目指すはくそつよウマ娘 作:缶詰マン
あなたは中央トレセン学園所属のエリートウマ娘ではあるが、同時に学生生活を過ごすウマ娘でもある。
勿論あなたは前世の記憶のみに頼らずにテスト勉強もしっかりと励んでいて、テストでもその努力を全て出し切ったつもりではあるが、流石に最初のテストなのもあってやや緊張気味、と言った所。
本来であればこの頃には学校へと到着している時間なのではあるが――
―……はい、風邪だぁこりゃ。体がなーんか重いし気だるいし頭痛がするから体温測ってみたら案の定微熱だよ。ん、まー、ね。バカは風邪ひかないって言葉あるけど、これでわたくしがバカではないことが判明しましたね。これでテストの点数は高得点確定ですね。うーん、美味しい。やったぜ。はっはっはっはっはっ……笑えるかよクソボケェ!バーカァ!ほんっっっとうに何やってd ヴェッホヴェッホ、ゲッホゲホォッ!あ゛ー…黙ってよ。
と、このような状態である。心当たりは星の数ほどあり、特に昨日は雨の中ミスターシービーと散歩をして食事を栄養ゼリーで済ませ、かなり夜遅くまで夜更かしして、いつも通り肌着姿で寝ていた事だろう。これで風邪にならなかったら免疫力が化け物である。
―沖野に電話して風邪の事伝えっか。絶対怒られるだろうけど、トレーニングバックれたと思われるのは問題大きすぎるし。うん……うん。その後ネット小説の原稿だな。……体が持てばだけど。ま、行動しない内にはなんの意味もないし……やるか。……ゲホッゲホ。
普段から電話している沖野へとコールをかける。沖野曰く、「お前さんが起きてる時間なら大体対応できる」との事だったので、恐らく出るだろうと考えている。その間にあなたはスピーカーモードへと切り替え、額に最近のお供である冷えピタを貼っている。
『――はい、こちら沖……じゃない、西崎です』
―順調に染まっているようで何より。さて、Good morning、沖野。
『ダァークッソ!お前さんかよ!なんで自分の名前間違えてんだよ俺ェ!』
―はい乙。これから沖野呼び確定だな、ワロタ。……あー、沖野。今のうち謝るわ。すまんかった。
『どうした急に。頭でも打ったのか?』
―違うわこんちくsゲッホゲッホ!……あ゛ー……まー、その……はい。
『……お前、まさか…体調管理失敗した口か?』
―……えー、ゲホ…端的に言うとYES。えー、本当にすまんかった。
『だーから俺言ったよな?体調管理には気をつけろって』
―……本っ当にすまんかった。
『色々言いたい事があるが、とりあえず今はしっかり休め。合宿も近いからな。その後元気になったら体力と筋力を元通りにするトレーニングをやるからな。それじゃ、次のトレーニングの時な』
―じゃあのー…ゲホゲッホ。
通話終了のボタンを押してからスマートフォンをベッドテーブルの上へと放り投げるようにして置く。そのまま枕に頭を埋めてから大きく息を吸い込んで吐く。同時に、風邪特有の気怠さと熱っぽさが体全体を包み込む。
―あ゛ぶぁ〜〜〜…身体、だっるいンゴ〜〜〜…
汚い声を出しながら、風邪の気怠さに飲まれて脱力する。
ふと壁にかけてある時計を見ると、まだ8時を少し過ぎた頃。普段であればこの時間帯には既に学校へと到着しているが、現在のあなたは風邪である。
―いっち、何か栄養でも取っとかないと早期的に治らんだろね……冷蔵庫見よか…。
そういえばまだ食事をしていなかったな、とあなたは回転の鈍い脳で思い出す。そのまま立ち上がり、少しふらつく足元をいつもよりも特段に気をつけ、小さい冷蔵庫を開けると、そこにはエナドリエナドリエナドリエナドリ……栄養になる所か、体調をより崩しかねないエナドリ共がひしめきあっていた。
―うっわぁ……こんな事ならエナドリ以外にも何か補充しとけば良かったわ……。――ゲホゲホ。
そんな後悔を抱きつつ、取り敢えず一つ手に取り、プルタブを開けて一口飲んでみる。
―うぇ……いつも飲んでる味が感じられないし、全然美味しく感じない、何なら不味く感じる……病気の時に飲むモンじゃあないな、こーゆーの。当たり前だけど。
はぁ、と1つため息をついてから遅い徒歩でベッドへと戻り、飲む前以上に頭痛を訴えるのに耐えながらノートパソコンを立ち上げる。理由はあなたがひっそりと初めていたインターネット小説を進める為である。
そう思って立ち上げたはいいものの、中々筆が進まない。と言うのも、元々前世のあなたは遅筆に分類される作家だった。その事はことウマ娘になっても継承されていて、過去のあなたは無駄に鉄人体質だった事でどうにか締切前に間に合わせていたというのがあり、あなたは病気の状態で何かを書いた事が無いのだ。
―………… ゔぁ。もう今日はだぁめだこりゃ。頭痛いし身体重いしこれで何か書くのは出来る気がしないわぁあはははは。……この経験も何かのヒントになるかな。なったらいいけど。寧ろならなかったらjokeにならないっての。はい、もう今日は無理、できんっ、以上っ、閉廷っ、解散っ。みんしゅー共、散れ散れぇ。――グッフゲホ。
――と、ふざけた事を呟きつつノートパソコンの電源を落とす。そして、未だ重い体のまま、体を横にする。
あなたは風邪にかかっても尚小説家根性が強く根付いており、風邪の状態での思考内容やその症状を体感する為にわざと市販薬を飲んでいない。それ故に現在の体調は少々酷い状態にある。
―ま、今まであまり詳しく書けなかった風邪の描写を詳しく書けるようになるならプラマイ差し引いてもプラスの方が大きくなるか――ゲッホゲッホ。……頭痛い。
そのまま目を閉じると、自然と意識がぬかるみに入っていく。風邪を引いた時に寝落ちすると夢、特に悪夢を見る事が多いという話を聞いた事があるが、果たして病気の時に見る夢はどんなものだろうか。
そんな思考を最後に、あなたの意識は底へと落ちていった。
聞き覚えのある曲が流れている。
横たわっていた体を起こして辺りを見渡すと、そこは車内。さっきまで横たわっていた頭上の方には肩がけの鞄が座っている。
運転席側を見てみると、そこには2人の大人の男性と女性。
「あら、起きたの?映画館に行こうって時にも寝ているなんて…全く、薫は良く寝る子供ねぇ」
「ははっ、ああ、全くそうだな」
起きた事に気付いたのか、女性が自分へと声をかけてくる。ただ、少し違うのは自分が前世の頃の名前で呼ばれている事だろうか。
しかし、その事が心地よいと感じる自分へと、知らない誰かが違和感を訴えた。
――君は誰にも前世の名前を言った事が無いだろう?だったらこれはおかしいんじゃ無いのか?なあ。それに、これが心地よいっておかしいだろ?
そう訴えるのを聞かないフリをして、目の前の現象へと注目する。2人は何処か微笑ましくて、なんだか何処かで見た覚えがある。
そういえば子供の頃に日曜日の昼によく映画館へと行った事があるな。ただ、映画本体自体には興味無くて、映画のポップコーンとか、ドリンクとか、そういう……こう、食べ物とかその時間が好きだった。懐かしい。と、映画に関連付けされた現象が脳裏に浮かぶ。
「ねえ、今日はどんな映画だったっけ?」
「今日は……まあ、日本産のアニメーション映画だな。詳しくは映画館で見ようか。楽しみだな、薫」
「うん、楽しみだ」
男性に声を掛けられ、それに釣られて出た声に一瞬驚く。何せ、子供の頃の自分の声だったからだ。
――な?おかしいだろ?だから言ったんだ。これは君が見ている夢なんだ。だからこの後に起きる事だってわかっている。早くこんなバカバカしい事を忘れるべきなんだ。
――うるさい!黙っててくれ!しばらく休みたいんだよ!
我慢出来ずに声を荒あげると、もう1人の自分はぶつくさと文句を言いながら、「その後に後悔するなよ」と言って消えていった。
自分はこの後の事は知らないし、知っているつもりも無い。それなのに知っているだとか、これは夢だとか、ちょっと失礼じゃないのか?全く。
行儀は悪いけど、右足の靴を脱いで左足の膝へと乗せてゆっくりとする。
最近見る事の無かった映画。楽しみだな。
そう思い、再び眠りにつこうとした瞬間、叫び声と同時に大きい衝撃が全身へと伝わった。刹那、視界が白く染まる。
こんな事は1度あった。忘れるか。忘れられるか。いや、忘れようが無かろう。
だから、映画館なんて所は嫌なんだ。もう、もう思い出したくなかったのに。なのになんで。なんでだよ。
挟まった――あるいは、潰れた左脚から生暖かい物が流れている。体を挽くような激痛が走るが、どうもがいても抜けそうにもない。痛みから、呻き声ばかりが喉から溢れる。
「うぅあ……ぐ……と、父、さん……か……母…さん……!」
無意識に目の前の女性――両親へと、呼びかける。返答は無い。体の揺れも無いことを見るに……即死、だろう。――……違う。元々、両方とも即死だった。
「うはぁー。あれ乗ってた奴ら全員死んだんじゃないの?」
「盛大な事故だなありゃ。全員、死んでるだろ」
「やっべ、これ写真撮って週刊誌に出したら金になるんじゃね!?」
その声を皮切りに、カメラを切る音が響き始めた。誰も彼も、助けるような素振りは無い。
額から流れる物がまだ少し意識を繋いでいる。それでも気を緩めた直後に事切れそうな程には、激痛が体全体を貫いている。
――だから言ったろ、これは夢だって。だから忠告したんだぞ。……今回だけ助けてやる。歯、食いしばれ。
差し出された手を掴むと、体がドアへと引っ張られている感覚がした。何かちぎれるような音と同時に更に激痛が脳を貫く。思わず、絶叫を出すがそれに構わずに引っ張られていく。
1つ、『ブチリ』と音がした後――
「――いってッ!」
ベッドから転げ落ちた衝撃で目が覚めた。
汗を拭いながら外の景色を見てみれば、空が赤く、少し緑の混じっている空色――つまりは夕方頃になっていた。
「……あ、あー、あー。……まあ、そりゃそうか」
声帯から聞こえてくる声は、自分が前世の頃に発していた男のような声では無く、女性なのに何処か男らしさ漂うような、少し掠れた声――俗に言う『ハスキーボイス』。
勿論、前世の声が元通り戻ってくる訳が無い。今の自分は今の自分で、過去の自分は過去の自分だ。過去の自分とは、お別れをするべきだし。
そうやってモヤりを少し解消していると、ドアのノックが聞こえてくる。風邪の心配に来ただろうな。そう推測して、喉の異様な渇きを潤す為にベッドテーブルの上にある、炭酸の抜けたエナジードリンクを一気に飲み干す。……うん、不味い。
少し時間をかけて、部屋と廊下を仕切る扉へと辿りついてそれを開けると、自分の友達……友達、って認識であってるよな?ともかく、自分の知り合いであるノアノハコブネが1組のファイルを持って立っていた。
「…大丈夫?」
「ノア公、これが大丈夫に見えるのなら相当だぞ。……まあ、気分は良くなった」
「ああー、良かった!何かあったらって思って…はい!これテストの結果!」
「ほう、どーれどれ……うん、数学以外はGoodだ。風邪引いた甲斐があったってヤツ」
「風邪引いた甲斐があったって何?」
「ほら、バカは風邪引かないって言うじゃない。だからテストの点数高いだろうなって」
「…う、うん……」
それにしても喉が渇く感覚がする。寝汗も書いてるだろうし、少し脱水しているのもあるはずだ。はてさて、ちょっと頼み事にするか。
「所でさぁ、ちょっと喉乾いてるからスポーツドリンクとか、あるいは水とか買ってきてくれない?その分のお金は出すからさ」
「いや、そのお金は良い!あたしが出すよ!テスト勉強教えてもらったから、それくらいの恩返しはしないと!」
「あ、じゃあ頼むよ」
「うん!すぐに買ってくるね!……左脚、さっきから引きずってるけど……怪我、したの?それに、下の方ばかり見て、元気なさそうだし……」
「フェッ?…あー、いやいや。ぜんっぜん怪我無しよ!ほれ、今ちゃんと立っている訳……だし。夢の内容が悪かっただけよ、だから、心配はノーセンキュー!それに、そもそも病あがりだから元気なくなるのはよくあることだし、言うて大丈夫よ」
「……なら、良かった!それじゃあ!」
扉が閉められた後、疲れからかその場で座りこむ。
「……いつになったら、自分はそのまま接する事が出来るんだか、な。……まだ、未成年か…」
いつかは、素の自分のまま、接する事はできるだろうか。
本当に、自分を騙るのは好きな物じゃない。