鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と   作:フラペチーノ

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ガンダムUCEで百式当てられる気がしないので初投稿です…。


11 監査

 カインが監査局に入って四年が経過した。最初の一年目は仕事を覚えるのに必死だったが、二年目からは摘発率の高さから監査局の中でも有望視され始める。

 

 特にとある宇宙支部が企てていたコロニー公社との闇取引を発見し、強引にもみ消そうとした事件が有望視の要因だ。宇宙支部はコロニー公社と共に所有するMSで反乱を企ててカインを抹殺しようとした。それをマクギリスとガエリオ含む少数の監査局で封殺してしまったのだ。

 

 戦力差五十対五だったのだが、その五が圧勝してしかも首謀者達を殺さず捕縛したことでギャラルホルン内ではかなり有名になった。

 

 外部にバレるのは身内の恥ということで徹底的に情報を封鎖し、外部で知っているのは本当に情報通な裏組織だけという事件となった。

 

 そんなカインは監査局として艦ごと移動するのではなく、たった一人で行動をしていた。簡単に言えば出張のようなものか。

 

 マクギリスとガエリオが様々な功績を立てたことで特務三佐への昇進試験を受けている。これに受かれば監査局を大々的に動かせる立場となる。一応カインの直属の上司はマクギリスということになっているので休暇にしても良かったのだが、とある査察が残っているのを見てカインが引き受けた次第だ。

 

 カインがやってきたのはスキップジャック級。つまるところアリアンロッドの監査だ。

 

 末端の監査は既に終了しているのだが、何故か誰もスキップジャック級の監査だけは手を出していなかった。アリアンロッドの総本山たる艦に物怖じしたのか、手に余ると考えたのか。

 

 どちらにしろ仕事として残っていたので、ちょうど良いとカインが受領して一人でやってきたわけだ。スキップジャック級はギャラルホルンでも最大級の宇宙艦で全長800mを越す。そんな船をたった一人で監査するのは大変だが、カインとしては都合が良いし、同僚が賄賂でも受け取っていたら目も当てられない。

 

 ゆっくり時間をかけて監査をするつもりだった。

 

 もしもがあった時のためにシュヴァルべ・グレイズごと着艦する。紅というカラーリングから様々な視線を浴びたが、努めて無視をする。着艦許可は下りているので誘導に従いデッキに入り込む。

 

 着艦したのち、案内兵によって艦長室に連れて行かれる。入室と同時に、カインはそこにいたラスタルへ敬礼をした。

 

「カイン二尉、監査局の任務にて出頭いたしました」

 

「ご苦労。……随分背が伸びたな」

 

「もう二十歳ですよ? 身長もそれなりに伸びます」

 

 部屋に二人っきりになったことで砕けた口調で話すカインとラスタル。階級など関係なく、今は家族のように話す。二人がこうして顔を合わせるのはそれこそ宇宙演習以来。それ以降も連絡は取り合っていたが、映像付きの通信はしたことがなかった。

 

 ジュリエッタのアルバムすら郵送で送られてきて、実際顔を合わせるのは六年振りとなる。だからこそ、二人が繋がっているなんて誰もわからないのだ。

 

 カインはここ数年で身長が一気に伸びた。180cmを超えて、身体も将兵に相応しい細身ながらも筋肉質ながっしりとした肉体になり、孤児だったとは思えない容姿にはなっていた。経歴は変えられないので、知っている者は知っている。

 

 だがそんな下賎な身の上だということを実績と実力で捩じ伏せてきた。孤児が監査局(エリート)だということを認められない落選者(元エリート)が突っかかってくることもある。そういう輩は実力を誇示したくて模擬戦を挑んでくる。

 

 カインは断るのも面倒なのでマクギリスに許可をもらい、模擬戦を行なってペイント弾塗れにしてやったことも多数。

 

「数々の噂を聞いているが、随分やんちゃをしたようだな? 」

 

「させられた、が正しいですね。真っ当な職務を遂行していて、邪魔をしてきた火の粉を払っただけです」

 

「そういうことにしておこう。ここにはそういう輩はいないので安心してくれ」

 

「本当ですか? 若干一名、突っかかってきそうですが」

 

 ラスタルの言葉に、カインは溜息をつく。

 

 今年アリアンロッドに入隊したとある准尉が二人の脳内に浮かぶ。彼女に至っては幼年学校以降会っていない。七年以上と、ラスタルより間が空いている。カインは写真で変遷を知っているが、向こうは全く変化を知らない。

 

 なにせ相手の写真を撮る理由はあっても、カインの写真を撮る理由がなく、例え写真を撮ることがあったとしてもそれを彼女に送る理由がない。

 

 そういうわけで関わりの薄い彼女が飛び込んできそうだなと二人は予想していた。

 

「勤務時間中だったら適度にあしらってくれ。その辺りは軍人として徹底させる必要がある」

 

「ええ。こちらの邪魔になるようでしたら冷たく接します。ですが士官学校を卒業したのですから、その辺りの分別はついているでしょう? 士官学校の成績を見る限り問題ないと感じましたが」

 

「教養・態度はしっかり士官学校で学んだようだな。今の所は問題なくMS部隊に編入している」

 

 カインは監査局の人事に関わっているわけではないが、士官学校で優秀な成績を残している後輩のことは噂として流れてくる。特に士官学校で優秀な成績を残していれば監査局に入隊する可能性も高い。

 

 優秀な者がいれば仕事の効率も上がるので、後輩の情報は積極的に集めている。そのついでに悪い噂も届くものだ。

 

「そういえばかの士官学校に在籍するセブンスターズの者の変わりなさに、監査局でも悪い噂が流れていて上官が嘆いていましたが……」

 

「私が引き取るのだから問題ないだろう? 」

 

「アリアンロッドに進路が確定しているので、そこは安堵していますが。何でもMSの扱いがメチャクチャで危なっかしいという散々な評価だとか。セブンスターズだからといってMSの操縦をする必要はないでしょう? ラスタル様のように」

 

「私だって最低限動かせるぞ? 前線に出られるほどではないがな」

 

 いくらセブンスターズが三百年前の英雄でMSを駆って貢献したからといって子孫全員がMSの操縦に優れていないといけない理由はない。今の当主達も全員が優れたパイロットというわけでもない上に、加齢と共に前線に出るのは厳しくなる。

 

 上に立つ者だからこそ自分の適性を客観視して相応しい立ち振る舞いが求められる。まだ十代の若者にその選択を迫ることがおかしいのかもしれないが、十代で道を決めるなど特別なことではない。

 

 むしろ自分で道を選んだ者こそ、幼年学校や士官学校に通っている。十代後半で自分の道を選べるなど恵まれているのだ。

 

 ラスタルという実例もいるのだからMSパイロットに固執せず、指揮官コースへ進むことも考えなければいけなかったはずだ。だが話題になっているイオク・クジャンという男は愚直にMSパイロット養成コースを士官学校で選択し、そこで平凡以下の成績を修めている。

 

 そこまで愚かなのかと、カインはラスタルに聞いてみたかったのだ。

 

「まさか彼は家に残るガンダム・フレームを使いこなそうとしているのですか? そんなもの、クジャン家を名乗る資格になるはずがないのに」

 

「そういう側面もあるようだ。あとは私が艦隊指揮官ならば自分は前線指揮官になると。それに年齢の近いセブンスターズの嫡子が全員優秀なパイロットということも関与しているだろう。マクギリス達三羽烏はあまりにも有名だ。劣等感が刺激されているのだろうな。あとはそう、目の前で見たとある幼年学校生の先輩二人によるシミュレーターの映像を見て奮起しているようだぞ? 」

 

 ラスタルが笑いながら言った最後の言葉に、カインは物凄く心当たりがあった。

 

 初めて彼と対面した時のことだ。

 

「まさか自分のせいだと? 」

 

「カインの実力に感心したらしい。士官学校で見せる変な動きとやらはカインの模倣らしいぞ? そのせいでよくデブリに衝突しているらしい」

 

「オレの動きを映像とデータだけを見て真似しても無意味です。アリアンロッドのようにデータを事細かく解析した補助プログラムを搭載するならまだしも、ただの勘でデブリ帯を高速で飛ぶならオレと同じ感覚が必要です」

 

「それができてしまうパイロットが、すぐ上にいたことが問題だな。アリアンロッドを目指す優秀な先輩が補助プログラムのない訓練機でやってみせた。上司になる者として負けられないと考えたのだろう」

 

「なんて傍迷惑な思考回路……」

 

 イオクがバカなことをする理由、諦めきれないワケを知って頭を抱えたくなった。

 

 どうやら十人十色という言葉を知らず、上に立つならば部下の誰よりも優れていなければならないという間違った英雄症候群(ヒロイック・シンドローム)に罹患しているようだ。

 

「まあ、アレのことは深く気にするな。私が飼い殺しにする」

 

「わかりました。頭の隅に追いやります」

 

「それでいい。ああそれと。仕事内容とは直接関係ないが、この記事に目を通しておけ」

 

 無重力によってフワリと投げ渡されたタブレットを受け取り、そこに書かれている記事を見る。

 

 そこには「革命の乙女」という見出しで書かれた火星独立運動を主導する少女のことが大きく取り沙汰されていた。

 

「クーデリア・藍那・バーンスタイン……。このような少女が独立運動、ですか」

 

「今度の『ノアキスの七月会議』ではアーブラウの蒔苗東護ノ介も来るという。それが成功すると火星が大きく動くな」

 

「……わかりました。彼女のことも調べてみます」

 

 時代の移ろいを感じながらも、カインは仕事に取り掛かる。

 

 ラスタルの旗艦とはいえ一切妥協なく監査を始めた。

 

──

 

 勤務時間外にて。

 

 カインは誰かが自身のシュヴァルべにちょっかいをかけないかと一応ポーズとして確認しつつラスタルに貰ったタブレットの記事を詳しく読んでいた。仕事中は読む時間がなかったのでどんな人物でどんなことをしようとしているのか知ろうとしていた。

 

 画面ヘ、影が落ちる。彼女の接近はわかっていたが、あえて反応は何もしなかった。

 

「ふーん? 随分熱心にその少女のことを見ているんですね。なるほど、そういう少女が好みですか? 」

 

「……まあ、誰もいないから良いか。久しぶりだなジュリエッタ」

 

「否定しないと? 少し離れた間に、あなたは変わりましたね」

 

「茶化すな。お前なら感じ取れるだろ。彼女はギャラルホルンの脅威になりかねない要注意人物だ。それ以上でも以下でもない」

 

「……そうですか。言っておきますけど、私カインより正確に他人のことを把握できませんからね? それにカインはどこか壁を作っているので今はよくわからないです」

 

 カインは敢えて作っている壁のことを看破されたので、ジュリエッタの感じ方が自分と変わらないと把握する。ある程度のジュリエッタの現状を把握できたのでそれだけでよしとする。

 

 あとは後ろめたいこと(横流し写真)もあったのでそれはひたすらに隠すことにした。

 

 バレなくて良かったとも思っている。

 

「監査局にいるなら仮面の一つもなければ立ち回れない。それだけだ」

 

「それです。どうしてアリアンロッドに入らなかったのですか? 私達がいるべき場所は、ここです。ここ以外にありません」

 

「そうだろうな。……簡単な話が、アリアンロッドじゃできないことをオレが担当しているだけだ。ラスタル様とて何でもできるワケじゃない。宇宙も地球も確認するなら監査局が一番適している。それだけだ」

 

「ラスタル様のためですか? 」

 

「そうだ。ジュリエッタがあの方の側にいるから、オレは遠くで別なことをできる」

 

 カインがそう言うと、ジュリエッタはいじけた子供のようにそっぽを向く。筋の通った話に、嘘がないという自身の直感に、納得はできた。だが理性の方で受け入れられない。

 

 家族なのだから一緒にいたいと思う。その当然がうまくいかなくて拗ねているのだ。

 

「……孤児院に帰ってこなくて、寂しかった」

 

「ラスタル様との接点を消すためだ」

 

「飛び級したせいで学校でも一緒にいる時間が少なかった」

 

「ラスタル様の役に立つために一刻も早く入隊する必要があった」

 

「……連絡一つくれないのはどうかと思います」

 

「表面上はただ幼年学校で親しかった後輩だ。手紙も出せない立場だし、仕方がないだろう」

 

「カインのその不思議な力で、たとえ宇宙の端にいても想いを届けてください」

 

「無茶を言う。なんでもできる力じゃないとジュリエッタもわかってるだろう? 」

 

「それだけあなたが兄として不甲斐ないということです」

 

「……悪いな。孤児院のことやお前のことを忘れたわけじゃない。その、忙しくて」

 

「はいはい。わかってますよ。そうじゃなければギャラルホルン名義で毎月孤児院に援助金なんて送ってこないでしょうから。士官学校の頃から出ている給料を送ってるって、あなたの普段の生活が心配です」

 

「お金の使い道がないからな。軍からの支給品があれば生活できる」

 

「……ホント、そういうところですよ。ムカつきました。シミュレーターに付き合ってください」

 

「仰せのままに、姫」

 

「──ッ! 本当に! 本当にそういうところですよ⁉︎ 他の女性士官にそういう発言していないでしょうね⁉︎ 」

 

「してないさ。こんな冗談を言える相手は他にいない」

 

 それから二人は勤務時間外だというのにみっちりシミュレーターで汗を流した。なおジュリエッタはグレイズだったためにシュヴァルべを使ったカインには勝てず、終わった後に何度もカインの脛を蹴っていた。

 


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