鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と 作:フラペチーノ
やっぱり運営が迷走すると一気にやる気がなくなってしまう……。
あ、ガンダムUCEではないです。そっちはまだ惰性でやってます。
テイワズもしくは木星へ向かう途中で、鉄華団のMSパイロットである三日月と明弘はテイワズの傘下であるタービンズとひょんなことから巡り合っており、そのタービンズがクーデリアを地球へ送り届けるための案内役を務めてくれることになり、その縁からタービンズの艦であるハンマーヘッドを訪れていた。
そのハンマーヘッドでシミュレーターを使っていた時に、三日月がシミュレーターの結果に不服を申す。
「こんなんじゃあのチョコにも、猫の人にも勝てない……」
「チョコ? 猫? 」
「ああ、あのギャラルホルンの」
「明弘。三日月は誰のことを言ってるの? 」
シミュレーターに付き合っていたアジーとラフタには三日月が勝てないと言う人物に心当たりがなかった。チョコも猫も人を指すのに使う言葉ではないのだ。
明弘は同じ戦場にいたし、その後に三日月とも話していたのでそんな特徴的な渾名でも誰を指しているのかわかった。
明弘は説明用にとビスケットに持たされたタブレットを用意して火星を飛び出た直後の戦闘映像を見せる。
それを見たラフタとアジーはああと納得する。
「この映像なら見たよ〜。よくシュヴァルべ三機から逃げられたよね。しかもカラーリングまでしちゃってるエース・オブ・エースが、だよ? 」
「運が良かったんだろうね。グレイズとシュヴァルべの足並みが揃ってないし、紅いのはアンタ達を追ってる艦を攻撃してる。ギャラルホルンとして逃せないのはどちらかって天秤にかけたんでしょ。……バーンスタインよりも優先する理由はわからないけど」
それぞれがそう言う。紅いシュヴァルべの行動は不可解なものの、ギャラルホルンから逃げ切った運と実力は二人とも褒めていた。
「シュヴァルべって、こいつ? 」
「何? 三日月知らなかったの? 」
「グレイズとは違うなって思っただけ。こっちにはエイハブ・リアクターの照合なんてやってる暇なかったし」
「火星の民間警備会社だとそんなものかもね。シュヴァルべ・グレイズ。グレイズ・フレームの長所である安定性を捨て去ってエース用の調整をしたとんでもないピーキーな機体だ。そのおかげもあって高性能、配備されている数も少ない実質的な専用機。それが三機も同じ戦場にいるなんて悪夢さ」
三日月も明弘も知らなそうだったのでアジーが説明した。
シュヴァルべなんて一部隊に一機配備されているかどうか。アリアンロッドなら複数体配備されているが、アリアンロッド以外の小規模部隊にこれだけのエース機がいるなんてかなり特殊な事例だ。
「あ、でもアジー? ダーリンが言ってなかったっけ。確か紅・蒼・紫のシュヴァルべには気を付けろって」
「ああ。どこぞのコロニー公社の反乱を制圧した戦力比十倍の奴か。映像は手に入らなかったけど、手を出すなって言われてたね」
「それがチョコの人達ってこと? 」
「三日月、どれがチョコの人なのよ? 」
「この蒼いの」
蒼がビスケットの妹達にチョコをあげてた人、紫がその隣にいたガリガリ、紅が多分猫の人だと三日月が説明し、火星で会っていたと話す。
「何で猫なのよ? 」
「目がそんな感じかなって。昔見た猫っぽかった。金髪金目で、どっしりしてた」
「金で猫っぽいって……。それ、むしろライオンじゃないの? 」
「らいおん? 何それ」
「あー、知らないか。ギャラルホルンの、笛持ってる生き物。アレがライオン」
「アレがそうなのか。うん、猫よりは確かにそれっぽい」
比較対象が誰だかスッキリしたところで、その三機に勝てるようにまたシミュレーターを起動する三日月と明弘だった。
──
地球。とある領地にて。
ボードウィン家が所有する別荘にて、マクギリスとアルミリアの婚約パーティーが行われるのでオレは隊服を着て会場入りしていた。参加している人間は男はスーツ、女性はドレスだったために浮いていた。
上流階級、及びギャラルホルンでも上位の階級の人々がたくさん集まっている。ゲストだけで六十人以上はいるだろうか。スタッフも含めれば二百人はいるだろう。その中でオレとガエリオだけがギャラルホルンの隊服なので浮いている。
むしろホストの嫡子なのに隊服でいいんだろうか。花嫁の兄君なのにそれでいいんだろうか。セブンスターズよりもギャラルホルンの一員としての立場を示しているんだろう。他のギャラルホルン関係者はスーツやドレスだけど。
軍人としては隊服が儀礼服にもなるので、オレは間違っていないとは思うのだが。婚約パーティーなんて参加することが初めてなために、勝手がわからない。監査局に務めていてもこんな経験は初めてだ。
マクギリスは主賓なので別口からアルミリアと一緒に入ってくるだろう。むしろホストであるはずのガエリオがオレと一緒に入ってくるのがおかしいと思うんだけど。
「ガエリオ様。こちらにいらっしゃっていいのですか? ホストでしょう? 」
「いいんだよ。それに本当のホストは親父だ。俺はアルミリアをある程度見守ってればいいんだよ」
とのこと。
オレもアルミリアに挨拶をしたら壁際で退いていればいい。ギャラルホルンのお偉いさん方に挨拶をして、その程度だ。
オレがここに来たのはアルミリアの懇願で、それだけだ。それがなかったら来なかった場所。
空気感が違いすぎる。ここにいる人間はほぼ全てが特に不自由なく生きてこられた。
今も談笑しながら片手に持っているお酒を嗜んで。
使用人が配膳する食べ物をお皿に載せてもらい、摘んでいて。
着飾っている衣服はどれも煌びやかで、何枚も着回すことができるほど所持していて。洗濯もしたことがなくて。
首や耳に着けているアクセサリーもふんだんに宝石や細かい職人の細工が施されていて。その美しさを褒め合っている。
自分を着飾るためのものはアクセサリーだけじゃない。化粧品や整髪料など、豪勢に使っているのだろう。それを使えるだけの豊かさがあると魅せ付けていた。
軍隊という金食い虫に所属しているオレが何を僻んでいるのかと言われてしまえばそれまでだが、あまり見たくない景色ではある。
ボードウィン公もガエリオの相手探しも含めてここまで盛大なパーティーを開いているのだろう。それを見させられる孤児の立場は。
壁の近くでひっそりと息を吐くと、ここの来場者に新たな人物が加わるのを感知した。まさか来られるとは思わず、ボロが出ないように仮面を被る。
扉が開かれて入ってくるのは、オレと同じくギャラルホルンの隊服を着た偉丈夫であるラスタル様と。
真紅の肩出しドレスに身を包んだジュリエッタだった。
二人が来たことはわかっていても、立場的にどちらも隊服を着ているものだと思っていた。だから不意打ちを喰らった気分だ。ドッキリに成功したかのように、オレを視線の端で捉えたラスタル様は笑みを隠さなかった。
「エリオン公だわ……。いつ見ても渋くて素敵。まだ独身ですもの。狙っちゃおうかしら? 」
「あの女、何者? エリオン公と一緒に入場してきたけど……。見覚えがないわ。まさか婚約者、とか? 」
「でも本当にそうなら腕を組んで入場してくるでしょう? 後ろに控えているから、着飾っただけの従者じゃないかしら? 」
令嬢達はラスタル様とジュリエッタの関係性についてあれこれと話し合っていた。親しい間柄の男女であれば腕を組んで入場することが常なのだとか。
妻でも娘でも婚約者でもないジュリエッタとは、ただ単に部下だから腕を絡ませずに入ってきたんだろう。
一応ホストのガエリオが二人に近付く。ボードウィン公はアルミリアと一緒に出てくる予定なので、それまでのゲストの応対はガエリオに任されていた。オレも部下として手招きされて二人に近付く。
ガエリオはセブンスターズとして、現当主と次期当主という立場の違いこそあれどホスト側とゲストという関係性から自然体で接していた。
オレはもちろん、階級が上なので敬礼をする。
「このような場で敬礼は不必要だ。カイン一尉。隊服を着ているとはいえ、今日はただの一ゲストだ」
「は。失礼いたしました」
不敬にならないように手を降ろすと、頷いてからラスタル様はガエリオに祝辞を伝える。
「ガエリオ・ボードウィン特務三佐。この度は妹君のご婚約おめでとう。次は君の番だな? 」
「エリオン公がそれを仰いますか? いえ、後ろの姫君が御相手で? 」
「ああ、違う。彼女は私の護衛だよ。アリアンロッドの隊員だ。アルミリア嬢に挨拶に伺うというのに、むさ苦しい男を何人も連れてくるのは紳士ではなかろう? 君達への紹介がてら優秀な女性を連れてきたというわけだ。ジュリエッタ、挨拶を」
「はっ。お初にお目にかかります。ガエリオ・ボードウィン特務三佐、カイン・ベリアル一尉。このような格好で失礼いたします。アリアンロッド所属、ジュリエッタ・ジュリス准尉であります。本日はラスタル様の護衛として参りました」
真紅のドレスを着ながら、ジュリエッタは敬礼を見せる。オレはジュリエッタのことを知っていたが、ガエリオには知らせていなかったのでお初にお目にかかるというのは本当だ。
幼年学校で一緒だったとはいえ、四学年も離れていれば接点など無いに等しい。
「エリオン公。彼女はパイロットですか? 」
「ああ、そうだ。この前もとある制圧任務で貢献してくれてな。士官学校を出たばかりだが優秀だよ」
「なるほど。エリオン公が推す人物ということはさぞ優秀なのでしょう」
ラスタル様とガエリオだけの会話が続く。オレ達は護衛なので口を挟まない。
ジュリエッタもオレがここにいると知らなかったようで、鋭い目線を向けてくる。勘弁してくれ。オレも望んでこの場にいるつもりはないんだ。
(カインに見せる気なんてなかったのに……。ラスタル様のバカ)
あ、ここで能力を使ってオレにわかるように思念をダダ漏れにして考えるのはマズイぞ、ジュリエッタ。
なにせここには彼女がいる。彼女も感受性という意味ではかなりオレ達に近い。
そう思って特に何も考えないよう思念を送る。ブスッとされてしまったが仕方がない。この場は彼女が主役なんだから。
ラスタル様が最後のゲストだったのか、入り口が閉められる。そして入ってくるマクギリスとアルミリア。その後ろにボードウィン公。
今回のパーティーはボードウィン家が主導であることと、イズナリオ・ファリドは忙しいということで彼は来ない。いたらいたで面倒だったと思うのでいなくて良かったと思っている。マクギリスへの仕打ちを考えると、この場には相応しくない。
忙しい理由も、ハーレムを相手にしているか、アーブラウでの支援に精を出しているだけだろう。もうこちらは確定事項だから顔を出す必要もないと。
下種が。
ボードウィン公の、感謝の祝辞が語られる中、やはりご令嬢方はヒソヒソと話し合う。やれアルミリアはまだオムツが取れたばかりの子供だと。マクギリスは妾の子で、うまく使ってボードウィンの権力も手に入れただの。
セブンスターズの一角が下種なら、集まっている上流階級も下種の集まりか。色々なところが腐っているなと本気で思う。ジュリエッタも来たばかりだが、婚約パーティーという祝福されるべき場でこのような悪感情が蔓延っていることに眉を顰めていた。
この実態を知らせるために、ラスタル様はこの場にジュリエッタを呼んできたのだろう。
よく感じ取れてしまう彼女も、嬉しさよりも悲しさが浮かんでいる。
地球はこんなにも綺麗なのに、そこにいる生き物が美しくない。こんな地球に誰がしろと願って、彼らは『方舟』を送り出したのか──。
(ん? 彼ら? 『方舟』……? ダメだ、ガンダム・フレームを見てから記憶が混濁している気がする。オレはやっぱり、昔ガンダム・フレームを見たことがある……? ……この場の悪意も関係しているんだろうか。感情が揺さぶられる)
変なものを受信して、頭を軽く横に振った。近くにいたジュリエッタもオレの怪電波が届いていたのか、心配するような、胡乱げな視線を送ってきた。大丈夫だと思念で伝えて、ゲストの中でも一番立場のあるラスタル様が真っ先に挨拶に行く。ジュリエッタはその護衛としてついていった。
オレはただのマクギリスの部下なので、挨拶は最後だ。待つ間、マクギリスの言うように様々な女性に話しかけられる。職務について聞かれ、守秘義務に抵触しない程度に話す。ポイントはマクギリスとガエリオの活躍を増すこと。
これでオレへの注目を下げようと思ったが。あまり効果は感じられなかった。
正直、家のためだろうと本人のためだろうと、ここまで結婚にがっつかれると怖さしかない。目が、ギラギラとしすぎていて飢えた狼のようだ。狼など見たことないが。
つまり未知の生き物じみた根源的恐怖を味わっていた。
それから解き放たれて、ようやくアルミリアと話せる。アルミリアに目線を合わせるために、床に膝を着けて右手を心臓に当てる。
「ご婚約、おめでとうございます。マクギリス・ファリド様、アルミリア・ボードウィン様」
「ありがとうカイン」
「ありがと、カイン! 無理を言ってごめんね? 」
マクギリスはいつも通りに、アルミリアは無理をして笑顔を貼り付けてる。
だから、失礼を承知で伝える。
「アルミリア様。耳を塞ぐのではなく、心を塞ぐのです。身体の内側へ壁を作り、本当の心は信頼できる人の元へ預ける。それだけで、有象無象の声は聞こえなくなります」
「カイン……? アルミリア? 」
「んんっ……。……んー、こんな感じ? 」
「繋がりを感じ取るためには、身体的接触が最も有効です。マクギリス様の手を取るとわかりやすいかと」
「マッキー、手を貸して? 」
「ああ、いいとも」
ガエリオは困惑し、マクギリスはなんとなくわかったのか遠慮なく手を貸し出す。
マクギリスと手を繋いだアルミリアは何度か呼吸を繰り返して徐々にその状態に慣れていった。マクギリスも自分でその状態を初めて経験したからか、未知の感覚に心が躍っているようだ。
オレの後ろでジュリエッタがアルミリアのやっていることに気付いてラスタル様に耳打ちをしている。
アルミリアの状態を確認して、マクギリスの心と繋がったようだ。少し強引だったが、九歳の少女がこれで安心できるのなら安いものだろう。
「その感覚を忘れないでください。あなたはそれだけで、アルミリア・ボードウィンだということを忘れない」
「……ふふ。うん、わかっちゃったかも。マッキーやお兄様がカインを欲しがる理由」
「私にできるのはこの程度です。マクギリス様が居てこそでしょう」
「ううん、ありがと! マッキー、踊りましょう? 魅せ付けてやるんだから」
「ああ、わかったよ。愛しのアルミリア」
本当の笑顔を浮かべたアルミリアが、マクギリスの腕を引っ張ってダンスを始める。あまりの変わり様にボードウィン公もガエリオも驚いていた。
「カイン、お前何したんだ? 」
「特別なことは何も。ただアルミリア様は耳が良すぎたので、音を拾わない手段を教えただけです」
「耳、ねえ」
挨拶も終わったので、ホストに頭を下げて立ち去る。また壁際に戻ると、ジュリエッタが近付いてきた。ラスタル様はボードウィン公と話しているようで、護衛は不要と言われたのだろう。
「カイン、あの子は……」
「セブンスターズで唯一の同類、だな。彼女の教育係も務めた」
「私の時のように、ですね。……やはりロリコンでは? 」
「あんな年端も行かない少女が苦しんでいたことを見逃せなかっただけだ。それに彼女はマクギリス様一筋だよ」
婚約パーティーはこれ以降問題もなく終わり。
地球近郊のドルトコロニーにおける騒乱が、近付いていた。
割とこの婚約パーティーのシーン好き。
ギャラルホルンの腐りっぷりが如実に現れていて。