目指すはくそつよウマ娘   作:缶詰マン

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2週目だから割とふざけてる

 入学式の新入生代表挨拶のスピーチで6分間にもわたる右回りカーブ廃止についての演説、しかもマフティー成分の高い演説の方をやらかし、その後にしこたま生徒会から怒られて初日から反省文を書く事になってしまったウマ娘。それ即ちあなたである。

 あなたはマフティー成分の高い方ではなく、少佐成分の高い方を選んだ方が良かったのではないかと反省文を書きながら思い直しているが、周りからしたらそういう事ではないと言われるだろう。ちなみに反省文はもらった数時間後に、両面に最もらしい事を書いて返してやった。だがもうやらないとはどの面どの行にも1文字も書いていないので、いつかスピーチをする日がきたらまたやるつもりである。

 さて今日は入学式から翌日で、授業説明やこのトレセン学園の利用方法等の細かい事項が担任の口頭から話されている。尚説明に用いられている資料は入学式の際に配布されていて、あなたは既に寮内で1から100まで目を通してある。この資料達はそこそこな厚みがあったが1度広辞苑第七版を『あ』から『ん』まで――要するに全て読むという拷問にも近い苦行をこなした事もあるあなたからしたら楽勝な部類。しかし同室の仲間はいない。

 あなたは悲しいかな、広い代わりに誰もいない環境の中1人資料を読み切るといった寮の中でもボッチなウマ娘の悲しい所である。しかし誰もいないと言う事は隣に許可を取らずに部屋を魔改造しても良いと言う意味でもあるので、あなたは部屋を常識の範囲内で魔改造するつもりマンマンである。

 閑話休題。

 この説明はほとんどがそれに基いた物だったので説明を聞く価値無しとあなたは判断し、1人中国の王朝のなまえとその時代を机に書き出すのだった。説明に飽きたのか、隣の席の者が「何を書いてるの?」とあなたの机を見たが、その内容を見た瞬間に「ああ、コイツ想像以上に変人だ」と死んだ目をしながら言われた。解せぬ。

 その後も午前中は授業と言う体のレクリエーションがあったので、おふざけも程々に友達を作る努力をしたものの、スピーチと正門前での行為の事も響いてあなたは誰一人作る事は出来なかった。無念。

 

 

 時間も過ぎ、昼食後の午後はレースだったので体操服に着替えてターフへと集まった。あなたはそれに付け加えてゴーグルと防塵マスクのセット。担任は取り外そうとしたが、花粉に対して殺意を抱いているあなたは花粉をどれだけ憎んでいるか、それをこの装備で防いでいるんだといった事を力説したらまだ少し言いたい事があったのか、モヤつきの残った顔で引き下がっていった。文句を言うなら花粉に言えというのがあなたの言い分である。

 ちなみに食事はクラスでもボッチだったのを見かねたのか、ドーベルが同じ席に付いた。食べ始めて少しした後に3学年下のメジロパーマーとメジロライアンが同じ席に付いて、少々話せるような関係性になってあなたは大層喜んだが、どう考えていなくともわかる通り、ミスターシービーを除いて全員メジロ家、その上全員学年が下(忘れていたが、ドーベルは2学年下である)なので、どこまでもボッチだったあなたに対して気を使っての事なのをあなたは気がついていない。

 

 それはともかく、ターフに集まったのは理由があり、午後は全クラス、全学年で模擬レースをする事が時間割に入っていた為。しかし、この模擬レースはただ単に現在の自分の力量を知ろうと言うだけの目的である訳ではなく、このトレセン学園に所属するトレーナーらが、どんなウマ娘が将来性が高そうか、最低でもどこの距離なら行けるかといったものを知り、チャンスがあればスカウトをする為の1つの場でもある。

 一般の、と言う前置詞が付くが、トレーナーがウマ娘をスカウトするチャンスは3つに分けられる。1つは春と秋の中期に2回行われる選抜レース、1つはチーム《リギル》の入部試験、そして残る1つがこの模擬レース。勿論、別の機会にもスカウトしたり――例えば教官による総合練習等が挙げられる――あるいはチームの勧誘の為のポスターを見て加入しようとしたり等の機会はあったりするが、それらのイレギュラーな物を除けば、主なチャンスはこの3つ。まだ入学したばかりのあなた達ではあるが、トレーナー側の視点では全員が立派な宝島。その中でも更に財宝が詰まっている宝島を求めて、トレーナー達はレースに対して強く目を光らせている。周りも自分がチームに勧誘される為にと気を高ぶらせ、あなたはその空気に当てられて昂りこそしなかったものの、このレース位は真面目にやっとくかと思った。

 ちなみに、トレーナー側からみた注目株は、

 

◎現在良い調子のシンボリルドルフと同じ名家のシンボリ家である、比較的能力と学力が高いレベルで両立しているシリウスシンボリ

◎日本ウマ娘の超えるべき壁、シンザンの最高傑作とも言われる程の出来栄えを持つミホシンザン

◎最近の発展が目まぐるしいメジロ家の、(少々キチゲな事を除けば)全ての能力が普通よりも高い水準に値しているあなた

 

の3人である。注目株に入れるあたり、実力自体はある方だったりする。

 

 話は変わるが、あなたはレースは真面目にやると言ったがチームだけは絶対に選り好みさせてもらうつもりである。あなたは徹底管理主義と言うものが大嫌いだ。自由を特別好んでいるというのもあるが、過去の過ちが尾を引いているのが主な要因。例えば締切とか締切とか、後は締切とか。

 なので、例え勧誘されても決してリギルには行かない自信がある。逆にあなたが一番所望しているのはスピカで、あのチームは最大限自由を保証してくれるからである。無論、あの悪癖があるトレーナーなので『真面目に指導してくれない!』『脚を触られた!』等の噂があるが、そんなの関係ないと強行するつもりだったりする。

 

 そんな事を1人内心で喋っていると、あなたの出番がやってきた。

 あなたが出走するのは東京レース場型のターフ、芝1600mの右回り。このレースでの注目株はあなたしかいない。

 あなたは浮ついた気持ちのまま、ゲートへと入った。

 

 

 あなたは、実はゲートが他よりも大得意なウマ娘だったりする。

 厳密に言うと好きかと言われたらそんな好きじゃないと答えるのだが、コインロッカーの息苦しさと狭さと暗さとを比べたらゲートの方が5億倍マシなので素直に入っていられるだけである。今ロッカーに入れられたらあなたは恐怖で暴れて破壊する自信しかない程にあの空間は恐ろしかった。

 あれと比べたらゲート内は空気通りが良く、最低限動けるスペースがあり、太陽光が差して暗くない。これを天国と言わずして、何と言うだろうか。

 

 そんな事を脳内で1人ごちていると、目の前のゲートは既に開いていた。いっそ清々しい気持ちになる程の盛大な出遅れ。

 あなたは『(最初のレースから)何をするだァー!許さん!』と舌打ちした後に最後方へと位置取った。幸いにもあなたは追い込みなのでこのガバをやらかしても十分に勝てる。行動的には寧ろ推奨する行為だったりするが、あなたの心象と環境の心象的な理由故に、これ以降は無くしたい物である。

 

 

 レース結果としてはレース後半までに溜めていた脚を解放して、第3コーナー後半から一気にあげていき、第4コーナーで全体を切り捨てていったあなたの勝利。圧勝でなかったり、コーナーで大きく外に出たり、出遅れ等のアクシデントを差し引きするとRTAで言う所のクソガバプレイ、即リセ案件レベルだったのだが、ここは現実な上に別にRTAをやっている訳でもないので、勝てただけヨシ。

 

 なんだかんだで模擬レースも終わり、あなた以外の注目株も双方1着で抜けた。授業の終わりを告げる鐘が鳴ると同時に、ターフから少し離れた所で観戦していたトレーナー達がスカウトの為に動く。あなたからすれば自由であればどれでも良く、あわよくばスピカに勧誘されないかといった心持ち。

 多くが未来の担当ウマ娘へと向かって突貫する中、その比重はあなたがダントツトップ、シリウスシンボリはその次、ミホシンザンは3番手と言った形。『出遅れとカーブの膨れを加味しても尚スカウトしたいと思わせる末脚。あの出遅れで勝てるならG2勝利が出来る可能性だってある。もしかしたらG1だって勝てるかも知れない』と言った心情から選んでいるのではとあなたは推測する。しかし、そのスカウトの内容はどれも徹底管理主義系なので『拒否します』の1点張り。チームだけは妥協するつもりは微塵も無い。

 あなたも他と同じように教官通いかなと感じ始めた時。

 むにり、とトモに謎の感触。揉むような感じ。……これあいつだ。

 どうやらあなたは乱数の神様に超絶に愛され、上振れを引いたようである。感謝感激雨あられ。

 

 

 あなたはスピカ所属のウマ娘である。しかし、あなた以外に所属しているウマ娘はいない。よって、チームリーダーとエースを兼任している。仕事しろ沖野。

 乱数の神様に愛されたあなたは喜びで思わず変な声を出したが、その事は特に言われなかった。それ以上にあの沖野からスカウトが来たぞと大喜びだったあなたは脚を触る沖野を強引に脇に抱えて部室へと入った。俗に言う逆スカウトである。周りから変な目で見られたがそんな事は関係無い。自由の関門を通り抜けて見事手にしたあなたは、珍しく1日1罵倒を心がけている転生させた神様にも感謝をした。

 現在はあなたの担当となった沖野に今後の根城となる部室を案内してもらっている。……改めて見るとやはり小さい。これが沖野クオリティか。

 

「小さくて悪かったな小さくて。後俺は沖野じゃないっての」

 

 思わず声に出ていたようだ。流石に失礼なのでちょっとした謝罪をする。

 

「いや、小さいのは事実だからいいんだ。……それにしても何故俺のチームなんだ?お前さんの実力だったらリギルだって夢じゃないだろうに」

 

 ―気分。後管理体制は嫌い。

 

「……お、おう、そうか。それにしてもこの部室でお前さんと俺だけってのもアレだな。今の所お前さんは部室にあるもの全部使ってヨシだが、できる限り自分の物ばかりにしないでくれよ?これから部員で埋めてくつもりだからな。後俺の事を沖野って言うなよ。俺には西崎と言う立派な名前が――」

 

 ―後半の事は聞かなかった事にしておこう。君は今から沖野だ、良いね?

 

「……ウス」

 

 良し。何とかトレーナーの事を沖野と呼ぶ許可を得たのでこれからはのびのびと、かつ真剣にレースに取り組んでいこうとあなたは意気込むのであった。

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