目指すはくそつよウマ娘 作:缶詰マン
ありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございます
あなたはデビュー戦を勝利したウマ娘である。
あなたが元々生きていた世界の競馬でもデビュー戦――この場合だと新馬戦になるが――を勝っていると言うのはかなり重たく、新馬戦と一勝の差は、G1とそれ以外のレースの差以上に大きい。その理論はこのウマ娘の方でも当てはまったりするので、あなたは軽く舞い上がるような気持ちである。この調子でいけばひとまずの目標であるジュニア期無敗は達成できるだろうとあなたは皮算用を始めている。
無論ライブの方も、教えてもらったシンボリルドルフとミスターシービーに失礼にならないような物をしっかりと遂行した。後半ムーンウォークでもしようかと思ったが、残念ライブにはしたくなかったので思いとどまった。最初の残念ライブはゴルシかダイワかウオッカにやってもらいたい物である。それこそかぼちゃを被ったりなんなりしてほしい。
そんな事はさておき、現在あなたは先程まで目の前にあった山盛りにんじんをどうにかシンボリルドルフとミスターシービーに押し付…じゃない。お礼として手渡してきてウキウキの気分にある。
このにんじんは、どうにも沖野曰く「お前の活躍を期待して1人のファンから送られてきたんだ!」との事。
そのファンには申し訳ないが、残念ながらあなたはウマ娘という存在にしてはかなり珍しいにんじん嫌いである。学食でも「にんじん要らないよ」と言う位には嫌いである。しかしその後には大抵にんじんが他よりも多く盛られるのがテンプレだったりする。許さんぞ学食のおばちゃん。
話が逸れたが、このあなたにとってはそこまで嬉しくもないプレゼントをもらって少し閉口していた時にそういえばウィニングライブの練習の時のお礼を渡していなかったなと思い出し、ミスターシービーを探し出し、丁度シンボリルドルフもいたので直に渡してきたといった所。
案の定遠慮されて「君の物なのだから君が味わってほしい」と言ってきたが、これは教授してもらったお礼なのだからと押し切ってきた。だって美味しくないし(前よりはマシだけどまだ)青臭いし、ここらへんのは糖度高いからまだスイーツとかにちょいと混ぜるならまだしも、サラダとか、ましてや生でボリボリ齧るとかこの世界の奴ら正気なの?と言った本音は心の奥底の倉の地下へと埋め立てて栓をした。ちなみにあなたは海外のウマ娘がよく食するような、例えばリンゴや氷砂糖、あるいはハチミツの方を好む。甘味は正義。
うん?レース後のココアシガレット?勿論沖野にしっかりと買わせた。その時の沖野は金欠気味ではあったが、デビュー戦を突破した賞金も入っているので財布は潤っているはずだ。多分、おそらく……きっと。
――それにしても、今日は本当に眠いわぁー、ホント。
あなたは珍しく欠伸をして、身体を伸ばしながら思う。今日は普段よりも寝ていたはずではあるが、もしやレースの疲れがまだ取れきっていないのだろうか。それに今日は太陽が良く出ている。花粉さえ舞っていなければ絶好の昼寝日和と言える。
―今日はトレーニング、休むかね。ダルい眠い辛いの三連単やし。つーよりもそろそろ何か書きたい。なんかそわそわして落ち着かない。……そういやネット小説なる奴があったな。それで何か書くか。…なんか書いてないと落ち着かないってもはや職業病だな、こりゃ。
あなたは1人苦笑を浮かべながらスマートフォンをスカートのハンドポケットから気だるげに取り出す。取り出したスマートフォンに沖野の電話番号を打ち込み、応答を待つ。その応答を待つ間、手馴れたようにスピーカーモードへと切り替える。
――プルルルル。プルルルル。プルルルル。
3回コールがなった後、沖野が電話に出る。
『――はい、西崎リョ――』
―Your name is OKINO,OK?
『お前かよ……それで、俺になんの用だ?』
―うーんとな。あれだ。今日なんか疲れてるし眠いしダルいからトレーニング休む。多分明日か明後日か…明明後日?それくらいにゃ回復しとるやろ。せやからそれ伝えにきた。
『ああー、それか。……まあ、前のレースで頑張ったからな、疲れも溜まるか。…そうだな、今日はしっかり休め。トレーニング出来そうになったらそんときはしっかり頑張ってくれよ』
―ん、おけ。ほならまどっかで昼寝しとるわ。なんかあったら電話求む。そんじゃ。
『おう、それじゃ』
―よし、連絡しといた。今日は何処か昼寝出来る所で寝とこう。後は…そうだな、ゲームだゲーム。ゲームしよう。その後、何するっかなっと…。
ふわり、とまたも欠伸をしながらあなたはスマートフォンと同時に両手をポケットへと突っ込み、何処かへと歩いて行くのだった。
一方のシンボリルドルフ。
いつもよりも少し倒れ気味な耳を携え、廊下を音を立てない程度に小走りしていた。理由はウマ娘の好む人参を、本人が手を付ける事なく渡した事へのお礼を言うため。
しかし、中々見つかる気配も無く、トレーニングの時間も間近へと迫っていた故に、不安と焦りの混じった感情が足を早めていた。どれだけ小さくとも、受けた恩は必ずお礼をして返すと言うのがシンボリ家の教訓の1つ。小さいように見えて、意外と大きい。この事は忘れてはならないと、シンボリルドルフは律儀に心掛けていた。
生徒のウマ娘に聞くも、『今日はトレーニングを休んで外の何処かで昼寝している』事がわかっただけで、特別大きな進展も無かった。
――このままではトレーニングの時間に間に合わなくなるな。
その事が頭をよぎった時。目の前にシンボリルドルフの探し求めていた人物が歩いていた。髪色は勿論、歩き方にも特徴があるのだから尚更本人だと判断できた。
シンボリルドルフは彼女へと駆け寄り、声をかける。
「申し訳ない、少々時間を頂けるだろうか?」
「……んあ?あー、ルドルフ公ですかと。こっちゃ死ぬほど眠いんでなるべく手短かつ簡潔に頼んますよっと…」
「実は君にお礼を言いたくてね。先程、私のためにあの人参を持ってきてくれただろう?あの時は本当にありがとう。感謝するよ」
そう言うと、あなたは多少の時間を挟んだ後、またも1つ欠伸をした後、眠気を携えながら言葉を発した。
「……ふーん。それはどうも。ま、あれはただの一概の授業料なんで、大丈夫よお礼は」
「いや、それでもだよ。私は、受けた恩は返さなくては気が済まない質なんだ」
「後さ、トレーニングの時間は大丈夫だったりするんか?多分もう近いはずやと思うんやけど」
「ああ、結構危ない。だから、せめてトレーニング前にと思って君にお礼をしにきたんだ」
「それは律儀に、どうも。それじゃ、わたくしは昼寝か何かしてくるんで、用があれば電話かメッセージ頼む」
「…出来ればなのだが、LINEのコードを交換しては頂けないだろうか?君は、この学園で初めて出来た話相手なんだ」
「……今はそのー、LINE?って奴はスマートフォンにインストールしていないんで今は無理ですけども、昼寝後なら万事OKですよと。それじゃ、Good Bye Ms.Rudolf」
……かなりの名家、それも次期生徒会長に対して凄まじい程の不遜っぷりではあるが、当のシンボリルドルフは意外にもご満悦の表情。何せ、前々から関わりのあったミスターシービー、マルゼンスキー、シンボリ家のウマ娘とは違い、この学園に入ってからの、正真正銘本物の友達と言える(ような)存在。外ではほぼ確実にゴーグルとマスクを付けているといった変な所はあれど、自身を遠ざける事無く対等な立場で接してくれる。
それが、名家であり、威厳のある風貌故に周りから畏怖されていたシンボリルドルフからすれば、その事はとても嬉しい事だった。
「友達、か……ふふ、この関係が続くと良いものだ…」
シンボリルドルフは、普段よりも少しだけ軽い足取りで、急ぎ足でトレーニングへと向かうのであった。
後日の早朝、あなたがシンボリルドルフに対して「先日は恐ろしい程の御無礼を働いてしまい、誠に申し訳ございませんでしたァァァーーッ!」と見事なまでの美しい土下座を大衆の目の前で行い、シンボリルドルフがしょげた姿を見せていたのはこの頃に在籍していた同級生のウマ娘の間では結構有名なお話である。
ちょっと短いので2話投稿予定です。