目指すはくそつよウマ娘 作:缶詰マン
現在合宿場所へと向けて、順調に車を進めている沖野の助手席に座っているウマ娘、その姿はあなたである。ちなみに、合宿ではあるが沖野に隠れてゲームハード達をこっそりと持ち込んでいる。バレなければ良かろうなのだ。
「――それで、今回が初めての夏合宿になる訳なんだがどうだ?」
―どうかはわからんけどとりあえず楽しみではある。
「そうか、なら良かった。とりあえずは最初はゆっくりと順応していく感じで大丈夫だろ……あ、渋滞に引っかかった」
―おい、おいガバ野郎。濁点抜いてバカ野郎。何やってだ。
「ごめんって。そんな怒る事か?」
―全然?
「……あのさぁ。まあ、今の時間どうせ暇だろうから練習メニューでも覗くか?」
―見る。
「ほらよ」
さて、練習メニューを見てみると最初こそはいつもの練習メニューと似ているが、後半になるにつれてかなりの負荷がかかるような形になっている。これなら成長が見込めるのでは無いだろうか。あなたは少し喜びながら再び練習メニューの資料へと目を落とした。
「補足もついでに入れるが、お前さんは左脚の方を特に重点的に鍛えるつもりだ」
―理由はわかる気がするけども、なして?
「お前さん、右回りのコース苦手だろ?練習の時でも必ずと言って良いほどに大回りになるし。それだけなら単純なコーナー難だけで終わりなんだがな、左回りのコースだといい感じにいけるだろ?左回りのコーナーに使う筋肉の使い方が上手く出来ていないのかもしれないと思ったんだが、脚を触った時に筋肉の付き方がアンバランスになってたんだ。だから、その点を重点的に鍛えるつもりだ」
―ほほう、それはそれは。……ああ、なるほど。どうりで練習がきつくなると言った訳か。ああ〜辛いぞ〜……
一瞬嫌気が差し、思わず遠くを見る。見た所であるのは高速道路上で並ぶ車列しかないが、現実逃避の1つにはなる。少なくとも普段ですらひいこらいってるのにそれよりさらにキツい練習、しかもそれが倍率が上がってくるのだ。身体への負荷がマッハである。
―……がんばるしか無いってやつですか、ええ。
「そういう事だ。踏ん切り付けて頑張れ!」
―ま、行くからには勿論頑張りますよっと……ングググ――
軽く気合いを入れようと車内で身体を伸ばした所、右脚が痛みと同時に、意思に反して伸びきる感覚を感じる。――前世にあなたがよく起こしていたこむら返り……ようは足がつったのである。
― アダダダダダダダダホギャァァーーッ!足!足つった!イダギャァァァッ!
「あ、おい膝伸ばして爪先引っ張れ!アキレス腱伸ばせ!」
― この狭いスペースで出来たら苦労せんわァァァイデデデ!イダイ!マジで痛い!ホア゛ァァァーーッ!
―……ワー、ウミダー。シオカゼガキモチイイナァー。
「棒読みじゃねぇか。嫌か?」
―そんなこたない。ただ、ねぇ……?
「…ああー、あの事か……」
普通だったらテンションが上がりそうな海を目の前にして露骨にテンションが下がっているウマ娘。
あなたである。
時間はかかったものの、どうにかこうにか渋滞を抜けて合宿場所へと付き、荷物と車を預けて海へと赴いた時の言葉が前述の通りである。ちなみにだが、あなたは既に水着に着替えている。勿論あなたの1つのコンプレックスを隠すために上と下は長袖である。一応ファッション性も考えて揃えたらしい。
閑話休題。
現在のあなたは暑すぎる日射しから逃れる為にパラソルの下へと潜り込んで道中にあった缶入りのサイダーを飲んでいる最中である。
―はぁ〜、手だけ冷てぇ〜、身体全身はあっちぃ〜……ハッ、これを頭から被れば全身が冷えるのではっ!?
「砂糖の入った飲料被るとその後が面倒だぞ」
―知っとるわいそんな事。……いやまっじで暑い!この状況下でのトレーニングとかおバカ!おバカさん!暑すぎて茹だる!
「まあ、今日はいつもよりも特段に暑いって天気予報で言ってたからな……そんな事を言うだろうと思って、今日は水泳だ!」
―はい有能。有能トレーナーですわこの人。
実は今日のトレーニングメニュー、本来は砂浜ランニングだったのだが、今日の最高気温が例年以上の高さであったのもあって沖野が現在のメニューへと変えていた。もしこの気温で砂浜ランニングなんてしたら、あなたは途中で間違いなく熱中症で倒れていただろう。
さて少し時間をかけてサイダーを飲み干したあなたは、缶をパラソル下の砂へと突き刺した後に軽いストレッチを行い、いざ海に入らんとしている所である。
海に少し足を入れてちょっと時間が進んだ頃、ふとあなたは後ろから声を掛けられる。
「やっ。君もここに合宿?」
―……そういう貴方はミスターシービー、ですかと……ふむ。なぁー沖野ぉー。もう1つのチームがシービー公のチームなんかぁー?
「ああ、そうだぞ」
―だったら最初から言葉を濁さずにはよ言えハゲェー。
「うるせぇ白髪」
―ほう中々言うじゃあないかハッハッハ誰が髪の生え損ないだとクソゴラァ!
「そこまで言ってねぇよ!」
「アタシを省いてコントしないでくれる?後アタシと一緒にトレーニングしない?トレーニングの内容一緒っぽいし」
―一緒のトレーニング?まあ、良いけどちょっと待ってて。ちょっとあの沖野とか言うのにちょっと灸を据えなくてはならないのでね。
「ちょっと待て!お前さんから喧嘩売ってきたんだろうが!」
―うっせぇ白髪言った時点で仕置は確定してんだよアアン!?あっおい待て抵抗手段無いからって逃げんな!シービー公待っててすぐに終わるから!待てや沖野ォォォーッ!
「ウオァァァァ!ガチの体勢で追ってくんなァァァァァァ!」
「……まあ、できるなら軽くにしといてね」
……さて、とんだ茶番劇を見た所で、ミスターシービーが所属するチームについて話そう。
現在のトレーナー、トラス・ウエステンが運営するチーム、〈メトシェラ〉。
名前は宇宙最古の恒星、メトシェラ――更にその元を辿れば旧約聖書の人物*1の名から来ており、その名の通り、150年前に設立されたトレセン学園の、その翌年に創立された最年長のチームである。創立から暫くはそのチーム以外にもう1つだけだった事から、過去には『ガヴアナー』、『セントライト』、『トキノミノル』、そして『シンザン』が所属していた事で有名である。また、トレーナーもウマ娘レースの本場、イギリスから来たウエステン家の子孫が代々受け継いでいる事もトレーナーの界隈では常識の1つとなっている。
年代が進み、過去のウマ娘達が卒業し、当時以上にチームの多様化が進んだ現在とて決して弱くなった訳では無く、現在は『ミスターシービー』、『ミホシンザン』、『ノアノハコブネ』、その他今後は名前の出ないだろうウマ娘達が計6人所属している。
――と、こんな所だろう。少なくとも並のチームでは無い事は把握できたはずなので、話に戻る。
さてあなたの方に視線を戻すと、いつのまにやら沖野を捕まえていたようでアルゼンチンバックブリーカー*2を決めながらミスターシービーの方へと近寄ってきた。
―おまたせ。ちょっと時間かかったけど何事かあった?
「い、いや、特に何もなかったけど……背中のトレーナー、大丈夫?」
―ああ大丈夫大丈夫、沖野は身体メタルスライム*3だから。そう簡単に怪我はしないから。
「グオオオアアアッ!痛い!本当に痛いから!」
「…そ、そう……じゃあトレーニング、しよっか」
―りょかーい。――ペッとな。
「グオッフ!」
あなたは沖野を雑に砂浜に投げ捨てた後、ミスターシービーと共に海へと入った。
ここまでは良かったのだが、あなたは前世の、義足の左脚にはめたフィンを使って泳ぐ事に慣れていたのもあってまっすぐ泳ぐのにとにかく時間がかかった。右に1周するわ、かと言って左脚に力を入れたら今度は左に1周するわ、そもそもバタ足がゆっくりすぎてよく海へと沈むわ、車内で足をつった弊害で右足を伸ばしきれないわ、散々だった。
やっと前に泳ぐコツを掴んだ頃には日が随分太陽が西に傾いて来た頃だった。
「……すまん、こんなにカナヅチだとは思わなかった……」
―いや、あの、ちゃうねん。ちゃわないけどちゃうねん。普段はフィン使ってるからそれで調子が狂ってたんや。な?わかるやろ?
「ごめん、アタシにはちょっと良くわからない」
「俺もだ」
―なんでや。……ああーもう今日は厄日だ厄日!トレーニングおしまい!今日はもう休んで食べてゲームして寝る!
「お、いいねぇそれ!」
「待て、お前さんゲーム持ち込んでるのか?」
―あ。……残念だったなぁ!今更気付いてももう持ち込んでいる!wifi環境も整っていると予め下調べを入れた!こっちの勝ちだ!フハハハハハハ!
「クッソ、やられた……はあ、仕方ない、合宿中も使っていいぞ。ただ、そればっかに
―モチのロンだろて。……それじゃあシービー公、今日は徹底的にぶちのめしてやるよ!ゲーム内で。
「モチロン、相手してあげるよ!今度こそはそう簡単に勝たせないからね!」
ゲームの事でいっぱいになっている2人を見て、沖野は疲れたようにため息をついた。
《GAME SET!》
この音声が流れ、勝利画面に映るのはアタシのキャラクターじゃなくって、友達のキャラクター。これで今日は5戦4敗1勝、しかもその1勝も友達のコントローラーの充電切れと道連れでやっと作り出したスコア。思わず、口から不満が漏れ出る。
「ねーえぇ!ホント強すぎぃー!」
「フハハハハハハァァーーッ!格が違うんだよ、格が!こちとら何回も兄上にボコされてんだからなぁ!」
「君で勝てないのに更に上がいるの!?わあ、勝てる気がしない……」
そう言って畳へと倒れ込む。ルドルフと覗き込んで労いの言葉をかけるけど、あんまり響かない。
だって強すぎるもん。こっちだけダメージのパーセントが上がるのに友達のは全く上がらないし、当てても平気で受け身をとってくるし、アタシの動きを先読みされてるみたいに動くし……友達って何なの?ニュータイプ*4?ニュータイプなの?
「ニュータイプちゃうわい。まだその粋に達しておらんっての。……いや、兄上は真面目にニュータイプかもな…」
「えっ!?声に出てた!?」
「うん、ぜんっぜん出てた。だって強すぎるもんって、そりゃあ経験量がダンチなんでね」
「うそーん……」
「うーん面白い光景。……それはさておき、来いよシリウス公!チキってないでかかってこいよ!シリウス公は前々から1度ゲームで締めておきたかったんだよ!」
「ほーう?これでも私はゲームは上手い部類だぞ?勝てるか?」
「ハァーン!?勝てて当然ゼフィランサスダルルォ!?」
「言ったな?たしかに勝てるって言ったな?だったらアンタが負けたら私の事を暫くシリウス様と呼べ?良いな?」
「おうやってやるよ!かかってこいよオルァ!」
「そうか。……じゃ、ルドルフ。やるぞ」
「そうだな。私も何回も負け越していて、そろそろ鬱憤が爆発しそうな所だったんだ」
「エッ」
その事を知った友達は、面白いほどに一瞬で顔が白くなる。白いを通り越して最早青白いくらい。
「お、おまっ、シリウス公卑怯だぞおい!」
「だってなぁ、かかってこいとは言ったが、何も『1人で』とは言ってなかったよなぁ、えぇ?」
「ウッソだろお前!?おいおいおい流石に1on2は勝てる気配薄いっての!」
「は?誰が2対1って言ったか?」
その言葉の後、シリウス君がアタシへと歩み寄って友達討伐の勧誘をしてくる。
……モチロン、アタシが乗らない訳無いよね!
「ムーリムリムリムリムリカタツムリィ!スリーマンセルとか勝てるわけ無いだろ!卑怯者ォ!数で攻めるな卑怯者ォ!」
友達がなんか言ってるけど、気にしない気にしない。
数分後、アタシ達が居た場所には敗北の痕である、私達がいじけて倒れ込んでいた。
わかりやすく言えば、友達の辛勝。3人でおきらくリンチをしたのは良いけど、純粋な力量と、徹底的に擬似タイマンへと持ち込んだ友達の方がギリギリ数の力を上回った。正直、やってる間は某海賊王の漫画の、多対一時で一が勝つ時の多の方の気分だった。
「あっぶねぇ……ほんまにあっぶねぇ……見たか、卑怯な事をしたら自分に帰ってくるんだぞ……」
「……強すぎ……」
思わず、不満を吐露した。
……ホント、ゲームだと強いなぁ。