目指すはくそつよウマ娘 作:缶詰マン
あなたはこれからの予定であるレースのプロットを沖野と共に組んでいるウマ娘である。普段よりも真剣な沖野の顔つきを見て、あなたも真面目に打ち合わせをしているといった所。1人のウマ娘に対して真剣に向き合っている所を見ると、やはりチームを率いる事が出来るだけの実力はあると感心しつつ、自分にも関係がある事なので、ホワイトボード上にある、出走できるレースの一覧を見ながらその感心を1度引っ込める。
「――それで、どのレースに出たいとかの希望はあるのか?」
―…あー、そうだな……とりあえずは、なんだろうな……あ、ジュニア期のG1には出たいかな。
「ジュニア期のG1?それなら12月前半に朝日杯フューチュリティステークスと阪神ジュベナイルフィリーズの両方があるが……どっちに出走するつもりだ?」
―なるほど、んじゃ朝日杯の方で頼む。ジュニア期はそこを軸にレース構築しておきたいかな。
「オーケー。とりあえずお前さんは未勝利戦は勝っている訳だから後……もう1、2戦オープンかプレオープンを勝てば、晴れて特別競走に出る事の出来るウマ娘になれるって所だな」
―なるほど、じゃあその分勝てばええ訳って事で?
「ま、そういうこった。……そういや聞きそびれてたけど、お前さんの夢って、なんだ?」
―夢…夢、ねぇ。夢じゃあなくて1つの野望ならもうあるけど、聞く?
「ああ、是非聞かせてくれ」
―…………すまん、言うとなるとやっぱ緊張するわ。ちょっと、ちょっと待って欲しい。
あなたは少し息を入れ、吐いた後に言い出す覚悟を決めた。
―……4人目の、クラシック三冠ウマ娘。それも、無敗。
「…クラシック三冠ウマ娘を目指すのか……」
―……ハハッ、無謀なのは分かってんのよ。でもさ、面白そうだし、そしてカッコイイ。やってみる価値は無い訳じゃないだろ?……1人の、ウマ娘の願いなんだ。頼む、叶えてくれ。
「……わかった。俺も最大限助力する。共に、夢を掴もう」
その声を聞いた瞬間、安堵からか思わず腰を抜かして地べたへと座り出す。
「お、おい!大丈夫か!?」
―あ、いや、違うの。もしかしたらさ、断られるかも知れないって、思ってたんだよ。三冠を取りたい理由が面白そうとカッコイイからって。和紙よりも薄く、そこらの水溜まりよりも浅い内容だろ?普通のトレーナーからすれば、そんな簡単に取れる訳あるか、とか、もう少し現実を見ろ、とか言われるような事なんだしさ。……怖かったんだよ。本心を言うとさ。
「……ウマ娘が持つ夢を叶える為に努力をするのは、トレーナーの1つの仕事で、1番重要な仕事だ。人の夢を、無理だ、出来る訳がないと否定するってのはいい事じゃない。俺も、入りたての頃に三冠ウマ娘を育成するって言って、それを否定されて、事実出来なかった。だから、俺は1度このトレーナーと言う仕事を離れた。それでも、夢は諦めきれなかった。……だから、動機がどうであれ、叶えるのが俺の仕事だ」
―…なんだ、それ。……クッソ程面白そうじゃあないかよ。三冠ウマ娘を育て上げようとして不可能に散ったものの、諦めきれずに復帰した1人のトレーナーと、無謀な道筋を歩まんとする1人のウマ娘が前人未到のクラシック無敗の三冠へと向けて走り出す物語。――Good、王道故に純粋な力量が問われる物語……この際の力量は、実力か。――うん、出来る。やろう。沖野が叶えられなかったその三冠の夢、わたくしと共に叶えようじゃあないの。
「……おう!未勝利戦を抜けてから言うことじゃないが、これからよろしく頼む!」
―OK、これから頼りになるよ、沖野。
「……あのさ、雰囲気壊すようで悪いけど、だから俺は沖野じゃねぇって」
―…ハァー、空気読めや沖野。だからトモ触った時に顔面蹴られるんだぞ。
「今それ関係ねぇだろっ!?」
レースのプロットとはまったく関係のない話をしてしまったが、ひとまずの出走レースは決まった。
ゲーム風に纏めると――
8月前半、OPレースの『コスモス賞』。
10月前半、Pre-OPレースの『紫菊賞』。
10月後半、G3レースの『アルテミスステークス』。
11月前半、G2レースの『デイリー杯ジュニアステークス』。
12月前半、G1レースの『朝日杯フューチュリティステークス』。
クラシック級3月前半、G2レースの『弥生賞』。
――後は順に皐月賞、日本ダービー、菊花賞の流れを取るといった形。それらのレースに備えるために、日々トレーニングを積み重ねていく事になるだろう。
―良いチャートって奴ですわな。全体的に見てほぼマイルなのと10月11月が少しキツめの予定なのが若干気になる所だけれど…ま、どうにかなるなるサイサリスっと。
「じゃ、今後のレースの出走予定も固まったところで、そろそろトレーニングの時間に入るか!体の調子は大丈夫か?」
―勿論、今の健康状態は良好って所よ。なんなら少し休憩挟んだのもあっていつもより調子高めかも知れんね。
「よし、じゃあトレーニングに行くか。今日から更に力入れてトレーニング入れてくから覚悟しとけよ?」
―逆に聞くけど自分の叶えたいってのに手ぇ抜く奴居る?居ないよなJK*1。そーゆー事なんで、無理にならない程度に頼むよ。
沖野は軽く頷くと、立ち上がってこちらへと手を差し伸べた。
「よっしゃ、じゃあ行こう。お前の夢を叶える為に、一緒に頑張ろうぜ」
―OK、行くともさ。わたくしの願いを叶える為、そして沖野の願いも叶える為、共に良い物語を描き出そうじゃあないか。
差し出された手を握り返し、立ち上がる。
「じゃあ、これだけはしっかりと言わせてくれ」
沖野は1呼吸置いた後、情熱の炎を宿した瞳であなたを見据え、こう言った。
「――ようこそ、チームスピカへ」
―はぁ〜本日はまっこと疲れた事疲れた事……今日初めてトレーナー監修の元でトレーニングしたからまあまあな疲労感が残ってますわ……これからはこんな感じかぁー…どうにかなるかな。どうにかなる、はず。……多分。きっと。おそらく。
あなたは月明かりが差し込んでいる誰もいない寮の部屋の中、1人呟いた。
何せ、沖野のやらかしデビュー戦のお陰で、トレーニングをマトモに始めたのがまさかの今日なのだ。いきなりハードなメニューをこなしても体がついていかない可能性があるという事で、今日のところは軽いランニングとストレッチのみに留めていた。それでも、普段よりも長い時間体を動かしていた訳だからそれなりに体は疲弊している。
―……さすがに明日からもずっとこんな感じだと無理ゲーって奴やな……この体たらくで無敗の三冠とか超絶上振れ中のキャラで更に激レアイベントを引くような物だぞおい……
ココアシガレットを歯で少しずつ砕き始める。
あなたも、元トレーナーであったあなたの母親に指導してもらっていた。しかし、デビュー戦は抜けられども、軽めのトレーニングで上がり気味になっている。
今思い返せば、入学前のトレーニングはそこまで時間を掛けていた訳でもなかった。精々、1、2時間程度で、後は勉強とちょっとしたおサボりの時間。だが、入学後のトレーニングは3、4時間は優に超え、下手をすればそれ以上こなす必要だってある。
―…………はは、結局はそんな努力してない癖して自信もって、そんで才能って言う名のマグレでデビュー戦勝ったみたいなもんじゃあないかよ。……しょーもねーわ、自分。
しかし、そんな事を、今更うだうだと言っていても仕方がない。
とにかく今は休もうと、普段の習慣となっていたゲームにすら手を付けずにベッドへと潜り込み、目を瞑った。
――夢を見た。
それは、どこか懐かしいような、そうじゃないような、よくわからない記憶。
映るのは、とあるダートレースを観客席から見たような光景。
砂塵舞うレースの中、あなたはある1人のウマ娘に目を奪われる。それは、炎が燃えるような真赤な栗毛をした、後方にポツリと取り残されていたウマ娘だった。
周りがハイペースに進む中、そのウマ娘1人だけが早歩きと同等の速度。
―……勝てる訳が無い。
思わず、そう声を漏らしてしまう。
しかし、声を漏らしたその瞬間に後ろにいたウマ娘は急激に加速し始めた。
速い。本当に速い。1バ身、2バ身なんて物じゃない。6バ身、9バ身と距離を詰め、あっという間に先頭へと突っ込む。直線へと入り、ゴールまで後少しの先頭のウマ娘を一気に抜き去り、ゴール板を潜った。
終わってみれば、3バ身……程だろうか。それくらいの差を付けての圧勝。心踊るような、見ていて爽快感を感じるレース。観客も歓声が上がり、口笛を吹き、流れる滝の音を思わせる程の拍手をし、湧き上がっていた。
ああ、あんな走りをしたい。自分もあのような風に走ってみたい。その気持ちで胸を膨らませていた時、ウィニングランを終えたであろうそのウマ娘があなたの前へと歩いてきていた。
「……ちょっと急に話しかけるけどね、どうだったかな。アタシの走り、凄かったかな?」
―え?……あ、はい!本当に凄い末脚でした!まるで……赤い弾丸のような、彗星のように見えました!
「そう……良かった!」
―あの…………わたくしは、あなたのような、強くてかっこいいウマ娘になりたいです!
「……アタシの事、強くてかっこいい、そう見えるのね……うん、ありがとう。アタシには何も出来ないけど、1つワガママ、聞いてくれない?」
―……は、はい。わたくしに出来る事なら何でも!
「…アタシに代わって、三冠を達成して欲しいの。アタシは生まれ持っての病気で、いっぱい走る事が出来なかった。本当に、悔しかった。……だから、君に夢を託させて。ジャパンって言う、遠く離れた国でも、頑張って戦って。……頑張って、皆に夢を見せてね」
―……あ、あなたの名前は――!
「…………ヒントは、与えすぎたら面白くなくなっちゃうものなのよ♪」
……そこで、目が覚めた。
汗が額から垂れているのに気付き、手で拭いながら辺りを見回す。
いつも通りの、月明かり差し込む自分の部屋。
時計を見ると、時刻は午前2時半。
―あの夢、ほーんとなんだったんだか。よく分からんし、何よりあんなチート紛いの末脚持ってるのってわたくしが元いた方にも居るかどうかわからないレベルだっての。第1、あんな末脚で三冠が不可能?無い無い、普通に考えてないっての。普通に考えてあれはよっぽど適当にやらなかったら余裕で勝てるレベルやぞ。あれを使いこなせないならよっぽどの下手な奴だろうに。……明日、寝不足にならなきゃ良いけどさ。
不意に変な時間に起きてしまった時には屋上かベランダでとある嗜好品を使っているのがあなたの定石だったのだが、現在のあなたはウマ娘であるし、まず未成年である。何より、外を覗けば花粉症が酷くなる。仕方なくココアシガレットを一箱開けて消費し、軽く口を濯いだ後に再び眠りに付くのだった。