灯籠流し   作:メラニンEX

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よろしくお願いします。


第壱話

 

 

大正某年、東京府荏原郡駒澤村。

秋の終わり頃の、透明な日差しの中を一人の青年が歩いていた。昼過ぎのことである。

細長い体躯と、丸眼鏡の印象的な彼は、二十歳ほどに見えた。濃灰色の着物と黒い袴、黒の詰襟という恰好と、優しそうで繊細な感じのする顔立ちも相まって、彼を見たほとんどの人間は彼をどこかの書生だと判断しそうな出で立ちだった。

実際に彼はつい半年ほど前まで、東京の大学に通いながら書生のような暮らしを送っていたので、あながち間違いというわけでもなかったが、今の彼は一切の学問とも学生生活とも縁を切っていた。それどころか彼は学生生活とは真逆の道に突き進んでいる最中なのだが、人間は長年の習慣や纏う空気というものを、そう簡単には変えられぬ生き物である。彼は道を歩くとき、あるいは試験会場や慣れない任務中でさえ、なぜかこの青年は「そこの書生さん」と呼び止められることが多くあった。

 

 

 青年はてくてくと歩きながら師の描いた地図とにらめっこしつつ、ようやっと目的地らしい屋敷を目にとめた。村と名がつけば、途端に田舎じみて聞こえるものだが、東京のなかで、しかも大正のご時世である。畑なども少なく、きちんと整備された道路の先にあるのは、立派な武家屋敷だった。洋館暮らしの長い青年にとって、もっともなじみ深い和風建築は蝶屋敷と、前の師の住む周防家くらいなので、比較対象には乏しかったが、それでもかなりの豪邸である。閉じられた門や、その奥に見える平屋造りらしき建物の大きさに、青年は掃除が大変そうだ、などと見当違いなことをこっそり考えていた。

―いや、そんなことではいけない。

別段青年は下男や書生として、この家にやってきたのではない。鬼殺隊士として、剣士としての指導を受けるためにきたのである。そんな呑気なことを考えても始まるまい。青年は自分の頬をぴしゃりと叩いて戒め、身なりを整えると、門の横にある木戸の前に立った。

「御免下さい」

青年は首を傾げた。二度、三度と同じように声を上げても誰もやってこない。

懐から出したもう一度新しい師が送ってきた手紙を出して眺めてみたが、やはり手紙の末尾に達筆で書かれているのは今日の日付である。周防からも新しい師はひどく真面目な気質の男だ、と聞き及んでいたし、忘れているとは考えにくかった。門の横に書かれた表札にも手紙と同じたいへん珍しい姓が書かれているので、家違いということもない。

 

「┈御免下さい、どなたかいらっしゃいませんか」

 

うんともすんとも返ってこない。ぴいぴいと鳴く鳥のほかには何も聞こえなかった。

彼の今の職業柄、家人がいるはずなのに返答のない家というのは「よろしくない状況」にあることが多いので、青年はやきもきしたが、流石に新しい弟子入り先に勝手に入るのは気が引けた。

そのまま青年は時計の秒針が五周半するまで厳めしい門の前で黙って立ち尽くしていたが、もう一度呼んでみて誰も来なければ、いったん出直そう、と決意した。もしかすると火急の任務で呼び出されているのかもしれないし、いつまでもここにいると不審だろうと考えた末である。すう、と腹に息を入れた。

 

「御免下さい、本日より煉獄杏寿郎先生にご指導いただくべく参った者です!どなたさまか、いらっしゃいませんか!」

 

華奢な青年からは想像もつかない、震えながらもやけに通る声である。近くの木に止まっていた鳥たちが慌てた様子で飛び立った。

渾身の大声を出しても、やはり音沙汰がない。青年は落胆して踵を返そうとしたところで、ふと、と足を止めた。中からはさっきまでの静寂が嘘のように、荒々しい物音がひとつ聞こえてきていた。こちらに物凄いはやさで向かってくる、玉砂利を蹴散らす草履の音。

青年はその音に確信に近い悪寒を覚えて、門からきっかり三歩分後ずさった。

 

「やかましい!人の屋敷の前で何を騒いでいる!」

 

酒焼けのひどい大喝であった。木戸から出てきた壮年の男の手にも酒瓶が携えられており、その口から透明な雫が落ちているのを見て、青年はもう一歩下がってからお辞儀をした。

 

「お、お騒がせして申し訳ありません。私は本日より煉獄先生にご指導賜る旨の推薦をいただきまして参りました、階級壬の穂群聡嗣と申します。頂いたお手紙に今日の二時過ぎにこのお屋敷に来るように書かれておりましたので参上した次第です。邸宅の御前で無礼な振る舞いをしてしまったこと、重ね重ねお詫び申し上げます」

 

聡嗣の深々と下がった頭に壮年の男は、つかの間毒気を抜かれてむっつりと黙った。聡嗣はその沈黙の間中、ちょっとばかし怯えながら、真面目な方だと伺っていたが想定していた「真面目さ」とは若干、いや大分異なる人だ、と考えていた。

 

「┈杏寿郎の新しい弟子、だと。┈ふん、下らん」

男がぐい、と酒を呷る。

「エッ、あなた様が煉獄先生ではいらっしゃらないのですか?」

 

聡嗣はぎょっとして顔を上げた。てっきりこの男性が新しい師だとばかり思っていたが、確かに落ち着いてよく見てみれば言われていた情報とはかなり異なる。新しい師は自分の三つ年下だと聞いていたけれど、この男性はどうみても聡嗣の一回り以上は年上だ。ついでに態度もでかい。この言い方だと煉獄家の身内の誰か―歳離れた兄か、父親だろうか。

 

「失礼いたしました、ご親族の方だったのですね。先生から何か聞いていらっしゃったり┈」

「下らん、俺は何も聞いていない!出ていけ!どうせお前も大した才もないんだ、とっとと帰ってしまえ!そうだ、―俺もお前もどうせ┈、ヒック、ろくなものになりやしない!」

 

聡嗣は面食らってしまった。怒りというよりも戸惑いのほうがいくらか近い。彼はそこそこに育ちのよい青年だったもので、彼の知り合いに初対面のよく知らない人間に対して、こうも理不尽で無礼な物言いをするような者はそうそういなかったのである。その男が口を開くたびに、むっとするような酒気が鼻を突いた。男は酒瓶をぶんぶんと振ってこちらへやってこようと足を踏み出したが、敷居をまたごうと一度二度足踏みをしたところで唐突にやめて、くるっと背を向けた。据わった目で下から聡嗣をねめつけると、肩を怒らせ、千鳥足でそのまま屋敷の中へ戻っていく。

聡嗣は、きゅうと眉根を寄せた。一体全体自分の何にこの男が怒っているのか、なぜ門前払いしようとしてくるのか見当もつかない。よほど聡嗣の声が耳障りだったのか、あるいはただの酒乱なのか、その両方なのか。どちらにせよこのままでは謎の男によって手ぶらでかえることになってしまう。理由もなしにそれは大変困る。聡嗣はあわてて木戸の中を覗き込んだ。

 

「あの!私は、以前こちらの家で世話になったという周防慎二先生に推薦されて参りました!周防先生が、こちらなら学ぶことがたくさんあるだろう、仰ってくださったからです。どうかお稽古をつけては頂けないでしょうか!」

 

ふらふらと頼りなく揺れていた男の足が、ぴたりとやんだ。

もしかして話を聞いてもらえるかもしれない、と期待した青年は、振り返った男の顔を見てその希望が潰えたことを言外に察した。謎の男のまなじりはさきほどに比べても険しく吊り上がっていた。

 

「周防┈ああ、あいつか。あの、凡庸で、何の価値もない恥晒しのひとり┈大した才能もないのに甲にまでなって、腕をなくした奴┈お前もいずれあんな風になるんだ!」

 

大きな舌打ちとともに木戸が閉められ、がしゃんと閂を下す音が聞こえた。遠ざかっていく気配を見送りながら、聡嗣も今度は食い下がらなかった。大恩ある周防に対する、あまりにもひどい言いざまがさすがに気に障ったのと、多分彼が初対面の自分に対して怒っているのではないのだ、という空気を読み取ったからである。おそらくここにいたのが誰であれ、彼は同じように怒鳴っただろう。彼の荒み切った、尋常でない怒りかたは、そういう、複雑に絡み合って、どこにも行き場のない性質のように見えた。

 

―いや、彼のことはひとまず置いておいて、これからのことを落ち着いてよく考えねば。

何もあの男性に拒絶されたからと言って、煉獄杏寿郎のもとで指導を受けられないと、決まったわけでもない。まずは行違った可能性の高い彼と連絡をとるのが最優先だろう。それから、周防先生のもとにも知らせを出した方がよいか、あとは今日の夜泊まるところも探さなければ┈。そこまで考えたところで、想定外の出来事の連続に力が抜けて、聡嗣はため息をつくとずるずると地べたに座り込んでしまった。

見上げた先の空は見事な秋晴れで、雲一つ浮いていない。美しく澄んだ青色が遠い山並みの向こうまで続いていた。

穂群聡嗣の継子としての第一日は、まさしく「天高く馬肥ゆる秋」に、そんな風にして波瀾万丈に幕を開けた。

 

第壱話

「いや、まったくもって申し訳ない!」」

一周回って謝罪にはふさわしくないような声量とともに、青年の金色の頭が下げられた。

うんと付いた弾みによって、その獅子のたてがみの如き髪が揺れている。

聡嗣はあわてて首を横に振った。

 

「とんでもございません、煉獄先生に謝っていただくようなことなど何もないのですから、どうぞお顔をあげて下さいませ」

「む、そうか!しかし所用だったとはいえ、君に鎹烏を飛ばすことを怠ったのは俺の落ち度だ。それに―不愉快な思いもさせてしまったろう。すまなかった!」

「いえ、滅相もありません」

 

結局、聡嗣が煉獄邸で謎の男にわけもわからず門前払いを受けてから三時間ほどして、お目当ての人物である新しい師―煉獄杏寿郎があっさり帰宅した。聡嗣の烏を煉獄に飛ばしてから二時間も経たない頃だったので聡嗣は拍子抜けしたが、もともと今日は任務が入らなかった日で、煉獄は彼を出迎えるつもりで待っていたところに、急に入った所用で出ていたらしい。(ちなみに先ほど聡嗣を怒鳴りつけた男は、煉獄の父親だそうだ。顔も瓜二つだった。)煉獄は門の前でぼんやり座っていた聡嗣を屋敷に招き入れてくれたあとも、申し訳なさそうだった。今度は誰にも出ていけと言われることが無く、聡嗣は内心安堵した。

 

 煉獄邸は、先刻入れなかったときに外から見ても広大だったが、中に入ってもその印象が変わることはなかった。おそらく千坪は下らないだろう屋敷の内部はすっきりと片付いており、無駄なものが一切置かれていない。古くから続く一族の屋敷らしく、床板や柱は年代物特有の光沢によってつやつやと輝いており、秋の午後の光を反射していた。機能的で、すみずみまで手入れが行き届いている。まさに質実剛健を体現したような家である。長らく暮らしてきた屋敷とはまったく趣が異なっていたが、聡嗣はいっぺんにこの屋敷が好きになった。

 

「ところで、煉獄先生。つまらないことですが、質問してもよろしゅうございますか」

「構わないぞ!」

「このお屋敷の女中さんは出かけていらっしゃるのですか?先ほどからひとりもお見掛けしないので、少しばかり気になってしまって」

「ああ、そのことか。実をいうと、今の我が家に女中や使用人はいないんだ。父が人嫌いでな」

「えっ、お一人も、ですか?」

「一人もだ!」

 

聡嗣はたいへん驚いた。彼の二十一年の経験からこの規模の屋敷を維持することの難しさは手に取るようにわかったし、それをひとりの使用人もなしにやるということは彼の常識からいささか外れた所業だった。

 

「では、先生ご自身で家事をなさっておいでなのですか?」

「いや、今は出かけているが、弟が主にやってくれている状態だ。俺も手伝えるときにはそうしているんだが、恥ずかしいことに柱の業務と並行してやるのは、今の俺では完璧ではなくてな。そちらに関しても修行中の身、といったところだ!」

 

聡嗣の寝泊まり用として案内された部屋は、四畳ほどの和室だった。押し入れと文机が置かれてあるほかには何もなく、こちらも綺麗に片付いている。西側には丸い形の障子窓があり、夕暮れが日増しにはやくなってきた、うすく橙に色づいた光が畳に長く伸びていた。唯一の荷物である革鞄と烏用の鳥かごを床の間に置くと、部屋に不備がないかあちこち調べていた煉獄がにゅっと聡嗣の方を振り返った。

 

「うん、問題なさそうだ。それでは道場のほうへ行くとするか!」

屋敷の構造はそこまで入り組んでいなかったので、進んでいくうちになるべく早く覚えてしまおう、と聡嗣があたりをきょろきょろ見回していると、前を進む煉獄から、少しばかり面白がるような声がかかった。

 

「いやしかし、俺はこれまでに父の継子を何人も見てきたわけだが、まっさきに修行についてより家事について聞いてきたのは君が初めてだな」

呵呵大笑、といった快活な師の笑い声とぐうの音もでない正論に、聡嗣は急に恥ずかしくなった。先刻門の前で、自分は使用人や書生としてここへ来たのではないのだ、と自身に言い聞かせたことをもう忘れてしまっている自分を聡嗣は殴りたくなった。

 

「┈う、それは申し訳ございません┈、何ぶん家事と勉学に勤しんできた時間が長かったもので、初めて訪れるお宅だとそういうことがついつい気になってしまいまして┈」

「わはは、気にするな!君がここですべきなのは家事より剣の稽古だが、それはそれとしてそういう気質の男だと俺も周防から聞き及んでいたしな!」

「周防先生が、ですか?」

「ああ、剣より家事に熱心で、住み慣れた我が家がまるで別の家のようで落ち着かない、居心地よく散らかしてもたちまち片付けてしまう、とぼやいていたぞ!」

 

その言葉に、目の前のおっとりとした青年が苦笑いしたのを目にして、煉獄はまた笑った。煉獄も長らく親交のある兄弟子であり、聡嗣が師事していた周防慎二がいわゆる汚部屋の住人であるのはよく知るところである。さすがに煉獄家に滞在していたときはそこまででもなかったが、彼が鬼殺隊を辞してから持った屋敷は、物が多すぎて足の踏み場がほとんどなかった。一体全体どうやってあの空間で生活がなりたっていたのかは、煉獄にも積年の謎である。あれをひとりで全て片付けてしまった、というのだからこの新しい年上の継子の性格もうかがい知れようものである。

 

道場は聡嗣にあてがわれた部屋から庭を挟んで、ちょうど向こう側にあった。なんとなく能の舞台を思い起こさせるような、母屋から庭に向かって張り出した構造になっている。

引き戸を開けると、母屋より一段と高い天井がぱっと目に付いた。入って正面の壁には「悪鬼滅殺」の掛け軸と、神棚と、その少し下に釘にかかった名札が四枚ぶら下がっている。

煉獄杏寿郎、と書かれた木札が一番右に、聡嗣の名が入った真新しいものが一番左に。

あとの二枚のうち一枚は、姓が煉獄なので先ほど言っていた彼の弟のものだろうと察しがついたが、残りの一枚は―おそらく名からして女性なのだろうが―聡嗣の知らない人物だった。壁には札のかかっていない釘がたくさん刺さっており、以前はもっと多くの生徒がここで熱心に修行をしていたのだろう、と容易に想像できてしまうのがなんとも寂しげな有様だった。

手入れはされているけれど、どこかひっそりと沈んでいて、人の気配が少し薄い。

暮れ方の光が差し込んで、床の木目が淡くひかっている。

 

「ところで!」

突如として道場に煉獄のでかい声が響いた。うわん、と残響が広がっていく。

「は、はい、どうかしましたか?」

「君の姓の読み方は」

彼の指さす先は穂群聡嗣(ほむらそうし)、と彫られた札である。

「ほむら、で間違いないか?」

「ええ、合っています。読み方自体はありふれた姓ですが、この字を当てるのは珍しいようで、初めて会う方には読み方を間違えられることも多いんです」

「うむ、良い姓だな!まさに炎の呼吸を使うものにふさわしい、美しい響きだ!」

 

混じりけのない称賛だった。

壁の方に歩み寄って、青年は自分の名の彫られた札にそっと触れた。ざらざらとした新しい材木の感触が指先に伝わってくる。自分の名をかたどった空白の肌触りに、聡嗣はふと、今年の三月の初めに訪れた墓のことを思った。自分がついぞ名乗ることのなかった姓が彫られていた墓石は、もっと冷たくて滑らかで、おまけに名残り雪のひどい日に納骨をしたものだから、名前の窪みに、ひやっこい水が溜まってぽたぽたと滴り落ちていた。

―あの日、雪が降る真昼に聡嗣は傘をさしたまま、唯一生き残った義妹と並んで、灰色の墓石を長いこと撫ぜていた。空っぽの骨壺を納めたあともずうっと、二人して手を握りあって、黙り込んだまま、傘に雪が積もり始めるほどの時間を。

聡嗣は一度、二度まばたきをした。目の前にあるのは飴色の壁にかかった、己の名である。

剣の教えを乞いに此処へきて、これから鬼と戦っていくことを選んだ自分の名前。

くるり、と後ろを振り返った。

傾き始めた太陽の姿が、高いところにある明り取りの窓から遠くのほうに見えた。あと少しして太陽が沈めば、鬼の跋扈する夜になる、その手前の時間。

金と橙の入り混じった光の中で、煉獄杏寿郎は堂々と立ったまま、こちらを見ている。

聡嗣はその姿を見ながら、彼の方こそ炎のようなひとだ、と思った。まだこの男の剣も、性質も、呼吸も何も知らないけれど、聡嗣の目には煉獄杏寿郎はまさしく炎が人の形をとって現れたように思えてならなかった。

 

「煉獄先生」

ふいに聡嗣は板張りの床に正座して、背を伸ばした。まだ正式な挨拶をしていなかったのを思い出したのと、暮光に照らされた炎の化身のような男を見ているうちに、訳もなく、ああ、自分はこうやってこれから生きていくのだ、という実感が彼の内側で強まったのを、敏感に感じ取ったからである。指先をそろえて三つ指を突く。

 

「申し遅れました。本日よりお世話になります、穂群聡嗣(ほむらそうし)と申します。力の限り精進させて頂きますので、なにとぞご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い致します。」

 

これから―これから、ひたすらにこの人のもとで剣の技を磨いて、鬼を狩って生きていく。自分の意志で、ほかの誰でもない聡嗣の選択で、自分はここにいる。何一つ分からなくて、知りたくて、ここに来た。ほかの生き方を選ぶこともできた、半年前までと変わらない生活も努力すれば続けられたけれど、そうはしなかった。そのことを忘れないでいよう、と聡嗣は思った。

煉獄が聡嗣の前に腰を下ろす気配が伝わった。

 

「―ああ!この煉獄杏寿郎、今代の炎柱として、君の師として、これから君を導けるように尽力することを約束しよう!頑張ろう!頑張ってともに強くなろう!」

はい、と返事をしたまま聡嗣はしばらく顔を上げなかった。ただ瞼の裏側がうつくしい、焔の色に染まっているのを感じながら、黙って頭を下げ続けていた。

 

 




人物紹介

穂群聡嗣(ほむら そうし)

現在は21歳、原作時点で23歳の煉獄さんの2人めの継子。大学まで卒業してるのに鬼殺隊に入った珍しい経歴の持ち主。名家で書生兼使用人みたいな暮らしをしていたので家事スキルがカンストしている。

煉獄さん(400億のほう)

2人めの継子をとったひと。直接スカウトした蜜璃ちゃんとは違って、兄弟子からの推薦をうけて聡嗣の面倒を見てくれている。

煉獄さん(父)
追い出しかけた。

周防慎二(すおう しんじ)

煉獄さんの前の聡嗣の育手。連撃パパの弟子だった、元甲の隊士。引退済み。
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