鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と 作:フラペチーノ
次のイベントの配布報酬、素ジム?MSVじゃなくてただのジム?マジで?
※ウィルス描写あります。苦手な人はブラウザバック推奨。
または後書きまで飛んでください。
火星のアーブラウ領独立自治区クリュセ。そこは地球の一都市と変わらないほど発展していた。コンクリートで舗装された道。立ち並ぶビル群。適度に植えられた緑の数々。火星でも一・二を争う広大な都市群だった。
火星は厄災戦後の経済協定によって実質的に地球圏の植民地と化しているが、だからこそ様々な企業が利権を求めて支部を置いたり、より搾取しようと悪徳企業をそれとわからず置いている者もいる。
そんなビル群へ、ギャラルホルンのマークが施された軍車両が入って行く。それだけで民衆の注目を浴びるが、車を運転する者はそれを気にせず突っ切って行く。
今日は大きな独立運動を訴えかけるデモ行進などは起こっていないので、治安維持活動の一環ではないことだけは民衆にもわかった。
その車はある場所で停まる。そこは周りのビルの中でも一際大きなビルで、それだけで儲けていることが丸わかりの富を象徴していた。そのビルに入ろうとするのはたった一人。
ギャラルホルンの隊服に身を包んだカインだった。
そんなビルにはもちろん、警備の人間がいる。ギャラルホルンの者が訪れるなんてアポイントメントは受けていなかったので、当然のように呼び止めていた。
「止まれ。何用だ? 」
「火星支部から参りました。ノブリス・ゴルドン氏に確認していただきたいことがございまして。機密に関わりますので詳細は話せませんが、ゴルドン氏ならば用件を把握してくださっているはずです」
「……確認を取る。そこから動くな」
二人いた警備員は片方が懐の拳銃に手を掛けて、もう片方は無線機で確認を取り始める。その間カインは手ぶらなまま車の前で微動だにしなかった。
話が着いたのか、無線機を下ろした片方が指示を出してもう一人の手を銃の引き金から外させた。
「話は聞いてやる、とのことだ。着いてこい」
「わかりました」
車から資料が入ったトランクケースを持って、カインは警備員に着いていく。ビルに入る前に身体チェックをされて、銃火器を所持していないことをカインは証明していた。トランクの中も見せて武器を隠し持っていないことを相手に示す。
エレベーターまで案内された後は違う者が、それでも警護を主とする屈強な男によって仕事が引き継がれて会長室へ案内された。
中にいたのはノブリス本人と、護衛と思わしき黒服が三人。ノブリスは柔らかそうな椅子に座って優雅にアイスを食べていた。カインの方へ向くこともなく、対応は全て黒服に任せているようだった。
ここはギャラルホルンではないので、カインも敬礼などをするわけもない。挨拶もせずに部屋に入っていった。
「コーラルの後釜か。随分と無作法だな? 」
「あなたは私の上司ではありませんので。確認したいことがあるだけです」
「フン。コーラルの失敗で火星支部の建て直しに儂の力が必要なのだろう? 見返りは何だ? こちらとしても慈善事業ではないのだぞ? 」
たったこれだけの会話でカインの目的は達成できていた。
あまりの呆気なさに、カインは拍子抜けする。だから言葉が漏れてしまった。
「所詮は武器商人か。大きな利益ばかりに目が行き、小さなことには目が行かない。金に目が眩み、蟻の侵入にも気付けないとは」
「何だと? 」
不遜な言葉を使うカインに対して黒服達は銃を取り出そうとするが、身体が上手く動かないのか銃を床に溢したり、膝を付いて喘いでいた。
その様子にノブリスは眉を顰めるが、持っていたアイスの器を落として胸の痛みを自覚したことでこの状況が仕組まれたものだと知る。
胸の痛みに加え、肌が嫌に痒い。腕を捲った先には蕁麻疹が大量にできていた。
「な、何をした……⁉︎ 」
「地球のとある風土病。そのウィルスをこのビルに流し込んだだけだ。この風土病の厄介なところは若い者ほど罹患しやすく、最初は症状は薄いが日にちが経つにつれて重症化していく。老人の方が症状は軽く、罹患しにくい。SP達は随分と仕事熱心だったようだ。それとも、蕁麻疹程度では仕事を休ませなかったのかな? 」
ジュリエッタも罹った風土病。そのウィルスをナノマシンを使ってこのビルの内部にだけ送り込んでいた。大きな組織を鎮圧するために監査局がよくやる手だった。カインは発症しないように事前にワクチンを打っている。
そしてカインの言うように、風土病の初期症状である蕁麻疹が出た程度ではノブリスは仕事を休ませなかった。そのためこの建物内にいる人間はほぼ全員発症しており、しかもカインが訪れる時間にピークになるようにナノマシンを調整してウィルス散布を行っていた。
監査局がよく使う手なので、ウィルスを注入してどれだけの時間で重篤化のピークになるのかは研究され尽くしている。
ついでにこの部屋の空調から大量に散布されるようにナノマシンを操作したので、この部屋は今やウィルスの温床だ。
だから高齢のノブリスにも症状がかなり出ている。
「我々監査局はギャラルホルンの不貞を許さない。他企業からの利益享受、武器・弾薬の受領、共謀して治安を悪化させ、自分の功績にする。こういったことは組織を腐敗させる土壌になる。実際火星支部は酷い有様だ。
──火星独立運動のデモ活動にお前が武器を流し、コーラルに始末をさせる。武装勢力を鎮圧するならば弾薬を消費するためにコーラルには商品が売れ、コーラルが失敗したとしても火種が大きくなれば宇宙中でお前の商品は売れる。精々海賊辺りとの契約で済ませておけば良かったな。ギャラルホルンは武器・弾薬の全てを自分達で賄える。他企業から買い付ける理由がない。あった場合は組織的な理由ではなく、個人の私腹を肥やす場合のみだ」
カインは説明しながら黒服達の手足を丁寧に折っていく。いくら風土病に冒されて意識が朦朧としていても、火事場の馬鹿力を発揮されて動かれたら面倒だからだ。縄など拘束する物を持ってきていないし持ち込めもしなかったので、手足を折って意識を奪うのが反抗されない唯一の方法だ。
殺すのも面倒なので、ひとまずの処理をしているだけだ。
カインはトランクの中に入れていた、資料提示用として持ち込んだタブレットを取り出す。それはトランクの中身を確認された時に盗聴できるよう触れていたカインの監査局での仕事用のタブレットだ。
後から起動するようにセットされていたウェイクアップ機能とタイマー設定を仕込んでおいた物で、このタブレットが今までの会話を全て記録していた。
「コーラルと関係があったと言う趣旨の会話は録音させてもらった。コーラル側に契約書があったとはいえ、シラを切られたら面倒だったから確実な証拠が欲しかったが、こんなにもあっさりと吐くなんて思いもしなかった。コーラルが死んだことしか情報を得ていなかったのは失敗だったな。世界全てを回しているつもりになるからこうやって足元から崩れる。利権のみに盲目となった金の亡者は、こんなものか」
「あ、がぁ……」
もうノブリスも限界のようだった。
これで監査局としての仕事は終わりなのだが、マクギリスから一つ密命を受けている。それを遂行するために一つの紙を用意し、そこにノブリスの血判を着ける。そしてノブリスの席の引き出しにでも仕舞っておいた。
指紋をつけないように手袋を着けて行えばミッションコンプリートだ。トランクの中に入れていたタブレットを操作してウィルス散布を止めて、マクギリスへ監査局の人間として報告をする。
「ファリド特務三佐。任務完了いたしました。重症者複数ですのでいつも通り防護服を着て突入してください」
「ご苦労だった。カイン一尉もすぐに離脱し、精密検査を受けるように。録音したタブレットだけ提出を忘れるな」
「はっ。すぐに離脱します」
カインはすぐに出て行き、防護服を着た同僚にアルコールスプレーを大量に噴射された後、精密検査を受けた。ワクチンを打ったとはいえ大量にウィルスが散布されている場所に短時間とはいえ生身で居たのだ。
精密検査の結果問題なし。ただし三日間の療養を言い渡された。
ノブリスの会社は解体され、武器・弾薬はギャラルホルンに押収され、無事だった従業員は監査をして処罰を下された。クロと判断された者はブタ箱行きで、それ以外はただの解雇処分。
ノブリスも辛うじて生きているが、寝たきり状態だ。
カインのメッセージを理解したマクギリスは、ある書類を手にして、その正式な手続きを済ませる。
これで残るは火星支部のゴタゴタだけとなった。それもカインが復活してからはさっさと進めて二週間後には全ての報告書が出来上がっていた。
マクギリス・ガエリオ・カインの三人がいたからこそのスピードだった。報告書が完成した頃に本部へ要請していた代わりの火星支部を指揮する人間を乗せた応援が到着し、カイン達は火星を後にした。
その頃鉄華団はようやく、木星圏に辿り着いていた。
──
地球へ帰る航路の途中で。
火星のことに掛かりっきりだったカイン達は鉄華団について話し合う。火星での衛星軌道上での戦闘は痛み分けという戦果だ。これはカイン達が監査局に入って初めて勝利を収められなかったMS戦闘の結果だった。
だから特にガエリオが苛立っていた。彼の傷も完治したが、負傷したということも大いに関係している。
火星支部から引き抜いたアイン・ダルトン三尉の話も聞いて、正義漢であるガエリオはアインに同情するのと同時に力になってやろうと決心していた。その結果が鉄華団を追える立場を得るための引き抜きだった。
「ガンダム・バルバトス。後はクランクという古参兵の乗機だったグレイズの二機が主な戦力か。ガンダム・フレームなんて小さな組織が整備して使い切れるのか? ギャラルホルンでも稼働させていないMSだぞ? 」
「マニアやオタクという者はどこにでもいるものだぞ、ガエリオ。厄災戦という謎が多い世界を決定付けた戦争を調べる者はいる。そのついでにガンダム・フレームの整備方法に行き当たることもあるだろう。それに先の戦闘のデータだけでも出力・馬力はシュヴァルべを凌駕していた。リアクターを二基搭載しているというだけはある」
「……ウチの倉庫で埃を被ってる物を引っ張り出すか? 」
ギャラルホルンならガンダム・フレームを産み出した者達なので厄災戦当時の性能に近付けることはできる。ある種オーパーツのような物なので今でも研究されていて、整備も欠かしていない。
ガエリオが望めば地球圏に戻る頃には使えるように用意されているだろう。
「厄介なことはあの機体を十分以上に操作できる阿頼耶識システムを得たパイロットがあちらにいること。通常のMSでも阿頼耶識システムを用いた操作をされれば厄介ですが、ガンダム・フレームと合わさると更に手に負えない」
「あの機動、人体の動きに近かった。マシーンを相手にしている感じがしなかったな。……ああ、どこか既視感があると思ったら、カインの動きに似ているんだ」
「オレに、ですか? 」
ガエリオの言葉にカインは首を傾げる。
火星衛星軌道上の戦闘データは映像も含めて確認していたが、カイン自身の動きと比較しようとは思っていなかった。
カインは幼年学校の頃から戦場を経験していて、それこそ阿頼耶識適合者ともMSで戦闘をしていたが、その動きが自分に似ていると言われてもわからなかった。自分の操縦に阿頼耶識システムの動きを取り入れようと考えたこともない。
自分が動きたいように動いていることが誰かと似ていると言われても困るだけだ。
「カインも存外マシーンのような動きから外れているぞ? そうでなければあれほどデブリを避けられないだろう。人体を模した物を動かしても、人体そのものの動きはできない。骨格から何から違うからな。だから人間のような動きをされるとこちらは困惑する。そういうことだろう? ガエリオ」
「ああ、そうだ。いや、カインの場合は攻撃予測が正確すぎて全然攻撃が当たらないことなんだけどな。……そんな動きに加えて劣る出力か。マクギリス、アリアドネを使うぞ」
「艦は今静止している。好きに使え」
ガエリオが実家へ連絡をするために部屋から出ていく。
二人っきりになったことで、マクギリスの空気が変わった。それを感じ取ってカインも従者のようになる。
「カイン。俺も本格的に動こう。クーデリア・藍那・バーンスタインを援助する。全員に通達を出すぞ」
「わかりました。差し当たって次はどう動きますか? 」
「ノブリスの駒がそのまま使えるんだ。クーデリアの行動はこちらに筒抜け。地球圏にやってきたところへ接触をかける。彼らはテイワズの後ろ盾を得るようだが、それだって万全の援助とは言えないだろう」
「つまり、モンターク商会を使うと」
「そうだ。……だが、まずは家の使命を済まさなければならない。カイン、お前も出席するように」
カインはこれからのマクギリスとガエリオの予定を把握していたので何を指しているのかわかったが、それに出席する理由が思い当たらなかった。
というより、立場的に出づらい。
「いえ、あの。上流階級の方々が集まるパーティーですよね? 孤児の身の上で参加するのは場違いとしか言いようがありません」
「アルミリアも折角の晴れの舞台でカインに逢いたがっていたぞ? 」
「ハァ……。主賓二人の招待であれば、断れませんね。隊服で構いませんか? 」
「ああ、いいとも。我々へ挨拶を済ませた後は、令嬢の華を愛でるといい」
「……あまり興味がありませんね。身分が違いすぎます。それにダンスとか苦手です」
「ギャラルホルン内でもエリートの監査局に所属し、まだ二十歳という年齢で既に一尉だ。ご令嬢達も婚期を逃さないために必死で口説いてくると思うぞ? 」
その言葉で余計に参加する気が失せたカインだった。
だが、上司の命令には逆らえない。カインは仕方がなくマクギリスとアルミリアの婚約パーティーに参加することとなった。
今回のまとめ。
監査局として賄賂をコーラルとやっていたノブリスを見逃すはずがないよね!
卑怯な手段でビルごと制圧したよ!
おっと、ついでにマクギリスくんが何かを仕込んだようだね。
地球に帰ることになったけど、何故かカインは肩身が狭い婚約パーティーに出なくちゃいけなくなったよ!
あ〜あ。