然のようにそれは浮き出てくるわけで。
それは路線変更。ボクにも一応その路線変更の時期はあった。
「あー、でもご飯食べなきゃなぁ。でもめんどくさーい」
ご覧の通り、本来のボクはだらしのないトレーナーだ。
ちゃんとジムリーダーとしてやることはやっているし、配信者としてもバレないようにどうにかこうにかして元気アピールをしているが、電子機器のように充電がなくなってしまえばいくらナンジャモとは言えども、こんなもんじゃ。
「ムウマージぃー、ご飯作ってぇ」
『ムゥ……』
「いいじゃーん! ご主人さまはお疲れなんじゃよぉー」
『ムゥ……』
ふわふわと宙に浮かぶ魔女のようなポケモン、ムウマージ。
ボクの配信じゃ滅多に表に出ることはない。
何故なら路線変更する前のボクはこんな感じの薄暗いゴーストのようなトレーナーだったから。
ムウマージはやれやれと言わんばかりに、ため息交じりの鳴き声を吐き出すとゆらゆらキッチンへと向かっていった。
大丈夫。ゴーストタイプだからねんりきとか、ポルターガイスト現象とか起こしたりして、きちっと料理を作れるポケモンだから。
「まるで母親みたいだよねぇ」
『バリィ!』
小さな足を前に出して、背中を背にして壁に座るハラバリー。
ボクも同様に散らかった部屋のゴミたちを足で踏まないようにしつつ、ベッドに倒れ込んだ。
今日はいつも以上に疲れてる気がする。うとうととまぶたが閉じるような、閉じないような感覚。
カチャカチャとキッチンの方では軽い夜食を作っているムウマージ。
やはり小さい目が閉じたり開いたりしているハラバリー。
今日、部屋に出しているポケモンはこの2匹だったっけ。あー、なんか考えるのも億劫になってきた。
「あ、やば。服シワになる」
ま、アイロンかければいいか。
ボクはそのまま睡魔に身を任せるようにして、深い海の底へと沈む。
◇
物心ついた時から、ボクにはポケモンバトルの才能があったと言われていた。
相手の意表を突く癖の強い戦術を好み、ふゆう特性とでんきテラスタイプによって生み出す弱点なしのポケモンを作り上げたりと、巷ではそこそこ有名だったと思う。
まぁ、それが原因であまり好印象を持たれてなかったのも事実なんだけど。
ボクみたいな、俗に言う陰キャ戦術を使うトレーナーは実際好まれない。
使うポケモンだって、ムウマのようなゴーストタイプがメイン。周囲から気味悪がられていたのは当然のことだったと思う。
毎日学校へは顔をうつむかせて歩いて、髪の毛とか見た目には一切気を使わず、ただ埃っぽくて隅っこの角でムウマとのんびり過ごす。ボクにはそれがお似合いだと思ったからだ。
だからいじめられたってなんてこともなかったし、自分のことだってどうでもよかった。
ただ、一緒にいるムウマが可哀想だなって。そう思うぐらいに。
それからしばらくしてからのことだ。
スマホロトムを手にして、ボクの意識も当然のことながらインターネットの世界を彷徨うこととなった。
インターネットは自分と同じような境遇の人間が多い。
いじめられたり、人と関わることが面倒だったり、陰キャ戦術を使うトレーナーだったり。
まるで自分自身がいっぱいいるような、そんな気さえしていた。
そんな時だ。とあるポケモンバトルの動画を見たのは。
相手はガラルのチャンピオン、ダンデ。
その人はボクの目から見ても、特殊な戦術の使い手だった。
晴れ、雨、砂嵐。そんな天候を様々操って対戦相手を翻弄する。
俗に言う天候パと呼ばれる使い手のそのトレーナーの戦い方にボクは震えた。
こんなにも目まぐるしく戦場を変えながら、己のドラゴンという相棒に勝ち筋を通してくる。
ハッキリ言って陰キャ戦術ギリギリの戦い方でも、自分の信念を曲げない戦いにボクは心を打たれたんだ。
結局そのトレーナーは負けてしまったが、その後のヒーローインタビューで口にしていた。
今度こそ勝ってやる、と。
◇
「……ん、んぅあぁ? いま何時ぃ?」
『ムゥ!』
起き抜けに香るのはソーセージの焼けた匂い。
カーテンの向こう側からは、太陽の日差しが漏れ出していた。
朝か。
「もう朝?!」
あぁ、寝過ごした。
深夜アニメ録画してたっけなぁ。あー、でも今日は休みだった気がするし、いっか。
ネト◯リサイコー。
「ムウマージ、ずっと待っててくれたの?」
『ムウ!』
「いつもありがと、ムウマージ!」
昔に比べたらずいぶんと大きくなった身体をよしよしと撫でる。
ムウマージも嬉しそうに、心地のいい鳴き声を聞かせながら擦り寄ってくる。
はぁ、やっぱムウマージは落ち着くなぁ。おぉ~! 我が母よ~! なんてね。
「さて諸君! 今日はかつてのボクの周年忌だ! だから目いっぱいだらけるから、覚悟しておくこと!」
『ムウ!』
『ばり~』
このハラバリー、ボク以上にだらけとる。
ポケモンもトレーナーもひんしになったら、げんきのかけらだけじゃ回復しない。
体力は回復するだろうけど、精神面はそう簡単に元気になんかならない。
だから年に1度、ボクはボクのポケモンと一緒にだらける日を制定した。
こうやってじゅうでんして、次の1年も頑張ろう! っていう日だ。
「昔の今ごろだもんなぁ、キャラ変更したのは」
形から入ったボクはまず元気な自分を目指すことにした。
あの信念を貫いた戦いに憧れて、ボクはボクの道を探し始めた。
ポケモンはでんき使いで、それから口調も明るく!
配信だって始めた。最初は鳴かず飛ばずだったけど、次第に増えていって今やポケモンリーグにも認められた人気配信者だ! すごいもんだ!
それでも疲れる時は疲れるんだ。だからゆっくり、すやすや~っと。
「ふあぁ……ご飯食べたらまた眠くなってきちゃった」
『ムウー』
「うん、おやすみ~」
まだ信念は探している最中だ。
でも自分を貫くことで見えるものもあると思う。
例えばムウマージとか、配信者としての自分とか。
極めた先に、痺れる未来があるなら、ボクだって手にしてみたいじゃないか。
夢に思うのは、いつかムウマージと一緒に配信をすること。
だって、最初の相棒ポケモンなんだから。
ナンジャモ陰キャ説はあると思います