目指すはくそつよウマ娘 作:缶詰マン
『minotauros』さん、『小倉ひろあき』さん、誤字報告ありがとうございます
アプリ『ウマ娘 プリティーダービー』では日本ダービー後の一大イベント、『夏合宿』がある。その夏合宿はどうやらこのアニメ版の方にも通用されるらしい。
「つーわけで、1ヶ月後に夏合宿やるぞ。流石に俺達のチームは弱小もいい所だからリギルともう1つのチームとの合同になるけどな」
―……え、えぇ…?いや、夏合宿が嫌とかじゃなくってさぁ、合同とはいえよく出来たなリギルと。……なんかゴマでも擦った?
「ゴマ擦ってねぇよ!俺はただおハナさんから持ちかけられたのを受けただけで――」
―やっぱ擦ってるじゃないの。普通わたくしらみたいなクソザコナメクジのチームが普通そんなこっちにとってうまみしかない話出される訳ないじゃんアゼルバイジャン。ほならおハナさんって誰だ、おぉん?恋仲か?
「違ぇっての!あの人はただの1人の先輩だ!」
―……ふーん、そぉ。ふーん。ふーん?ふぅーん?
「あの、な……そろそろ怒るぞ?」
―Sorry、やりすぎた。そんでもってだけども、合宿場所はどこなんかわかってたり、する?
「……はぁー、次からはあんな事言うなよ。それで、合宿場所か。合宿場所は海だな」
合宿場所が海である事を聞いた時、あなたの片方の瞳は一杯のワインに泥水をたっぷりと注ぎ込んだかのように、もう片方は星が煌めく夜空を予兆も無く大型台風が直撃したかのように急速に濁り始めた。
別に現在のあなた、または過去のあなたが超絶カナヅチだったとかだったり、海の危険生物になにかされたりとかで海が嫌いになったという訳ではないのだ。完成間近の原稿を陸風によって吹き飛ばされて無理の効かない体を無理やり動かされた挙句、最初の1ページ以外全部オジャンになったとか、毎回浜辺に来る度に砂上で滑って口の中に砂が入り、それが地元だともはや夏の風物詩扱いされただとか、海には入らんとゲーム機を持ち込んだら鳥畜生にふんをかけられて、それが運悪くカセットを入れる部分にダイレクトアタックしてゲーム機を買い換えるハメになったりで海に若干のトラウマがあるくらいである。特にゲーム機の事はちょっぴり、少し、一欠片――いや、今度その鳥を見かけたら焼き鳥にするくらいには恨んでいたりする。
―……海かぁ。海ィ、う、み…海かぁ……。
「どうしたそんなに曇った顔をして。海で泳げないとかなら浮き輪があるから別に大丈夫だと思うが?」
―ああ、いやぁ〜……そのぉ〜……海にはねぇ、あの、色々良い思い出が無いから、それであまり好きじゃないだけなのよね……
「あ、もしかして山派か?」
―んにゃ、山も良い思い出無い。富士山で足首挫いてやむを得ずア……あー、そうそう、兄上に背負われて下山した事は辛かったよ、うん。出来ることなら次はリベンジしたいって所さん。
「まあ…それは次に取っとけ。それはともかく、合宿に備えて休養するなり息抜きするなりしとけ。トレーニングもそれまで軽めになる。自主トレもしても良いが……合宿の時に体力切れしない程度にしとけ。合宿の時にはいつもよりちょっとキツめのトレーニングするからな。とにかく、体調管理には気をつけろよ」
―OK。ま、それなりに体調ん所に気は使っとくわ。そんじゃ、GoodBye,OKINO.
「いやだから俺は沖野じゃ――」
あなたは沖野に別れを告げた後、ある事をしに寮へと向かっていった。
はてさて、現在あなたがいる所はあなたの部屋がある『美穂寮』、そこのあなたの部屋の中――ではなく、そこから1部屋奥のシンボリルドルフとミスターシービーの部屋の前である。
何故そこにいるかと言うと、それはアプリ版の方でよく見る光景の1つ、『夏合宿前のお休み&お出かけのコンボ』をするためである。自分だけそうするのもあまり面白くないのだし、だったらドルブの方もそうしてトレーナーの負担を減らそうといった、あなたにしては珍しい純粋な親切心である。ちなみにあなたがやった時には『好調→寝不足とやる気ダウン→やる気アップ→怠け癖とやる気ダウン→やる気ダウン→絶不調』のクソコンをされて、育成を諦めた事がある。
そんな事はさておき、あなたはドアを目の前でどうやら悪いことでも考えているようである。
――そういや、いつかの日にやったADVの中にドアの前で叫ぶやつがあったな。……ノックの1つか2つしてから入る……かな?いや、そのままやった方が良いかも知れんね。うーん、面白さを取るか真面目を取るか、悩みどころさんだな……。
なんともしょうもな……たいした見返りの少ない事を考えているが、これでもレースの事を省くと、今までと比べてもまだ真剣に考えている部類であるのがなんとも悲しい人間である。
あなたは部屋前でどのようにして呼びかけるかを頭の中でこねくり回して何十秒か経った頃、ふと肩に手を乗せられた感覚がした。あなたは一瞬体を震わせた後、感覚のした方向をゆっくりと振り向くと、そこには彼女の同室者である、ミスターシービーが立っていた。
―シュワッツ!?ビックリした!……なんだ、シービー公じゃないの。
「ははっ、ごめんごめん、驚かせちゃって。それで、アタシ達になにか用でもあったの?」
―いや、そんな大層な用が無きにしも非ずと言うか…すんませんその顔やめて下さい。結構心にダメージが入るので。まあ、要約していうのであれば…ルドルフ公に遊びに行こうじゃないかと、誘いに来た訳なんですよ。
「あー、ルドルフ……今は多分図書室でレースの過去映像を見てると思うけど。あの子、生真面目だからねぇ、多分あれでも休んでるって言うと思うよ」
―それは休んでると言うのか?……いや、言わないような。……うん、行かせよう。いやと言っても強制連行しよう、そうしよう。
「君……中々良い事を考えるねぇ!アタシもそれ、乗っかるよ!」
―それじゃ、いっくよー。デッデッデデデデデー、カーン!
図書室の一角で、イヤホンを付けて過去のレース映像を見返している、前髪の一房の白い流星が印象的なウマ娘。そのウマ娘はシンボリルドルフである。彼女は今、数日前の日本ダービーの映像を繰り返し見返しながら、自身の弱点を洗い出していた。
――やはり、私の課題はスタミナか。それと、コーナーでの走り方の見直しと、最後の直線における末脚の強化が必要だろう。しかし、一番の問題は……
レースの反省点をノートへと纏めていると、ふと廊下の側が少し騒がしい事に気付く。それも、多数の人数が話をしているような多方向から聞こえてくる音、と言うよりは少人数が大きな音を立てているような、一方向から聞こえてくる音。それに、なんだか歌を歌っている。鼻歌のようではあるが、それを口に出し、「デ」だけで構成されている曲は聞いた事が無い。どこかで聞いたような気がするな、とイヤホンを取り外して思考を巡らせているその時。
「「デッデッデデデデデッデッデデデデッデ!見つけたよ(ぞ)ルドルフ(公)!開けろ、デトロイト市警だ!」」
「……ここは図書室だぞ?静かにした方が良い」
「それは申し訳ない」
唐突の訪問に一瞬呆気に取られるも、シンボリ家の令嬢なのもあってか、直ぐに正気を取り戻す。声からして、恐らくミスターシービーと友人の被っている――どちらかと言えば身につけている?纏っているとも言える――首を短くしたキリン?のようなハリボテに懐かしさ、あるいは脳の奥の瞳を刺激されるような感覚を感じながら話しかける。
「……それで、私に何の用だい?」
「何って、遊びに誘いに来たのですよ。軽く気休めにと」
「軽い気持ちで誘ってくれるのは嬉しいが……私はこの通り忙しくてね。遊ぶ暇なんて無いんだ」
予想とは違った回答だったのか、2人は少し首を傾げながらも、返答する。
「そこは大丈夫だよー。だってアタシ達が強引に連れていくしね!」
「あえて言わせてもらおう、ルドルフ公。嫌だね、そして拒否権は無い!」
そうすると、2人はどこからかずた袋を取り出し、それを手早く頭から足まで被せ、ハリボテを置いて脇へと抱えて持ち帰られていった。
「わ、わかった!行く!行くから止めてくれぇー!」
これが、チームスピカ式チーム勧誘法、もとい拉致の始まりだったり、そうじゃなかったり。
「全く、わざわざ強引に連れていく必要は無かったじゃないか……」
「だってそうでもしないとルドルフはずっとあんな感じだったと思うし」
―うーん、草生える。……あとね、なんでルドルフ公とシービー公はそない食べられるの?わたくし、もー限界来てるんだけど?
「そうか?私からすればまだ十分に入るが……むしろ、君の方が少ないように見える」
「そーそー。ダイエットなら無理はしない方が良いよ?」
―かーなーりー真剣に言ってるよこっちは?ダイエットですら無いよ?普通縦台座入れて肘から指先の所まで横その3分の1の結構詰まってるパフェをまあまあな量食べてそれでもまだ入るって胃袋のサイズ疑うんだけれども?わたくしノーマルのパフェ1つで結構もうギリギリだからね?
「いや、君は道中で買い食いもあったからそれもあると思うが…それを含んでもかなり食が細いぞ」
―いーや絶対に君らのが多い。わたくしの食が細い訳じゃあないね。うん、そうだ。わたくしの判断は間違ってないね。
そう言って、まだ少し残る普通サイズのパフェの破片を口に運ぶ事を辞めて、パフェにはそぐわない烏龍茶をひたすらに飲んでいるウマ娘はあなたである。勿論このパフェ1つで満腹寸前な訳がなく、シンボリルドルフが言ったように向かうまでの道中で、買い食いが結構多かったのもある。しかし、それを考慮しても尚他のウマ娘と比べると異常に食が細く、普段の食事量は成人男性の1度の食事量を満たすか満たさないかの量である。
―あーこのパフェどないしよ、頼んだからにゃしっかり食べるべきではあるけども…。
「ま、残しても怒られないだろうけど、店側の迷惑にはなるよねー」
―やめろォ!追い討ちやめろォ!心にダメージ入るゥ!
「ならば、私が引き受けようか?こう見えても、私は甘い物が好きでね」
―……ま?……お願いされても良い?
「ああ、任された」
―Thanks、ありがとですよと……。――んー、やっぱ視線がこっちにだいぶ向いてますなぁ。……あれか?やっぱわたくしの肌の色が珍しいからか?
「それはないでしょ……多分」
―ア、ハイ。
あなたは現在進行形で他人からの目を感じているが、勿論実力者のウマ娘(あなたを除いて)が集まっているというのもあるだろう。むしろ、それが1番である。しかし、その他諸々の理由の1つにあなたの皮膚の色が他よりも白い、特に右上が髪にもかけてかなり白みがかかっている――尋常性白斑の分節型である事もあげられるだろう。右手にも強く表れているためにそこだけに手袋を付けているのもある。
「……まあ、君を除いてかなりの実力者が集まっているというのもあるだろうが……肌色の事を好奇の目で見ているのもあるだろう」
―むしろ実力者が集まっているって可能性の方が100パーセント中95パーセントだと思うんですがそれは。わたくしの肌の事なんて5パーセント程度だと思うんですが。
「それでも、友人の事を好奇の目で見られるのは中々嫌な物でね……」
―まま、耳を絞らずに落ち着きなされよ。わたくしからすればこれ、かっこいいのでね。
「君がそう言うのなら良いのだが……」
あなたは本心を言ったつもりではあるが、聞いた本人からすれば強がりに聞こえたのだろう。未だ耳を絞っている様子。無念。
しかし、それもあなたの残したパフェを1口入れた事で元に戻ったようだ。『これでやる気上がればいいけども』と、あなたは心に思いながら残っていた烏龍茶をウイスキーのワンショットを飲むようにして飲み干した。