目指すはくそつよウマ娘 作:缶詰マン
追記
『あのときの』さん、誤字報告ありがとうございます。
ターフでいつも通りヒィヒィ言いながら沖野の出すトレーニングにどうにかついていけている1人のウマ娘。それ即ちあなたである。
最近は軽めのメニューも少しずつ楽になってきたのでジュニア級に多いマイル距離を今よりも速く、かつスタミナが持つように、更に相手を押し出せるパワーを鍛えるためのトレーニングをこなしているが、そのトレーニングが結構キツい。特に全力で短距離を走るトレーニングはかなり苦手である。
ぽたり、ぽたりと汗が地面へと垂れるのを見て、まだまだ無敗の三冠には程遠い、わかりやすく言えば実力不足である事をはっきりと痛感するも、これ以上の連続したトレーニングは塩分不足と酸素不足になりかねないので、あなたは1度休憩を挟む事にした。
花粉症対策のために付けていた防塵マスクとゴーグルを取り外し、タオルで顔や首筋に流れる汗を拭き取る。
―ッスー……あっつ……今日本当は夏かなにかだろ、息苦しいしさ……
「いや、どう考えても暑く感じるのはそのゴーグルと防塵マスクのせいだろ。それとその長袖の下着とスパッツ。それさえ取れば暑くないだろうに……」
―それのせいにしたいのであれば世界中にある杉とヒノキを全部伐採してから言うこった。重度の花粉症患者はこうやって凌ぐしか無いんだよ。OK?それにこの長袖とスパッツを付けてる理由はな、水溜まりよりも浅く、試験管の口よりも狭い理由があるんだよ。聞くか?
「いや、良い」
あ、そ。……あーあー、花粉症さえなけりゃこいつら付ける必要性も無いんだけどなぁー。
「まあ、体質はどうにもならないってこった」
沖野から手渡されたスポーツドリンクを飲みながらボヤくあなた。体質の問題出すんじゃあないよ、同じ体質になる呪いでもかけてやろうかと言う思いを一旦封じ込め、ココアシガレットを口に咥えて、ふぅっと一息付く。……手元におるココアシガレットとスポーツドリンクをみて、ふとあなたは恐ろしくしょうもない事を考えつく。
―なぁ沖野、今さぁ、面白いけど面白くない事考えたんだけどやって良いか?
「なんだそれ…まあ、トレーニングに影響しない事ならやっても良いけど」
―あ、じゃあやるわ。
あなたはココアシガレットを5本取り出し、それらを口に咥える。瞬間、口の中に入れて、同時にスポーツドリンクを流し込む。――わかる人にはわかるだろうが、これは究極生命体が作者の、特にスタンドが出てきた頃の主人公の特技である。(わかる人居るのか?)
「…もう終わり?」
―そうだよ?
「……すまん、俺にはそれの面白みが良くわからない」
―…な、言ったろ?面白いけど面白くない事って。知ってる人には面白く見えるもんよ。
「そうなのか……」
―YESYES,
そんな他愛の無い会話をしている内に、少しずつ体力が元に戻ってきた。そろそろ練習に戻ろうとあなたは動く。
―さてさてさって、そろそろ体力も回復してきた頃合だし、そろそろ練習に戻るかねっと。沖野、手ぇ貸して。
「お前さんなら1人で立ち上がれるだろうに…ほらよ」
―お、Thanks。……よっこら誠一ーっと。
「誰だそいつ」
―知らね。
「言った本人が知らないってどういう事だよ……」
……無駄話はさておき、今度は中距離の練習をするらしく、先ほどまで行っていた全力短距離走とは違って、中間的な距離なのでレース本番に近い状況で行うことが出来るため、タイム計測なども出来るという利点がある。
「よし、そしたら次は中距離を走ってもらうぞ。距離は2000mだから、少し長めな距離間だが大丈夫だよな?」
―Good。この程度の距離だったら問題なく走れますよっと。むしろ、無敗の三冠とりたいんであればこれくらい出来ないと話にならんよ。
「頼もしいな。じゃあ早速行くぞ!」
沖野の声と共に、スタート位置につくあなた。そして、その声と同時に走り出した。
それからというもの、日が暮れるまでずっと中距離を走り続けたあなたは、流石に疲れたので今日はもう終わりにする事になった。
「今日はこれで終了だ。お疲れ様」
―OK、おつかれっしたーっ。……ふぅ、いやぁー今日も今日とて大変でしたと。
「ははは……今日も良く頑張ってくれたな。明日からも頼むぞ」
―モチのロンだっての。さぁて、明日も1日、頑張るぞい!
「ああ。それと、今日は早めに休んでくれ。最近根を詰めすぎているみたいだし、体調管理もレースに出走するウマ娘の1つの仕事なんだからな」
―……はいはい、わかっておりますとも。じゃ、また明日もよろしく頼むって事で。それじゃ、have a Good night.
「ああ、良い夜を」
沖野と別れ、寮へと戻るあなた。しかし、その表情は沖野と話していた時とは違って、眉間にシワが寄っている。
――『2:07:1』、だな。……まあ、初めての中距離にしては良い方だろ。
その声があなたの脳内に反響し、思わず親指の爪を噛み始める。
―……面白くねぇなぁ、クソが。
思わず、誰もいない廊下の中で1人毒を吐いてしまう。
無論、まだ成長途中なのもあってまだタイムが伸びないのもある。何しろ、まだあなたには『本格化』のほの字の予兆すら訪れていない。
しかし、あなたはまだニワカの域ではあったとはいえ、元々から競馬が好きであった。地方か中央かを問わずに様々なレースを見てきたから言えることだった。
遅い。
―……なんでこんなにもタイムが出ない?今までのレースを見てても、もう少しは速いんだよ。
東京レース場の新馬戦、2000mの平均タイムは『2:04:6』。あなたのタイムはそれに比べて2.5秒も遅い。このタイムだと最下位かそれスレスレだろう。
ましてや、新馬戦は周りを見て、それでコンマ何秒かの差が出るだろう。あなたは脇目も降らずに走っての結果。
1度過ぎた結果はもう変えられないので、仕方の無い事なのだが……それでも、どうしても納得がいかなかった。
─……畜生がっ!
自分自身への怒りとやるせなさで声を荒あげた後、少ししてからため息を付いた後に冷静に考え始める。
――確かに、今の自分は未熟だ。このタイム計測で、それが顕著に現れた。だったら、この実力がずっと続くのか?
そんな事は無い。トレーニングを重ねていけばタイム自体は少しずつ縮んでいくだろうし、まだ本番の紫菊賞までたっぷりと時間は残っている。
それに、ミホノブルボンの例だってある。
史実のミホノブルボンは、弛まぬ努力と絶え間ないトレーニングによって無敗のクラシック2冠を達成し、負けたとはいえ菊花賞の勝利も掴む寸前だった。そして、その菊花賞以外では1度も負けていなかった。
つまりは、努力によっていくらでも勝利する可能性は引き上げる事が出来ると言う事。だったら、その可能性はどうやって引き上げる?
答えは簡単で、更にトレーニングの数量を積み重ねる事。
要は、今よりも更に努力すれば良い話。時間だって切羽詰まってる訳じゃないんだし。
……ま、少しくらいは気楽にいこうか。
あなたは1度脳の回転を休めた後、空箱のココアシガレットを見つつ、心の中で言葉を付け加える。
――それに、ココアシガレットも切らしてた訳だし。少し正常な思考が出来なくなってるのもあるか。
あなたにしては、珍しく手持ちのココアシガレットを切らしていて、それで内心のストレスを誤魔化せなかったのもあるだろう、とあなたは推測する。そのストレスを誤魔化せなかった主な原因は、確実にあの特技の物真似でしかないが。……ココアシガレットを切らすだけでストレスになる辺り、あなたもまだ子どもっぽい部分が残っているようだ。
はてさて、そうこうしている内に寮の部屋へとついたあなた。もちろん、夜の勉強と自主トレーニングもその後やる事を前提にして、暫くぶりのあなたの趣味に手を付ける。
―さて……軽くゲームでも、やりますか。
あなたは、ゲームをすると途端に騒がしくなるタイプのウm――
―ステルスが通りまぁーすご注意下さぁーい!あっ見つけたぞ餌ァ!オラッ墜ちろカトンボォッアッアッちょっと待ってカウンター取られるの聞いてない待って助けてお願いしまsそのカウンター痛すぎィ!いや待って本当に見逃して許して!許してお兄さん!よって集っていじめないで!許し亭許して!ホッホッホッ(過呼吸)ホア゛ーーーッ!バクサンシチャッタ…
……もう一度言うが、あなたはゲームをするt――
―オラァ次は逃がさねぇぞ!1回目はガバったけど次は絶対消し炭にしたるからなおい!あっちょっ待って遅いのよ君追いつかれそうになってるからちょっとまっt痛い!まってその攻撃やめやめロブrい゛た゛ぁ゛い゛!待って本当にお願いだから!慈悲!慈悲を下さい2機いるのぎいでないオギャァーーーッ!マタチンダ……
…………あなたは、ゲーm――
―もーう許せるぞおい!絶対にぬっころしてやっからなおい!見つけたぞゴラァ!待てや!待てコラガキ!3度目の正直だぜオrその手は食わないってんだよォ!ひき肉にしたるぜぇこんちくしょう!オラァ!オラァ!オラオラァッ!まだ残ってるぞォ逃げんなよ逃げんなよ!ソォイのッ…デェイデェイ!イヨッシャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!火力が無くてもコンボ決めれば火力は出ますのよォーオホホホホお待ちくださいまたピネじゃないですのよ来ないで来ないでくださいまshペペロンチーノッ!(遺言)
……………申し訳ない、少しミュートにさせてもらった。……それにしてもこの寮は防音性が凄いと思う。このような猿が奇声を出しても周りに聞こえていないのだから。
……まあ、言おうとしている通り、あなたはゲームをすると猿に退化するタイプである。しかし、あなたの前世の方は意外と静か(独り言は言っていた)であり、猿になるのはおそらくこのウマソウルが原因だったりする。――お、どうやら今ゲームが終わったようである。
あなたは、今しがたやったゲームのコントローラーを投げ捨てた後、ベッドの上に寝転ぶ。
―……あ ほ く さ。レートまた下がったんやけど。謀ったな財団B。ほんまレート調整やめやめろってんだ。
あなたは先ほどまでプレイしていたゲーム会社を呪う。暫く経った後にコントローラーを再び持ち、またやり始める。辞めろ猿。
―今度は脳死でチンパンするだけのお仕事でもやるか。
その時、寮のドアをノックする音が聞こえる。あなたは、こんな時間に誰なんだかと思いながらドアを開ける。顔を覗かせるように開けてみれば、あなたのちょっとした話相手、シンボリルドルフがそこにいた。
「……少し、良いかい?」
―駄目です、お帰り下さい。
恐ろしく速い即答、シンボリルドルフでなければ見逃していた所だろう。同時にドアが閉められる。
「……そんな事言わずに、入れてくれないか?……それとも、何か見られたくない事でもしているのか……?」
―……何でそう思うんです?
あなたは、その言葉を聞いて、思わず悪寒が背筋を伝う。何故なら、あなたが今やっている事はまず人に見せられない『猿への退化』そのものなのだから。それに、ゲーム中の奇声は殺せるとして、何せ現在肌着姿なのだ。見せられる訳が無い。
あなたは長めの思考を挟んだ後、ひとまずは招き入れる事にした。
―……ま、ちょっとお待ち頂けるなら入っても可ですけども。ほならちょっと待ってて下され。
あなたはそう言って、急いで服を着る。そして、部屋に入る許可を出すと、彼女は嬉しそうな顔をして部屋に入ってくる。
―んまあ、入って、どうぞ。
「ああ、お邪魔するよ」
―……それで、ですけども一体何用でございます?
「…できればその敬語をやめてくれないだろうか?」
―……まあ、OK。それでどったの?
「……君は、ゲームが好きなのか?」
―……まあ、かなり好きィ、ではあるけどそれがなにか?
あなたは何当たり前の事聞いてるんだろう、という顔をしながら答える。すると、彼女の目が輝いているように見えた。
「では、私にも教えて欲しいのだが……いいだろうか……!」
―……………………上上下下左右左右BA、上上下下左右左右BA、上上下下左右左右BA……良し。
あなたは一瞬だけフリーズした後、すぐに再起動して彼女に言う。――何故にコナミコマンド?
―えーっと、それはつまり……わたくしと一緒にゲームをしたいとのことで?
「……そうだ。君さえ良ければ、だが……後、私は今までにこういった物に触れた事がない故に、あまり上手に出来ないから、それでも良いのなら……」
―……まあ、別に構わないけど……
「……!ああ、ありがとう!」
シンボリルドルフに笑顔で話しかけられたのだから、はぐらかす訳にもいかない。手取り足取り、別のゲーム――任天堂のレースゲームの操作方法を教え、ついでにフルボッコにした。少ししょげていたが、あなたには反省や後悔の色は無いようだ。
時間も忘れてゲームしていた結果、勉強も自主トレーニングもやっていなかったのは秘密である。
私はこの『ゲーム』のメ〇スにとか言う奴にトラウマを付けられました。嫌い。