鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と   作:フラペチーノ

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ガンダムUCEでまさかまさかの百式当たったので初投稿です。


原作一期(P.D.323)
12 火星へ


 カインがたった一週間でアリアンロッドの本部とも言えるスキップジャック級を監査した一件からしばらくして。

 

 カイン達は火星に行く準備をしていた。

 

 乗っているのはハーフビーク級戦艦。ギャラルホルンの宇宙艦隊の主力戦艦だ。監査局は宇宙での監査にはこの艦を使う。

 

「今回の監査対象は火星支部と支部所属の士官学校及び幼年学校だ。ギャラルホルンは地球外出身者に厳しいからな。腐敗の温床などいくらでもあるだろう。だが本部には一切そのような報告が届いていない。腐敗があると決めつけるのはまずいかもしれないが、私は十中八九あると思う」

 

「マクギリス、その心は? 」

 

「監査が実に五年振りということ。そして『革命の乙女』と称されるクーデリア・藍那・バーンスタインが擁立するほどの劣悪な環境だということ。地球から離れていること。この辺りか」

 

 マクギリスとガエリオがそう話している中、カインはシュヴァルべの整備を行なっていた。カインの勘が告げている。今回の査察では戦闘が発生すると。

 

 この勘が外れたことはないので、今回も念入りに整備を手伝っていた。カインも一通りの知識はあったので整備を手伝えるが、本職ではないので手伝い程度だ。

 

 特にカインのシュヴァルべはコックピット周りが特殊なので整備・調整には時間がかかる。

 

 実のところマクギリスとガエリオもカインの機体の運動性が実証されたために後から改造を施している。シュヴァルべは元々扱いづらい機体だったのだが、もはや専用機となって調整した専属のパイロット以外乗れなくなっていた。

 

 カインも他の二人のシュヴァルべは乗れない。セッティングからしてカインの物と違いすぎるのだ。

 

「カイン。戦闘があるという勘だが、どの程度なんだ? お前の勘はよく当たるから参考にさせてくれ」

 

「MS同士の衝突になると思います、ガエリオ特務三佐。……嫌な予感がするので」

 

「それは敵性勢力がMSを所持していると? それとも火星支部が反旗を翻すってことか? 」

 

「半々、かと。クーデリア女史が地球を目指すならばギャラルホルンのアリアドネを掻い潜る航路を知っている組織の後ろ盾が必要です。自衛手段でMSを持っている組織も多いでしょう。裏をかいて海賊に護衛を頼むとか、一般の積み荷に混ざってくる可能性もありますが、その可能性は低いと思います」

 

 ガエリオに話しかけられたので手を止めて答えると、ほうと顎に手を当ててカインの意見を真剣に考慮していた。

 

 幼年学校から続く不思議なよく当たる勘による意見だ。カインの勘はほぼ的中すると長年の付き合いから判断していた。それはマクギリスも同様だ。

 

「可能性が低いと断じる理由は? 」

 

「今ではギャラルホルンでも注目の的である彼女のことを調べましたが、随分と高潔な少女のようです。飛び級を重ね、火星に住む者の待遇改善を願う。大学の論文も入手しましたが、夢見る少女そのものです。それほど綺麗であり、ギャラルホルンに狙われることがわかるほどの知性もある。……火星の行く末を案じ、名目上汚い手段は取らないでしょう。となると、真っ当な組織を雇っての強行突破」

 

「なるほど。じゃあ俺達とやりあえる組織が出てくると予想しているんだな? 」

 

「そんな組織が火星にあったかまでは覚えていませんが。火星支部が正式な調査をしていてその内容が正しいならば、そんな組織は火星にありません」

 

「一気に不安になったな。俺達の誰も火星には行ったことがないから詳しくないぞ? 」

 

 カインもだからこそ、戦うとしたら半々だと答えた。ラスタルにクーデリアのことを教えてもらってから火星のことを調べ始めたが、まともな情報が出てこない。火星の周りにいるだろう海賊の情報は山ほどあったが、火星の情勢や民間警備会社の情報は全くと言っていいほどない。

 

 クーデリアの卒業論文を探すことすら一苦労だった。火星の大学だったので調査の手を伸ばし、データベースに電子化していたのを漸く見付けて、内容を精査していた。

 

 十六歳の少女であり、現実を知らなそうだなというのがカインの第一印象だった。だが、それでも『ノアキスの七月会議』に参加し、成功を収めたのだ。行動力と度量、そして能力があることの証左。

 

 そして地球の重鎮も認める資質。これらのことからカインは少女と言いながらも警戒していた。

 

「カインの不安も理解した。では最悪を想定して我々も航行に挑もう。我々が火星支部では矢面に立つので、いざという時にはカインに戦場を支配してもらう」

 

「了解しました。他のMSパイロットにも伝えておきます」

 

 この艦には五機のMSしか搭載されていない。MS戦を想定した部隊ではないからだ。最低限戦えるようにはなっているが、アリアンロッドなどの戦闘部隊とはいくらか劣る。エリート部隊であっても監査をすることが中心で戦闘になることは少ないからだ。

 

 それに五機の内の二機がマクギリスとガエリオの機体なのであまり戦力計算したくないというのがクルーの本音。御曹司達を監査の仕事ならばともかく戦場の矢面に立たせるのは胃に悪くなる。

 

 それでも二人は嬉々として戦場へ向かっていくが。カインに止めるように進言が来るが、ただの一尉であるカインに特務三佐という一時的に二階級上の権限を持ち実質一佐であるセブンスターズの嫡子達に申し出などできないのだ。

 

 二人と親しくしていることも、あくまで幼年学校からの付き合いがあってこそ。上司に向かって危ないから戦場に出るななど恐れ多くて言えない。

 

 というのが、表向きの理由。本音としては言うのも面倒なだけ。

 

 二人が出た方が簡単に戦闘を終わりに導けるので、カインは出撃を止めることはしない。

 

 マクギリスが指揮するハーフビーク級は臨戦態勢を整えたまま火星へと出港していった。

 

──

 

 ギャラルホルンの航路を使ったために、二週間ほどで火星へと辿り着いた。赤い星を外から見てカインは小さく呟く。

 

「大きな火種が二つ。休眠中みたいな感覚が二つ。……渦巻いてる馬鹿さ加減が多数。これまで訪れた星で最悪規模だ。だからあの少女は立ち上がった……? こんな末期の星を勝手に救ってくれると言うのなら放っておけばいいものを。それだけ遠くの場所にいながら、利権を手放せないのか……」

 

 MSのコックピットでそう呟く。誰にも聞かれないように火は落としたままだ。マクギリスの合図がなければ火を入れることはない。

 

 マクギリスとガエリオが火星支部を訪れていて、叛意ありとされたらカインがすぐさま飛び出し施設を武力制圧する手筈だ。今のところそんな風潮はなさそうなのでカインもゆっくりしている。

 

 むしろ何かをやらかして必死に隠そうとしている慌て方を感じ取っていた。それが結構な被害が出ている雰囲気を醸し出していたので余計怪しいと勘繰る。

 

 二人が帰ってくるまでカインはすることがないので胸ポケットに入れておいた写真を手に取る。この前のアリアンロッド監査の際に撮ったジュリエッタとのツーショット写真だ。お互いが並んで撮っているだけなので、なんとも殺風景な写真だ。

 

 それでもこの写真を宝物のように扱うカイン。

 

「……綺麗に育った。ラスタル様のおかげだろうな。『髭のおじさま』にも教導を受けたって言ってたし、成績を見る限り優秀だ。……それにアリアンロッドなら孤児だなんてバカにされないだろう」

 

 出発前にマクギリスが言っていた地球出身者以外への差別。それと同じように孤児にも差別はある。どれだけ優秀な成績で士官学校を卒業していようと、ギャラルホルンに入隊してから功績を立てようと、バカにされるのだ。親の顔も知らない、家もないくせにと。

 

 カインもそうだった。監査局の同僚はマクギリスとガエリオの目もあるからだろうがそういったことはせず、監査先で陰口を言われるのだ。

 

 もっともそんなことは幼年学校からずっとなので、全て無視するだけだ。

 

 ジュリエッタもそういう苦労をしてきただろうが、これからはなさそうだと安心する。

 

「親がいることがそんなに偉大なのか? 帰る家が最初からあることがそんなに優劣を決めるのか? ……後から得た親も、家も。大事で、大切で、尊くて。それの何がいけないんだ……」

 

 カインが頑張る理由としてはそれだけのこと。

 

 それが認められない組織は、世界は。

 

 変革されるべきだろうという考えが根本にはあった。

 

 しばらくすると、艦内放送で二人が戻ってきたと知る。それと同時にカインはコックピットから出る。

 

 マクギリスが火星支部の監査に取り掛かるように指示を出す。カインもそれに続こうとして準備をするためにノーマルスーツを脱ぎに更衣室へ向かうと、そこにはマクギリスとガエリオがいた。

 

「おかえりなさい。着替えるのですか? 」

 

「ああ。カインも護衛としてついてこい。コーラルが隠した不祥事を調査する。隊服以外に着替えるように」

 

「やっぱり何か起きていたのですね? 」

 

「MW中隊二つとMS二機を損失した実弾演習だそうだ。損耗した兵器の状態は見せられないと言う。隠していようがいまいがいつかわかるとしても、管理者として杜撰すぎる。大方『革命の乙女』関連だろう」

 

「カインの悪い予感が当たったな。MSを二機撃破となると、相手もMSを持ってるってことだ。MW中隊二つは、向こうも手練れだったんだろう」

 

 マクギリスとガエリオの説明で、火星に降りることを決める。と言うより命令だから決定事項だ。

 

 カインは外向けの私服など持ってきておらず、黒いスーツに袖を通す。隊服を着ない際の緊急時用及び隠密行動用として支給されているものだ。何かしらの式典がある際などは隊服こそが儀礼服となる軍人なのでスーツもこの支給品しか用意していなかった。

 

 他の隊員ならまともなファッションセンスを活かした私服を持っていただろうが、カインは寝巻きと運動着以外の服なんて持ってきていなかった。その辺りは無頓着だからだ。

 

 マクギリスとガエリオもスーツに着替えていたので自分だけ浮くことがなくて安堵するカインの姿があった。

 

 火星支部であるアーレス静止軌道基地から火星に降りた後は、軍に配備されている軍車両を用いて戦闘があっただろう場所を巡る。軍車両には堂々と角笛を吹く獅子というギャラルホルンのシンボルマークが施されていてとてもじゃないが隠密行動とは言えなかった。

 

 これ以外に車両がなかったため諦めた。車もなしに火星を巡るなんて不可能だからだ。運転は一番階級の低いカインが行おうとしたが、ガエリオが運転したいと駄々をこねたので譲るという騒ぎもあった。

 

 後部座席から火星の大地を見たカインの感想は、なんとも貧しい土地だな、ということだった。テラフォーミングをして三百年以上。緑は少なく大地だらけ。都市部は地球の都市と相違無いが、少し外れれば寂れた街並みと畑が広がるばかり。

 

 若干の自治権を得ているとはいえ、地球の経済圏によって分割統治されている植民地状態。貧富の差や資源の枯渇から独立運動が活発になることもおかしな状況ではないとアリアリと感じた。

 

 彼らにとっては地球人と火星人ほどに、意識が違うのだ。だというのに地球は豊かさと始まりの土地という特権から実質支配をしている。搾取される側としては、遠い場所にいる人間の言いなりにはならないと叫びたくなるのだろう。

 

 だから、クーデリア・藍那・バーンスタインが旗頭として担ぎ上げられる。

 

 独立運動の機運が高まっているのも当たり前の積み重ねがあっただけだ。

 

 三人は戦闘痕の確認をした後、近くに基地がある民間警備会社とやらに足を運ぶためにトウモロコシ畑の近く、舗装されていない道を走っていた。

 

「しかし、アルミリアとマクギリスが婚約なあ。妹はまだ九歳だぞ? 」

 

「両家が決めたことだ。お兄様と呼ぼうか? ガエリオ」

 

「やめてくれ。背筋が凍る」

 

 正式決定されたマクギリスとガエリオの妹のアルミリア・ボードウィンの婚約について冗談混じりで話している頃、カインは子供の純真さを感じ取った。それがどのような行動を取るのかわかったカインはすぐ叫ぶ。

 

「ガエリオ様、ブレーキ! 子供が飛び出してきます! 」

 

「何ッ⁉︎ 」

 

 ガエリオはパイロットということもあり、すぐさまブレーキを目一杯踏み込んだ。幼女の甲高い悲鳴と無理矢理轟く急ブレーキの音。

 

 双子らしい少女二人は車が現れたことと急ブレーキの音にその場でしゃがみ込んでしまった。轢くようなことにならなかったのは幸いだが、即座にガエリオ達は幼女達の容態を確認する。

 

 マクギリスとガエリオにとってはアルミリアに。カインにとっては幼いジュリエッタにその双子が重なったからだ。

 

「大丈夫か⁉︎ 」

 

 一番近かったガエリオが二人の様子を確認しようとした際にカインは殺気を感じてその方向を向く。農作業でもやっていたようなタンクトップ姿の小柄な少年がガエリオに向かって腕を伸ばしていた。

 

 カインはその間に入って手首を掴んで防ぐ。そうしたことで初めてカインのことを認知したようだが、即座にカインを排除しようと空いている左手で首を狙ってきた。

 

 そちらももう片方の手で防ぐと、器用に地面を蹴って蹴りを仕掛けてくる。カインが固定した手を基点にしていたので、両手を離して距離を取ったことで蹴りも避ける。

 

「クッキーとクラッカーを、よくも! 」

 

「獣だな。君は」

 

 話を聞こうともしない少年は更に畳み掛けようとしてくる。カインもどうやって阿頼耶識を得ている少年兵相手に無傷で取り抑えようかと逡巡していると、思わぬところから仲裁が入る。

 

 農家の服装をしたお婆さんが、少年の頭を叩いたのだ。

 

 どうやら少年は身内からの悪意のない攻撃は感知できないようだった。叩かれたことで殺気も霧散していく。

 

「バカタレ。よく周りを見な。二人とも無事だよ」

 

「桜ちゃん」

 

 これがこれからの世界を変動させていく、オルフェンズの初めての邂逅だった。

 




原作に入ったのに状況説明でほぼ終わったンゴ…。

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