目指すはくそつよウマ娘 作:缶詰マン
追記
『minotauros』さん、誤字報告ありがとうございます。
「……髪、伸びたな」
伸びていた自分の前髪を少し指で摘みながら、言葉を発した。
トレセン学園に入ってから2ヶ月、夏休みの合宿まで後5日までの日にち。自分は生憎ながらかなり髪が伸びやすい部類の人――この場合、ウマ娘になるだろうか。そのため、2ヶ月も経つと結構な長さになってくる。個人的には背中まである位の長い髪はあまり好みじゃない。単純に手入れが面倒だし、より白髪が目立つ。それに、邪魔臭い。
髪に関しては、困った時は自分で髪を結ったり、時には切ったりして誤魔化していたのだが、せっかくちゃんとした生活を送れているのだから、床屋か、あるいは美容院にでも行こうかと思っている。しかし、近場にあるそれらの場所は残念ながら知らない。
……誰かに聞いて、オススメの場所にでも行くか。これが『女子高校生』の普通だったと何処かで聞いた事があるし。知らなかったら知らなかったで自分で切れば良いだけだから。
そう思いながら、休日の食堂で1人昼ご飯を食す。別に、友人がいない訳では無い……はず。今は誰とも話さずにご飯を食べていたいのが本心なので、そうしているだけではある。多分周りからすれば悲しいヤツに見えるだろうけど。
「――席、使うぞ」
「うん?ああー、良いけど」
「ありがとな」
ふと声を掛けられた方向を見ると、シンボリルドルフが幼なじみと言っていた、シリウスシンボリが同席に着こうとしていた。勿論、拒否する理由も無いので許可を入れる。強いていえば自分の1人で食べていたいと言う気持ちが少し不満げな顔を浮かべているけど、大した問題でも無い。
「それで、アンタさっき髪伸びたとか言ってただろ。どうした?良い所見つからないのか?」
「いにゃ、見つからないってよりも知らないの方が大きいかな。あるならあるで行くつもり」
「ふぅん、そうか……なら、ここの近くに良い美容院があるんだ。そこに行ってみたらどうだ?」
「ほほう、そこの所を詳しく」
「勿論さ。ただ、人に物を聞く時の態度はそれで良いのか?」
シリウスシンボリはこちらを愉快そうにニマニマとしながら見ている。さながら『ゲーム中に相手が瀕死かつこっちが優勢状況、さらに相手に打つ手無しの時に玩具にする事に決めたときの笑顔』のよう。……これだから、個人的にはあまり好きじゃあ無かったりする。
ため息をつきながら食事を一時中断し――とはいっても後スプーン1さじだけのほぼ終わりかけだが。シリウスシンボリの方へとひざまづく。
「……はあー……『どうか付近の事を何も知らぬこの私めにその美容院の位置を教えて下さいませ、シリウスシンボリ閣下』……これで、どうです?」
「ちょっと大袈裟が過ぎる気もするが……まあ、そんな所だ。どうせアンタの事だから迷子になるだろ。私も散髪ついでに行くとしよう」
「ハァーン!?誰が迷子になるだってオォン!?」
「ハハハッ!冗談もわからない人間はインターネットを使うのには向いてないぞ?じゃあ2時間後に正門で待ってる!ハハハハハ――」
それだけ言うと彼女は笑いながら去っていった。……なんか腹立つ。自分より結構小さい癖して舌が回るのがより腹立つ。今度会ったら再起不能までに追い込んでやる。……ゲームの方で。レースでやろうたって、今の状態じゃあ到底レースで勝てる見込みが無い。
彼女はどうにも中距離方面で才覚を伸ばしているらしく、マイラーとスプリンター方面の才が強い故にどうにか中距離レースで勝てるようにならないといけない自分では、何回再試行した所でミンチより酷い負け方をする未来が見える。
クラシック期になったら、その時のレースで軽く痛い目見せてやる。そう思いながら食器を返却しに赴いた。
「……なあ、シリウス公。この状況を詳しく説明して下さるかね」
「見りゃわかるだろ。散髪に行くんだろ?」
「違うそうじゃない。いやそうだけどもさ、君がいるのはわかる。食事の時にその事言ったから。でもさ……」
「……よろしく、お願いします?」
「なしてミホシンザン公もいらっしゃる?」
「なぜって、気分さ」
「だったらせめて連絡……交換してないからしようが無かったわ」
「良いだろうが、別にすり減る訳でも無いんだろうに。有望株に見られてた新入生同士、仲良くしてみたらどうだ?」
「……との事なので、これからお近づきの関係にさせていただきます♪」
「わたくしはミホシンザン公の適応力に驚いてるよ今」
どうしてこうなった。
そう思いながら口に咥えていたココアシガレットを取り出し、空を見上げた。雲1つない、青い青い空が今回ばかりはなんか苛立たしい。こういう時に思わず紫煙を吸いたくなるのだが、一応は未成年。まだ吸える歳ではないので我慢している。バレなきゃ犯罪じゃない理論で吸うのも良いが、それ即ちバレたら犯罪。まだ吸う気は無い。
さて現在の目の前の事象を処理すると、シリウスシンボリがいて、彼女プラスでミホシンザンがいる。双方とも近々散髪したかったのもあって自分が行く事を決めた時にそれに乗っかったそう。
なぜこうなったのか、本当に。今度はため息を交えて思う。一応同期でもある故、まだわからない訳でも無いが。
「おいおい、ため息するなよ。そんなに嫌なのか?」
「いや、そういう訳じゃあ無い。初期予定のチャートが崩れたのが残念で……違うよ?ミホシンザン公の事が嫌いな訳じゃないからその耳を持ち上げて欲しいのだけども。そもそもチャートなんて秒速で壊れるものだから」
「あら、安心しました。てっきり嫌われているものかと……」
初めて見たミホシンザンの第1印象は、『意外と緩い性格』。自分みたくはっちゃけてるとかでもなく、かといってお家様の権威で偉そうな態度でもなく、1人のウマ娘、1人の知り合いとして接して欲しいと言う気持ちが見え隠れしている。
「それじゃ、行きましょうか」
「ああ、そうだな」
「……ま、そうしますか」
「それでは、軽くお話でもしましょうか♪」
そうして前の2人が世間話をしている間、自分はスマートフォンの画面へと目を落とす。画面には親不孝者がごまんと集まるインターネット掲示板のサイトが映っている。やる事は勿論、髪型決めの安価1つのみ。悪い意味でのスリルが心を刺激しているが、これが面白いから仕方がない。……まあ、坊主とかよく分からない髪型にならなければ良いけど。
「――どうしたアンタ、何を見てるんだ?」
「何って、ネット掲示板だけども」
「……先程何かを書き込んだように見えましたけど、どのような内容を……?」
「髪型の安価」
「あ、あん、か……?」
「詳しく説明すると、その番号の人が書いた事をやるよってコト」
「あら、どのような髪型にするか決めていらっしゃらなかったのですね」
「それもあるけども……1番はスリルだよ!」
「…おい待て、それ場合によっては酷い事にならねぇか?そのー、安価って言うのか?取り消しも流石にやるだろ」
「知らないのか?安価は絶対だ」
「お前、ネジ外れてるんじゃねぇのか?」
「少しスリルが過ぎる気がします……」
少しキメ顔で言ったのはいいものの、2人に引かれた。解せぬ。勿論あんな性格悪魔が他人に対してマトモな訳ないので本気で地獄を見る羽目にもなるだろうが、そこはお祈りパワーでどうにかするしかない。後はバレなきゃ絶対にはならな……いや、レースでバレるか。とりあえず、フンギャロフンギャロ。
程々に話をしながらそのシリウスシンボリについて行くと、どうやら着いたようで少し立ち止まる。
「着いたぞ、美容院の【サーティーン】。結構良い店でな、たまに世話になってる」
「想像には入ってたけど……外見デザインがかなり良さげな事で。やっぱちゃんとした人が来る所はちゃんとしてるって、はっきりわかるもんなんだな」
「ええ、ここなら良いカットが出来そうです」
ついでで言えば、先程インターネットでささっと調べたが評判も良い。シリウスシンボリがよくここに来るのも納得できる。ここで髪型を選べばかなり良い具合の形になるのでは無かろうか――
ふと自分の額から冷や汗が一筋垂れる。そういえばあの掲示板の安価はどうなってるんだ。あああやばいぞやばいぞ今回。流石に髪型で安価とるのはやめときゃ良かった。
今更の後悔がのしかかる。シリウスシンボリが勘づいたのか、呆れた顔でフリーズ状態の自分へと話しかける。
「……だからやめとけって言ったんだよ。スリルがどうのこうのより自分が気に入るかどうかで決めときゃ良かったのによ。まあ、取り消しでどうにかしとけ」
「安価は絶対だからそれはやらない……あと1番焦ってるのはそういうのじゃなくってな、あれなんだよ、在学中の髪型全部で安価とっちゃったの……あああ、やっちまったぞ今回ばかりは……」
「アンタそれどうなんだよっ!?」
ストレートな言葉が思いっきり心に刺さりながら、掲示板を開く。頼むからマトモであってくれ。
スポーツ刈り、ボブカット、ポニーテール、ツインテール、ポルナレフ、シロッコ、ハンバーグ、リーゼント、ちょんまげ、そのまま……丸刈り、『ウルフカット』、丸刈り――
「シャァァァッ!あっぶねぇぇ!マジで!マジであっぶねぇぇ!」
「うおびっくりした、どうした急に」
「いっっっやはやあんな奴らの中にマトモな奴がいたからホント……良かった……!これ、見て」
「ほう、どれどれ……うっわ、ギリギリじゃねぇか……結果はどれだったんだ?」
「これ、このウルフカットってやつ……」
「おお、これ当たりだぞ!いい感じになると思うぞ!」
「いっよし!見たか掲示板の畜生共!」
「……あの、そろそろ入りませんか?こっちに視線も向いていますし……」
周囲を見渡せば、こちらへとかなり視線が向いていた。……まあ十中八九自分のせいだろう。そろそろ入るか。
「……誰のせいなんでしょうかねぇ」
「アンタのせいだろ」
「カボスッ」
罪を擦り付けようとしたら脇腹を軽く肘打ちされた。痛い。
正直、アイツの事はあまり好きじゃない。アイツってのは、私と同時期に入学してきた白髪混じりの栗毛……白髪っつーとアイツがスゲェ顔してキレるから流星群って言ってるんだが、今は置いとくとして、アイツはなんか好きにはなれない。
別に、アイツ自体の事は嫌いじゃない。寧ろ、友愛として好きな部類だ。弄れば面白い事になるし(ハゲと白髪はアウトだが)、バカみたいな事を自分でやって自分で爆発するし、たまにルドルフの奴もコケにしてるらしいし、見てる側としてはめちゃくちゃ愉快なおもしれーヤツ。
ただな、アイツの口からはまるで全部嘘とか方便ばっか話してるように思える。まるで自分を誤魔化して生きてるみたいな、まるで自分で自分を詐欺ってるみたいな、そんな不愉快な感じがする。私はそういうのがとても嫌いだ。
なんで嘘ばっか言ってんだって言った事もあるんだが、その時には「物書く人間は全員嘘つきだぞ?」とかいう意味がわからん理由ではぐらかされた。その時は一瞬納得したが、じゃあアイツがその嘘を言う理由は何だったのかを聞けなかった。
アイツは衝動的な感情の時は本音を漏らす事がある。例えば、ゲームの時とか、アイツが『あんか』とか言ってる時の反応とか、後は練習の時とか。
だったら、きっとレースで負けた時にも本音を漏らすだろ。もしアイツがレースを仕事とか、つまんないものだとか見ていない限りは。
いずれ、アイツとはレースでぶつかる時もあるはずだ。そんときは、アイツを打ち負かして本音を言わせてやる。
「いやーアッハハハ!ホントに良いカッコ良さを持ってるじゃないの!これ選んでくれた掲示板の民に五体投地ものだぞ!」
「そこまでですか?」
「そこまでさ!いっやー、この毛束の感じも良さそうだしさ!ンフフフー、これは変える必要性も無さそうだなぁー…」
そう思いながら、帰り途中に笑いながらミホシンザンと話をするアイツの顔へと目を向けた。