鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と   作:フラペチーノ

10 / 48
ガンダムUCEでレベル103に到達したので初投稿です。


9 事後処理

 『夜明けの地平線団』の分隊を完全撃破した後。

 

 マクギリス達は全員スキップジャック級に収容されていた。元々乗っていたビスコー級クルーザーにも連絡を入れ訓練は中止。このまま戦闘を行なった四人はスキップジャック級で事情聴取をされることになった。

 

 戦闘記録を得るために、乗っていたMSも全て臨検されていた。そこで驚くべき結果が出たのだがそれは後。

 

 まずはセブンスターズの三羽烏に用があると、ラスタルが常時使っている艦長室に三人を呼び出していた。全員ビシッと敬礼をしたが、ラスタルは軽く手を振って硬い態度をやめさせる。

 

「楽にしてくれ。と言っても、士官学校生ではそうもいかないか。セブンスターズの末席にいる者同士、襟を広げて話したいだけなんだがな」

 

「エリオン准将。そうは仰られても……」

 

「今は准将もなしだ。先程の戦闘について聞きたいが、これはそう。親戚同士の語らいだと思ってくれ」

 

 そう言われて三人は目線を合わせる。ラスタルが引かないと思ったのか、諦めて態度を軟化させた。

 

 関係性としては全く親戚でもなんでもないのだが、同じ立場の者として話したいと言われて意固地になるのもどうかと考えた次第だ。最もラスタルは既にエリオン家を継承した本物のセブンスターズの一角であり、他の三人は良くても代行でしかない。

 

「まずはよく初めての戦場で何も犠牲にせず生き残ってくれた。しかも多大なる戦果付きでだ。これは同じセブンスターズとして鼻が高い」

 

「はっ。ありがとうございます」

 

「たった四機のMSで戦艦一隻とMS九機撃破。私のアリアンロッドがギャラルホルンの中で一番の練度を誇ると自負していたが、この大戦果には劣る。作戦を考案したのはマクギリスと聞いたが? 」

 

「はい。その通りであります」

 

 マクギリスがそう答えたので、ラスタルが自分の背後のモニターにさっきまでの戦闘のチャートを表示する。

 

 青いシグナルの四機が二と二に別れて独自行動。それぞれがMSと戦艦を沈めるという、無茶苦茶な作戦だ。

 

「戦艦を沈めたカルタとガエリオはまだわかる。ギャラルホルン製のレールガンがあれば上手くやれば可能だからな。そして戦艦を沈めた後、挟撃の予定だったと」

 

「実際はマクギリスとカインの二人だけで壊滅させてしまいましたが」

 

「そう、それだ。三人はカイン一回生が乗っていたゲイレールの状態を見たか? 」

 

 その質問に全員が首を横に振る。三人ともここに連れてこられてから最低限の水分補給と汗をタオルで拭ってすぐにラスタルの元まで来たので実機はもちろん、データなども一切見ていない。

 

 唯一一緒に着艦したマクギリスだけがラスタルの言いたいことを理解する。

 

「脚部の損傷が酷く、数々のワイヤーアンカーを用いて回収をしていましたが、そのことに関係が? 」

 

「その通りだ。このデータを見たまえ」

 

 ラスタルが出したタブレットに表示されたデータを三人が覗き込む。

 

 そしてデータを見た結果、ガエリオは顎を外しかけていた。カルタも特徴的な眉をピクピクとさせて、マクギリスはさも当然のように頷いていた。

 

「脚部の装甲はおろか、フレームそのものが修復不可能って……」

 

「あの子、どんな無茶を……」

 

「一応解析結果も出ているが。マクギリス。どんな無茶をさせたんだ? 」

 

「デブリ帯を全速力で飛んでもらいました。私を牽引した状態でデブリを蹴って最大速度で敵に近付き、回避行動で敵を混乱させるためにその際もデブリを利用した機動をさせました。度重なるデブリへの衝突でフレームにもガタが出たのでしょう」

 

「ハァ⁉︎ マクギリス、ワイヤーを用いた牽引は聞いてたけど、デブリを蹴らせて移動させたのか⁉︎ お前もエイハブ・リアクターの反応を誤魔化すためにMSを休眠状態にしてただろ! 」

 

「ああ。かなりのスリルだった。だが敵の意表を付くにはあの速度が必要だった」

 

 デタラメすぎてガエリオがマクギリスに食って掛かったが、マクギリスはあくまで冷静に返す。そのクールさにカルタの乙女心がキュンキュンと高鳴っていた。

 

 ガエリオは同期二人のバカさ加減に溜息を吐く。

 

「一歩間違えていたら二人ともデブリに衝突して宇宙の塵だったぞ? 」

 

「それはないとわかっていた。直前の訓練で目を閉じて鼻歌交じりで最速タイムを更新していたカインだぞ? デブリのことなんてわかりきって避けられるという確信があった」

 

「ああ……。そういやそんな離れ業をやってたな。すっかり忘れてたよ」

 

「それも加味した作戦だったわけだ。正直海賊相手よりカインに牽引される方が怖かったのはここだけの話だ」

 

「その結果MS一機ぶっ壊してるのはシャレにならないぞ……。カインが宇宙戦をやったらその度にMSを壊しかねないんだからな」

 

「ゲイレールじゃなく、それこそフレームが強固な専用機でも渡せば無双してくれるという証左でもあるぞ? 」

 

「ゲイレールだって十分フレームは頑丈な機体のはずだぞ」

 

 マクギリスとガエリオの容赦のない言葉の応酬にラスタルは楽しそうに笑う。その笑いが少し豪快だったために二人の話も中断された。

 

「ハハハハハッ! おっと、すまんな。いやいや三人の腕ももちろんだが、今回の作戦の成功にはこのカイン一回生の力も大きいということか。飛び級もしている優秀なパイロット。しかも宇宙でここまで暴れられるのか。欲しいな」

 

 アリアンロッドの司令としての顔を覗かせたラスタルに、カルタが一応問いかける。

 

「エリオン公。まさかカインをすぐに引き抜くおつもりですか? 」

 

「ん? いや、そんなことはしないさ。一度飛び級もしているし、今は喫緊の情勢というわけでもない。むしろじっくりと士官学校で育成してもらい、そののちにアリアンロッドへ欲しいというだけだ」

 

「やはりデブリを蹴って高速移動など、前代未聞ですか? 」

 

「いや、アグニカ・カイエルがやったという記録が残っている。それ以降は、やる必要もなかっただろうから記録に残っていないな」

 

 ラスタルがカルタの質問に答えると、僅かにだがマクギリスの口角が上がった。それを見逃すラスタルではないが、指摘することはなかった。

 

「だが、できる人間がいるなら検証はする。デブリ帯での戦闘を有利に運ぶなら、アリアンロッドにとってかなり重要なデータだからな」

 

「手加減を、してあげてください。エリオン公」

 

「そこまで気にかける存在か? カルタ」

 

「あの子は、優秀すぎるのです。幼い時から今のような才覚を示す片鱗がありました。彼は早熟すぎて周りの要求に応えるしかなかったのでしょう。そうすることでしか、価値を示せなかった。……私のように」

 

「父君が倒れられたから気付けたと。……オルフェンズ、どうにかしなければならない問題だな。カルタ、心配しなくていい。彼の今回のデータを貰うだけで、後は卒業時点で粉をかけるだけに留める。道は、彼が選ぶだけだ。その選択肢を私は一つ増やすだけだよ」

 

 ラスタルのその言葉に、カルタは安堵した。

 

 父が倒れてから、地球外縁軌道統制統合艦隊を率いるに相応しい者として精進してきた。周りの目線を更に気にしている内にカインの状態に気付いた。

 

 近くではなく、離れてみて気付けることがあった。今のカルタの状態と、今までのカインの様子は似ているのではないかと。

 

 セブンスターズの嫡子三人と同じ学年にいたのだ。その上ラスタルにも目を掛けられたらプレッシャーで潰れてしまうのではないかと心配した。

 

 背は伸び始めたが、カインはまだ十三歳の子供なのだから。

 

「うむ。詳細はわかった。三人にはこれからも武勲を期待する。マクギリスとガエリオは退室していい。疲れただろうから食堂へ案内させよう。カルタには、別個に話がある」

 

「「失礼いたします」」

 

 マクギリスとガエリオは綺麗に敬礼をした後退室し、外に控えていた兵士に食堂へ案内させた。一人残されたカルタは何を言われるのかと気を引き締めた。

 

 ラスタルも先程までの親しみやすい雰囲気ではなく、一人の将としての厳かな雰囲気を醸し出していた。

 

「ここからはギャラルホルンとしての話だ。カルタ三回生に、今後を見据えた話だ」

 

「はっ! 」

 

 カルタは背筋を伸ばして顎を引いて話を聞く姿勢になる。

 

 先程までは褒められていたが、ここからはそうではないということだ。

 

「カイン一回生は出撃していたから仕方がない部分がある。マクギリス一回生とガエリオ一回生も、まだ将兵課程をこなしていないために慢心したとしよう。だがカルタ三回生。君は既に将兵課程を済ませ、今回は監督生という立場だった。一回生の暴走を止める側の立場だったはずだ」

 

「……仰る通りです」

 

「セブンスターズという立場を利用して艦長からグレイズの使用許可の承諾ももぎ取ったな。装備品も全部使用するように整備兵に命令した。どれも越権行為だ。セブンスターズは何をしてもいい免罪符ではない」

 

 特例を許してしまえばそこから腐敗が始まる。その積み重ねの結果が今の惨状だ。三百年凝り固まった腐敗の温床は簡単に除去できない。

 

 カルタは卒業と同時に、一応ではあるがイシュー家を継承する。当分の間はイズナリオ・ファリドが当主代行を務め、カルタが実績を残せば正式に継承する予定だ。

 

 カルタは卒業後、地球外縁軌道統制統合艦隊に所属する。そして数年の内に地球外縁軌道統制統合艦隊司令官に就任する。

 

 ラスタルのように大部隊を率いる将になるのだ。だからこそ短絡的ではいけないと釘を刺す。

 

「今回のマクギリス一回生の作戦。さっきは褒めたが、こんな博打の作戦はどこの作戦司令部も許可を出さない代物だ。マクギリス一回生とカイン一回生の実力がずば抜けていたこと。二対九で圧倒できるポテンシャルがあったこと。敵MS部隊が全てデブリ帯に突っ込んだこと。敵艦の対処が遅かったこと。予備戦力が相手方に全くなかったこと。手持ちに最新式のレールガンがあったこと。どれか一つでも欠けていれば貴官らは全滅していた。それを覚えておけ」

 

「はい」

 

「……まあ、今回の訓練に使用された艦がビスコー級クルーザーだったこと。敵の襲撃を全く予見していなかったこと。戦闘配備に至る遅さ。親しい者が戦場になる場所に孤立していたこと。これらの擁護すべき点も確かにある。だが、だからこそこういう時こそ冷静に物事を判断して状況を推移し、行動に移して命令を出さなければならない。士官学校生に言うことではないが、数年などあっという間だぞ? 」

 

「厳しい薫陶、ありがとうございます。准将閣下の鞭を胸に刻み、これからも精進してまいります」

 

 カルタは綺麗に敬礼し、それに満足そうにラスタルは頷いた。

 

 将来を見据えて、誰かが言っておかなければならないことだった。カルタはすぐにラスタルと同じ立場になる。地球外縁部と地球内のどちらも指揮しなければならない役職だ。他のセブンスターズやヴィーンゴールヴも地球のことならば手を貸してくれるだろうが、それでも広い範囲だ。

 

 それもこれも、三百年間セブンスターズの筆頭だったイシュー家の優秀さ故のこと。

 

「話は以上だ。期待しているぞ、カルタ三回生。……それと、少ない弾数で敵艦を的確に落としたその腕は見事だった」

 

「……っ! 失礼いたします! 」

 

 カルタは厳しい言葉の後に褒められたことで、セブンスターズとしての格の違いを見せつけられていた。目尻には僅かながら涙を見せて退室。

 

 ラスタルは女性の涙には一切触れず、ようやく一人になった部屋で内線用の受話器を取り出してある部屋に繋いだ。

 

 コールが二度鳴ってすぐ相手は通信を受ける。

 

「私だ。周りには誰かいるか? 」

 

「いえ、いません。この通信は大丈夫なのでしょうか? 」

 

「私の艦だぞ? その辺りは抜かりない。……今回もご苦労だった。しかし、少々暴れすぎだな」

 

「次回は抑えます。宇宙だといつも以上に感覚が敏感で」

 

「そうなのか? できれば言語化していつも通り報告書を作成せよ」

 

「畏まりました。……やはり今回のリーク者はラスタル様なのですね? 」

 

「ふむ。どこで気付いた? 」

 

「『状況を宇宙規模で転がせるのは奴だけだ』と『髭のおじさま』から」

 

「あとは勘か? ……まあ、その通りなのだがな。士官学校及び本隊の引き締め、そしてセブンスターズ跡取り達へ初陣の経験と今後についての見識を確認しておきたかった。ギャラルホルンを盤石な状態にするには、危機感が必要だ。そして、上もまともでなくてはならない」

 

「その割にはクジャン家の跡取りは悪い噂ばかり聞くのですが」

 

「イオクは、ダメだ。セブンスターズの選民思想に毒されている。自分も客観視できないように甘やかされてしまった。アレは上に立つ者の器ではない。私の元で首輪をつけておくことが最小限の出血になる。クジャン家に妄信的な者を側に置いて殿様ごっこにでも興じさせておけばいい。……最終的にはイズナリオ同様、セブンスターズを解体するための人身御供だ。その程度の使い道しかない」

 

「なるほど。特権階級の排除ですか」

 

「地球外縁軌道統制統合艦隊を一つの家でのみ引き継ぐなど狂気の沙汰だ。家ではなく優秀な者が率いる形こそ、人類の歩みの正しさだ。貴族制はどこでも破綻している。その歴史を忘却していることが厄介なところだが」

 

「その辺りは、やはりセブンスターズが統治しやすいように隠したのでしょうか? 戦火で消失したということも事実でしょうが」

 

「だろうな。人類の立て直しのために、不必要な物は隠した。それでよくも三百年も保たせたものだ。……脱線したな。今後もマクギリスとガエリオの後背に徹しろ。マクギリスの狗を演じ続けろ。卒業後は監査局へ入隊するように」

 

「はっ」

 

「以上だ。ではな」

 

 通信を切って、ラスタルは一つ溜息をつく。

 

 優秀な部下をありがたく思う反面、申し訳なくも思ってしまう。

 

 モニターから辛うじて見える地球を目の端に捉えて、小さく呟いた。

 

「すまないな、ジュリエッタ。カインに会えるのは当分先になりそうだ」

 

 この部屋は当然のように防音加工がされていたので、その呟きは誰にも聞かれなかった。

 

 またジュリエッタに会いに行った時に、カインのことについて散々文句を言われることを覚悟して今回の後処理を始めた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。